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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-39.J.B.- Always Wanting You.(あなたが常に望むもの)
しおりを挟むマヌサアルバ会会頭、アルバ。
その本名はアルバ・オクローネ。かつてはモルダールという地を荘園領地として管理していた大貴族のオクローネ家の末娘だったと言う。
当時のクトリア王朝は力を付けつつある大貴族達との軋轢を抱え、なんとかしてその勢力をそごうと画策していた。
その中で、財力、人望、そして歴史もある上、代々魔力をも持つ家系であるオクローネ家は最も厄介な存在。大貴族派は大貴族派で、オクローネ家を担いで貴族の政治権力を拡大しようともしていたとかで、まあ目の敵にもされていた。
そんな状況に事件が起きる。
かつてモルダールの近くに封印されていた吸血鬼、モルヴァルトの墓が暴かれて復活したのだとか。
何故? どうして? というのには何の確証もないが、当時から王家に仕えていた邪術士が暴いてしまったのだろう、と思われている。
偶然……と言うよりは悪意ある意図でのものか。その辺も分からねえ。
その吸血鬼モルヴァルトは、復活してすぐにオクローネ家を襲い密かにその悉くを殺していった。
だが吸血鬼が吸血行為で人を殺すと、稀に眷族として蘇ることがあるという。まあゾンビの感染みてえなもんか?
何にせよ今のアルバを始めとするマヌサアルバ会中核メンバーはそのときにモルヴァルトの眷属にされてしまった者達だという。
末娘のアルバ。オクローネ家に仕えていた料理人のタシトゥス。女召使い頭だったモディーナ……。
眷属とされてしまった者は、その元となった吸血鬼に対してカルト信者のように心酔し従うようになる。
自分の家族や本来の主を殺したモルヴァルトに対し、まるで親かそれ以上の存在として崇拝して従う絶対服従の日々。
「───我ら皆、その頃の事を思い出せば、文字通りに気が狂いかねぬ程の屈辱を感じます」
そりゃ……そうだろうな。
モルヴァルトによるオクローネ家の乗っ取りは当初はうまくいっていた。が、まあインチキ貴族ごっこなんざそうそう長くは続かない。
眷族として蘇らせた吸血鬼以外は死霊術で操る死体ばかり。すぐにボロが出る。
どうやらおかしいとバレた上、元々オクローネ家を煙たがっていたクトリア王朝は「オクローネ家に叛意あり」との状況を作り出して討伐軍を動かす。
数では劣るモルヴァルト側だが、なにせこちらはモルヴァルトを含めた吸血鬼軍団。昼間は弱いが夜なら怖い。一人でも百人の兵を倒せる上、さらには死霊術で死者をも操る。討伐軍側は多数の兵士が殺されていったが、それでもなんとかじりじりとモルヴァルト達を追い詰める。
そのモルヴァルトは封印された恨みから世の生けとし生けるもの全てを憎む人格破綻者、というか長き封印により完全にイカれちまってたらしい。
不老不死でもアタマの劣化は避けられなかったと言うべきか。その上集団の長としても最低で、眷属とした他の吸血鬼を捨て駒にし自分だけ逃げ出し生き残ろうとする。好き勝手に血を吸い殺しまくれば眷属など勝手に増える。そういう考えでの判断だ。
「そのモルヴァルトを討ち果たしてくださったのが、ナナイ様です」
「え……?」
「えぇ~~~!?」
「まあ、何かへろへろのイカれ吸血鬼が襲って来たからこう……ちゃちゃっとな?」
クトリア軍との戦いで結構なダメージは受けていたらしい。捨て駒として殆どの眷属を置き去りにして来たのもマイナスだった。
とにかく最悪のコンディションのときに、最悪の相手に出会ってしまった……てなところか。
だとしてもまあ───とんでもねえなあ、レイフの母親。
「そのとき、居たんだろう? 他の創立メンバーも?」
そこで横合いからそう口を挟むイベンダー。
「誰だそりゃ?」
「疾風戦団の創立メンバーだ。
ナナイ・ケラー。どこで聞いた名か思い出したわ。以前ジョーイから聞いたことがある。疾風戦団設立の中核メンバーだったが、闇の森へと帰ってしまった弓使いのダークエルフが居た、とな。
いわば俺やガンボンの大先輩だ」
……いやはや、これだから寿命のやたら長い種族ってのは。いや、寿命だけじゃねえか。とにかく簡単には飲み込めない話のオンパレードだ。
「何れにせよ、我らはそのおかげでモルヴァルトによる支配から逃れられました。しかし……その支配下で犯した数多の罪が消えるわけでも、吸血鬼と化した事による血への渇望がなくなるわけでもない。
血を飲まねば苦しみ、血を吸えば吸うほどさらにおぞましい化け物へ……モルヴァルトのような存在へとなり果てる。
我らに選べることは───自ら死を選ぶことのみ。
そう思っていた我らを助けたのもまた、ナナイ様だったのです」
総料理長タシトゥスの過去の告白。彼らマヌサアルバ会をナナイは二つの意味で救ったのだと言う。
「一体、それはどうやって?」
デュアンが俺たち全員の疑問を代弁するかにそう聞くと、ナナイはなんとも事も無げに、
「いやー、血ィ飲まねーとおかしくなるっつうから、飲ましてやったんだよ。アタシの血を」
と答える。
「へ? ドユコト!?」
「だってしゃーねえじゃん? こんな……こー、ちっさい子供がさー。すげー辛そうにしてっしよー。他の面子はあんま協力してくんねーし、アルバと会ったときはアタシ一人だけだったしさ。まあ、ちょっとくれー良いかな~……って」
ものの考え方雑だなあ、おい!? アンタ、本当にあのレイフの母親なのか!? 堅物で生真面目なレイフのさ!?
あー……レイフのナナイを見る視線が、色々物語ってるわ。
だがその雑でいい加減な考え方が、その状況への解決策にドンはまりしたのだという。
闇属性魔力に満ちたダークエルフの血が、ほんのわずかな量で彼らの「血への渇望」を抑え込んだ。
「ふうむ……成る程、そう言うことか!」
ポンと手をたたくイベンダーのおっさんに、俺は「どう言うことだよ?」と聞き返す。
「つまりな。吸血鬼が血を求めるのは、血そのものを求めているのではなく、本当は血の中にある魔力を求めていたのだ。
人間は元々血の中に魔力が少ない。だから人間の血から魔力を得ようとすれば、死んでしまいかねないほどの大量の血を飲むことになる。だがエルフの血には魔力が豊富だ。特にダークエルフなら吸血鬼と相性の良い闇の魔力が大量にある。だから少量の血でも魔力への渇望が満たされた」
「ええ、恐らくはその通りかと。我らは皆、ナナイ様の血により満たされました。
それから魔力循環法などを教わり、血を吸わずとも魔力を得る方法や自らを律する術を学び、わずかに残る血への渇望は美食を代用として抑制しました」
マヌサアルバ会の売りである魔力循環マッサージも豪華な美食も、元々は吸血鬼としての性をコントロールする為のものだった、と言うことか。
「───過去の話は一応分かったぜ。その……ナナイのお陰でアンタ達は救われ、モルヴァルトみてーに手当たり次第に人を襲うような化け物にはならずに済んだ。まあそこは……理解した」
だが今の、そして噂にある“食人の儀式”への噂に、何よりモディーナがテオを監禁し血を飲んでいた事実。そこはまだ解決して居ない。
「“食人の儀式”の噂は───あれは“従者の儀式”を目撃されてしまったことによるものです」
従者の儀式? この場にいるマヌサアルバ会の面々の中で唯一準会員の例の助手君、ウィルフへと視線が向く。
「従者となる者にはそれぞれに経緯事情はあります。また、誰でも従者となれるわけではありません。
しかし手順としては共通しており、まず従者契約を結ぶ相手の血を正会員たる者が吸い、その後に自らの血をその者に与える。
適合すれば従者として新たな力を得ます。せねば───多くはそのまま死にます。死なずとも、食死鬼のようになり果てるか……。
なので我々は、そのままでは助からぬ程の死に瀕した者等と、相手の強い意志、希望を元にしてのみ、“従者の儀式”を行います」
皆の注目を浴び、やや赤面したかの助手君、ウィルフがコクリと頷く。
「───私も、タシトゥス様により救われたのです」
で───モディーナだ。
モディーナの行動は明らかに今までの証言とは矛盾している。テオに対して【魅了の目】を使い虜にして、監禁して血を啜っていた。
再び注目を浴びたモディーナは、いつもの尊大とも言える態度は見る影もない程に縮こまってうなだれていて、ちょっとばかし可哀想にも思えてくる。
「それは……その……なんとも……」
煮え切らないぼそぼそした言葉に、
「きちんと釈明をせい!」
と一括するアルバ。
モディーナは再び一層縮こまって小さくなる。
その小声の釈明によると、ざっとこんなあらましらしい。
テオは元々生まれつきの魔力適性はあまり無い男だったが、家族が魔人の賊(“炎の料理人”フランマ・クーク)に殺されて以降、かなり無理に魔力を得ようとしていたらしい。
その結果、ある程度の魔力循環法を出来るようになり、身体的には強靭になったが、ほぼ独学で無理なやり方をしたことの副作用で、胎内に多くの魔力の淀みを作ってしまった。
それが体調不良と疲れやすさ、倦怠感に繋がって、周りからは「怠け者」と見なされるようになったんだそうな。
だがマヌサアルバ会の魔力循環マッサージを受ければ、一時的にだが調子が良くなる。
魔力瘤で苦しんでいたジャンヌが、“シャーイダールの魔法薬”を飲むことで一時的に復調してたのと同じだ。
それでテオはマヌサアルバ会のマッサージを受けるために取引で来る度に通い詰めるようになる。で、それもまた「貴族街で遊んでばかりの怠け者」という評判に繋がっちまうんだが、本人にとっては深刻だ。
そんなこんなで、モディーナにとってテオはお馴染みの上客。お互いにそれなりに親しい関係ではあった。
そこでモディーナに欲が出た。
テオを自らの従者にしたくなったのだ、という。
だがさっきも述べられたとおり、マヌサアルバ会では誰かを従者にするにはきちんとした条件づけが必要になる。死に瀕しているか天涯孤独で身寄りがないか。そしてその上で相手が死を賭してもなお従者となる事を望んで居る───。テオはそのいずれの条件も満たしていない。
それで、モディーナはその欲望を心の奥に封じて居たのだが───二つの出来事が無謀な行動へと走らせた。
一つはレイフ。久しぶりに出会ったダークエルフに対して、少なからぬマヌサアルバ会の正会員達はざわめいた。
普通の人間の血への渇望はなくなっている。けれどもダークエルフの血は別格だ。要するに「今更安酒を飲みたいとは思わないが、ン十年ものの超高級ワインを目の当たりにさせられて、欲しくてたまらなくなった」ワケだ。
そしてそんなときにテオの施術をしていたら、魔力瘤の兆候を発見してしまう。
魔力瘤を消滅させる最適な方法はピクシーのピートも使った【妖精の輪舞】や光魔法による【浄化】。だがマヌサアルバ会は闇属性を主体とし、その方法は使えない。
もちろん根気よく魔力循環マッサージを続ける事で魔力瘤を小さくして行くことも可能だが……そこでモディーナは「外科的な手法」を使ってしまった。
つまりそれが、魔力瘤のある箇所に噛み付いて、血液ごと吸い出す、というやり方。
これは普通の人間には出来ない。血と共に魔力を吸い出すことの出来る吸血鬼のみに出来る強引な解決方法だ。
で、
「───気がついたらテオに【魅了の目】を使い、監禁してしまっていました……」
レイフにより触発されてしまった「魔力の強い血」への渇望。そしてダークエルフに比べればはるかに劣るものの、一応ある程度の魔力を持つ者の血を図らずも吸ってしまった経験。
ヤク中やアル中が、長い間断薬やアルコール絶ちをしていたものの、ちょっとしたキッカケで中毒を再発してしまうようなものだ。
そして自分の従者と、たまたま倉庫へと隠す際に遭遇してしまった助手君ことウィルフに無理矢理命令して見張りをさせつつ数日。
「私は浅ましくも血の欲望に耽ってしまって居たのです───」
と。
「───それでは、最近倉庫の中の“貴重な食材”が幾つかなくなっていたのは……?」
ああ、そうだ、総料理長のタシトゥスはそんな事を言っていたな、と、ここで目をそらすのは助手君ことウィルフ。
「つまみ食いをしていたのは、貴方なのですね、ウィルフ……!?」
「ご、ごめんなさい! 見張り、してて、ついその……お腹がすいて……!!!」
“貴重な食材”とはそのまんまストレートに“貴重な食材”のことで、見張りをしてた助手君達が普通に盗み食いしてただけらしい。
「モディーナ……お前のしでかした事は許される事ではないぞ……分かっておるな……?」
そう低く強く糾弾するアルバ。
だがそこで今度はモディーナからの逆襲が起きる。
「……し、しかしアルバ様……。貴女も一人抜け駆けして、レイフ様の血を飲ませてもらおうとしていたのは……いかがなものかと……?」
「ばっ、ばかを、言うな!? わたしは、そんな、は、はしたない真似……!!!!」
「では何故、レイフ様の個室に【影走り】を使って侵入するような真似を……?」
「……そうですな、いくら会頭とはいえ、抜け駆けはよろしくありませんぞ、抜け駆けは」
一転してしどもどした言い訳を始めるアルバに、逆に詰めよりだすモディーナとタシトゥス。
「ちょっと待って!? 何か僕の血が吸われるのは確定事項みたいな前提の話してません!?」
その妙な成り行きに慌てるレイフと、それを庇うように体勢を変えるエヴリンド。
しかしまあ───深くため息をついて顔を見合わせる俺とおっさんはと言うと……、
「……何か、最終的にその……すげえ馬鹿くせー話だな……」
「ふーーんむ……。なんとも、なあ……」
真ん中で一人ナナイだけが、その様子を見ながらからからと高笑いをしていた。
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