俺が子連れエルフに一目惚れした話

kaduki

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一目惚れは突然に

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唐突だった。

衝撃的だった。

記憶にある限り、目を奪われ離せなくなることなどなかったはずだ。
己が信じる生き方の通りに生きてきた。そこに、理解ができない感情など存在しなかった。思考が途絶えてしまうほどの衝撃など、ありはしなかった。

正真正銘の一目惚れだった。



「おお、そちらのエルフがお気に召されましたか!」

奴隷商の男に声をかけられ正気に戻る。


そうだ。俺は暇つぶしのための奴隷を買いに来たのだった。

「ああ、気に入った。いくらだ?」

どくどくと心の臓が存在を主張する。どうしても彼が欲しい。どうしても手元に置きたい。
気に入ったなら、どんな手を使ってでも手元に置けばいい。父もそう言っていた。


エルフ族特有の長い耳。ざんばらに切られ、ぱさついた白い髪。黒曜石のような美しい瞳には全くと言っていいほどに生気を感じない。

ふと、彼をこんな目にあわせた奴に殺意を覚えた。

生気のない目で下を見いていた彼はこちらに気がつくと、転びそうな勢いでこちらに駆け寄る。

「あのっ、そこのお方!お願いです!どうか、どうか息子と一緒に私を買ってください!どうか・・・!」
「こ、こら!失礼だろう!!」

そうは言いながらも、奴隷商の男は彼を格子から無理に引き剥がすことも、殴ることも、大声を出すこともない。
ここの奴隷商はきちんと奴隷をまともに扱っている。
殺意を胸に押し戻し、彼に向き直る。黒曜石の瞳は焦燥と懇願に揺れている。

「構わない。」

彼の揺れる瞳に、俺の心までが揺さぶられる。
しかし、子連れだったとは思いもしなかった。エルフ族は歳を取らないとは聞いていたが、ここまで若々しいものなのか。

「・・・あの、こう言っては奴隷商としては良くないのかもしれませんが、話だけでも聞いてやっていただけませんか?このエルフは少々わけありでして・・・。」

「・・・聞こうか。」

聞かずとも、二人まとめて面倒をみることはもう決めたが。

「・・・!!ありがとうございます!」
「旦那は暇じゃないんだ。話すなら早くな。」



聞けば、その息子は妻の忘れ形見らしく、離れることが忍びないらしい。
口にこそしなかったが、奴隷と言う立場上、息子がどんな仕打ちを受けるかわからないから、余計に離れたくないのだろう。そして、本来なら人里に姿を現さないはずのエルフがここに奴隷として存在することも無関係ではないだろう。

「話は良く分かった。善処しよう。」

そう答えても、彼の表情は晴れない。
その事実に、なぜか俺の気持ちまで曇る。

「・・・その件について、お話がございます。」


**********

「なに?息子の方にはもう買い手が?」

奴隷商の男は、申し訳なさそうに俯く。

「はい・・・。しかもその買い手が、そのー・・・。」
「あの下種野郎か。」

苦虫をつぶしたような顔で頷かれれば、大体の事情が察せる。
おおかた、さっきの彼の訴えを聞いたうえで息子だけを買うことにしたのだろうし、あの下種は少年趣味な加虐性癖サディスト野郎だから、彼の心配も的外れどころか大当たりなわけだ。
奴隷商という立場にも関わらず、わざわざ話を聞いてくれと言ってくるほどだ。下種野郎に売った奴隷がろくな目にあわないのを知っているのだろう。

「あとですね、少しお耳に入れたいことが・・・・・・。」




・・・一通りの話を終えるころには、すっかり日が暮れていた。

「なるほどな。国からの監査は、俺から話を通しておこう。」

「いつも助かります。」

すっかり凝り固まった肩を伸ばしながら話を区切る。少しと言いながら、自分の言いたいことはすべて言ってくるあたり抜け目がない。

「それで、さっきのエルフの件、二人とも俺が買い取ろう。」

「ええ、でも、先約がいるんですよ。」

奴隷商の男はにこやかな顔のまま。
こいつ、わかってて俺に話した癖にな。

「下種野郎の倍額。即金で。」

後は上手くやれと、持ってきた金貨の袋を投げる。良質な奴隷の相場に色をつけた、その倍額を、二人分・・・
複数人買うつもりで持ってきたお金をすべて使うとは思ってもみなかったが、俺の心を奪った彼を手に入れるためならば惜しくはない。

「俺にこの話をしたということは、そういうことだろ?」

男はにこやな顔のまま、何も言わない。この無言はおそらく、肯定だ。
全く、いい性格をしている。
情はあるけど、商売のためなら手を抜かない。・・・まったく、実に好ましい。


彼らの権利管理書を手に、部屋を後にする。彼が自分の手元に来るという事実が、手元の紙の価値を、重みを、一層強くしている。
今まで買った奴隷で、ここまで心が動くことなどあっただろうか。
ふと、権利管理書を持つ手が震えていることに気が付く。柄にもなく、俺は緊張しているらしい。

「またのご利用、お待ちしてます。」

男の言葉に急かされるように、俺は彼らが待つ部屋へ向かった。
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