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初めてのお出かけに。
ep4
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ナハトはアリシアをエスコートしてカフェテラスに来ていた。
ちょっと恥ずかしそうに視線を揺らすアリシアを満足そうに見ていたナハトはウェイターが注文を取りに来たのでメニュー表を見ながら注文をした。
「ホットココアとチーズケーキで。――アリスも同じものでいいか?」
そう問いかけられてアリシアが「ひえっ!?」と素っ頓狂な声を上げ、驚いたように目を白黒させた。だが、慌てふためいたように頷いたので、ナハトは優しく目を細めてアリシアを見つめながらウェイターに告げた。
「彼女にも同じものを」
「はい、かしこまりました。ホットココアとチーズケーキをお二つずつですね?」
メモを取りながら復唱したウェイターにナハトは返事をし、ウェイターが去った後にナハトがアリシアに尋ねた。
「テラスだとまだ少し肌寒いな」
「でも、ウィノンは暖かい方です…」
アリシアがそう返すと、ナハトは頷いた。
「暖流が流れ込んでいる場所だからな。おかげでそこまで厚着をしなくても平気だが」
「そうですね…」
そう言いながら言葉を切ってしまったアリシアは俯いてギュッと握り拳を固めていた。
「緊張しているのか?」
ナハトが少し声を弾ませながらそう尋ねると、アリシアは戸惑ったような顔でナハトを見上げ、そして、頬を朱に染めながら視線を揺らした。
「…その…お父さん以外の男性とお出かけするのは初めてなのです」
「護衛と二人と言うことはないのか?」
「聖女だった頃は護衛騎士の数名と司祭様というように、必ず3人以上で行動していました。最近はやっと友達とお出かけするということもできるようになったんですけれど、それ以外は本当に誰とも…」
「そうなのか…」
アリシアはこくんと頷いた。心拍数が妙に跳ね上がっており、ずっとドキドキしているのを感じながら胸の前で手を握り合わせる。
「…あの…ナハトさん。ナハトさんは女性とよく出かけることはあるのですか?」
ナハトはそんなアリシアの顔を覗き込んで小首を傾げ、優しく尋ねた。
「妬いてくれているのか?」
「!! そ、そんなんじゃないです! そんなんじゃなくて…妙に、女性慣れをしている気がしまして…」
アリシアが猛烈に反発を見せると、ナハトが苦笑した。
「そこまで徹底的に否定されると落ち込むな。――まあ、慣れていないわけじゃない、かな? おぼろげに前世のことを覚えている…かもしれない」
飛燕がフワッと頭上に現れてナハトの頭に乗った。
「ナハトは仮面を外した瞬間に女の子に逃げられちゃって大変だけどね。で、どうせ入れ込んでも逃げられるだけだってことになってヘタレに…――って、うわっ!?」
ナハトが急に立ち上がったので飛燕がバランスを崩して落ちかけた。だが、ナハトが受け止めたおかげで無事ではあったのだが。
「ちょっと話を聞こうじゃないか?」
引きつった笑みを浮かべて立ち上がったナハトを茫然と見送ったアリシアはウェイターに運んできてもらったお冷に口を付けた直後、目の前に派手な服を着こんだ女性が座った。
「あの…席を間違えていませんか?」
アリシアが恐る恐る尋ねると、その女性は不敵な笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん、さっきの男の知り合い?」
有無を言わさぬ口調にアリシアは怯みそうになりながらひねり出すように言葉を絞り出した。
「え、…はい」
「じゃあ、恋人?」
「ち、違います!」
立ち上がって猛反発を示すと、その女性はクスクスと笑いながら目を細めた。
「そんなに意気込まなくても大丈夫よ。ほら、お水を飲んで」
優しく言い聞かせるように女性が告げ、アリシアのカップにそっと白い粉を少しだけ入れた。だが、興奮で息巻いていたアリシアは気が付かずにゴクゴクと喉を鳴らして水を一気飲みする。
「苦っ…」
アリシアが顔を歪めた時、ふらりと視界が揺れた。
足元がもたつき、幾重にも視界が、そして、目の前の指がぶれる。まるで柱時計が大音量で鳴り響いているようにグワングワンと耳の奥に音が響き渡り、堪えきれずに彼女が倒れこんだ。
だが、その女性の傍にいつの間にか現れた大男が彼女を抱え、その女性がわざとらしい心配そうな声を出した。
「はしゃぎすぎて具合が悪くなっちゃったのね? 大丈夫よ。私たちが休める場所に連れて行ってあげるから」
アリシアは否定しようとしたが猛烈な吐き気と共に口もまともに動かず、意識は次第に闇に溶けて消えた。
☆
ナハトはひと気のない裏路地にやってくると、飛燕に尋ねた。
「…奴ら…だったのか?」
「間違いないよ。例のアイツの飼い犬どもだった」
「…尾行の一組は最初に消滅したとはいえ、残りの二組のどちらも猟犬だったら最悪だな…」
「でも、アリシアさんは守るんでしょ?」
「ああ、当たり前だ」
ナハトが意を決した時、ナハトは唐突に肩に手を置かれて文字通りに飛び上がった。驚きながら目を見開き、飛燕を一瞬で剣に変えて握った彼へのんびりとした声が掛けられる。
「ごきげんよう、アイネクライネナハトムジーク君」
ナハトは剣を花びらと散らして向き直った。
「…会長、ナハトですって。…それより、何でいるんですか?」
「冷やかしのつもりだったんですがね? ちょっと対象を見失っちゃいまして、ご報告に」
「対象…?」
不思議そうに小首を傾げたナハトへ会長はにこりと笑った。
「”マッドドッグ”を見失ってしまいました。あなた方への尾行中に見つけたのですけど、チリィ共々撒かれてしまいまして」
「…もしかして、尾行していた一組は会長たち…?」
「はい、そうですよ。それより、早く追いかけないと大変なことになりますよね?」
スライム魔族の秘書、チリィがトテトテと駆け足で戻ってきた。
「会長!」
その必死そうな声で会長が振り返り、ナハトがその手に握られている紐のようなものを見た瞬間に駆け出した。
「…ナハト?」
不思議そうにチリィが駆け寄ってくるナハトを見ていると、彼はすれ違いざまにそれを引っ掴んで自分たちが座っていたはずの席へと向かった。
もぬけの殻となっているその席を茫然と見ながら、ナハトはギュッと手にしたリボンを握りしめる。
それは、アリシアに贈った鮮やかな青いリボンそのものだったのだから。
「飛燕、行くぞ」
ナハトのいつになく険しい表情を見ながら、飛燕も白い狼の姿となって横に降り立ち、応えた。
「うん、任せて」
ナハトは低い声で詠唱をはじめ、飛燕は背中の毛を逆立てながら身構えていた。
ちょっと恥ずかしそうに視線を揺らすアリシアを満足そうに見ていたナハトはウェイターが注文を取りに来たのでメニュー表を見ながら注文をした。
「ホットココアとチーズケーキで。――アリスも同じものでいいか?」
そう問いかけられてアリシアが「ひえっ!?」と素っ頓狂な声を上げ、驚いたように目を白黒させた。だが、慌てふためいたように頷いたので、ナハトは優しく目を細めてアリシアを見つめながらウェイターに告げた。
「彼女にも同じものを」
「はい、かしこまりました。ホットココアとチーズケーキをお二つずつですね?」
メモを取りながら復唱したウェイターにナハトは返事をし、ウェイターが去った後にナハトがアリシアに尋ねた。
「テラスだとまだ少し肌寒いな」
「でも、ウィノンは暖かい方です…」
アリシアがそう返すと、ナハトは頷いた。
「暖流が流れ込んでいる場所だからな。おかげでそこまで厚着をしなくても平気だが」
「そうですね…」
そう言いながら言葉を切ってしまったアリシアは俯いてギュッと握り拳を固めていた。
「緊張しているのか?」
ナハトが少し声を弾ませながらそう尋ねると、アリシアは戸惑ったような顔でナハトを見上げ、そして、頬を朱に染めながら視線を揺らした。
「…その…お父さん以外の男性とお出かけするのは初めてなのです」
「護衛と二人と言うことはないのか?」
「聖女だった頃は護衛騎士の数名と司祭様というように、必ず3人以上で行動していました。最近はやっと友達とお出かけするということもできるようになったんですけれど、それ以外は本当に誰とも…」
「そうなのか…」
アリシアはこくんと頷いた。心拍数が妙に跳ね上がっており、ずっとドキドキしているのを感じながら胸の前で手を握り合わせる。
「…あの…ナハトさん。ナハトさんは女性とよく出かけることはあるのですか?」
ナハトはそんなアリシアの顔を覗き込んで小首を傾げ、優しく尋ねた。
「妬いてくれているのか?」
「!! そ、そんなんじゃないです! そんなんじゃなくて…妙に、女性慣れをしている気がしまして…」
アリシアが猛烈に反発を見せると、ナハトが苦笑した。
「そこまで徹底的に否定されると落ち込むな。――まあ、慣れていないわけじゃない、かな? おぼろげに前世のことを覚えている…かもしれない」
飛燕がフワッと頭上に現れてナハトの頭に乗った。
「ナハトは仮面を外した瞬間に女の子に逃げられちゃって大変だけどね。で、どうせ入れ込んでも逃げられるだけだってことになってヘタレに…――って、うわっ!?」
ナハトが急に立ち上がったので飛燕がバランスを崩して落ちかけた。だが、ナハトが受け止めたおかげで無事ではあったのだが。
「ちょっと話を聞こうじゃないか?」
引きつった笑みを浮かべて立ち上がったナハトを茫然と見送ったアリシアはウェイターに運んできてもらったお冷に口を付けた直後、目の前に派手な服を着こんだ女性が座った。
「あの…席を間違えていませんか?」
アリシアが恐る恐る尋ねると、その女性は不敵な笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん、さっきの男の知り合い?」
有無を言わさぬ口調にアリシアは怯みそうになりながらひねり出すように言葉を絞り出した。
「え、…はい」
「じゃあ、恋人?」
「ち、違います!」
立ち上がって猛反発を示すと、その女性はクスクスと笑いながら目を細めた。
「そんなに意気込まなくても大丈夫よ。ほら、お水を飲んで」
優しく言い聞かせるように女性が告げ、アリシアのカップにそっと白い粉を少しだけ入れた。だが、興奮で息巻いていたアリシアは気が付かずにゴクゴクと喉を鳴らして水を一気飲みする。
「苦っ…」
アリシアが顔を歪めた時、ふらりと視界が揺れた。
足元がもたつき、幾重にも視界が、そして、目の前の指がぶれる。まるで柱時計が大音量で鳴り響いているようにグワングワンと耳の奥に音が響き渡り、堪えきれずに彼女が倒れこんだ。
だが、その女性の傍にいつの間にか現れた大男が彼女を抱え、その女性がわざとらしい心配そうな声を出した。
「はしゃぎすぎて具合が悪くなっちゃったのね? 大丈夫よ。私たちが休める場所に連れて行ってあげるから」
アリシアは否定しようとしたが猛烈な吐き気と共に口もまともに動かず、意識は次第に闇に溶けて消えた。
☆
ナハトはひと気のない裏路地にやってくると、飛燕に尋ねた。
「…奴ら…だったのか?」
「間違いないよ。例のアイツの飼い犬どもだった」
「…尾行の一組は最初に消滅したとはいえ、残りの二組のどちらも猟犬だったら最悪だな…」
「でも、アリシアさんは守るんでしょ?」
「ああ、当たり前だ」
ナハトが意を決した時、ナハトは唐突に肩に手を置かれて文字通りに飛び上がった。驚きながら目を見開き、飛燕を一瞬で剣に変えて握った彼へのんびりとした声が掛けられる。
「ごきげんよう、アイネクライネナハトムジーク君」
ナハトは剣を花びらと散らして向き直った。
「…会長、ナハトですって。…それより、何でいるんですか?」
「冷やかしのつもりだったんですがね? ちょっと対象を見失っちゃいまして、ご報告に」
「対象…?」
不思議そうに小首を傾げたナハトへ会長はにこりと笑った。
「”マッドドッグ”を見失ってしまいました。あなた方への尾行中に見つけたのですけど、チリィ共々撒かれてしまいまして」
「…もしかして、尾行していた一組は会長たち…?」
「はい、そうですよ。それより、早く追いかけないと大変なことになりますよね?」
スライム魔族の秘書、チリィがトテトテと駆け足で戻ってきた。
「会長!」
その必死そうな声で会長が振り返り、ナハトがその手に握られている紐のようなものを見た瞬間に駆け出した。
「…ナハト?」
不思議そうにチリィが駆け寄ってくるナハトを見ていると、彼はすれ違いざまにそれを引っ掴んで自分たちが座っていたはずの席へと向かった。
もぬけの殻となっているその席を茫然と見ながら、ナハトはギュッと手にしたリボンを握りしめる。
それは、アリシアに贈った鮮やかな青いリボンそのものだったのだから。
「飛燕、行くぞ」
ナハトのいつになく険しい表情を見ながら、飛燕も白い狼の姿となって横に降り立ち、応えた。
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