遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-40.ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(9)「はァ~……、色々疲れた……」

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「今回は速攻で行こう」
 火焔蟻の襲撃を一旦は退けて、召喚インプ達に後片付け諸々をさせながら、僕はガンボンへとそう宣言した。
 このセカンドステージ、“火の迷宮”へと来て二日目。
 前回の“水の迷宮”は、最初に移転してきたときを含めれば六日ほどかけてじっくりだったが、今度は違う。
 速攻。
 今日中、或いは明日までにはクリアするつもりで挑んでやる。
 
 ガンボンは調味料や一部の食材がケルっピの【水の奔流】により流され、叉は水浸しで使えなくなったことを物凄く残念がっていて、それは確かに手痛い。おいしいご飯は活力の源だしね。
 ただ本当の問題はそこじゃない。
 
 一つは勿論、この暑さ。
 火属性魔力による溶岩の海。その中に浮かぶ小島に過ぎないこの拠点は、とにかく熱気に曝されている。
 地下階は魔導具によってやや涼しくはしてあるけれども、魔力溜まりマナプールとダンジョンハート区画のある地表は、溶岩の海のある巨大空間にあり、その熱たるやとんでもない。
 それだけで意識も体力もガリガリ削られて、ここに何日も居たら生命も精神も危うくなる。
 
 何より、火焔蟻に拠点を見つけられたのが痛い。
 蟻は自分達の移動経路をフェロモンとして残していく習性がある。
 一匹の蟻が「餌のある場所へのルート」を見つけたら、その情報は即座に群全体で共有される。
 つまり、先程来た火焔蟻の群は、既にこの場所に餌が有ることを知っているし、フェロモンを辿って次々と此方へ襲撃にくる。
 
 勿論、魔虫である火焔蟻は普通の昆虫の蟻とは習性や生態に幾分違いはある。
 例えばコロニー全体の総数は普通の昆虫の蟻より遥かに少ない。
 確か大きなコロニーでも100匹から200匹前後くらいらしい。
 これは得られる餌の量によるのだろう、と魔物学者ケイル・カプレートは推察している。
 コロニーの個体数が多すぎると周りの餌を狩り尽くして、結局は飢えて滅亡するからだ。
 
 また、繁殖力も昆虫の蟻に比べればかなり弱いが、それも恐らく同等の理由と思われる。
 それでも、火焔蟻のコロニーが、その周辺すべての生命体にとっての脅威であることに変わりはない。
 勿論、今ここにいる僕らにとっても、だ。
 放置しておけば明日には僕らの食料の全てが奪われ、その後は僕らが火焔蟻の食料にされる。
 
 ここにきた火焔蟻がコロニーを持つタイプか、コロニーからはぐれてしまった“はぐれの群れ”なのかは分からないが、いずれにせよこうなったら正にデッドオアアライブ。生か死か。そして滅ぼすか滅ぼされるか。
 
 
 基本戦略は決まっている。
 装備の充実、地下道の支配区域化、そして「ケルっピパイセン、マジ頼むっス!」だ。
 ケルっピの水魔法は守るにしろ攻めるにしろ生命線。
 とにかくケルっピを中心にしないとままならない。
 もちろんガンボンとタカギにも主戦力になって貰わないとならない。素早く的確に弱点の触角をもぎ取れるのは今、ガンボンだけだ。
 ただ火炎放射の集中放火を浴びるとヤバいので、そのあたりを気をつけていかないとならない。
 
 インプ達に整備と修復をさせつつ、火焔蟻の空けた食料庫の穴から下を整備させる。
 食料庫自体は別の場所に設置し直し、今はガンボンに数日分のご飯を作って貰っている。
 速攻でやる、とは言ったものの、実際にどれくらいかかるかは分からない。
 時間のあるうちにその辺をやっておかないと、数日間飲まず食わずで蟻との戦闘、なんてことにもなりかねない。
 
 元食料庫下の区画に、まずは防衛線を作る。
 やや広めの空間を作り、ねぐら区画に指定して魔物を常駐させる。
 その向こう側に家畜小屋、監視所区画を作り、支柱を残したやや広めの通路にする。
 それら支柱間に蜘蛛糸トラップを仕掛けておく。
 
 これは足元をちょっとひっかけるだけの簡単なもので、足止め用。
 火焔蟻は移動能力が非常に高く、垂直の壁でも登れるから落とし穴系の罠は通じない。
 かと言って凝った仕掛けの強力な罠を作るにはコストも時間もかかる。
 何より、守りより攻めの今、凝りに凝った防衛設備を作る必要はない。
 
◆ ◇ ◆
 
「どっせーーーーい!」
 何だか良く分からない叫び声と共にガンボンが、糸に足を取られた火焔蟻へと駆け寄り、ちょいやちょいやと触角をもぎ取る。
 その姿はもはやただの食いしん坊デブオークではない。触角ハンター! そう呼ぶに相応しい手際の良さ。
 触角を無くした火焔蟻は敵も味方も関係なく、手当たり次第に攻撃し始め戦線は混乱。
 そしてそこへ仕上げにとケルっピパイセンの【水の奔流】を叩き込んで穴の奥へと押し流し、生き残りはタカギとガンボンで踏み潰し殴り倒す。
 
 かれこれそんな防衛戦を4回ほど。
 後半になるにつれて兵隊蟻の比率が増えてきて、とどめを刺すのに手間取り始めてはいるものの、個々の守りや連携が上昇してるため、むしろ「作業」感が増している。
 
 守りが強化されたのは、ガンボン及びタカギの身に着けてる新たな装備による。
 ガンボンは水色に染められたフード付きのトーガ。
 タカギには同じく水色を基調とした鞍、鐙等々だ。
 原料は蜘蛛っ子アラリンの紡いだ魔糸で、それらを水属性の魔力で染め上げてから紐や布地に仕上げたもの。
 
 蜘蛛っ子アラリンの魔糸はそれそのものを魔力の媒介と出来るので、母ナナイがやるような付呪の素材としても最適だが、魔力を注ぎ込み染め上げるだけでも幾ばくかの効果が得られる。
 昨日あった最初の襲撃から後、罠としての粘着糸の設置を除けば、その期間ほぼフル稼働で糸を紡ぎ布や紐に加工させ……としていた。
 元々怠け者な大蜘蛛にこれをさせるのは一苦労、どころではなく、度々【憑依】を使い細かい作業をし、魔力不足は魔晶石から直接魔力を吸い出すことで補い……と、手間暇苦労もかなりのもの。
 あまり無理をさせては機嫌を損ねるから、働かせた分色々労わねばならないけど、大蜘蛛の基本欲求って飯、睡眠、後は少々のいじめ、というもので、その“少々のいじめ”……というか、うん、戦闘訓練によるストレス解消? 相手として、又も数体の召喚白骨兵さんに頑張って頂きました。
 
 そうやって作られた「水属性魔法の魔力が込められたら布、及び紐」等を使い、火の攻撃への耐性のあるトーガその他を作り装備させたことで、兵隊蟻の火炎放射からもある程度守れるようになり、ガンボン達の対応力が格段に上がった。
 ついでに、この溶岩洞窟の熱気への耐性も上がったので、うだるような暑さも軽減されている。
 なお、ガンボンがフード付きトーガを纏ったシルエットは、水色のてるてるぼうずみたいだ。超ゆるキャラ感ハンパない。
 
 
「さーて、そんじゃあそろそろ前進しますかねー?」
 
 大蜻蛉の偵察で、蟻達の掘ってきた穴の構造もある程度分かってる。
 実際はかなり曲がりくねり複雑化してるのだけど、こちらのキーパーデスクには踏破地域を自動で地図化してくれる機能がついてるので、迷うことは無い。
 召喚インプ達が道を広げつつ支配区域下し、一定間隔ごとに“中継点”を立てて拠点化。
 このあたりの手順は前と同じだ。
 拠点化したところにはねぐら、家畜小屋、監視所区画を建てて召喚白骨兵などを配置しておくのも同じ。
 そうして、間に中継点を4箇所ほど作ったあたりで、敵のコロニーが射程圏に入る。
 
 最前線の拠点には、今まで以上に強固な守りを設置した。
 兵力で言えば間違い無くあちらの方が多い。
 今までの散発的襲撃で、およそ3、40匹の火焔蟻を返り討ちにしてきたが、今地図上に見える敵の光点だけでもそのくらいは居る。
 
 最前線での防衛の中心は、生産役を終えた蜘蛛っ子アラリン氏。
 今までの足下にちょっと絡まるだけの些細な糸ではなく、かなり本格的な絡め捕る巣罠。
 支柱の間に巧妙に張り巡らせた粘着糸で火焔蟻を封じた後、召喚白骨兵に仕留めさせる。
 火炎放射で焼き切られないようにする為に、事前に蜘蛛っ子に水属性魔力のこもった魔晶石を山ほど食べさせておいてある。
 そうすることで、後から糸に魔力をこめずとも最初から水属性魔力を帯びた糸を吐き出させることが出来る。
 
 蜘蛛っ子が糸を吐き、召喚白骨兵が仕留める。
 火焔蟻の火炎放射や兵隊蟻の牙で数体の召喚白骨兵が破壊されるも、中継点から再召喚して再び攻撃。
 膠着状態の消耗戦になれば、中継点で再召喚出来るのは強みになる。
 ただ今の時点で分からないのは、この火焔蟻のコロニーは、いったいこのステージにおいてどの様な存在、位置付けなのか? と言うところだけども……。
 
◆ ◇ ◆
 
『いた。超デカい』
 伝心の耳飾りを通じて送られるガンボンからの通達は、火焔蟻コロニーの女王について。
 最前線となる防衛拠点は、蜘蛛っ子と糸の罠に召喚白骨兵で防いでる。
 
 他、つまりガンボン、タカギ、ケルっピと使い魔のインプは別行動。
 最前線防衛拠点より手前の拠点からインプに穴を掘らせて横道を作り、そこから偵察である程度見当をつけていた敵の本拠地、つまり“火焔蟻の女王”の居る部屋へと辿り着いていた。
 今はその“女王の間”の裏側にまで通路を繋げ、小さなのぞき穴から中を覗いている状況。
 
『ちょっと待ってね、ケルっピに【憑依】するから……』
 呪文を唱えつつ使い魔仮契約状態のケルピーのケルっピへと魔力で回路を繋ぐ。
 自らの意識の奥深く、表層意識から螺旋階段を下りるかにして一段一段階層を潜り、その奥の扉を開ける。
 その中のホールにはさらに幾つかの扉があり、その一つに手をかけてガチャリと開くと、混沌とした空間へ。
 扉をくぐると、物質世界の肉体から意識が離れ、精神世界の波の中へと泳ぎ出す。
 その中に見えるのは細く長く、わずかな光りを放つ糸のような繋がり。
 
 これは使い魔、召喚獣、そして“生ける石イアン”を通じての従属魔獣等との精神的繋がりを感覚的にイメージさせたもので、繋がりが強いほどに光の道は太く濃くなっていく。
 長い間使い魔として絆を持っている熊猫姿の使い魔インプとのそれは、闇の森の隠れ路のようにしっかりはっきりくっきりとしているが、このケルピーとはまだまだこの程度、ということのようだ。まあ仕方ない。
 ケルっピの元へとたどり着くその最中に、何か小さな赤い光の塊が見えた。いや、見えたような気がした。
 何だ? それを確認しようかと意識を向た瞬間───
 
『うわ、デカ!』
 目の前には巨大な腹部を持つ火焔蟻の女王蟻。
 のぞき穴から見える腹回りだけでも3メートルくらいはあるんじゃないか? 体長はちょっとしたコンテナ……いや、電車の一両分並か。
 それだけの巨体を収める為もあり、この“女王の間”自体もかなり広い。
 目算でも直径2、30メートルはある巨大な空間だ。
 もはやほとんど自律移動は出来ない巨体の女王は、生き物というよりも群れの働き蟻やら兵隊蟻やらを生産する工場みたいなものだろう。
 この辺りは、昆虫の蟻の生態とはさほどの違いがないようだ。
 
 で、あるならば、当初のプランが問題なく使えそう。
 周りに残る火焔蟻達は、恐らく女王の世話係だろう働き蟻が10匹ほどに、護衛の兵隊蟻が4匹か。
 思ってたよりは数を減らせて居ないけれど、絶望的な戦力差でもない。
 
『ガンボン』
 水色の魔布トーガに身を包んだガンボンと目を合わせる。
 コクリ、と頷くガンボンは、同じく蜘蛛っ子の魔糸を束ねた紐を、さらに寄り合わせて作った鞍と鐙ををつけた巨地豚タカギに跨がっている。
 手綱含めて騎乗用装備をしつらえたタカギなら、ガンボンの機動力は今まで以上。
 まずは僕……の【憑依】したケルっピによる大技から、サツアイをかましてバトルスタート。
 
 ごう、と大出力の【水の奔流】で火焔蟻達を吹き飛ばす。
 かなり魔力を消費するこの大技は、瞬間的局地的な洪水を起こすようなもので、巻き込まれ立ち続けるのは巨人でもなければほぼ不可能。
 僕にとっては苦手な水属性だが、何せ実際にこの術を使っているのは水の化身とも言える精霊獣ケルピーだ。
 その威力は女王蟻以外のほぼ全てをなぎ倒す。
 
 しかし同時にこの火焔蟻達は、落下したり転んだり、なんていう程度ではたいした損傷を受けない。
 例えばこれがゴブリンの一団とかなら、こけつまろびつ、打ち身捻挫打撲骨折に、さらにはお互いの武器でお互いを傷つけあったりという結果になるだろうけど、外骨格を持ち見た目よりは体重の軽い火焔蟻はそうではない。
 なのですかさず第二の攻撃、ガンボン&タカギの高機動力での撹乱、「触角ハンター」によるむしり取り祭りだ。
 
 ダダダっと駆け抜ける巨地豚タカギと、それに跨がるガンボンは、瞬く間に女王蟻の間の反対側へと走り抜けつつ、火焔蟻達の触角をむしる。
 そのままぐるりと旋回し、三匹、五匹……七匹と、半数以上の触角をむしり、または傷つけて、火焔蟻の群れは混沌に陥った。
 もはや「触角むしり取りマイスター」の称号を与えたいくらいの手際の良さ。
 半ば感心するようにその様子を眺めていると、左手側……女王蟻から大きな魔力の膨らみを感じた。
 
 ───まずいっ!
 
『ガンボン! 跳んで!』
 
 今までの火焔蟻のそれとは比べものにならない程の火炎放射。
 熱の余波を感じ、隠れていた横道の中で思わず仰け反る。もしかしたらケルピーの意識の方が火を嫌ったのかもしれない。
 その有効射程は5メートルくらいか。コーン状に広がるそれは、ドラゴンの炎のブレスを彷彿とさせる。
 世話役、護衛の蟻達を巻き込むことを躊躇せずの巨大な火炎放射は、アチコチに消し炭と化した火焔蟻の死体を量産している。
 
 これほどとは……!
 
 ケイル・カプレートの本の中でも、火焔蟻の女王が持つ戦闘能力への言及は特に無かった。
 それも当然。彼は使い魔などで内部の観察をしたものの、別に、火焔蟻のコロニー奥深くに潜り、戦闘をしてきたわけではない。
 人間やその他の種族の居住地近くでコロニーが発見されるときも、多くは地下に潜って直接対峙するよりは、毒餌や水攻めで巣穴ごとつぶす方が多い。
 つまり、直接女王蟻と戦うような真似をする者は殆ど居ない上、実際その立場になった者の多くは、今のような特大火炎放射で死んでいるのだろう。
 
『ガンボン!? 無事……!?』
 伝心の耳飾りで呼び掛ける。
 一呼吸、二呼吸、三呼吸……返事はない。
『ガンボン! 聞こえてる!? ガンボン!?』
 数回の呼吸の間、焦げた匂いと熱の余波。
 その奥にゆらり倒れる影は……ああ、兵隊蟻だ。
 
 では、ガンボンとタカギは何処へ?
 見回して目に止まった動くものは……上、だ。
 恐らくは火炎放射を避けるために飛び上がった後に着地……いや、ぶら下がった先がそこだった。
 巨大な女王蟻の触角に、だ。
 
 感覚器である触角に直接触れられる……いや、ぶら下がられるというのは、恐らくかなり不快なのだろう。
 両手で一抱えほど以上はある大きな頭部をぶんぶんと振り回している。
 振り回され、けれども前方に身体が来てしまえば、鋭い顎に噛みつかれるか、あるいは至近距離からの火炎が直撃するかだから、ガンボンは後ろから掴んでいるその触角を離すことは出来ない。
 ちょうど女王蟻の頭を後ろから抱えるかのような姿勢のまま、ガンボンは両手でしっかり触角を握り締めている。
 働き蟻や兵隊蟻より大きく頑丈なのか、姿勢や状況的に難しいのか、それをむしり取りへし折るような真似は出来ていない。
 まあけどこの女王蟻の触角をむしり取り、ある種の暴走状態にしたところで、現状僕らへの攻撃が激しくなるだけだろうから意味がないけど。
 
 女王蟻はとにかく執拗に頭を振っている。肥大化した身体は自律移動を不可能にしているが、頭だけは動かすことが出来るらしい。
 高さもある。2、3メートルかそこら。落とされたら結構コトだ。勢いつけられ壁面や天井にぶつけられればもっとコトだ。
 間に合うか? 間に合わないと拙い。
 辺りを見渡す。タカギは……居る。ただし女王脇の地面で、今し方立ち上がったところ。
 通路の向こうから、ここを離れていたであろう火焔蟻達が女王の防衛のために戻ってきている。
 間に合うか? いや、間に合ってもらわないとマズい───。
 
 ガンボンが振り落とされ、タカギが飛び上がってその襟首を咥え、通路の向こうから20匹は居るだろう援軍が入ってきて間もなく、轟音と共に“女王の間”が崩れ落ちた。
「ナイスタイミング!」
 ポッカリと開いた大穴の中には、崩れた岩の破片に埋もれた“女王蟻”に、援軍の半数ほど。
 危うく取り残されそうだったガンボンは、タカギに咥えられたまま僕、の【憑依】しているケルっピの横へ。
 で、僕はそこから穴へ向かい【水の奔流】を放つ。
 ちょうど、そう。正に「蟻の巣穴に水をぶちまける」がごとく。
 
 僕とガンボン、タカギとで、女王蟻以外の蟻達を引きつけ戦っている間に、僕は召喚インプ達へと別の指示を出していた。
 この“女王の間”の真下に、大きな穴を掘っておくように、だ。
 
 女王は巨大で、恐らくは体重もかなりある。
 十分な空間を作り、その体重を支えられない程度の強度しか残さないことで、敵の本拠地の下をそのまま罠へと造り変えたわけだ。
 見事にその落とし穴へはまった女王蟻。
 そこへ水を大量に注ぎ込んで、その上からまた召喚インプに埋め立てさせ、さらには“強化”をさせる。
 生き埋めの上に水攻めという、正直ゾッとしないやり方だけど、まともに正面から殴りあって勝てるような相手ではないからなあ。
 
 “水の迷宮”のとき以上の無茶な勝ち方だったと我ながらに思う。
 後は残った火焔蟻達を潰していくだけだが、女王蟻を失った“はぐれ”の火焔蟻は明確に弱体化するらしいので、さほどの脅威でも無いだろう。
 はァ~……、色々疲れた……。
 
 
◆ ◇ ◆
 
『やはりおかしなことになっているな、ここは』
「あー、やっぱそうなんだ」
 “生ける石イアン”の分析結果として分かったこととしては、なんというかこの“火の迷宮”は、火焔蟻の女王により“乗っ取られて”しまったのだという。

『本来ならば、起動する際に属性に合わせて召喚された中位叉は高位の精霊獣、幻獣、幻魔などをダンジョンキーパーとして承認することになっている。
 魔虫の火焔蟻がダンジョンキーパーとなることは無いし、現にあの女王蟻はダンジョンキーパーではなかった』
 そうなんだよね。
 火焔蟻自体の能力として、穴掘りがあったものだから誤解しかけていたけど、火焔蟻の掘ったトンネルは、支配区域化がされてなかった。
 採掘……穴を掘り進む能力は強化されていたようだが、区画の支配も壁の強化も出来てない。
 つまり本当にただの「火焔蟻の巣穴(コロニー)」でしかなかったのだ。
 
 で、本当の敵キーパー……になる筈だった者、は、どこでどうしているのかというと……。
 
『おそらくこの者のようだな』
 
 卵、である。
 熱い……というか、暖かい?
 バスケットボール大くらいのその卵は、うっすらと奥から赤く輝いているように見え、明らかに火属性の強い魔力が感じられる。
 
 この卵は、本来のダンジョンハート区画へと訪れたときに、不意に現れた。
 火焔蟻の卵……ではないね。形が違う。
 何等かの火属性の精霊獣、幻獣、幻魔なのだろうことは想像がつくが、この形態はどうやら、この“火の迷宮”のキーパーとして召喚される途中で、魔力溜まりマナプールが火焔蟻の女王と融合してしまい、中断してしまったことによるのではないか……とのこと。
 
『いずれにせよ想定外の状況だ』
 ダンジョンハート区画には魔力溜まりマナプールの台座はあるものの、そこには通常あるはずの魔力に輝く水晶のようなものは存在していない。
 ここにあったはずの魔力溜まりマナプールは全て火焔蟻の女王との融合で失われてしまっている。
 僕らが火焔蟻の女王を倒したので、いずれは魔力溜まりマナプールも復活するだろうとのことだが、今はまだだ。
 
 その台座へと魔力を注ぎ込むと、とりあえずは“支配”は出来た。出来たが、まあまだ魔力の“溜まっていない”魔力溜まりマナプールなんてのは、渇水して干上がったダムみたいなものだ。
 とりあえず。とりあえずはここの「クリア条件」だけは満たした。
 目の前にはやはり、次のステージへと進むための移転門。
 満たしはしたが、うーむ。
 さて、さて、さて。
 
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