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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-151. ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(24)「聞いたけど───聞いてないよ!?」
しおりを挟むそれが、全ての決着なのだと、そのときはそう思った。
闇の森から移転をし、偶然に始めることになったダンジョンバトル、古代ドワーフの試練。
その終点にいたのがクトリア王朝最期の王、ザルコディナス三世。“大いなる巨人”達に封じられつつも、クトリアの循環を歪め、そのことでゆっくりとじわじわ、クトリアの地を不毛の荒野へと変え続けていた根源。
その亡霊を魔力溜まりから引き剥がし、消滅させる。
そのつもりが───結局は逃がしてしまい、JBの仲間の一人の身体を奪われてしまう。
イベンダーと協力しその亡霊だけをなんとか追い出す事は出来ないかと試みるも、ザルコディナス三世の妄念は取り憑いた相手のハコブという人の魂と意識を貪り喰らい、奪っていき───その彼を殺すことでしか決着をつけることが出来なかった。
全ては僕の責任だ───とまでは言わない。
この事は“大いなる巨人”の一人である嵐雲の巨人にも忠告されていた。
アルベウス遺跡深部にある魔力溜まりを、ザルコディナス三世に奪われてしまった時点でこうなることは決まってしまったのだ、と。
必ず犠牲は出るだろうが、その事に責任を感じる必要はない、と。
けれども、見回せば王国駐屯兵も探索者達にも無数の怪我人に死者。特にハコブという人に関しては、結果的に仲間同士で殺し合いをさせてしまう様な事態になってしまった。
その事を思うと、ジャンヌにもJBにもアデリアにも、また他の探索者達にも、合わせる顔はないと、どうしてもそう思ってはしまう。
いずれにせよ、僕が魔力溜まりの支配を完成させ、 JBが意識を失い、ハコブという人が射殺され、この一連の悲劇には一旦の幕は下りた。
JBの状態は心配だけど、ダンジョンキーパーである僕には彼らの状態はある程度分かる。光属性魔法による治癒術士が来ている以上、僕の半端な治癒術は必要ないだろう。
後はまだ残っている魔物の掃討のみとなり、僕はひとまず猫熊インプへの【憑依】を解いて、本来の自分の肉体へと戻る。
戻るとそこは、最初にJBの仲間達を発見した広いホール。立ち並ぶ飾り柱の一つの魔力中継点の周りを、大蜘蛛アラリンが作ったらしい蜘蛛糸の繭のような防護壁で囲んだ中に居た。
そして周りにはそのアラリン自身と白骨兵達。僕を守るよう指示しておけば必ずそれを全うする白骨兵達はまだしも、基本的に我が儘で、放っておくとすぐ勝手に戦闘しに出掛けちゃうアラリンが、こんな退屈な護衛任務を引き受けてくれるなんて……! と、やや感激するも、よく見るとストレス発散の為なのか数十体ほどの白骨兵をバラバラに粉砕していた。
あ……何かスミマセン、こんなつまらない仕事させちゃって……。
と、そうして元の身体で覚醒すると、手に握りしめていた知性ある魔術工芸品である“生ける石イアン”が話しかけてくる。
『おめとでとう、キーパーよ。
君はついにこの偉大なる試練を達成した。
だがこの勝利は君の栄光の道へのほんの第一歩にすぎない。
君はさらなる高みを目指して、新たなる冒険へと進むことになる。
さあ、扉は今開かれた。
この先に待つのは果たしていかなる苦難の道であろうか───』
へ?
何それ? てか、何その、こう、ナレーションっぽいセリフ?
「え? 何? ちょっと、何なの?」
『───14へ進め』
はい?
ちょっとそれ、不吉な項目なんですけど!?
問いただそうにもまるで会話が成立しない。戸惑っていると今度はどこからかあの卵形のエアチェアーがすぅっと現れ、僕を無理やり座らさせると、再びすぅーっとどこぞへと移動を始める。
「何!? え、ちょっと、何!? ドッキリ!? いや、じゃなくて、止めてよ、何なの!?」
身動きしようにも、何やらエアチェアーにがっちり捕まえられて動けない。
そして移動した先にあるのは───あー、その、見覚え有りすぎるわ……。
お馴染みの転送門。例のぶわっと身体が高いところから落ちるときの感覚に似たアレを感じて、僕はまた転送をさせられた。
今度は、一人で。
◆ ◇ ◆
赤く染まった夕日が、遠くに見える岩山の影へと落ち、不毛の荒野を染め上げる。
着いた先はその絶景を見下ろす程に高い塔の上。窓際───しかも大きなガラス製! ───にまで近付いて見下ろすと、下は市街地。高くてよくは見えないけど、所謂日乾しレンガにモルタル、または土壁の様式。廃虚瓦礫も多く散見されるここは、やはりクトリアの旧王都なのだろう。
で、この塔の室内はなんというか円形の広めの張り出しになっている。
横から見ているわけじゃないけど、多分東京タワーとかで言う展望室みたいな感じかな。
外の廃虚瓦礫の山っぷりと比べると、調度品から何から全て美しく、清掃も行き届いた綺麗な空間。
張り出しのガラス窓、整えられた石畳の床に毛皮の敷物、観葉植物の鉢、籐製の長椅子にテーブル、家具等々。
今居る部屋はかなり居心地の良いリビング、または応接室という感じだ。
他にもちょっと見回った範囲では、書斎もあれば作業部屋もあり、寝室もあった。
クトリア様式とも言い切れないし、古代ドワーフ様式とも言い切れない。
この世界の基準で考えると、実に奇妙な部屋だ。
人の気配、いや、生き物の気配はまるでない。その代わり動いて居るのはというと───。
「うわ!」
と、思わず声を漏らしたのは、足元をカサカサと動き回る蜘蛛型ロボット。
俗に言う古代ドワーフのからくり人形式のゴーレム。蜘蛛型のそれは、JB曰わく「多分清掃用のゴーレムだと思う」という奴。
そいつがちょこちょこ足元を這い回りつつ、なるほど確かに掃除をしているかのようだった。
「オマタセイタシマシタ」
「おぅわ!?」
またもや驚き悲鳴をあげてしまうけど、今度はもっと大きな古代ドワーフのからくり人形式ゴーレム。
高さは2メートルくらいか。全体の構造は、大きな四角いボディーの左右に両腕が付けられ、下部には一本脚と大小様々な複数の車輪。
シルエットとしてはそう、やじろべえに似ているが、その車輪の脚部を見る限り、絶妙にバランスを取りつつ段差や階段にも対応してそうな精緻な仕組み。
そしてその胴体の真ん中には、女性の顔を模したような意匠。
「主ガ、試練ノ達成者ト、オ会イシタイトノ事デス。コチラヘ、イラシテクダサイ」
機械的な電子音声───と言う雰囲気ではあるが、それよりかは女性らしい雰囲気もある。
クールで実務的な女性メイドさんが当家の主人からの招待を告げるかのような感じだ。
───成る程、やっぱりそういう事か。
僕は内心でそう背景を察しっつつ、「分かりました」とまずエルフ語で返す。
するとそのからくりゴーレムは僕を先導するようにして前を進む。
進んだ先は広めの部屋で、一番目立つのは大きめの作業机にその前面の大型のパネル。
構造は今までのキーパーデスクと同じで、前面の壁に掲げられた金属パネルも、キーパーデスクにあったものと同様のもの。大きさは縦が1メートルで横が2メートルくらいの横長ワイド画面。磨き上げられたドワーフ合金の表面にピッタリとした透明ガラスが張り合わせられている。
そしてやはりキーパーデスクのそれと同じく、その張り合わせられた隙間にある粒子がうごめき形を作り出す。
パネルに現れたのはいかにもダンディーなカイゼル髭の男性の顔。ドワーフではなく明らかに人間。例えて言うなら「絵に描いたような」英国紳士だ。
その人物が口を開くと、それに合わせて言葉が聞こえてくる。
念話、思念ではなく、明瞭なエルフ語で、だ。
「試練を成し遂げし者よ、よく来た」
先程のからくりゴーレムの人工的な音声とは異なる、明らかに人の持つ情感や響きが込められたそれは、やはり肖像同様に自然な雰囲気で耳に心地よい。
僕は姿勢を正し、右手を胸に当てながら一礼。
「はじめまして。僕は闇の森十二氏族ケルアディード郷ナナイの娘、レイフィアス・ケラー。
あなたが───“ジャックの息子”ですね?」
そう。謎多きクトリア貴族街の支配者にして、多数の古代ドワーフからくり人形式ゴーレムを従え、ここ、つまり『妖術師の塔』と呼ばれる高い塔から姿を現さず誰とも会ったことが無いと言われる魔術師。
それが彼であり───。
「そして、“生ける石イアン”と対になる知性ある魔術工芸品。
この一連の試練……ダンジョンバトルの始まりと終わりを管理する者……」
肩掛けの鞄から取り出した手のひらサイズの球形の石。魔力溜まりを模したそれを、作業机の真ん中にある台座へと置く。
置かれた“生ける石イアン”はうっすらと光り輝き、その中の魔力が“繋がる”のが感じられる。
「“生ける石イアン”と……貴方は……んー…もしかしたら“ジャックの息子スティーブ”……とかだったりするの?」
「正解だキーパーよ、“成し遂げし者”よ。
今、イアンと私の記録が統合され、キーパーの全ての戦い、試練の過程、結果が私の中へと刻み込まれた」
イアンは試練の案内人で、スティーブは管理人兼査定人……というところか。
彼らは元々知性ある魔術工芸品であり、そこにある知性、人格も擬似的なものに過ぎない。
けれども“生ける石イアン”のそれは、なんというか微妙に人間くさく、同時に穴あきのように抜けが多かった。
人間くさい擬似人格は、たいていの場合実在した人物、主に製作者自身の人格を写し取るか、精霊や死者の霊などの霊的存在を利用することで作られる。
そして情報に抜けが多いのは、制作過程かその後の不具合か、または意図的に操作してあるか。
だが今の事でその抜けに関しては明確に分かる。
本来、“生ける石イアン”と“ジャックの息子スティーブ”は、二組で一つの魔導具。基本的には本体が“ジャックの息子スティーブ”で、“生ける石イアン”の方はその端末……みたいなものだろう。
で、この二つが合わさって初めて本来の機能を発揮し、また情報が統合される。
「今は───どちらで呼ぶべきなのかな?」
「どちらでも、キーパー」
「うーん……じゃ、呼び慣れた“生ける石イアン”の方で」
まあ、急には変えにくいよね。
「それで───うーん……。質問、良い?」
「存分に」
とはいえ、さて何から聞くべきなのか悩みどころ。
些末から聞いてくかなあ。
「君達を造った人については、どう記録されている?」
「その質問を受けたときにはこう答えるようになっている。
『君は多くの困難を越えてついに王たちの冠を手に入れた。だというのに聞きたいことはそんなつまらないことだと言うのか?
そんな過去の些事よりも、これから先の希望に満ちた未来について考えるべきであろう。
我々がマンチェスターから魔法の絨毯に乗ってそこを訪れる事はもう有り得ないのだから』と」
さてさて、なかなかに洒落の利いた返しじゃないか。
まあでも既に答えを言っているのに等しい。
彼等を作るか、または改良し、古代ドワーフの「循環の試練」に「ダンジョンバトル」形式のゲーム性を追加した人物は、ドワーフなのかクトリア人なのかは不明だが、少なくともイギリスかアメリカの英語文化圏、その中で20世紀後半から21世紀初頭にかけてのなかなかにマニアックなゲーム文化に造詣が深い人物だ。
元々“生ける石イアン”という名前自体おかしかった。まずドワーフの名ではない。そしてクトリア人、帝国人の名とも違う。
帝国からクトリアにかけては前世で言うとイタリアからヒスパニッシュ系のヨーロッパ南部の言語、文化に近い。英語圏に近いのは、西方人達の言葉や文化圏だ。
この世界は様々な所で僕やガンボンの居た世界との共通した部分があり、特に人間の文化には多くの共通性がある。
これはまるっきりの推論だけども、僕やガンボンが前世としてあちらの世界の記憶を持つように、言葉を含めた様々な記憶を持つ人たちが過去に居て、それらがこの世界の文化、文明に影響を与えているんじゃないかと思える。
そして、この二つのそれぞれの名前の組み合わせは……まあ、そういうこと。
ダンジョンバトルが前世にあったゲームっぽいのも当然、てことになる。
ま、その辺はもう良い。問題は、僕は結果的にこうしてそのゲームをクリア……試練を達成し、長らく放置され、またザルコディナス三世により歪められたクトリア周辺の魔力循環を正したワケだ。
それによってこの地がどう変わると言うのか。そこにある。
で、その事について“生ける石イアン”へと聞いてみる、と、だ。
「キーパーが試練を達成したことにより、クトリア周辺の魔力循環は徐々に正されていくだろう。
その業績は誇るべきことだ。
そしてその偉業を成し遂げたことにより、キーパーは新たなるクトリア王として奉じられる事となる」
ふーん、なるほ……ほ?
「え? 何だって?」
「キーパーは王の試練を達成した。よって新たなるクトリア王として奉じ」
「ホワッツ!?」
「新たな……」
「いやそれ聞いた! 聞いたけど───聞いてないよ!?」
聞いたけど、聞いてないよね!? その説明!?
待って、これってつまり……そういう試練だったの!?
───知性ある魔術工芸品の情報に不足、不備、穴があるのには意図的な場合と、不具合の場合がある。
この部分に関しては、多分恐らくきっとこれは……不具合なんだろう、うん。
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