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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-148.マジュヌーン(81)静寂の主 -野蛮な再会
しおりを挟む「珍しい所で会うもんだな」
こそこそと俺の後をつけ回していたであろうその男に声をかけるが、やっこさん、声をかけられたことに驚くどころか平然としたまま、
「……話がある」
と返してくる。
サーフラジルで山火事関係の情報収集を始めて、五日ほどの事だ。
“銀の腕”とその配下、また集めた火消し力夫や、水魔法の使える司祭なんかの活動もあり、幸いにも町の方にまで延焼するってな所まで行っちゃいねー。
だが、“輪っかの尾”のところのモダスも言っていたが、ある方面で火勢が衰え沈静化してきたと思えば、思いもよらぬところで新たな炎の勢いが増し、また火災が発生しと、まるでもぐら叩きみてーに、あっちを叩けばこっちが出てくる……てな状況で、完全な鎮火にはまだまだ時間がかかりそうだ。
実際バナナ園まで行って様子をみても来たが、これまた今のところ幸いにもバナナ園自体はまだ無事だった。火勢の方向からはズレていて、風下でもない。とは言えそうそう楽観視も出来やしねぇ。なんとも中途半端な状況だ。
そんな状況の時に、このサーフラジルで“再会”したのは誰か?
アナグマみてーに目の回りに黒ブチ模様のある犬獣人、隠密巧者でカリブルの従者でもあるアラークブだ。
こいつとの縁ももう3年以上にはなるか。つまりは俺がこの世界で前世の記憶に目覚め、あのクトリアの地下から地上へと這い出て、デスクロードラゴンだかいう馬鹿でかい化け物に追っかけ回され、前世のクラスメイトたちと一致団結してそいつを撃退したかと思いきや……静修さんにより俺一人奈落の底へと突き落とされてから3年以上……てことだ。
コイツとは、“砂漠の咆哮”の入団審査時代からも深い付き合いはない。と言うか、やたら突っかかって来てたカリブルと、妙に俺に関心を持っていたマハ、そして前世からの腐れ縁のアスバル以外とは、殆ど交流は無かった。
そして、寡黙なルチア、以外に計算高いムーチャ、酒飲みで賭事好きなスナフスリーなんかとは又別の意味で、コイツの考えてる事は良く分からねぇ。
だが、先日の廃都アンディルでの共闘で分かった事でもあるが、コイツが従者としてついているカリブルへのある種の信頼、忠誠心みたいなものは、恐らく本物だ。
だから、あの時がそうだったように、コイツがカリブルの居ない場所で俺に付きまとってきたのなら、そいつはカリブルに関係ある用件だろう。
俺とアラークブは連れ立って“砂漠の咆哮”の定宿……じゃなく、裏通りのうすら寂しい安酒場へ。
サーフラジルで犬獣人と猫獣人がこんな裏路地へ来てるのはなかなかに胡散臭いものがあるが、山火事の件もあり周りの奴らにもそんなことを気にしてる余裕は無い。
「で、何だ? またカリブルが暴走しそうだってか?」
ややからかい気味の口調でそう聞くと、アラークブはふるふると首を振り、
「違う、お前の問題」
と一言。
「……何だ?」
突然のその展開に、ややたじろぎつつも俺は聞き返す。
「お前、シューと言う、男、知ってるか?」
その名前には覚えがある。
“不死身”のタファカーリが口にしていた、奴の気に入らない政敵の名。
そして奴曰わく、俺同様にクトリアの家畜小屋で生まれ育ち、王都解放後にリカトリジオスへと入り、短期間でめきめきと頭角を現した犬獣人。
つまり……デスクロードラゴンとの戦いの後に俺を穴の底へと突き落とし切り捨てた……前世における腹違いの兄、静修さんの生まれ変わりだ。
「……聞いたことはあるな」
真意の分からぬその問いに、おそらくは上ずった声でそう答える俺。
その声の調子に不審なものを感じただろうアラークブは、僅かに眉根をしかめはするが、深く掘り下げることもなく話を続ける。
「リカトリジオスの将軍の一人。そいつが……お前を追っている」
俺を? 静修さんが?
「何で……今更……!?」
意図せず口から漏れるその言葉。その疑問は、当然だがアラークブにぶつけても何も返って来るはずもない。
短い毛に覆われた俺の顔は、血の気が引いたところで色が変わるでもない。だが、音と匂いには敏感な獣人同士。俺の動揺はアラークブには筒抜けの丸見えってところだろう。
ああ、そうだ。
呼吸も、顔色も、匂いも……そして明らかに傍から見りゃ泳いでるだろうこの目の動きも、完全に俺の内心を露わにしちまってる。
今更なんだ? どういうことだ? なあ、俺を前世の……つまりはあの糞みてえな街の糞みてえな宍堂家のしがらみだとして切り捨てたのは、静修さん、アンタの方だろう?
かつては腹違いの兄弟。だが今世じゃクトリアの邪術士の家畜小屋で育てられた奴隷、または実験動物同士なだけの、種族も異なる赤の他人。
だからこそ……共に手を携え協力しながら生きていく事も出来たはずだが、アンタにとっちゃそれは新たな人生に不要な因縁。
だからこそアンタは、体力を消耗し怪我もしてた俺を穴の底へと突き落とし、生死を運に任せて立ち去った。
それを今更、何故?
待てよ、なあ。
アスバルの野郎が言っていた。まさに野郎の言う通りに、前世なんてのは所詮は前世でしかねぇ。
俺たちは文字通りに「今を生きている」んだぜ。
俺とアンタの新たな人生は、とっくの昔に袂を分かった。
そうじゃ……無かったのか?
「───おい、聞いているか?」
「……あ? 何だ?」
無自覚なまま数秒、あるいは数十秒ほど、俺は周りの音も匂いも空白なまま意識がどっかに行っちまってたみてーだ。鋭く呼ぶアラークブの声に引き戻され、再び奴へと意識を向ける。
「お前は、カリブル以上に、リカトリジオスとぶつかり、揉めてきている。奴らが、お前を狙うのは、当然」
アラークブはそう言い、相変わらずのぬめっとした面で俺を下から見上げる。犬獣人だが俺より猫背で小柄だから、顔をつき合わせるとだいたいそうなる。
アラークブの考えとしちゃあ、つまりは単純に俺がリカトリジオスの障害になるからとの理由で付け狙われている……とのことらしい。
それも……或いはそうかもしれねぇ。
そもそも、シューと言う名の犬獣人が、俺同様の家畜小屋育ちで、俺を穴へと突き落とした犬獣人だ……との話は、“不死身”のタファカーリからの情報でしかねぇ。
俺はアレ以来静修さんとは会ってないし、知ってるのも全て伝え聞く噂のみ。
だから、シューと名乗ってる犬獣人が本当に静修さんか、また、その静修さんが俺……つまり、“砂漠の咆哮”のマジュヌーンが前世の腹違いの弟、真嶋櫂の生まれ変わりだと言うことを知ってるのかも分からねぇ。
そう、アラークブの言った通り、ただ単にたまたま何度かリカトリジオスの計画を潰す事に関わっちまった厄介な猫獣人の1人……それだけの認識かもしれねぇ。
全ては分からない。分からないが……。
「マジュヌーン、詳しい話、知る情報源居る。今から訊きに行く。来い」
俺のそのウダウダした糞な思考を打ち破り、アラークブがそう続けてくる。
情報源……てのは何なのか。ここサーフラジルの裏には、リカトリジオスからの密偵内通者が恐らくはまだ居る。“不死身”のタファカーリに言わせりゃ南征策は立ち消えになったってな話だが、だからって全てのスパイが忽然と消えるワケはねぇし、その中には時勢がアールマールに傾いたと見て、金を得る相手を鞍替えしたようなコウモリ野郎が居てもおかしかねぇ。
この時点でそんなことまで色々きっちり考えてたかッてーと、そう言うワケでもねぇんだが、とにかく俺はその話にただくっついて行くだけになっていた。
△ ▼ △
サーフラジルの街から離れて森の中をしばらく歩く。山火事の方向ともやや近くなるが、まだまだ遠い対岸の火事だ。
しょっちゅう来るわけでもねーからこの辺の地理にはそう詳しくもないが、改めて頭の中で位置関係を組み立てても、少なくとも今のところカシュ・ケンが契約しているバナナ農園の方に火の手が回るッてことはやはりなさそうだ。
立ち上る煙を遠目に見ながらそんなことをぼんやり考えつつも、頭の別のところじゃあ、リカトリジオスのシュー……静修さんのことを考え続けている。
理由、思惑、目的……もちろんそれらもそうだ。だがシンプルな話、何より今どうして居るのか……リカトリジオスで上手くやれているのか……そんなただ単純な近況の疑問も湧いて来る。
リカトリジオスがやべぇ集団なのは、話だけでなく“不死身”のタファカーリなんかとの関わりでも実感してる。
耳にする情報や目にする出来事からしても、あいつらはかなりでけぇ勢力になっているし、今後もどんどんと広げてくだろうとも思う。だが、それがいつまで続くかってなぁ疑わしい。
そりゃ確かに俺の頭の中にある“戦争”なンてのは、せいぜいが不良の喧嘩レべルの勢力争いのドツキ合い。
だが、前世でもいたんだよな。体育会系よりもガチガチで、上の奴らが下の……下級生を脅し、ビビらせ押さえつけて威張り散らしているような学校の奴らが。
そういうとこは確かに一時的には勢いは出る。だが、そういう学校の連中は上の奴を本気で慕ってるわけじゃねえ。単におっかねぇから従ってるだけだ。だから頭を叩きのめしてやれば、それだけで簡単にバラバラになっちまう。
リカトリジオスの支配のやり方は、恐怖と暴力と洗脳だ。
支配地域も広くはなってるが、殆どが砂漠と不毛の荒野。いくら飢えに強い犬獣人主体でも限界はある。
どう見ても、長く保つ支配とは思えねぇ。
“不死身”のタファカーリやらの話からも、静修さんがそこで功績を上げているらしいのは分かる。なら、大賀や大野達、静修さんと共にリカトリジオスに降った生き残りたちも、静修さんと共に居る限りはそう悪くもない状況なんだろう。
こんな世界でこんな状況だ。確かに前世みてえに、学校でキチンとお勉強して、いい成績取って、いい大学から良い企業に入れば、後の人生は安泰……なんてお決まりのコースなんざありゃしねぇ。ま、良い会社に入ったと思ったらゴリゴリのブラック企業だった、なんてのもあったから、そりゃコレも状況次第かもしんねーが、少なくともこっちよかは安全ではあったよな。
そん中で言やあ静修さん達が選んだ道も、もしかしたら正解の一つだったのかもしれねぇ。
俺やアスバル、カシュ・ケンにダーヴェ……。それぞれ別の理由で、そのリカトリジオス入りの流れからは逸れて、その中で様々な偶然も手伝って、今はなんとかやっていけてる。
だがそれだって何かしらの確実な成功の保証なんざ何もなかった。
流れと運……出会い。
何よりそれらが、俺たちを今この状況にしている。
それでも、尚。
それでも尚、例え静修さん達にも俺たちの様な流れと運があり、ある種の成功を得られていたとしても、だ。
やっぱ……リカトリジオスに居続けるのが今後にも良い選択肢とは思えねぇ。
或いはカリブル達が目指して居るように……静修さんやついて行った元クラスメイト達をリカトリジオスから奪還する、救い出す……。それぐらいの意識で居るべきなのか……? そう、問わずにゃあ居られねーぜ。
「もうじき」
ガサリと、道無き道をかき分け進むと、ちょいとした切り立った崖の洞穴の前へと出る。
猿獣人、その中でもシャブラハディ族とアールゴーラ族は元々洞窟暮らしをしていた民族で、今でも洞窟を改造した、叉は石と土で造られた家に住む。
なので町の外にある洞窟にも、かつて住居として使っていた痕跡や、あるいは遠出した際に使う簡易的な野営地のような改修が施されてる場所が少なくない。
この洞窟はそういう簡易的な改修のされたモノのようで、傍目にもある程度の生活の痕跡があり、また、その中に誰かが居るのも分かる。
いや……ただ誰かが居る、てな話じゃあねえぜ。まさか、コイツがアラークブの言う情報源だってのか?
「ヒャッハッハ! マジかよ、マジでおめぇ……生きてたンかよ!?」
野太い声でそう笑う。
洞窟の薄暗がりの中で愉快げに体を揺らしではしゃぐのは、やはり声同様に太い首、太い身体、太い手足の猪人。匂いも、見た目も、その声も記憶にある、前世では同じクラスで柔道特待生だった猪口雄大だ。
「へっ、へっ……! まさか幽霊とかじゃねぇよな~? 化け物竜に殺されて化けて出たのか? おい、よく見せてみろよ、あー……脚だよ、脚! 脚ついてンのか? ぶははは!」
前にサーフラジルで“赤ら顔”の教団へと乗り込み、リカトリジオスの内通者を探り出していたときにもニアミスですれ違って居る。そしてその時と同じく、口から吐き出されるのはただの臭ぇ息だけじゃなく、強力なカフェインみたいにハイになる作用のあるクォラルの実と酒の混ざった独特の匂い。
「……猪口」
「はっ! よそよそしいな、おい! 何年だ? 2年? や、3年か? まあ何年でも良いか? ま、コッチ来て座って酒でも飲めよ!」
猿獣人のよく使うひょうたん製のお椀を掲げて、やはりひょうたん製の酒瓶から濁酒を注ぐ。やや酸味のある匂いをさせてるのは、蒸留もしてない昔ながらの猿獣人の安いバナナ酒。
洞窟内の床にはすのこみてーな板が敷かれ、その上にまた簡素な座卓と草を編んだ敷物。全体としては古い猿獣人の洞窟住居。そこに幾つかのやや新しい家具調度が持ち込まれ、数日寝泊まりするならある程度足りるぐらいの状態。
つまみか肴か、座卓の上には干した魚や炙り肉、またローストナッツの類も散乱し、とにかく雑然として汚らしい。
さらには……。
「……臭ぇ……」
安いバナナ酒にクォラルの実だけじゃない。干し魚は独特の発酵をさせたものなのか、かなりきつい臭気がするし、猪口自身の口臭に体臭、この洞窟住居全体の空気もよどんでいる。
さらには……ああ、多分あの壺の中か。クァド族の好きな……だが、俺たち猫獣人には最悪な噛み煙草の匂いも漂っている。
とにかく、それら全てが混ざり合って溶け合ったような、嫌な匂いに淀んだ空気。匂いに敏感な猫獣人や犬獣人でなくとも鼻をつまみ、顔をしかめずにはいられないような場所だ。
「……こんなとこで会うとはな。一体何してやがんだ?」
その臭気に顔をしかめつつそう聞くと、
「何って、だーから酒呑んでんだよぉ~? 見~りゃ分ッかンだろぉ~?」
と、まさに酔っ払いそのものの反応。
「そうじゃねぇよ。まず、何でこんな森の奥の洞窟で隠れるみてぇにしてンのか、ッてのと……クトリアで別れてから、どこで何やってここまで流れ着いたのか、だよ」
アスバルからは猪口が静修さんと共にリカトリジオスに降った……とは聞いている。ただ、猪口が今もリカトリジオスに所属してるのかは分からねぇ。
そして恐らくは“血の決闘”で勝っただろう猪口達がそれなりには厚遇されてる、されていただろう事も推測出来るし、“五人抜き”をした静修さんはさらに高い地位に居るだろう事も。
だが、猪口が俺の現状をどれだけ知ってるかは分からねぇ。俺がその後アスバルやカシュ・ケン、ダーヴェと出会い、行動を共にしていることも猪口が知ってるのか、さらには静修さん……リカトリジオスのシューが知って居るのかも分からねぇ。
分からねぇ事ばかりのこの段階じゃ、奴に教える情報は少なくするに越したことはねぇ。
「隠れるゥ~? 馬鹿言うな、俺ぁ何も隠れてなんざ居ねぇよ? 単に、街中はお猿共がウキウキウッキーとこ煩ぇから、大自然の中でのびのび暮らしてンだけだぜ?」
物は言い様だな。そういやコイツは前世でも、ただの筋肉バカのように見えて、ああ言えばこう言うの屁理屈、言い訳の多い奴だった。
「じゃあ、何でそんな煩いお猿のアールマール王国に居るんだよ」
「こっちに仕事があるからな~。それさえ無きゃ、こんなトコ、さっさとオサラバしてるぜ」
クォラルの実を砕いて入れた、安物の濁酒を煽りながら続ける猪口。
「何の仕事だよ?」
「お? 興味沸いたか? なんならよ、お前も噛ませてやろうか?」
アラークブを通じて俺にコンタクトを取ったってことは、少なくともコイツは俺が“砂漠の咆哮”の一員なのは知ってるはずだ。いや、そこはアラークブの立ち回り次第じゃああるが、アラークブ同様に何かしら荒事仕事して稼いでるのは把握してるだろう。
その俺に「噛ませてやる」と言う以上、コイツの言うここでの仕事とやらも何かしらの荒事仕事。
しかも……。
「……山火事か?」
このサーフラジルが大騒ぎになってる山火事のタイミングで、街中から離れた所に隠れている野郎が、“銀の腕”の采配で火消し役をするでもなく“仕事”をして居る。
全く、きな臭い以外の感想はねぇわな。
だが、猪口はそれを受けてもヘラヘラと笑いつつ、再び酒をあおってこう続ける。
「あ~、惜しい! 良い線いってるが、俺は“ソッチ”じゃあねぇのよ」
“ソッチ” じゃあ無い?
つまり……いや、“ドッチ”だ?
その疑問を口にするより早く、俺は後ろから羽交い締めにされる。
「俺の任務はよ、テメェの捕獲の方なんだよな」
それまでの弛緩したツラから一転、不気味に嗤いながら猪口はそう続けた。
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