遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-130.J.B. -Fly Me to the Moon(私を月まで連れて行って)

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 素早く滑空しながらバランスを取りつつ位置を見定める。エヴリンドは魔力中継点マナ・ポータルの土台、半地下のシェルターらしきものがあるその入り口か。
 敵は? 分からない。分からねえが、他に見えるのは倒れ伏したモロシタテム警備兵3人に、何体かの魔獣の死体だけ。
 ならば、と半ばあてずっぽう。エヴリンドと相対していたならこの辺りだろうと言う位置へと【風の刃根】を撃ち込みなが……。
 
「……何!?」
 
 その【風の刃根】は空中で見事に切り裂かれ・・・・・て消えてしまう。
 馬鹿な!? 俺は恐らくは信じられないものを見たようなツラをしてそのまま旋回。再び同じような位置へと【風の刃根】を打ち込むが、やはりまた同様に空中で消えちまう。
 何者か。何者かがいる。それは間違いない。巧妙に暗がりへと身を潜めたそいつは、俺の【風の刃根】による攻撃を、かわすでもなく、受け止めるでもなく、どうやってかは知らねーが、まるで食っちまったみてえに空中で消し去った。
 
「糞ッ!? マジかよ!?」
 俺は空中でホバリング状態になって から背中に生えた左右の魔法の風の羽を大きく広げると、そこに魔力を集中させる。
 【突風】。 風の魔力で作られた小さな刃ではなく、巨大な竜巻のような強い力を放って、姿のよく見えねえ敵へと叩きつける。
 
 が───。
 
 その【突風】もまた、半ばで切り裂かれ消え去った。
 
 信じられないもんを見た……と、またも同じように言うしかない状況だ。
 
 だが、その【突風】を吸い込むようにして消し去った暗闇の空間、そこへと俺は、手にしていたドワーフ合金製のメイスを投げつける。
 
「……ぐぁッ!?」
 
 当たったか? いや、分からねえ。分からねえが一つ分かるのは、敵さんは何らかの方法でこちらの魔力、魔術による攻撃を無効化する事が出来る。だが、その本人は実体のある何者かだ。
 こいつが亡霊だの幻魔だのと言った、実体の無い化け物だったらお手上げだが、実体があるなら……やりようはある。
 
 俺はそのまま、敵の居ただろう空間へ向けて高速で突っ込んで行く。
 “シジュメルの翼”の高速飛行、人間ロケットの体当たりは、カウンターは怖いがかなりの威力。
 その高速での怒涛の“突っ込み”は……突如として不安定なものへ変わり、地面へと激突、墜落する。
 
 顔から突っこんで顔面血まみれになりかねないところを、なんとかクロスさせた両腕で庇いながらゴロゴロと転がる。
 転がりながらも体勢を整えて、その勢いのままなんとか起き上がり、膝立ちで身構え気配を探ると、誰かは分からねえが薄ぼんやりとした影。
 背はさほど高くない。姿勢は前傾で、手には何やら不細工な山刀か? 足元には俺の放った金ピカメイスが転がってるが、さてダメージはあるのかどうか……。
 
 と、じっくりと観察する間もなく、奴の手の山刀が俺へと迫る。
 速い……ッ!!
 無闇に勢い任せに斬りかかるんじゃなく、最短距離から高速度での突きが主体の連撃。
 
 そしてそれをかわそうとする俺の方はと言うと……。
 
「……がッ……、て、何……だッ……!?」
 
 遅い……!?
 
 何だ!? と、いつもの調子でかわせずに、なんとかドワーフ合金製の篭手で刃を受けて防ぐが、そのたびに何やら力が抜けて行くかの感覚がある。
 
「……糞ッ……何……がッ!?」
 
 動きが鈍り、体勢が崩れた俺へと連続で突きを繰り出す敵さんの足元へ倒れ込むかに身体を沈め、そのまま左脚を軸に半回転前傾気味の姿勢のそいつの足を刈り取る……つもりが、その蹴りは跳躍でかわされ、同時に頭上からの突き。
 
 かわしきれないそいつを……俺は“シジュメルの翼”の隼型の兜で受けて弾く。
 
 その勢いのまま、さらに回転するようにして回り込み距離をとる。
 
 魔術を消しさる事から、魔術師か、魔術主体の剣士かと予想してたが、こりゃ違う。
 基本はバリバリの、凄腕の戦士だ。
 素早く、しなやかで、状況判断に富む上に、気配を殺すのにも長けている。
 
 離れたところで、やや動きの調子が戻り出す。
 戻ったのはただの動きの調子じゃない。魔力だ。俺の入れ墨魔法の魔力循環が戻りだした。
 そのまま再び“シジュメルの翼”へと魔力を込めると……再び奴の刃が襲って来る。
 左右にかわしたその刃。初めてハッキリと姿を捉えたそれは、刀と言うにはあまりに醜く、あまりに歪で、まるでただ薄く平たく伸ばした闇の塊を、巨人が気まぐれに捻じ曲げて作ったかのような代物だった。
 月の光りも反射しない、あらゆる光を吸収し逃さない漆黒の闇そのものとでも言うかの刃。
 
 その刃が、“シジュメルの翼”の防護膜に触れた途端……先程と同じだ。急激に魔力が失われ、入れ墨魔法の循環さえも狂わさせられる。
 
 そこでようやく俺は分かった。こいつは魔法による攻撃を消滅させてるんじゃない。あの黒く曲がった歪な刃で触れた魔術、魔力……そういったものを奪い取り、吸収しているのだと。
 
「───“災厄の美妃”……!?」
 
 アルバ達が話していた、邪神がこの世界に齎した“魔術師殺し”、“エルフ殺し”の武器……。 
 正直あんときの話の内容はいまいち俺にはピンと来てねえ。入れ墨魔法を使い、改修された古代ドワーフ遺物で飛び回っちゃあいるが、魔術そのものに関しちゃ素人だ。
 ただとにかく、コイツが糞ヤベー武器を手にしている、ッてなのは間違いねえ。つまり今ここで頼りになるのは、防具としての“シジュメルの翼”の装甲と、培って来た体術のみ。
 
「──てめェの目的は知らねえが……」
 俺は魔力を“シジュメルの翼”へと回すのをやめ、オーソドックスなアップライト型に構える。
 両拳をこめかみの位置に合わせるように顔の前でガード。下半身はちょうどいい具合に脱力しながらも、前後左右どちらにも動け、またガードできるように……だ。
「悪ィが今夜はもう店仕舞いだ。明後日出直しな」
 
 敵さんはかなり“ヤベエ”武器を持っている。だがそのヤバさの一番は、魔術を破壊し魔力を奪うこと。
 それを除けば……正直、ただの不細工で歪んだ刃に過ぎねえ。
 そしてその素材が何なのかは分からないが、少なくとも今戦ってた中でも、何度か当たった刃先は“シジュメルの翼”と両手足のドワーフ合金製防具で防げてる。つまり、装甲部分で受ければ防げない攻撃じゃあない。
 
 奴の刃は篭手で受け、逸らす。その 攻撃の際にできた隙を狙い、蹴り、またはカウンターのパンチ。大技は狙わない。すべてはコンパクトに、細かく、短く、素早く、だ。
 だが、そのほぼ全てが、やはり受けられ、かわされ、または返される。
 
 前世、そうしてこの世界での知識、培い研鑽してきた技術が俺にはある。それはそこらのチンピラ小悪党じゃとても太刀打ちできないレベルだとも自負できる。
 だがそれらの土台に“シジュメルの加護”の入れ墨魔法によるブーストがあったってのも事実。つまり、その加護無しのただの南方人ラハイシュとしての身体能力では、その技術を十分に活かせない。
 そして何よりも……。
 
「ぐッ……あぁッ……!?」
 
 篭手で受けたが逸しきれなかった刃の切っ先が、わずかになが左腕の肩の近くをかする。かすっただけ。そう、かすっただけで、その傷口が燃え盛りまた焼けただれるかのような激しい痛みに襲われた。
 
 コイツがヤベぇのは、手にした“災厄の美妃”だけじゃあねえ。
 基本的な身体能力、そして戦闘技術だけでも、余裕で俺を上回ってやがる。
 
 ちらりと腕の傷を見る。するとそこには黒く焼けただれたかのような炎症がじわじわ広がり出し、痛みが広がっている。
 闇属性魔力による攻撃。
 すぐさま俺はその闇属性魔力を中和するための魔力循環を始める。ザルコディナス三世との戦いの前に、レイフからさんざっぱら教わったやつだ。
 
「くっそ……、聞いてねえぜ、“災厄の美妃”にこんな力があるなンてよ……」
 
 思わず口をついて出るその悪態に、そいつはやや間を取って反応し、
「……ったく……。どいつもこいつも知ってやがるとは、どーゆーこったよ……」
 と愚痴る。
 
「何言ってんだ、お前さん有名人だぜ?  辺土の老人とかいう薄汚いジジイにそそのかされて、世の中ぶっ壊そうと狙ってる、厄介なイカれ猫獣人バルーティがいる……ってな」
 
 相手が言葉に反応したときは、すかさずそこに付け込むべし。まあイベンダーのおっさんの教え、てほどじゃねーが、これはこれで有効だ。
 
 だが、その俺の揺さぶりは、想像以上に相手にゃ効いたらしい。
 
「……ざけろ、てめェ……。
 誰があの糞ジジイの手下だッて……!?」
 明らかに今までと違う感情的な怒りをストレートに表してそう叫ぶ。と同時に今度はその刃での突きではなく、奴のしなやかな足が俺の腹へと突き刺さる。
 今までの刃による攻撃に慣れてしまっていた俺は、その直線の蹴りの距離感がつかめずにクリーンヒット。
 腹の部分には革の胴当てがしてあるが、ドワーフ合金製の篭手や胸部と違い防御力は下がる。蹴りの衝撃をみぞおちに受け、こみ上げる嘔吐感を無理やり押し込んでそのまま後ろへ転がると、なんとか立ち上がって体勢を整えようとするが、その顔面へとさらなる回し蹴り。
 脳が揺れ、さらに意識が飛ぶ。
 
「いいか、てめェ……二度と、そうだ、二度と俺のことをあのジジイの手下だなんて呼ぶんじゃねーぞ」
 ぐわんぐわん揺れる意識の中、その激しい怒りの声が脳の中を攪拌する。
 
 その揺れる意識を何とかつなぎ留め、再び体勢を整えようと足腰に力を入れる。入れるが、ちょっとこいつはすぐには立て直せそうにねえ。
 だが、エヴリンドが倒れ、コイツの狙いがレイフだとしたら、魔法以外に 身を守る術を持たないレイフは手も脚も出ずにあっという間に殺されるだろう。
 
 ───殺される……?
 
 その考えが脳裏に浮かんだ瞬間、俺は再び全身に血流を巡らせるかのような感覚に身を震わす。いやこれは血流じゃない、魔力だ。無意識に、無自覚に、自分の中にわずかに残っていた魔力、わずかに残っていた意識を、練り上げ、循環させ、全身を覚醒させる。
 
 突進。
 
 “シジュメルの翼”へと全魔力を流し込んで、そのまま奴へと体当たりをかまし弾き飛ばす。弾き飛ばした衝撃も利用しての急旋回。 レイフが作った魔力中継点マナ・ポータルの半地下式シェルターの入口へ手を突っ込んで、そのまま引きずり出して全力で抱え上げて空高く飛び去る。
 
 糞ったれ……こいつは貸し1、だぜ。
 
 
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