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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-60.怪物の放浪
しおりを挟む“それ”は、弱々しく、力を失い、まさに今消滅せんとしていた。
“それ”がその危機を回避するためには、すぐさま何かを補食し、その命を取り込んで、自らのものへとする必要があった。
“それ”は、存在し続ける為に莫大なエネルギーを要していた。常に何かを補食し続けること。それが必要だった。
落ちてきた直後、“それ”はともに落ちてきた二つの生命を補食しようと試みた。
しかし落下の際の衝撃は、巨大だった“それ”により大きな損傷を与え、一度にその生命の全てを奪うことが叶わなかった。
“それ”はやり方を変えて、その二つの生命を膜のように覆い、少しずつ吸収しようとした。
しかし、途中までは巧く行っていたはずのそれが、対象の生命が弱まり、生命を停止しかけた頃に阻害され始める。
何かしら抵抗が生まれたのだ。
“それ”にはその抵抗が何かは分からなかった。ただ自身がそうであるように、その生命の核とでも言える中心に、“それ”を拒む膜のようなものが現れたように感じた。
“それ”はしばらくその膜を打ち破り進入しようと試みたが、それが不可能だと悟ると、やり方を変えることにした。
その二つの生命のうち、より強い生命の力を残していた個体の中に潜み、その生命力を少しずつ“拝借”することにしたのだ。
それは今までのやり方よりも遙かに効率的で合理的なやり方に思えた。
今まで“それ”は、常に飢えており、絶え間なく他の生命を補食し続けていなければならなかった。
しかし小さくなってこの別の生命の中から少しずつ生命の力を“拝借”するやり方だと、飢えに苛まれることもなく存在し続けられるからだ。
“それ”はこのやり方がとても良い選択だったと思い、ある種の安らぎと安寧がもたらされたのを感じていた。
“それ”が共生することを選んだその生命、“宿主”は、半ば朦朧とした意識のまま再び動き出した。
傍らにいたもう一つの、より小さな生命はそれよりも弱っており、動かないままだった。
その生命はそれを抱えたまま、ふらふらと動き出しさまよいだした。
“それ”はその行動の意味が分からず、けれども“宿主”の行いを阻害するよりは助ける方が利になると思い、小さな生命へと自分の生命の一部を移し、その糧とした。
“宿主”は視力や聴力に依らず、魔力による探知をして進むべき場所を探そうとしていた。それは意識的な行動ではなく、無意識な行動のようだった。
そしてその結果、一つの遺物へと辿り着く。
その形を、人々は“門”と呼び、またかつては“転送門”と呼んでいた。
だが久しく使われていなかったそれには、僅かな魔力の残滓のようなものだけが残されていただけだった。
その残滓へと“宿主”が触れたとき、“宿主”の中に、そして“それ”の中にあった魔力が呼応し、失われていた機能が一時的に蘇って……“宿主”達を別の場所へと連れ去った。
後には、わずかな魔力だけ与えられ、一時的に機能が戻った転送門が在るだけだった。
その先においても、“宿主”は明確な意識を取り戻すことなく、ただ“それ”によって与えられた仮初めの生命力と、残されていた魔力の残滓によってのみ動かされていた。
幾つかに別れていた通路を進み、“宿主”と“それ”はそれぞれに仕掛けや魔力の残滓を追い、また潜り抜けて、ときには破壊して進む先を作り出して、一つの隠された通路へと抜けた。
長い、長い通路だった。迷路のように曲がりくねり、分岐し、また別の形の転送門を潜り、再び歩き続けた。
本来であれば、“宿主”は疲れ果て立ち止まり、或いは倒れていたかもしれないが、そのときは“それ”が“宿主”と“宿主”の抱える小さな生命とを一時的に繋ぎ合わせることで、一つの大きな生命力の循環を作り出していた。
そして長い道のりの果てに外界へと辿り着き、ようやくそのときになって、歩むのを止めた。
そこは、岩肌に掘られ造られた建造物であった。
しかしその建造物も長き時が過ぎたことで壊され、風化し、居住し利用するには不適切な状態となっていた。
しかし、それでもその場所には住む者達が居た。
彼らの中には、その身体の内に様々な魔力を持つ者達も居た。
その魔力は正常な循環、正常な魔力の流れを持ってはおらず、歪で濁ったものであったが、“宿主”たる者が自然とここに導かれたのも、あるいはその魔力を感じ取ったことによるのかもしれない。
その内の一体が“宿主”達を見つけ、小さな生命と共に別の場所へと連れ去った。
数人の仲間と思われる者達の前にその二つを持って行き、見せびらかした。
この二つの収穫をどう扱うかで彼らが揉めている間、“それ”は自らどうすべきかの選択に迫られていた。
この者達は明らかに宿主たちへの害意を持っている。
このまま“宿主”とした生命を守るためにわずかに残された生命力を使いこの者達の戦うか? 或いは“宿主”を棄てて、この者達の内誰かを補食し、自らの生命力を回復するか?
或いは……。
“それ”は、細く、小さくした自らの生命の一部を、気づかれぬ程度の痛みと共にその者達の中へと注入した。虫に咬まれた。その程度にしか感じぬほどの痛みだ。
殺す、補食することも、支配することも叶わぬ程度の僅かな量であった。
このくらいの量であれば、暫くすると相手の生命力に吸収され、同化し、いずれはその一部となるだろう。
“宿主”が抱え続けていた小さな生命に分け与えた分も同様だった。
補食も支配も共生も出来ぬ程度の量ではあったが、その対象の思考、意識に、僅かな介入をすることは可能であった。
ほんの少し、ほんの僅かな思考、意志。
───この者達を生かせ。
その僅かな意志の雫の影響を受け、その者達の思考、行動への変化が起きる。
この二つの生命を生かした方が自分たちの得になる。そういう答えを出すように誘導されていった。
その者達はその答えに従い、二つの生命を生き延びさせようとした。
薬を与え、怪我の手当をし、“宿主”と小さき生命の状態を良くしようと努めた。
“それ”はその結果に安堵し満足していた。
このやり方はそうそう使えるものでもないことは分かって居た。僅かに潜り込ませた生命力で与えられる影響はやはり僅かでしかなく、彼らの中に元々そうするべき動機や理由が無ければどうにもならないからだ。
だが、今。
その者達にはそうするべき十分な理由があった。
そのため“それ”は“宿主”を失わずに済んだ。
それらの理由、結果は、“それ”の預かり知らぬ事である。
“それ”にとっての最も重要なことは、自らが生きること、存在し続けることだけである。
だから、“宿主”や小さき生命がその後どう遇されるかを憂いたり懸念したりすることはなかった。
もしその者達の行いにより“宿主”に危機が訪れることがあらば、そのときに対応するだけだからだ。
そして実際、“それ”はしばらくの間ただ“宿主”の中に潜み、宿主の齎す生命力を少しずつ拝借することで生き続ける。
そんな存在としてのみそこにあり続けていた。
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