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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-158.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(70)「本当、どーするか……」

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 アダンの生家、塩づくり職人の親方ソレル家で、たっぷりの海の幸を堪能した後は、この町一番の宿へ。
 一番、と言ってもまあそれはそれ。古くからある分全体にボロい。ある種のひなびた良さもあるけれど、豪華とかってな風じゃない。
 
 ただ、ここの主人のトニア・ペドロサも、グッドコーヴの有力者の一人で明日の会談の参加者であり、またこの宿自体が会談の会場でもある。
 ま、実際会談と言うよりはご挨拶周り、みたいなもんではあるんだよね。
 ……ただ、行く先々で何かしらトラブルが起きてて、結果的に結構な騒動にはなってるんだけども。
 
 なので、海の幸を楽しめるウチにがっつりと楽しんで、この後どんな揉め事問題が持ち込まれ、新たな奴隷商人やリカトリジオスのスパイと戦う事になっても良いように、英気を養っておくのだす! だすだすだす! なんてな! 大義名分ですがね!
 
 ……なーんてな気分で今度は夕食を頂きつつ、トニア・ペドロサらとの軽い歓談。
 
「グッドコーヴは初めて来ましたが、とても良い所ですね」
「なあに、魚と海しかねぇ、辺鄙な所だよ」
 よく日に焼けて笑いじわの入った目尻を下げてそう返すトニアだが、当然そこに卑屈な色はない。
 ザルコディナスの暴政時には衰退し省みられず、邪術士専横時代には旧王都と地理的に離れて居ることから直接の被害は少なく、前述の通りプレイゼス含めた山賊野盗、ならず者達とも戦い退けて、王都解放後もまた独立独歩を貫いている。
 
 それらの経緯もあってか、ここの住人には他の居留地に比べて屈託がない。
 ヴォルタス家との関係も強いが、かと言って完全な庇護下にあるというワケでもない。
 グッドコーヴの住人には、東地区やモロシタテムとはまた異なった形の自治意識があるようだ。
 
「グッドコーヴと市街地は、元々交易での結びつきが強いですから、今後もより有益な関係を強めていきたいですね」
 陸路で運べるのは主に塩、塩漬けの魚、そして魚醤くらいだけど、それでも有益ななものには違いない。特に塩はかなり重要だしね。
 
 と、そこでそう言えば、と思い出す。
 グッドコーヴでの課題は流通だけではない。ロジウス・ヴォルタスに突きつけられたクトリアの海防、また水軍の問題もあった。
 
 一応あの後色々と協議を重ね考えた構想としては、海防という点に関しての基本はヴォルタス家の武装商船団と契約する形で当面は行おうと思っている。
 いきなり大型船で海洋防衛のできる海軍を設立するというのは、やはりさすがに無理がありすぎるし、現実問題今の政治情勢では海防はさほど必要ではない。
 ただそれとは別に、カロド川を利用した河川防衛ラインを作るという意味での水軍は、独自のものを設立しようかと思っている。
 基本的には、小型の高速船での伝達、警戒任務と、中型の輸送船での迅速な進軍がメインで、どちらにもある程度の魔導船を配備したい。
 で、その魔導船の船体を作ってくれる船大工と、こちらで話をつけたいのだ。
 
 じゃあ今から船大工探しをするのかと言うと、いやいやそこまで僕も無計画じゃないよ~、というか、実は既に 船大工には目星をつけている。
 と言っても、これもモロシタテムのクルス家からのご紹介。
 クルス家現当主ラミン・クルスの従兄弟にあたるデルフィナ・クルスと言う女性が、こちらの船大工の家に嫁いでいるのだそうな。
 曰わく、職人らしく偏屈な所はあるが、腕は確かだとか。
 ダミオンもその人物とは一応小さな頃には会った事があるらしい。
 ただ、やはり偏屈故に時折折り合いが悪くなり、ここ数年は全く疎遠なままだという。
 
「ところで、レガラド氏は今どうしてます?」
 何気なくそうトニアへと話を振る。
 すると、やや驚いたかに身を見開いてから、気まずげな間が開いて、
「ああ……クルス家の方には連絡が行ってなかったのかい?」
 との言葉。
 
 え? 何々? と、僕と主にダミオン君が慌てるが、やはり不穏な言葉通りの不穏な話。
 
「レガラドの一家はねぇ、半年程前に死んじまったんだよ。嵐で、船が転覆しちまってね」
 
 □ ■ □
 
 デルフィナ・クルスさんが嫁いだのはトバイアス・レガラドと言う船大工で、その腕前はグッドコーヴ随一だったそうだ。
 以前は何人かの弟子も抱えていたらしいのだけど、やはり偏屈が原因で離れてゆき、ほとんどが居なくなってしたまった。
 ただ、セリノと言う名の息子が居て、いずれは後を継ぐだろうと思われていた。父親に似ず態度物腰も温和で腕もそう悪くない。
 
 そのセリノが始めて一から設計し造り上げた中型船を、彼ら家族三人で試乗していたところ、嵐に遭い難波。三人とも海の藻屑となった……と言うのだ。
 
 なんとも痛ましい話ではあるが、僕らにとってはそれ以上の問題がある。
 グッドコーヴの船大工の中で、魔導船の設計、造船の出来る船大工はトバイアスだけだったのだ。
 つまり、彼が死んだと言うことは、僕の「魔導船で水軍編成する計画」もあえなくご破算……となるハズだった。
 
「……だがね」
 
 と、トニアがそう言葉を続ける。
 
「そこで、1人船に乗らず生き残ったトバイアスの末娘のグウェンドリンが、ボバーシオへ向かったのさ」
「ボバーシオ?」
 
 ボバーシオは西カロド河を渡り、さらに北上した先にある港湾都市。
 かつてはクトリア王朝の属国だったという南方人ラハイシュの王国だが、邪術士専横時代に独立。その後内乱などがありつつもとりあえずは政情はそこそこ安定したが、今度はリカトリジオスの東征だ。
 確か、やはりその時期にはシーリオと言う町も落とされて、リカトリジオス軍はそこを拠点にしつつ、ボバーシオを包囲し未だ膠着状態で睨み合っている。
 クトリア側に都合のよい物言いをしてしまえば、彼らボバーシオが持ちこたえてくれればくれるだけ、リカトリジオスのクトリア侵攻が遅れ、防衛の準備が出来る。
 
「何故、ボバーシオに?」
「ボバーシオには姉のテーリと、トバイアスの弟子だったイスマエルが移住してるのさ。あそこも港湾都市で船大工の仕事はあるからね。王都解放から……そうさね、一年くらいのときかね。駆け落ちするみたいにして出て行っちまったよ」
 
 あらま。
 おそらくその頃は今よりもリカトリジオス軍の脅威は大きくなかった。治安はあまり良くなかったらしいが、都市の規模としてはあちらの方が遙かに発展している。魔導船を作れるだけの技術があれば、十分やっていけるだろう。
 
「しかし、半年前ならばリカトリジオスはシーリオを攻め落とし、ボバーシオにも攻め入ろうとしてた頃だったハズだ。いくら家族全員を亡くしたからとは言え、そんな町の姉を頼って移住するのはリスクがでかい」
 そのごもっともなイベンダーの疑問に、トニアは首を振って答える。
「違うのさ。あの娘は姉を頼ってボバーシオに行ったんじゃない。
 姉を助け出し、こっちに連れて帰ろうとしてたんだよ」
 
 わお。それはそれで……なんとも豪胆。
 
「待て待て、グウェンドリンって、あのグウェンだよな? 赤毛でそばかすの、癇癪持ちで口の悪い?」
 アダンがそこにそう割って入る。
「ああ、そうさ。鬼っ子グウェンさ」
「お知り合いで?」
「まあそりゃなこんなちっぽけな街でガキの頃から暮らしてりゃ、嫌でもお互い知り合いになるぜ。
 姉の方のテーリはなんつーか、ぼーっとしてるっつーか、のんびりしたっつーか、感情の動きは大きいけどもよ、全体としちゃあおしとやかっちゅーの? そんな感じなんだけどよ。
 だが、妹のそのグウェンは真逆だぜ。どっちも感情の起伏は大きいんだが、グウェンの方はとにかく短気で口が悪ぃ」
 アダンの人物評としては、なかなかの難物なようだ。
「けどあいつ……たしか俺の3、4年下で……今年15になるかならないか……だよな?」
 ほほう。アデリアと近い年齢なのか。
 それで、ここからボバーシオに? までなんて、ただ行くだけでも大変だ。と言うか、1人でいくのはまず無理だろう。
 
「どなたかと連れだって行ったのですか?」
 そう聞くと今度は深くため息をついてから続ける。
 
「騎馬に乗った流れ者と、そいつらを雇ってるかのような気取った帽子をかぶった変な男さ。だが……多分あの男は……」
 
「プレイゼスとカーングンスか」
 
 んん? トニアの言葉を引き取って、そう付け足すのはJB。
「……ああ、カーングンス……てのはあたしゃ良く分からないが、あの帽子男は、あたしの記憶が確かなら、今はプレイゼスとか名乗ってるならず者達の一人さね」
 
 ちょっと待ってドーユーコト?
 ……ってな顔してるのは、僕とアダンとダミオンと……う~ん、ちょっと待って、イベンダーとアーロフは……心当たりがあるって顔してません?
 
 □ ■ □
 
「あ~……スマン! ちょっとばたばたしてたもんで、報告するのを忘れてた」
 言葉上も態度も完全に平謝りのイベンダー。しかしどうにもこう……誠意というものを感じられない。
 
 用意された部屋へと戻り、その内一室での緊急会議。
 テーブルを囲んでいるのは基本的には僕、JB、イベンダー、そしてアーロフ。それ以外の面々は部屋の中か外かで一応の警護。
 
「……まあ、数日の遅れ程度で済んだから良かったですけどねぇ……」
 じろりとイベンダーにJBの2人を睨みつつそう嫌味を言う。
 いや、実際、「カーングンスの一部の若手が、プレイゼスのベニートらしきクトリア人に雇われ、カロド河より西……ボバーシオへ向かっていた」って言う、明らかに裏のある話が僕の方に上がって来てない……ってのは、かーなりの問題よ!?
 
 プレイゼスは現在、表向きは芸人、観劇、興行中心の「文化的な」ファミリーだが、その本質は元傭兵団のクランドロールよりも陰謀策略に長けたギャング集団。
 邪術士専横時代にノルドバ周辺を根城とし、群雄割拠していた様々なならず者集団たちを騙し、操り、相争わせつつ漁夫の利を得て巨大組織になった手腕を見ても、その恐ろしさは良く分かる。
 いや、今この場合においては、恐ろしいと言うよりかは、何か厄介な揉め事を持ってきそう……と言うところか。
 
「よそ者に雇われでったっつう半端者は、恐らぐマクマドゥルの連中だな。あいづらは何がどむぢゃしたがる」
 
 雇われカーングンスの事を、そう補足するアーロフ。
「お知り合いですか?」
「知り合いど言うなら知り合いだ。ガキの頃がらみぢっちゃいるが、まあ、手の付げられン悪ガキだった。ジャミーに妙なぢょっかい出してばがしいだがら何度もぶっくらしってやってだ」
 あらま。族長の娘に手出しするとはそりゃかなりの悪童。と言うか大丈夫なのか? 族長の娘とは言え、子供時分のもめ事にはあまり大人が介入しないのがカーングンス流なのかな? ああ、ウチ……闇の森ダークエルフもまあそうか。まあ子供同士の揉め事を、平等公平にではなく、親の権力で解決しようとするとろくなことはないからね。
 
「だが、あいづはあいづで何気に求心力があってな。アリークどは馬の合わねえような悪だれ共まどめでだ。特に、マーゴ同様の“新入り”やその子供らな」
 
 クトリア人とのハーフで、幼少期には育ての親のカサーダとモロシタテム近郊で過ごしていたというマーゴがそうであるように、カーングンスの面白いところは、強固でかつ、クトリア近郊の中では特異な文化の部族社会を形成しつつも、“血の試練”さえ通過すればよそ者でも受け入れるというところにある。
 この辺、聞いた話では決して昔からの伝統的なものでもないらしい。“血の試練”に類するものは昔からあるけれども、それによりクトリア人や南方人ラハイシュなども受け入れるというのはこちらに来てから。
 思うにうちの母ナナイの影響で、闇の森ダークエルフの稀人信仰に近い風習を取り入れたのかもしれない。
   
「……彼らの目的は何なんでしょうね」
 ダミオンのその疑問はごもっとも。だがそれにも、
「さあでなあ。話じゃいづの間にが居なぐなってだ、てどごろだがらな。誰にも分がらん」
 としか回答はない。
「なあ、マーゴ!」
 そこで、アーロフが後ろに立つマーゴへとそう話しかけると、マーゴは妙に慌てた様子で、
「オ、オレに聞がれでも、わ、分がらん!」
 と返す。
 アーロフのややニヤついた感じからは、過去に何かあったみたいだが……、
「マクマドゥルにづいぢゃ、俺よりマーゴの方が詳しい。ガキの頃にはよぐ後ろについで連んでがらな」
「そ、そーたのは昔の話だ!」
 やはりそう変に慌てて返すマーゴ。
 
「考えるべきは、そのマクマドゥルとやらの思惑じゃなく、プレイゼスのベニートの方だな」
 そうキッパリ言うのはイベンダー。確かにその通りなんだけども、そのベニート氏に関する情報が僕にはほとんどない。
 
「基本的にはパコ情報だが、ベニートはなんと言うかある種の二面性のある男らしい。策謀陰謀に長け、裏でこそこそ何かを画策するのも得意だが、同時に腕っ節一つ、力技で物事を動かしてやろうとする蛮勇も持っている」
 
「ああ、そう言えばその……多分ベニートどやらなんだっぺが、マクマドゥルが雇われで居なぐなる前に、奴らがよそ者相手に勝手に“血の試練”をして、相手の男がそれ達成した……とがなんとが聞いだな」
「お、おいおい、マジかよ!? あの“血の試練”を……そ、その、プレイゼスのボスが……!?」
「嘘だろ!?」
 
 アーロフの言葉に、JBとアダンが揃って驚きの声を上げる。
 アダンがボロボロのよれよれになりつつ、なんとかそれを達成したのは記憶に新しいが、そのとんでもない体育会系の極みとも言える“血の試練”は、はっきり言って僕なら最初の一人で泣き出してる。
 
「アダン殿のは別格だ。あーたにいっぺんに受げで達成するんのはそうは居ねえ。
 だが、何にせよそいづも、時間はがげでだが“血の試練”は達成はしている。それで、マクマドゥルだぢども意気投合したんだっぺ」
 
 陰謀策略と芸能興業のプレイゼスのボスながら、意外にタフガイで武闘派な面も持つベニート。その彼が単独でカーングンス野営地まで訪れて、悪たれはみ出し者達を雇い入れて西へ向かう。
 カロド河を渡るのにグッドコーヴで船を雇い、それを請けたのが家族が死んだはかりのグウェンドリンで、どうやらその目的は、彼らに同行しボバーシオにまで行って、かつて駆け落ち同然に町を去った姉、テーリを連れ戻すことだったらしいが……。
 それはグウェンドリンの目的であって、ベニートの目的ではない。
 
 その当時のボバーシオは、リカトリジオスの包囲に遭い戦争状態になり始めていた。内部に入るのにも難儀しただろう。
 その上、身内のプレイゼスではなく、全く縁もゆかりもないカーングンスの若手を手勢として雇っている。
 具体的なことはまるで分からないし推測でしかないのだけれども……。
 
「目的は“ジャックの息子”には知られたくないこと……」
「でしょうね……」
 同じ結論になるイベンダーと僕は、顔を合わせてうなだれる。
 
 僕がまだダンジョンバトルなんぞをして、ここがクトリアだとも分からずに居た頃、貴族街ではちょっとした政治闘争が行われていたと言う。
 その内容は、頭部がやや寂しい赤ら顔の人のよさそうなおじさんに見えるクーロ氏が、クランドロールの前ボス、サルグランデ氏と腹心のハーフオーク“鉄槌頭”ネロス氏他数名を“粛正”したと言うもの。
 理由は“ジャックの息子”への叛乱を画策したこと。
 あのドゥカム師の助手だったらしい魔導技師を雇って、“ジャックの息子”のドワーベンガーディアンを改修、改造し自分達の兵力に仕立て上げての協定破り、いわばクーデターを目論見、クトリア支配者となろうと画策していたというのだ。
 その陰謀策謀を成り行きで暴き、防いだ事になるJBから聞くその顛末は、正直かなりずさんで、例えそこで発覚しなかったとしても成功したとはとても思えない計画。まあ特に、“ジャックの息子”の正体を知ってしまった今としてはなおさらだ。
 
 何にせよ、それらのことも含めて、このプレイゼスのボス、ベニートの動きに関しては、
 
「……少なくとも、ろくなことじゃないのだけは確かだろうな」
 と、JB。僕も同感。
 
「で、それを踏まえて、じゃあどうするか? だな」
 
 相変わらずの前向きなイベンダーの提言。
 ただ今回の「どうするか?」は、プレイゼスのボス、ベニートの件と、グッドコーヴの船大工の確保、と言う二つの問題を同時に行わなければならない。
 
 本当、どーするか……。
 
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