俺が子連れエルフに一目惚れした話

kaduki

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母上という美しいお方

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彼らを迎え入れてから、初めて夜を越した。
と言っても大した時間は経っていないわけだが。
朝日が夜を越した目に沁みる。

「よく、眠れただろうか。」

環境が変わると眠れなくなる人は多いと聞く。
彼らの部屋を訪ねるにはまだ早いだろうか。
まだ廊下を歩く使用人の足音は聞こえてこない。

彼らが起きてくるのが待ち遠しい。

・・・少々散歩に出かけよう。考えていても、時間が過ぎていくわけではない。


**********

気がつけば、足は裏庭へ向いていた。
・・・そうだ、母上にも報告しなければ。
母上はずっと、俺のことを案じていた。

 人間社会で馴染めるのか。
 誰かを無為に傷つけはしないか。
 感情を教えて、傷つきはしないか。
 人並みに恋ができるのか。
 人並みに誰かを愛することができるのか。
 人並みに誰かに愛されることができるのか。

衆目から隠されるように、裏庭にひっそりと建てられた墓石。

「ご無沙汰しております、母上。」

墓石の前に膝をつき、母上に教わった礼を尽くす。
きれいに磨かれていて、泥一つ付いていない母上の名をなぞる。

「昨日のことですが、俺は“一目惚れ”を経験しました。」

テオを何度も正論で泣かせた俺が、ここまで成長したのですよ。

「母上の驚く顔が見とうございました。」

母上の魂はすでにここにはいない。
語りかけても返事などありはしない。
けれど、墓というその人が存在した証に思いを、気持ちを、語りかける。
まだ俺にはその意義が分からないが、それでも無駄と断じるには苦しい。
これは確信ではなく予測にすぎないが、死を悼むという行為にこそ、感情や人間らしさというものがあるのだろう。

「また、報告をしに来ます。
母上が輪廻に乗り、再び俺の前に来てくださるそのときには、少しでも母上が期待して下さった俺をお見せすることができるよう、精進いたします。」

ポンと膝の汚れを払い、踵を返す。

いつの間に時間が経っていたのか、使用人たちが慌ただしく動き回る時間になっていた。
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