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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-180.追放者のオーク、ガンボン(68)「なんともむさ苦しい編成」
しおりを挟む「起きろ」
枕代わりの丸太を棍棒でガコンガコンとぶっ叩かれ、その衝撃とともに起こされる。
朝だ。でもまだほの暗い程度の朝。
眠い。と言うか寝たい。と言うか起きたくない。起きたくないけど起きなきゃならない。
「起きろと言ってる」
今度は直の蹴り。けっこう重い。もはや寝たふりなど出来るハズもなく、残念ながら起きねばならない。ガチでリアルに、だ。
俺はじゃらりと重い手鎖のつけられた腕で上体を支えながら起こし、寝藁とボロ布に包まれた安寧なる眠りから意識を引き剥がす。
あ~~~、いかん、まだ眠い……。
最後の蹴りは、側頭部へとクリーンヒット。
「寝るな」
“看守”、或いは“獄卒”の、冷酷かつ冷徹なその声に、むしろ今の蹴りで意識を失うわい、と心の中で突っ込みつつ、なんとか体と意識を起こす。
格子のある小さな窓からの朝の光。聞こえるのは小鳥のさえずりではなく、苦悶と嗚咽に満ちた唸りにざわめき。
牢獄……と言うのにふさわしい石壁の半地下の住人である俺は、手鎖のままそこを出て、列に並び、水をかけられてそのまま顔と身体を洗い流し、食堂とは名ばかりの広い中庭で自前の木碗を手にして豆のスープを注いでもらうと、並べられた椅子代わり、机代わりの不細工な木組みへと座り、もさもさずるずると啜る。
啜りながら、何度目か分からないくらいにまた、同じことを自問する。
何故、こうなった?
◆ ◆ ◆
遡ること数ヶ月。
クトリア共和国が建国される運びとなり、あちらでの暮らしも一段落。
俺はそれ以前からの計画通りに、疾風戦団の仲間と合流して、“戦乙女”クリスティナと、“チーフスカウト”サッドの捜索への準備を進めていた。
疾風戦団では戦団員が行方不明になった場合、基本的には必ずその消息を探し、場合によっては遺体を持ち帰りきちんと埋葬する。
これは、言い換えれば無責任に依頼を受け、下手な鉄砲数打ちゃ当たるとばかりに人員を送り込む、と言うやり方はしない、と言う事でもあるし、戦団全体でバックアップをする、と言う事でもある。
ただやはり状況的に途中で断念する、と言う事もある。
山で遭難した登山者を捜索するのに、二次災害の可能性が高ければ途中でも捜索が中止になるのと同じだ。
今回。
実のところ結構、微妙ではある。
まずは闇の森での対闇の主討伐戦の最中での事故。その後の捜索の際の二次被害。この時点でも、今後の捜索が中止になる可能性は十分あった。それが続いたのは、闇の森ダークエルフのケルアディード郷との協力体制が作れたのと、遺跡にあった転送門から移動した事がほぼ確実で、その先の探索を続ければ見つけるのは可能だろうと、団長以下副長達が判断したからだ。
んが。
箱を開けば、今度は俺とレイフが誤って転送門から先に移動し、しかも転送門は壊れて戻れなくなる。二次被害どころか三次被害。なんとも不吉極まりない。
この時点で、これはちょっとおかしいぞ、と考えた者たちも少なくない。ちょっとあまりにも二次被害、三次被害と、立て続けに起こりすぎている。まるで何か魔にでも魅入られたかのようだ……と。
こういうの、結構気にする人は気にするものだ。
ただ、ケルアディード郷と協力する、との話からも、ここで即座に探索断念とはできない。面子的なものもあるし、レイフを探す気満々だったナナイの横で、自分達だけ「イモを引く」ワケにはいかない、ともなる。
まあ程なくレイフの手紙鳩で生存は確認されたし、最後のザルコディナス三世との戦いは想定外にしても、ダンジョンバトルをクリアすれば脱出、帰還は叶うだろうとの道筋も見え、さらには俺がセンティドゥ廃城塞でイベンダー……つまりは疾風戦団のタルボットとも再会した事から、クリスティナもまた一度はクトリアに来ていただろう事までは判明した、と。
でまあ、そこからどうなったか……の、ところが、また厄介な話になったワケだ。
“炎の料理人”フランマ・クーク。
俺はこんがりと焼けたそのご遺体としか対面したことはないのだけれども、話を聞くにとてつもなく残忍かつ恐ろしい魔人だったらしい。
そのフランマ・クークが、奴隷取引の相手としていた者の一人が、辺境四卿の“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ。
この人もまぁ、とにかく恐ろしい評判ばかりの人だ。
あくまで噂ながらも、の但し書き付きでの話をすれば、策略知謀に長け卑劣残忍の誹りを恐れることない女傑であり、“何故か”全ての兄弟姉妹が“不幸にも”亡くなったことで今の地位を得たのだ……とか。
その、おっとろしい“毒蛇”ヴェーナさんは、辺境四卿の中でも最も奴隷を多く使うのだと言う。奴隷所持数が業界ナンバーワン、である。
そしてその中に、“炎の料理人”フランマ・クークらクトリアの魔人が狩り集めた奴隷達も含まれて居る……と言うことになる。
なので、クリスティナもどうやらそちらへと売られて行ったのではないか……と。
イベンダー及び戦団の推論では、そうなったワケだ。
これで、クリスティナの行方には目星はついた。けど、「遺跡のどこかに居るのでは?」のときよりも、こう……ミッションとしての難易度は各段に上がる。
“毒蛇”ヴェーナ領は前述の通りに奴隷の数が多く、また領民に対しても苛烈で過酷な圧政を布いている。
つまり、領内へと入るだけでも一苦労だ。
さらにはもし本当に奴隷となっていたのなら、そこから奪還する……という話になる。そしてそれは、金で買い戻すのでもなければ、“毒蛇”ヴェーナ領においては違法行為、俺達側が犯罪者となってしまう。
疾風戦団は、まあもちろん基本的にはイケイケな強者集団である。とは言え、辺境四卿の1人にガチンコで喧嘩を売れるか……というと、まあ無理だよね~、とはなる。もっと規模のデカい傭兵団ならまだ可能かもしれないけど、疾風戦団は単純な兵力と言う意味ではそんなに規模は大きくも無いのだ。
真正面からガチンコでは行けないとなると、搦め手でやるしかない。
もちろん、“毒蛇”ヴェーナ領へ奴隷として売られた……と言うのはあくまで「高い可能性」の段階。実際に現地へ行って調べてみたら、全然違いました~、と言う可能性もある。
つまり、まずは“毒蛇”ヴェーナ領へと少数精鋭で潜入し、目立たぬよう隠密に調査をして存在を確認。もし居たのならば、そこからどうにかして救出、そして脱出! ……てなのが、まあ理想的なプラン。
と、そこまでは、じっくりと話し合って団の方針として決定した。
問題はその少数精鋭での潜入メンバーだ。
前回、遺跡の転送門の先へと調査に行くという話のときには、俺、カイーラ、女ドワーフのナオミ、そしてイケメン魔法戦士のラシードの4人が選抜された。
俺、はまあ、俺自身の希望に、成り行きと諸々。カイーラはクリスティナ達が行方不明となった際の探索メンバーだったこともある。
ナオミは……と、女ドワーフであり古代ドワーフ遺跡に詳しく、また、所謂盗賊稼業、つまり罠の解除や鍵開けの熟練者であり、飛び道具の使い手でもある事から。スキル的にはイベンダーとサッド、そしてリタの合わせ技、みたいなタイプだ。
ラシードはと言うと、一つには戦士としての腕前もあるし、チームリーダーの出来る社交性に判断力から。
遺跡探索前提でのこのメンバーは、しかし今回はちょっと変わった。
と言うか、厳密には俺とラシードのみが残ったのだ。
◆ ◆ ◆
「さあさあさあさあ、寄ってってくんなぁ見てくんな! 牧歌的かつ素朴なる紳士淑女の皆々様方! これに見えるは世にも奇妙で奇っ怪な、数奇な運命高貴な生まれ、呪い呪われ振り振られ、はるか北に連なる高き山々、その頂に近き所、強大なオーク城塞よりの落とし子、樽オークだ!
樽オークとは一体何ぞ? そう疑問に思うならばまずはこちら。本来巨漢で怪力無双のオークながら、幼い頃から樽の中に住み着き、小さな体のままで成人した奇怪なオークのことだ! そして樽オークはさらに奇妙なことに……樽そのものを家としてそこに住み続けるのだ! その姿、とくとご覧あれ!」
口上を述べるのは顎髭に山高帽、派手な眼帯を右目につけた座長で、その合図を受け背の低い猫背の男がカーテン代わりの布をさっと引き下ろす。そこに現れたずんぐりむっくりした姿へと注がれる好奇の視線。そして広がるのは、広場に集まる群衆からのざわめきどよめきの声。
台の上の“樽オーク”は、まさにその言葉通りに身体をスッポリと大きめの樽の中に収めていて、両腕は開けられた穴から、両足は抜けた底から外に出している。
兜を被った頭のてっぺんには、さらには樽の蓋が紐でくくりつけられ乗せられていて、手足と頭を引っ込めれば、まさにヤドカリならぬ樽借りとでも言うかのような姿だ。
群衆のざわめきどよめきは、その滑稽な姿のちびオークの姿への大笑いに変わる。前世では樽の中に入った海賊の人形を、外から剣で突き刺して飛び出させるおもちゃがあったが、絵面的にはまったくそんな感じ。
その間抜けで滑稽な姿のオークとは一体誰か? 言うまでもない、もちろん俺だ。
合図に合わせて、俺はあっちへよたよた、こっちへのそのそ。それからころんとけつまづいては、ゴロゴロと樽のように転がって笑いをとる。
爆ワラ、だ。そりゃもう、老若男女おじいちゃんおばあちゃんから小さな子どもまで、集まった人々は見事に大笑い。
さすが、娯楽の少ない田舎の宿場町。こんな芸でもウケにウケる。はい、いつもより多めに転がっておりまーす!
さてそれからお次は、顔をすっぼりと布で巻いて隠した“闇の弓手”による短弓曲撃ち芸。くるりひらりとまるでアクロバットをするかに動き回りながらの的当てだ。
その次は背の低い猫背の髭男による綱渡りの軽業芸。
そして最後に、参加費用と賞金のある“樽オークとの腕相撲”大会。
じゃらりじゃらりと銅貨の山が積み重なる。
◆ ◆ ◆
旅芸人、山高帽一座に扮するのは、座長役にラシード・ベルモンド。“樽オーク”こと俺、ガンボン。
そして何故か道案内役の“猫背の軽業師”が、元シャーイダールの探索者の一員だったアリック氏に、曲撃ち芸人“闇の弓手”に扮する闇の森ダークエルフのレンジャー見習い、セロン。
なんともむさ苦しい編成で、今このヴェーナ領を旅している。
その一行は、こうして芸を見せつつ行く先々で噂に風聞と聞き集めている。今日ももちろん、昼の芸で集めた金を、夜には逆にばら撒きながら親交を深める。
「へぇ~、そいつは興味深い話だねぇ、兄さん」
「だべ? まあ、ここらじゃあ最近はそれもご無沙汰だがなぁ」
酒飲み話に与太話。宿場町の安宿一階。昼間の広場での見世物興行に続いての宿屋での軽い芸は、まずは眼帯座長の口上にリュート演奏から始まった。
それに合わせて、打楽器代わりにと樽を叩いて踊る愉快な“樽オーク”。
ひとしきり飲んで歌って騒いで踊り、そこから次は早食い競争に飲み比べ。
騒がしさも一段落してからは、座長を中心に噂話の検証だ。
「まあ、ゴブリンだ魔物だはまず見なくなったがよ、今は……あれだよ、なぁ」
「あぁ、あれな……」
宿場町では最重要情報でもあり治安に道中の安全。宿の客やら主やらから聞く話じゃあ、ここ何年もここらではほとんど魔物の害は無くなっているという。
もちろん、全く無いという事はないが、ほぼ、無い。
理由は……と聞くと、何より大きいのは、
「ヴェーナ公の護民兵団のお陰様だわなぁ」
と言う。
「へぇ~、そんなに強ぇのかい、その護民兵団とかってぇのは?」
ぐびりと煽った安ぶどう酒が、整えられた顎髭に色を付ける。
「強いのなんの……って言うかよ。まあそれより何より、やっぱヴェーナ公の采配だよなぁ」
「ほう、采配?」
「なんというかよ、こう、うまいところにうまくやって来るっ……と言うかよぉ」
「ゴブリン共が増え始めてわらわら森から出てくる時期になると、素早く駆けつけて先に退治しちまう」
「沼蛙とかに、岩鱗熊なんかもだな」
「デカい被害が出る前にやっつけちまうのよ」
「ほぉ~、そりゃあ賢いんだな」
「うん、まあ、そう言うこったろうなあ、うん」
「おう、そうだな! ヴェーナ公は聡明であらせられる!」
「“賢妃”ヴェロニカ・ヴェーナ公に乾杯!」
「乾杯!」
とまあ、この宿場町だけではなく、ここまでの道中、途上に寄った町や村での“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ公の評判は意外にも悪くない。
なんというか、独裁国家だと聞いて訪れた国で、いざその国の人々と接してみたら、意外に楽しく健やかな生活を送っていた……みたいな感じだ。
だかその健やかなる領民達を今悩ませているのが……、
「闇エルフ団……だよなぁ~」
と、言うのだ。
何それコワイ!
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