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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-54.コボルトのナップル(2)「ナップルはいつも思うよ 」
しおりを挟むナップルはね。最近なんだかいろいろとフクザツなのね。
シャーイダールが大変な用事で遠くへ行っちゃって、その代わりにシャーイダールの代役をするように言われてから、ナップルの周りにはだいたいいつもちびブルか犬頭が居るのね。
ナップルはいつも他の手下が居るときは、シャーイダールのように威張り散らしてふんぞり返ってなきゃいけないけど、ああいうのは続けてるいるとスゴく疲れるの。
シャーイダールの本物のお面を被ってるときは良いの。
だってシャーイダールの声の言うとおりやってれば良いからね。
けど今は代役用の偽物の仮面しかないから、自分で色々考えてやらなきゃならないのね。
だからちびブルと犬頭たちが近くに居ると全然落ち着かなくて、ちょっとだけ昔のコボルト洞窟に居た頃みたいな気持ちになるのね。
ちびブルも犬頭も、それどころかチリチリとかひげおとこも何だかばたばたしてて、シャーイダールの部屋を出たり入ったりしてるのね。
ときどき集まって何か相談をして、ナップルにアレしろコレしろ、アレするなコレするなとかうるさいの。
やれ生きたオオネズミを他の手下の前で丸飲みにして食べるのはやめろ、だの、代役用のお面を外したまま出歩くな、だのなのね。
シャーイダールのお面の代わりの代役用お面は、被ってると前のスッゴく凄いお面と似たような効果があるから、そこそこすてきなお面なんだけど、ちょっと顔がかゆくなるのね。それに、被っててもシャーイダールの声が聞こえない。
前のお面は、被るとシャーイダールの声がして、今何をどうすれば良いのかを色々教えてくれてたの。
手下たちがちびピクシーを見つけたときも、ひげおとこを見つけたときも、それをどうすれば良いのか教えてくれたし、その通りにしたら巧く行ったのね。
だいたいいつも、シャーイダールの声の言うとおりにしていれば、殆どのことは巧く行ってたの。
巧く行かなかったのは……あの、おっきなドワーフ人形が暴れてたときくらいなのね。
シャーイダールの声が聞けなくなってから、ナップルは何をどうすれば良いのかがよく分からなくて、それも最近の大変なことなのね。
チリチリとかひげおとこ、犬頭にちびブル達も、何をどうすればよいかアレコレ言ってくるんだけど、シャーイダールよりも何だかややこしいのね。
普段は「魔法薬を作っておいてくれ」とかそんなのだから、簡単なの。
新しいお面でもまあまあ? それなりに、効果のある魔法薬作れるしね。
鼻歌歌いながらでも出来るよ?
ナップナップ~ ナップルステキで賢いコボルト~♪
……って歌ってたら、となりの部屋からちびブルが走ってきてひっぱたいてきたの。
その歌詞はやめろ、って。
ステキな歌詞なのにね。ちびブルには詩心が足りないのね。
それで、魔法結界作りとか魔法薬作りとか、仕掛けの確認とかを犬頭と一緒にやったり、上の方で部屋の修復してるところを見に行ったりもしたのね。
お面をしたナップルを見たそこの下働きどもが、畏れおののいて這いつくばって頭を地面にこすりつけてたのは、ちょっと楽しかったのね。
面白かったから、ちょっとばかし【発火】の呪文で驚かしてやろうかと思ったら、犬頭の奴が後ろからナップルの首筋をキュッとつねって来たの。
ナップル、びっくりして「ぴゃうッ!?」って叫んじゃった。ふふ、ちょっと恥ずかしいのね。
あと、新しい手下見習いを増やすとかで、そいつらのことも見に行ったのね。
三人ほど居たけど、二人はナップルの代役用お面を見てひゃふー、とかみょぴー、とか言いながら震えてたけど、一人だけ何だかナップルを睨みつけて来た奴が居たのね。
ウムムムム、って睨むから、ナップルもムミミミミ、って睨み返したの。
おっきな鼻の上に、ウミニニニってしわが寄ってたの。
そしたら暫くして、ふいっ、て横を向いたの。
あれ、横に何かあるのかな? と思って、ナップルもそっちを向いたら、そっちでチョロチョロしてたレンガ積みしてたのが、またモピピッ! とか言って転んじゃったの。
何だか面白くてムフフ、って笑っちゃった。
だいたいそんな感じで落ち着かなくバタバタと過ごしていたら、どこか遠くへ行ってたひげおとことか疵顔のハコブとかが帰ってきたのね。
荷車にお宝の山と酒樽を載せて!
ピカピカのドワーフのお宝はとても良いものね。すごくきれいだし、ピカピカだし、それにとてもきれいでものすごくピカピカなのね。
お酒も良いのね。呑むと最初はカーってなって、ムハーってなるけど、少しするとぽわぽわしてきて、楽しくなるのね。
お酒というのは多分魔法薬の一種なんだと思うのだけど、ナップルには作れないのね。どんな薬草とかを使うのか、よく分からないもの。
それからチリチリとひげおとこと、ちびブルと犬頭達とが集まってまた何やら相談してたのね。
ナップルの……ええと、本当はシャーイダールの部屋でケンケンしてて、ナップルもときどき混ざったけど、結局何の話か良く分からないの。
ウーン、みんなお話が下手なのね。賢いコボルトのナップルを見習うと良いの。ナップルならもっと巧くまとめられると思うよ。
その日は一旦それでおしまい。
一応ひげおとこと犬頭とで、新しく手に入れたお宝を見たりなんだりもした。
今まではシャーイダールが分配のしかたとか、何をどうするかとかを教えてくれて、その言われるとおりにしてたけど、今は居ないからどうすれば良いのかよく分からないのね。けどそこはひげおとこがなんとかするとか言ってたから、ナップルはそんなに気にしなくても良いみたい。
考えてみると、全部ナップルがやらなくても良いっていうのは、それはそれで悪くはないのかもしれないのね。
ナップルは……ウーン、武器とかそういうのはあんまり要らないのね。今は、そうね。中くらいの入れ物が欲しいかな。オオネズミを入れておけるくらいのやつ。ふふん。そしたら、いつでも持ち歩いて、オオネズミを食べられるものね。
■ □ ■
一晩休んで翌日には、広間に集まって何かを決めることになってたの。ウン、忘れてないよ?
ナップルは真ん中の偉い椅子に座って、左右両側に犬頭とちびブルが立ってるの。
そして正面の丸テーブルに、チリチリとかひげおとこ、疵顔のハコブやその他の手下たちが居るのね。
疵顔のハコブは、今居る手下の中では一番古くて、まとめ役をやってるのね。
それより前から居た手下は、居なくなったり死んだりしちゃったの。
ナップルはまだ昔、シャーイダールがシャーイダールのままでクトリアに居た頃から、奴隷や下働きの面倒をみる仕事をしていたのね。
だから、奴隷とかが怪我や病気で動けなくなったりしたら、世話をして薬をあげて、また働けるようにしてたの。
シャーイダールがお面の中に入っちゃって姿を見せなくなってからも、ナップルはシャーイダールの相棒としてそう言うことをしてたの。
クトリアの地下とかに残ってたのを見つけてきて、とりあえず薬飲ませたりオオネズミを食べさせたりね。
思い出したらちょっと懐かしい気分。あの猫のやつとか、どうしてるのかな。
暫くそんなことをしていたら、その中の何人かが助けてくれたお礼をしたいとか言って、地下から金ピカのものを色々持ってきたのね。
だからそれをくれた分、また薬をあげたり食べ物をあげたりしてるうちに、そいつらが「俺達は邪術士シャーイダール様の配下だ」とか言い出して、また地下から色んな物を取ってきたの。
で、時々地下で死にかけてたりするのを拾って来ては、そういうのに薬使ったり色々してた中に、疵顔のハコブも居たのね。
疵顔のハコブもいつの間にかシャーイダールの手下の中に入って、地下から色々拾うのに加わったの。
あごトンガリとか、他の奴を見つけてきたりと、熱心に色々やってるのね。
ウーン……考えてみると、結構長いこと一緒にやってきてるのね。
それで、疵顔ハコブがまた熱心に言ってるの。
何でも、余所にある遺跡に魔人が住み着いてて、そいつらをやっつけようとかいう話らしいのね。
ウーン。ナップルはあんまし……ううん、すごく、嫌だなーって思うの。
ナップルは魔人のことをよく知ってるのね。
まだお面を被ったシャーイダールが居た頃には、他にも沢山の邪術士達が居て、奴隷を使って色んなことをしてたのね。
魔人を作るのもそのときよく見てたけど、とってもいやな感じだったの。
それに、魔人になった後は、スッゴくおかしくなるのね。全部じゃないけど、たいていは何かおかしくなっちゃうの。
だから、魔人と戦うなんて、スッゴくイヤだしスッゴく面倒なのね。
けど、その話の後に他の手下たちが意見を言って、疵顔ハコブが「いかがいたしますか?」と聞いて来た後にちびブルがナップルの右肩をコンコンとして、そのときはこう言う決まりなのね。
「よかろう」
って。
逆に、犬頭が叩いてきたら、「いかん」て言う決まりなのね。どっちも叩かないときは、「考えておく」ね。
けっこう練習したから、巧くできるようになってるのね。フフン、ナップルは賢いからね。こんなの簡単なの。
暫くまたケンケン言ってたけど、ナップルの仕事はもうおしまい。ちびブルと犬頭とで部屋へ戻って行ったのね。
フゥ。今日はとっても疲れたよ。
■ □ ■
ナップルは疲れたから、部屋に戻って砂浴びをすることにしたの。
砂浴びはね、とても気持ちいいよ。
石組みで作った砂場に、砂漠からもってきたさらさらの細かい砂を入れてあって、その砂を暖めておくのね。
それで良い具合に温まった砂の中に、服を脱いで裸になって、するっと入るの。
そうすると、身体が少しずつポッポしてきて、疲れもとれて元気になるの。それに清潔になるしね。
手下たちの何人かは、砂じゃなくて水を浴びるの。変なの。水なんて浴びてたら病気になるよ。いいけど。病気になったら薬あげるだけだしね。
ゆっくりと砂浴びしながら、カップのお酒をちみちみ舐めてたの。
サボテンフルーツの果汁とお酒を足してなめると、スゴく美味しいよ。
そしたら、部屋の扉番をしていた犬頭が、
『おマエ は、ディもにウム と タタかウ ノハ イヤ か?』
とか、聞いてきたのね。
変なこと聞くのね。そんなの当たり前なのに。
「そうだよ? 魔人は、スッゴく大変だもの。痛くて苦しくて辛い目に遭って、魔人にさせられたんだもの。
そっとしておいてあげた方が良いよね」
ふんわりホカホカの砂に埋もれながら、ナップルは犬頭に教えてあげたのね。
『ダガ、今、叩カネ バ、奴ラは ボーマを 襲イ、隊商ヲ 襲イ、狩人を 襲ウ』
犬頭は続けてそう言うのね。
ウーン、て、ナップルは考えてしまうの。
それは良くないし、良くないことは起きない方が良いのね。
良くないことが起きると、それはとても良くないものね。
だから、ナップルはこう答えたの。
「ウーン、それはとても難しいのね。
ナップルは賢いコボルトだけど、それでもナップルにも分からないことは沢山あるのね。
ピカピカ綺麗なドワーフのものは、きれいでピカピカだからステキなの。
みんな欲しがるから、集めてきて分けてあげると喜ぶよね。
みんな欲しがるんだから、みんなで分け合えばみんな嬉しいけど……ウーン。シャーイダールはそれじゃダメだって言うの。
ナップルは賢いコボルトだけど、シャーイダールはナップルよりもスッゴくスゴく賢いから、きっとシャーイダールの言うことの方が正しいの。
みんなは、『みんなで分け合おう』って出来ないから、ケンケン言いながら喧嘩して、すぐに誰かのピカピカを奪おうとするのね。
ナップルが昔居たコボルトの洞窟でもそうだったのね。
ナップルはいつも思うよ。
みんなが、『みんなで分け合う』の良さが分かればいいのにな、って」
シャーイダールはいつも正しいし、いつもナップルより賢いの。
だけど賢くて正しいことよりも、楽しくて嬉しいことの方が、ナップルは好きなんだな。
砂の中でポカポカ気持ち良くなりながら、ナップルはお酒入りのサボテンジュースをペロペロ舐めたの。
みんな、砂浴びしながらお酒入りサボテンジュースを舐めてれば、ポカポカ気持ち良くなって、ケンケンしなくなるかもしれないのね。
犬頭はそれを聞いて、何だかほにゃほにゃした顔をして、離れて行ったの。
そして背を向けたまま、
『ソウダナ』
って、ちっちゃくそう答えたの。
そうだよ。ナップルは賢いコボルトだからね。ナップルの言うことは、だいたい正しいんだよ。
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