遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-179.J.B.(119)Back to C(クトリアへの帰還)

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「マジでテメー、どこ行ってやがったんだよコラ!?」
 睨みつけるプリニオに、その横でオロオロとするブレソル。
 そう言われた相手はと言うと、全く素知らぬ顔で呑気なもの。
「知らんニャー。お前らが勝手に迷子になっただけだニャー」
 なんぞと言ってのける。
 
 そいつがいったい誰かと言うと、ヤマーやプリニオ達を誘い……誑かして、ボバーシオくんだりまでの船こぎ役をやらせた、白い毛の女猫獣人バルーティだ。
 こちらに着いてからは一切姿を見せなかったと言うこの女猫獣人バルーティは、イスマエル等とのクトリア行きの船の中にこっそりちゃっかり乗り込んで、船倉の中で居眠りしていたのを発見された。
 
 俺は、と言うと、昨夜レイシルドの策に協力するためシーリオ方面まで行き、上空からの偵察で作戦に寄与し、また隠密としてシーリオに潜入していたスナフスリー他二名の脱出を助けて、さらにはリカトリジオスの食屍鬼グール兵との戦いをしてから、の、ボバーシオへの帰還の後、少しばかりレイシルドらと話し合ってから即、既にクトリア行きの船出をしていたイスマエルの船を追って夜明け前になんとか到着、少しの仮眠後の午前中にこの騒ぎ、だ。
 
 帆柱にぶら下がりつつ、下からやいやいと文句を言うプリニオ達をあしらう白い毛の女猫獣人バルーティは、なんとも軽やかで優雅な動きだ。ぱっと見だが、かなり鍛えられた身体をしているようだ。
 
「なあアンタ、結局の所アンタの目的って何だったんだ?」
 降りて来いの何のと騒がしいプリニオ達の話をそらす意味もあって、俺がそう問い掛けると、
「ンフー? マーには密命があったニャー。そしてそれはもう叶ったのだナーモ?」
 とかなんとか。
 何だそりゃ? と考えていると、ビッ、と指差す先にはベニートの姿。

「パコちーが待ってるニャー。ベニートはマーが連れて帰るのダーナーモー」
「……糞、面倒くせぇの寄越しやがって……」
 くるくるとマストにぶら下がり回転してから、まるで器械体操の選手みてーに跳んでから着地、ベニートの背後にピタリ寄り添う女猫獣人バルーティに、その横で笑うデーニス。
「はは、白猫が来たなら、もう逃げ場はねぇな、オッサン!」
 とまあ、そんな事を言う。
 
「知ってんのか?」
「何度かな。こいつはまぁ流しの踊り子として旅をしてるらしいんだが、クトリアに来た時にはプレイゼスで働いてる。だがまあ、戦士としても一流で、時にはこういう仕事も受ける」
「こういう?」
「いつまでも遊び歩いてるボスのベニートを連れ戻せ……ってな」
 つまり……この白猫っていう女猫獣人バルーティの方は、パコの方から依頼を受けて、ボバーシオまでベニートを探しに来た……て事なのか?
 
「……いや、ちょっと待て。まあ確かに依頼したのはパコで、こっちまで来た理由もそうなのかもしれねぇが……実際にベニートを見つけて救出したなぁ、俺達とデーニスだぜ?」
 実際どさくさに紛れて船に同乗してはいるが、この白猫ってやつは、ベニート救出には一切何も関わっちゃいねえ。
「ンフー? 知らないニャー。マーはただパコちーのところまでベニベニを連れてけば良いだけニャー。過程はどーでも良いのだナーも!」
 
 こっちまで来るときは、ヤマーやプリニオ等を上手く利用して足代わりにし、依頼の中の一番重要な、「ベニートを見つけてくる」てな部分はある意味全部丸投げ。意図してたのかどうかは別として、人の成果にタダ乗りしてるようなもんだ。
 
 なるほどな。何にせよ随分と、“いい性格”をしているようだ。
 
「糞、テメー、ふざけんなよ! それじゃあ俺ら、テメーのその仕事の為に、ただ働きどころか死ぬよーな目にあったって事じゃねーかよ!?」
 がなるプリニオに、
「ンフー? ソーなの~? デモ、死ななくて良かったニャー?」
 と、素知らぬ顔。
「……のや、ろぉ~~!!!」
 今にも掴みかからんとするプリニオを、しがみついて止めるブレソル。だが、
「じゃあそのお祝いに、パコちーに言ってマーの踊りをタダで観に来れるようしておくニャー」
 との言葉にプリニオ達の態度が一変。
「な、何ぃ!?」
「プレイゼスに……無料ご招待……?」
 プレイゼスの劇場には、本来なら連中の稼ぎじゃあそうそう行くこともできない。下の小舞台ならある程度の入場料だけでも好きに観劇できるが、中舞台や大舞台のそれは話が別。
 
「お、おい、本当か!?」
「いや待て、コイツの口約束じゃ信用出来ねぇ!」
「と言うか、そもそも……どうなんですかい、ベニートの旦那!?」
 そう、パコがどーの以前に、ここにはプレイゼスのボスのベニートが居る。
 だがその当のベニートは、
「知ぃらねぇーよ。金周りの取りまとめはパコの担当だぁ」
 と、まるで取り合わない。
 まあ、パコは確かに金周りに渋いところはあるが、同時に見栄っ張りのところもある。実質、ベニートの帰還に手を貸した形になるコイツらに、ちょっとした便宜を図るくらいはやるだろう。
 
 □ ■ □
 
 イスマエルの改修したこの魔導船は、以前にアデリア達と乗った小型の魔導船とはやや構造が違う。
 あれは動力を完全に魔導機構に頼って居る。そのため、その魔導機構の動力源にトラブルがあればどうにもならなくなっちまう。
 これは船自体の大きさもあるのも関係するだろうが、マスト、オール、魔導機構の全てがあり、風があるときはマストで帆船のように移動し、風が凪いだら魔導機構、それも使えなくなればオールで無理やり動かせる。勿論、普段はオールで普通に移動出来るだけの漕ぎ手を乗船させたりはしないので、それは完全に最後の手段だ。
 
 これは元々、ボバーシオで軍船として利用されていたこととも関係する。軍船である以上、いつ魔導機構が損傷するか分からない。なので、あくまで魔導機構はいざという時の保険で、普段は半ガレー船の帆船として運用するのだそうだ。
 
 確かにこの話は理にかなっている。実際、アデリアが乗ってたヴォルタス家の小型魔導船も、動力として使っていた魔晶石の濁りによって制御力を失い、中州へと乗り上げる事故が起きたんだからな。
 イスマエルが魔導船の軍船としての運用に詳しい、と言うのは、想定外だが有り難い話だ。
 
 その魔導船による帰還の旅は、時間にすればほんの半日。流れに逆らい川を遡上し、急流に荒れた岩の隙間を通り抜けるような難所のあるこのルートは、確かに魔導船でないと難しいだろう。
 西カロド川へと合流してからはそのまま南下。魔力汚染されたアルゴードの渡し場とレフレクトルから距離を取ってウェスカトリ湾へ出ると、東のグッドコーヴへ。
 
 イスマエル達とはここで一旦別れる。まずはグッドコーヴでの生活を立て直し、工房を再建しなきゃならないし、何にせよもう少し落ち着いてから改めて議会からの召集に応じる、とのこと。
 
 残りは陸路。ノルドバで一泊し、翌日にはクトリア市街地へ。
 ヤマー達は当然、“大熊”ヤレッドからの大説教。同じくプリニオはブルからのど説教。ブレソルは遺跡調査団預かりだから、この中じゃあマシな説教だな。団長ポジションのマーランは、あんまりそう言うのに向いてねぇ。
 
 ベニートはデーニスと女猫獣人バルーティのマーに連れられて、まさしく首輪に鈴の付けられた猫みたいに大人しくプレイゼスの大劇場へ。いずれまた議会に呼ばれて色々聞かれる事になる。
 マクマドゥル達雇われていたカーングンスは、とりあえず“妖術士の塔”の中のカーングンス外交官アーロフの部屋へとまとめて押し付ける。奴らも奴らなりに色々話すこともあるだろうしな。
 
 で、まあ、ボバーシオに居残ったボーノとスナフスリーを除いた最後の一人、つまりは俺は、“妖術士の塔”上階、レイフの執務室へと上がって、諸々全てを報告する事になる。
 
 □ ■ □
 
「───てなトコだ」
 紆余曲折、悲喜交々……はちと違うが、とにかくまあ、色んなことのあったボバーシオ探訪の一通りを報告する。
 聞いてるレイフも、普段からはそう表情豊かってなタイプじゃあないものの、かなりの驚きに困惑に、と百面相だ。
 
 ふぅ、との深いため息から、ゆったりとした間。執務室で報告を受けているのは、レイフと外交官のデュアンに護衛のエヴリンド。エヴリンドはいつも通りまるで無表情で、デュアンはやや食いつき気味に興奮している。
 
食屍鬼グールを操る魔導具ですか……あいやいや、それはそれはまた……!」
「え、何? デュアン、死霊術士に鞍替えするの?」
「な……は、何を言うんですか、そんなワケないでしょうに!?
 ですが、食屍鬼グールを、ですよ!? そりゃ、興味はありますよ!?」
 
 なんだか妙なもめ事になってきたな。
 
「なあ、確か魔術師協会じゃあ死霊術ってな禁呪、邪術の類なんだよな? そこら辺、ダークエルフ的にはどうなんだ?」
 なんとなく、そんな事を聞いてみる。
 
「あー……それは」
「微妙な話、ですねぇ~」
「微妙?」
 
 そこでレイフとデュアンは顔を見合わせて、少しの間。それからレイフが言葉を選ぶようにして話し出す。
 
「この辺りはご存知でしょうが、死霊術の多くはいわゆる闇属性の魔法になります。そのため当然、我々ダークエルフも死霊術には親和性が高い。
 世間一般の……まあつまり人間たちの多くは、死霊術と言うとそれこそ動く死体アンデッドを操り人々を襲う術、と認識して居ますが、死霊術は必ずしもそういったものばかりではありません。その代表的なのは、いわゆる降霊術です」
 
「あー、あの、ウイジャ板とか使うヤツか」
「はい、それです」
「ウイジャ板?」
 と、最後の小さな疑問の声はデュアンのもの。ついうっかりと、前世知識が口をついて出ちまった。
 
「何らかの形で死者の霊を呼び出し、彼らと意思疎通をする。または、霊を取り憑かせてその力を得る」
 前者の降霊術については、まあ前世でもそれができると主張する連中はいたぐらいには知っている。だが、後者の「霊を取り憑かれてせて力を得る」というものに関しては……よくわからねぇな。
「例えば……人狼。あれもその一種です」
「ウェアウルフが?」
「はい。まあ、あれは死者の霊というよりもある種の祖霊……トーテムとしての狼なんですが、この次元に肉体を持って存在しない高次の霊的存在の力を得るという意味では似たようなものです」
「悪魔憑きとかと同じことか?」
「ある意味では近いです。どちらが主導権を握るかによってあり方が変わってしまうものですから、あれは最悪な形で主導権を奪われ乗っ取られた状態と言えるでしょう」
 力だけ得られて自分の意志を保ち続ければこっちの勝ちだが、こっちの意識まで抑えられ主導権を奪われ、肉体そのものを乗っ取られてしまえば負け……てなことだな。
 そう言やガンボンの奴は今頃元気にやってるのかね。
 
「我々ダークエルフの中では、死者の霊、つまり人格は当然として、その肉体もまた神聖なものと見做します。これは古代トゥルーエルフの文化の名残で、彼ら古代トゥルーエルフは、死者もまた、一度肉体を離れた後再びその肉体に戻ってきて復活するという信仰がありました。なので彼らは遺体を埋葬する時に様々な方法を使い、その生前の姿そのものの状態で保存しようとしてきました。
 そこは我々ダークエルフとは違います。
 我々ダークエルフは死者の肉体は火葬してから埋葬します。死後の復活というのはあくまで霊的なものであり、生前の肉体に再び戻ってくるのではない……という思想です。ですから、古代トゥルーエルフやハイエルフに比べれば、肉体そのものはあまり重視されません。
 けれども、だからって、やはり死後に肉体を操る……というのは、故人の尊厳を傷つけるものとの認識は変わりません」
 同じエルフと言えども、死生観は多々あるもんだな。
 
「アレは良いのか? あの、召喚する白骨兵ってのは」
「あれは、基本的には死者、死体そのものを操っているのではなく、霊的なエネルギーを利用して、新たな白骨状の肉体を作り出し使役するので、死霊術の一種ですが、厳密にはゴーレム兵に近いものですね。
 土の魔力を利用して土や石のゴーレムを作るのに近い」
「なるほど。ありゃあ、死者の肉体や魂とは直接は無関係なのか」
「はい。ですが、聖光教会はそれもまた邪術としてます。
 死霊術への厳しさを段階的に言えば、司祭による降霊以外を禁呪としているのが聖光教会。
 死者の肉体や魂を支配、使役し、また人間やエルフなどヒューマノイドを生け贄とする、素体とするような死霊術を禁じているのが魔術師協会。
 近しい死者達の魂や肉体を利用する死霊術を禁忌と見做し、なるべく使わないのがダークエルフ……というところです」
 なるほどな、これはこれで分かり易い。
「近しい者達、てことは、つまり敵とかならアリ……てことか」
「……まあ、そうですね。また、罪人への罰として使われる事もあります」
「あー。そういや、ブードゥーのゾンビも元々はそういうもんなんだっけか」
「ですね」
 
 と、様々な文化圏での死霊術の扱いについての基礎講座は一通り。
 だがもう一つ、さっきのレイフとデュアンのやりとりの中で気になったことがある。
 
「───で、その中で、食屍鬼グールの使役ってのは、何がどう特別なんだ?」
 
 デュアンがもっとも食い付いた部分がそこだ。
 
食屍鬼グールは邪神の呪い、と言う話は以前しましたよね?」
「ああ」
「つまり、白骨兵や普通の動く死体アンデッドと違って、食屍鬼グールはそもそもが邪神グィビルフオグの支配下にある……と言う事です」
「うん、ああ、そうか」
食屍鬼グールを操る、というのは、つまりは邪神からその支配権を奪う、または借り受けられる……という事です」
「ああ~……」
 そうか、と、そこでようやくピンとくる。
 
 死霊術士が一般的に使う【死者の使役】は、死者の肉体に魔力で仮初めの生命を与えて、奴隷として使役する。
 対“鉄塊”のネフィルのときにマヌサアルバ会がやったのもそれだ。
 だが、食屍鬼グールはそれらとは違って、元々邪神の呪いによって死後その肉体に魂が閉じ込められ、奴隷にされたのだ……と言う。
 食屍鬼グールを支配、使役すると言うのは、その呪いごと支配することになる。
 忌まわしさとしても、術の難しさとしても、かなりのもの……と言うことなのだろう。
 
 その高度な魔術をリカトリジオスが成し遂げた……いや、そこは違うのか?
 そうだ、ベニートは「6人のシャーイダールの仮面」を追い求めてあちらへ向かった。
 リカトリジオスは廃都アンディルを根城としていた死霊術士の成果だけを手に入れた。
 その死霊術士こそが、ベニートの求めていた「6人のシャーイダールの1人」……。
 その可能性は高い。
 
「その辺含めて、改めて色々情報を整理しなきゃあなあ……」
 
 □ ■ □
 
 情報の整理ってなぁまあ、対リカトリジオスだけの話じゃあねぇ。
 俺にとってのごく個人的なことに関してもそうだ。
 イスマエル等と共にボバーシオからクトリアへと来た中には、イスマエルの工房で働いていた船大工達もいるし、類縁関係者含めた諸々の“難民”も居る。
 シーリオやボバーシオからも、またその周辺地域からも、数多くの難民が、カロド河を渡りクトリアまで来ては居るが、長年マトモな交流もなく、また渡河するにも危険の多いクトリア行きには不安もある。
 イスマエルのクトリア行きは、そう言う意味じゃあかなり「安全な」脱出行になる。
 もちろん、戦時下に市民が大量流出することをボバーシオの有力者たちは避けたい。 貧民の類がいなくなること自体はそれほど打撃ではないが、市民兵として徴兵できる若い男や、有能な技術者などは逃がそうとはしない。なので戦時特例法でそれらは禁止されている。今回のイスマエルの件は、俺の働きやレイシルド等の働きかけもあっての例外的措置だ。
 
 そこへ同乗した中に、貧民窟に居たある人物の関係者がいる。
 誰か? ベニート達が情報を追う中で、何度か出入りしていた呪術師の類縁達だ。
 ボバーシオの有力者達からは、政治的にも戦略的にも重要視されていない貧民窟への流れ者ではあったが、ベニートはシャーイダールの仮面を追う中の情報源として利用し、また、マクマドゥルは、“白き砂岩”ジュマ・チャーウェの入れ墨魔法を部分的にだが入れて貰っていた。
 
 つまり、この呪術師こそが、俺たち砂漠の南方人ラハイシュ達の村々を渡り歩き、成人に向けて各部族の守り神の入れ墨魔法を入れていた呪術師の1人なのだ。
 
 個人的な理由から、俺はその呪術師に話を聞きに行き、情報を貰うのと引き換えにその類縁達のクトリアでの生活を保障する約束をした。
 彼らには今は仮住まいとして遺跡調査団の宿舎の空き部屋を使って貰って居るが、後で別の住居を手配する予定だ。
 
 で、その個人的な情報ってのが何かと言えば、もちろん俺以外の村の生き残りに関することだ。
 スナフスリーからの曖昧な目撃情報。奴によれば、「もし生きていれば、こっちの方に来ているかもしれない」とのことだったが、その曖昧な「こっちの方」には、ボバーシオ近辺も含まれるかもしれねぇ。
 
 薄い線ではあるが、何かしら情報はねえかと聞いてみたところ、得られたのは全く予想外の話。
 
「…… 女に、“シジュメルの加護”の入れ墨を入れた?」
「そうだ、と言ってる」
 かなり年食って歯もほとんど抜けちまった呪術師のじいさんの言葉は、ふにゃふにゃもごもごして俺には全く聞き取れなかった。
 弟子と称する男の南方人ラハイシュの“通訳”込みで聞けたその話は、簡単にまとめるとこうだ。
 
 七年ほど前に、一人の背の高い南方人ラハイシュの女がやって来て、自分はシジュメルを祭る部族の生き残りで、村の他の者達はリカトリジオスに殺されるか連れ去られるかしてしまった。村の仲間を助け出す為に、“シジュメルの加護”の入れ墨を入れてくれ、と。
 
 “シジュメルの加護”の入れ墨は、本来村の男子が十年かけて入れるもの。
 ゆっくりと体に馴染ませつつ、魔力循環を鍛えながら入れなければどんな弊害が出るか分からないし、当然女に入れるということもされてなかった。
 最初は当然断ったが、熱心な懇願に根負けし、本来なら10年かけて入れる加護の入れ墨を半年で入れたと言う。
 その女がその後どこに行ったかについては呪術師は知らなかった。だが、そういう女がいたということだけはどうやら事実のようだ。
 
 そこに……すでに入手していた二つのリストがある。
 “聖人”ビエイム、そしてノルドバのヒメナ婆さんの残していたそれぞれの販売リストだ。
 その中にあった、「入れ墨の南方人ラハイシュの女」の記述は、“聖人”ビエイムの右腕、金や奴隷売買の差配をしていたダルモスのもの。
 
 スナフスリーから俺のとよく似た入れ墨をした南方人ラハイシュについて聞いたときは、俺は当たり前に男の生き残りだと思い込んだ。“シジュメルの加護”の入れ墨は、村の男がするものだったからだ。
 だから、最初にダルモスのこの奴隷売買リストを見たときに「入れ墨の南方人ラハイシュの女」の記述を確認しても、それが村の生き残りの一人だなんて可能性は全く考えはしなかった。
 だが、今は違う。
 呪術師に聞いたその背の高い女南方人ラハイシュが、スナフスリーの言うよく似た入れ墨の南方人ラハイシュ……俺の村の生き残りの可能性は、十分にある。
 そしてその売られた先は、やはり“炎の料理人”フランマ・クーク。人を焼き殺しちゃあ、その肉を食らうゲテモノ魔人ディモニウム。既に“討伐”されたその男が、一部の奴隷を東周り経由で売っていたと言う先が、辺境四卿の1人、最も残忍だと言われている“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ。
 全く、やたらと俺たちにまとわりついてくる、嫌な名前だぜ。
 
 
 
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