遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-205 J.B.(128)All Along The Watchtower(見張り塔からコンバンワ)

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「まあ、お前にはお前で頼みたいことも確かにあるが、別にプント・アテジオ攻めそのものに参加してもらわなくたって全然構いやしねぇぜ」
 ネミーラ達が戻ってから、“闇エルフ団”の首脳会議でサッドがそう明言する。
 
「お前さんはあくまでゲストだ。幾つかの情報、協力とで取り引きして、お互い目的達成したらトントン、だな」
 周りからの評判は切れ者、策士、てな事らしいが、正直どうにもそんな感じはしねぇサッドだが、まあ俺としちゃそう明言してもらえるのは助かるっちゃあ助かる。
 
「そもそもお前はよそ者だ。アリックの昔馴染みとは言え、重要な策など話せるものではない」
 そのややキツめな物言いの主はレナータと言う女で副頭目。ライオンの鬣みたいなやや癖のある薄茶の頭髪が印象的だが、奔放な髪型とは違い性格はけっこうお堅い。
 
「ああ、そうしてくれ。俺も不必要に内幕を知りすぎたかねぇしな」
 
 行った先々で色んな揉め事に巻き込まれてくってのは、もうここ最近の定番パターンと化してるが、クトリア近郊ならまだしも、旧帝国領、ヴェーナ領まで来てやらかすのは流石にやり過ぎだ。
 
「頭、あんたの言う事に異議を唱えるワケじゃないが、この若造に何をまかせるつもりなんだ?」
 継いで、マシェライオスと言う参謀であり一応は術士でもある男が言う。コイツも、横に控えてるブリジッタと言う無口な大女と共に古参の一人で、年齢も見た目なりにそこそこいってるらしい。
 
「あはは~、マシェライオス達は別任務に行ってたから見てないんだよね~。あーしはバッチリがっちり見てるからさ~」
 そこにヘラヘラと軽薄な口調で入ってくるのは、アリックと共に最初に俺と遭遇した狩人のベアルザッティ。
 
「へらへらするな、ベア」
「えへ~、でもお頭に報告したのはあーしだしー」
 マシェライオスは深く息を吐いてから頭を掻き、サッドへと改まる。
「その“報告”ってのが……今回の件に関係するのか?」
「ああ、そうだ。特にマシェライオス、お前にも具体的な策に関しての意見が欲しいから、まずじっくりしっかりとその目で確認してくれ」
 
 そう言って俺へと促すのは当然この“シジュメルの翼”の件。
 まあ当然のことだが、俺に求められてるのは“シジュメルの翼”を使った【飛行】の魔術とそれによる機動力。急襲、不意打ちに撤退の速度だ。
 毎度の基本性能御披露目からのスペック説明。今回初めてそれを見るのは、直前まで別任務で余所へ行っていて戻って来たばかりのマシェライオスにブリジッタ。
 
「こりゃ……古代ドワーフ遺物の魔装具か……」
 一応術士だけあり、そこそこその辺には詳しいマシェライオスは息を飲んで感嘆し、ブリジッタはただ呆然と口を開けている。
 
 マシェライオスは改まって腕組みをし、
「確かにお頭の言う通りだ。コイツがあれば、例のてっぺんの術具の方は簡単に弄れる」
 と言う。
 
 例の? てのは俺の知らん話。だがサッドもラシードもまさにその通りと言わんばがりの顔で、
「ああ。これで一手先に進められる」
 と宣う。
 
 あー……前言撤回。余計な事までは首つっこみたくはねぇが、その辺に関しちゃきっちり説明してくれ。
 
 ◇ ◆ ◇
 
 マシェライオスは術士としてはそこそこだが、実は賊上がりのわりにはきっちりとした魔術の知識がある。
 なんでも元々ヴェーナ領より東のマーヴ・ラウル領で活動していた“闇エルフ団”の中核メンバーには、先代ピエトロ・ラウルの頃には宮仕えしてた者やその類縁も少なくないらしい。
 マシェライオスもその一人で、先代辺境伯のピエトロ・ラウルに仕えていた精霊官、術士集団の一員の息子。本来ならその父の跡を継ぎ、精霊官として新たな辺境伯に仕え、東方防衛を担う要となっていたハズだと言う。
 
 そのマシェライオスが幼少の頃には東方シャヴィー人との戦いの真っ最中で、現在マーヴ・ラウル領とされる地域はその最前線。既にほとんどの地域は既に東方シャヴィー人の勢力下になっていた。
 ピエトロ・ラウルとその配下たちは、今のヴェーナ領まで後退し、それより北に位置する帝都を攻める東方シャヴィー軍への遊軍としてなんとか奮戦していた。
 
 その後、同盟として援軍を送ると言う偽りの謀略をもって“巨神の骨”から洗脳し配下とした巨人たちを率いたザルコディナス三世のクトリア軍がやってくる。クトリア巨人軍は彼らラウル軍、ヴェーナ軍の前を素通りして帝都に進軍。しかし東方シャヴィー軍との密約通りにティフツデイル帝都を攻撃し……まあ、大混乱から例の“滅びの七日間”が始まる。
 
 今、辺境四卿などと呼ばれてる者達の多くは、その当時辺境伯として軍権を司ってた辺境軍閥が母体だ。もちろん当然30年も経ってるから代替わりもしてる。“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ然り、“鼠”のマーヴ・ラウル然り、だ。
 
 が。恐ろしい噂の絶えない“毒蛇”ヴェーナと違い、“鼠”のマーヴ・ラウルの方はと言うと、はっきり言って小心小物、風采の上がらぬダメ貴族との評判。
 その分、周囲には奸臣佞臣がはびこり、マーヴ・ラウルの代になってからそれまでの配下は真っ二つに割れ、内部抗争から追い落とされて賊へと身をやつす羽目になったのが、つまりはマシェライオス達の派閥だった……と、そう言う事らしい。
 
 合間合間の雑談なんかでその辺の事情を諸々聞きはしたものの、実際この話、今これからやることには全く関係ない。
 関係があるとすれば、まあマシェライオスの動機と計略についてだ。
 マーヴ・ラウルはさっきも述べた通り小物だが、それを後押ししているのが“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ。マシェライオスは父や家族、仲間を殺された復讐心からもマーヴ・ラウルの打倒を誓っては居るが、その為には“毒蛇”ヴェーナをも倒さなきゃならない。と言うか、ヴェーナが居るからマーヴ打倒が捗らない、と。
 あるいは、打倒は難しくも、少なくともマーヴ・ラウルの支援なんかできないような状態にしなけりゃならない、と。
 
 もちろんこれは“闇エルフ団”自体の目的というのとはちょっと違う。確かに“闇エルフ団”それ自体は、元々はここより西のマーヴ・ラウル領山間部でひっそりと活動していた小さな山賊団で、マシェライオスもレナータもブリジッタもその頃からの古株面子。
 だが、それぞれ様々な背景や理由がありながらも集まった寄り合い所帯の中には、マシェライオス同様にマーヴ・ラウルへの反抗を考えていた者も居れば、ただ食うに困ってやって来た連中も居るし、もっとシンプルに好き勝手暴れてうまい飯を食い女を凌辱したいだけの奴らもいた。
 でまあ、その最後の連中を一掃して内部抗争の末現在の体制にした立役者がサッドで、だから新参ながらも古参連中からの信任も厚い頭目となれた……てなことらしいが、それはそれでまた余談であり別な話で、重要なのはマシェライオスの計略はこのプント・アテジオの魔法結界を上書きするという事にある、てなところ。
 そこに、マシェライオスが元々はラウル領で辺境伯の元精霊官として仕えるはずだった頃に学んだ様々な知識が関係する。
 
 マシェライオスはマーラン以上に破壊、攻撃などの直接的に敵を打ち倒すのに向いた魔術が苦手で、またハコブよりもさらに魔力適正が低い。知識や理論は学んでいるが、実際に魔術を使って戦うという場面になると初級の見習い程度の実力しか発揮できないのだそうだ。まあそれでも、使いようによっちゃあ山賊ごろつきの中じゃ頭一つ抜けた戦力にはなる。
 で、かと言って付呪師、魔導技師と言えるほどにはそちらの適性もない。子供の頃の予定通りに精霊官となってたとしても、まあ立場的には下級役人程度だったろう、と。
 だがそう言うタイプにも向いてる魔法もある。所謂儀式魔法ってやつもその一つ。
 術具や触媒を用意し、それを適切な運用方法で配置、使用し、長い詠唱やあるいは長時間の様々な儀式などを通じて、大掛かりな魔術を執り行うというやつだ。
 
 かつて“毒蛇”ヴェーナが、その当時自分に反目していたプント・アテジオの勢力を弱らせたのも、その儀式魔法を併用した毒に呪い。
 町全体をじわじわと弱らせるだとか、逆に守り、また繁栄させるような結界を構築するのも、そう言う儀式魔法になる。
 
 今、夜のプント・アテジオの一角、代官の館の最も高い塔のてっぺんで俺が眺めているのもその為の術具だ。
 この時のためにマシェライオスが準備し製作していたというそれは、魔晶石を核とした燭台のような形のもの。
 それを、既に尖塔の先に設置してあるそれより大きめの術具の上に指示通りにはめ込んで設置する。
 
 既に設置してあった方は、今現在プント・アテジオの守りを司る結界の術具だ。とは言え、大きさの割にそうたいそうな効果があるワケでもないらしい。だがそいつを利用し、重ねてマシェライオスの作った術具を設置することで、マシェライオスによる儀式魔法で上書きして利用する……てのが、連中の策の一部。
 何カ所かにあるそれら術具全てにその上書き用魔術具を設置をする予定で計画を進めて来ていたが、この代官の館の尖塔のてっぺんだけは、どうやって設置するのかがなかなか決められないで居た。
 まさに、俺の存在……厳密には、“シジュメルの翼”で空を飛べる者の存在は、マシェライオスにとっちゃ渡りに船。
 この時点で、ネミーラの付き添いに……あと予定外ながらも、そのネミーラへの王からの試練を手伝うと言う形での尻拭い役に、このプント・アテジオ攻略に向けての下準備、と、かなりデカいミッションをこなしている。いや、ひとつひとつのやったことそれ自体は、確かにそんなには大したことでも無ぇが、これをクリアできなければ先に進むのもうまくねぇっていう点じゃあ、かなり重要なミッションなのは確かな話。しかも、どちらも俺でなければまず不可能だったもんだしな。
 
 で、それらと引き換えに俺が得た情報、てのは、やはり司令官ヤコポも言っていた“漆黒の竜巻”について。
 
 曰わく、ほぼ素顔を隠すような黒革の兜を常に被り、やはり同じように黒い、防御性能よりは闘技場での見栄え優先の黒革の鎧、装束を身に付けている事の多い南方人ラハイシュで、長身ながら素早い動きに手数の突き、そして凄まじい破壊力の蹴りを得意とし、かつては闘技場で無敗を誇るチャンピオン。今は“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナの魔獣退治を専門とする部隊、“護民兵団”の中の奴隷戦士のみで構成される部隊の部隊長……。
 
 その“漆黒の竜巻”が、明けて翌日にはここ、プント・アテジオの闘技場へとやってくる。しかも、今現在ラシードの策でアバッティーノ商会所属の奴隷闘士として闘技場入りしているガンボンとの戦いの為に……てんだから、なんとも笑える話だ。
 
 その試合自体は既に話の付いた八百長試合で、ガンボンは盛り上げつつも負ける役を割り振られてる。その試合の盛り上がりを利用して裏で様々な工作に混乱を狙っているらしいが、その辺の詳細は知らされてない。
 ただ当日の俺の役回りは、機を見て“漆黒の竜巻”を連れ去ることだけ。
 それまでの間は、今も身に着けている“身隠しの外套”を上手く使いつつ、町の構造や逃走経路なんぞを確認しておく。下調べは何事に関しても重要だ。何かと行き当たりばったりになりがちな俺としちゃ、出来るときにゃしっかりやらんとな。
 
 今夜は何かあったとしても足がつかないよう、宿を取ったりはせずに町中で仮眠程度の野宿をする予定だが、今のところ見つけた候補としては、古い寺院の尖塔の使われてない屋根裏部屋か、波止場近くの廃倉庫、梯子の壊れた二階辺り。他にも良さげな場所があればそこでも良いが、まあまだ時間はあるし、他にも見繕っておくか……と、腰を上げたところ、意外な顔を見かける。
 いや、「意外な顔」どころじゃねぇな。普通に考えりゃ有り得ない。いくら王国領内じゃないとは言え、リカトリジオスの軍属である蹄獣人ハヴァトゥ猪人アペラルの特使がこんな所に居るなんてのは。
 
 □ ■ □
 
 他人の空似? 確かにそりゃありえねーとは言えねえな。元々、人間からしてみりゃ見慣れてねぇ獣人族の区別なんてなかなかつかない。獣人族から見た人間の区別がなかなかつかないのと同じで、まあお互い様ってところだ。
 だがそれでも、犬獣人リカート猫獣人バルーティなんかならまだしも、猪人アペラルってなここらじゃかなり珍しい。蹄獣人ハヴァトゥが多いって話の南方でならともかく、ここらで偶然たまたま、全く赤の他人の何の関係もない猪人アペラルを、短期間に別々の場所で見かけるってなあ、同じ奴を別々の二ヶ所で見かけるのよりあり得ねぇ。
 
 代官の館は石造りの土台に煉瓦と漆喰塗りの三階建てで、真ん中の玄関ホールのあるであろう八角形の本館に、左右90度に別棟が繋がっている。
 そしてその二方向の棟それぞれから今度は……あー、135度、か? とにかく、玄関のある正面から見て後方、奥の方にあたる位置に、離れになる塔が繋がっている。つまり上空から見ると、三方向に別棟がある形だ。
 その離れの塔にやや長い渡り廊下で繋がって、そこが外から見える構造。
 
 そこに、一人の女とその護衛らしき武装した三人。そして見覚えのある、全体が太く頑強な筋肉の塊みたいな猪人アペラルが連なり歩いていた。
 
 “シジュメルの翼”の風魔法で音を拾う。聞こえるのはこれまた覚えのある濁声。
 前を歩く女に対し何やらベチャベチャ話しかけているが、具体的な内容までは詳しく聞き取れない。
 だが、それら含めて大まかに読み取れたのは、まずこの女こそが“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナらしいこと。遠目だから事細かに姿形は見て取れないが、明日の試合の観戦のために先入りしているらしいこと。
 そして、リカトリジオスの猪人アペラルと“毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナとは、決して昨日今日知り合った仲では無いらしいということだ。
 
 どういう事だ?
 猪人アペラルはリカトリジオスがカーングンスと同盟を結び、それぞれ西と東からクトリアを挟撃する為の特使だった。だが恐らくその策は上手くは行かない。
 カーングンス内の親リカトリジオス派はアルークを中心とした“若君”派だったが、先日アダンが“血の試練”を達成したこと、その後に俺やレイフ、そして“若巫女”ジャミーの証言を受けて、カーングンス内部での考え方も変わっていったからな。
 “毒蛇”ヴェーナは……まずは“炎の料理人”フランマ・クークを始めとする、クトリアを荒らしていた魔人ディモニウムの賊たちとの繋がりがあり、奴隷売買でも繋がっていた。その繋がりから、ガンボンやラシードは、イベンダーのオッサンと共に魔人ディモニウムの虜囚となっていた“戦乙女”クリスティナとやらがヴェーナ領へと連れて行かれただろうと目星をつけ、また俺もリカトリジオスにより滅ぼされた生まれ故郷の村の生き残りがここへ売られていりだろうと予測した。
 ……いやまて、違う。些細なようだが厳密には違う。
 “戦乙女”クリスティナを売ったのは魔人ディモニウム達だ。だが、俺の同郷の女を売ったのはそもそもは東地区で活動していた“聖人”ビエイム一派だ。
 “聖人”ビエイム一派が“炎の料理人”フランマ・クークに売り、そのクークがヴェーナ領へと売った。
 この流れの裏にあるのは……ノルドバのヒメナ婆さんや、モロシタテムのカミラ夫人の亡き父、警備隊長だったロランドを繋ぐクトリア悪党ネットワーク。
 この悪党ネットワークには、中心となる人物は間違いなくいるはずなのだが、個々の末端にはお互いの事が分からないように作られていた。
 つまり、どこかの末端を潰したところで、そこから全体像を探ることができない巧妙な仕組みだ。
 
 そしてその構造は、“銀の輝き”のグレタ・ヴァンノーニが三悪とハコブを操ったのとよく似ている。
 そこまでは考えていた。考えて居たが……ああ、そうだ、つまり、結局はここまでもきっちり繋がってやがるのか……この間抜け!
 その自分の迂闊さに対し内心毒づく俺の真横に、鋭い刃が滑り込む。
 
 自分の間抜けさを毒づいてる時に、またも間抜けに攻撃を受けた事にさらに舌打ち。
 
 もう身体に染み付いた流れで、入れ墨魔法の魔力循環をし、“シジュメルの翼”の防護膜を広げる。
 素早く、切れ目なく繰り出される刃先は、鋭い真っ直ぐな短剣。いや、靴先に仕込まれた隠し武器の刃で、攻撃それ自体は蹴りによるものだ。
 
 全身黒ずくめ。革と布の組み合わせの軽量鎧。痩せてしなやかな長身だが、鍛えられた肉体から繰り出す体術と隠し武器を使うニンジャのような刺客。そいつが代官の館の屋根の上、尖塔の中に隠れ潜んでいた俺を見つけ出し攻撃してきた理由は、当然この館、あるいは代官か、または“毒蛇”ヴェーナの配下だからだろう。
 
 だがそれにしても、“隠れ身の外套”で気配を消して居たのにも関わらず、よく見つけられたもんだ。
 その索敵能力の高さもさることながら、鋭い攻撃もただ者じゃねぇ。
 防護膜で威力を軽減し、風の魔力で素早くかわしちゃいるが、既に何ヶ所かは斬られている。
 この世界の基準からすりゃ俺の身につけた格闘技、体術も、かなりのもんだと自負してる。だがその全てを使っても、この黒ずくめの刺客の攻撃はしのぎきれてねぇ。
 なんとか隙をつくり【風の刃根】を放って距離をとる。誰の警備、護衛だろうと、ここでやり合っても俺には何の得もねぇ。だから当然逃げの一手。
 だが、ここで本日三度目の間抜けぶりを俺は見事に発揮する。
 ぐらりと歪む視界。不安定に揺れる身体からは、力が抜けまた感覚も消えていく。
 毒。それも、即死毒じゃあなく、相手を捕らえ、戦闘能力を奪う為の麻痺毒か。
 そのまま屋根から落下する身体が、力強い腕に引き留められる。もちろん味方じゃない。恐らくは「殺さずに捕らえる」よう命令を受けていた黒ずくめが、俺を確保する為そうしたんだろう。
 “シジュメルの翼”が使えない以上、この高さから落ちりゃ間違いなく死ぬ。どっちにしろ痺れて動けないが、今はなすがままで居るしかねぇ。
 最後に、まだ僅かに動く腕で黒ずくめへと腕を伸ばす。指先が引っかかり、だが自重を支えられず崩折れたとき、既に【風の刃根】によって切り裂かれ破れかけていた袖が、完全に破けて肌が露わになる。
 そこに見えたのは、見慣れた紋様。俺の体にも刻まれている、“シジュメルの加護”の入れ墨だった。
 
 
 
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