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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-206 J.B.(129)Love Is The Message.(愛の伝言)
しおりを挟む身体は麻痺させられていたが意識が途切れてたワケでは無い。運ばれ、装備を奪われ、閉じ込められ吊されるまでの間も、視線、音、皮膚感覚だけである程度周りの様子を窺っていたが、どうやら別棟にある地下へと運ばれたのまでは分かった。
まったく、この薄ら寒い地下牢は、また見事なまでにじめじめとして気分が悪い場所だ。
気分が悪いのは空気だけじゃねぇ。この場所に染み付いた匂い……ああ、ただ単にカビ臭いってだけじゃねぇ。血、反吐、糞尿……死。そういったものが長い間べったりねっとりと染み付いてきた、そんな臭いだ。
地下牢であり拷問室。
糞ったれな事に、俺が今手枷に嵌められぶっといロープで吊されているのも、何やら空恐ろしい機械仕掛けの拷問具らしい。想像するに───想像したくもねぇが───この後、足首も機械に繋がれて、横にある歯車と大きなレバーで上と下から引っ張られる……って寸法だろう。
間抜けに間抜けを重ねた俺の末路が拷問死だなんてんじゃ、あまりに笑えねぇぜ。
俺をここまで運んだ、おそらくは代官の館の警備兵たちは、表に警備を残して立ち去った。立ち去るというか、“上の者”を呼びに行ったんだろう。
地下牢の中に残っていらのは俺と、黒ずくめのアイツ……おそらくは、いや、間違い無く“漆黒の竜巻”であり……俺と同じ村の出身の……生き残りの女、だ。
今もまだ袖が破れ、露わになったままの二の腕からは、“シジュメルの加護”の入れ墨が見えている。
そして“シジュメルの翼”を剥ぎ取られ、簡素なチュニックも脱がされ、下履きだけの半裸に剥かれた俺もまた、“シジュメルの加護”の入れ墨が露わになっている。半分だけの半端者ではあるがな。
「……ヴぁ……あ」
幾分、痺れ薬の効果が切れてきた喉から、そう絞り出すように声を出す。声と言うよりか、まだただの呻きだな。
「あん、ら……じっごぐ……だづまぎ……しじゅめう……むら……」
視線が少し動かせるようになり、僅かにその様子を窺う。
「おえ……あ、じヴぃあ……がきのこお……リカトリジオス……まらごお……ざらわえ……」
糞……まだまだ全然舌がちゃんと回らねぇ。聞き取れてるか? ちゃんと通じてるのか? そう不安に思うが、だが……“漆黒の竜巻”は微動だにせず直立不動、まるで反応がない。そう、全くこっちの声が聞こえてないかのように、だ。
それから少しばかり舌が回るようになってから、再び同じように話しかけてみるが、やはり反応は無い。
そうこうしてるうちに表から数人の足音が聞こえてくる。
現れたのは警備兵と1人の男。背格好は高くもなく低くもなく、太りすぎもせず痩せすぎもせず。だが、その身なり服装からすれば明らかに高位の者。その上、顔の前を帽子から垂らされた薄絹のヴェールで隠しているところからすれば、サッド等から聞いたプント、アテジオの代官、デジモ・カナーリオの特徴に合致する。
デジモらしき男は、やや距離を置いて俺の前へと来ると、上から下へと這うようなねっとりとした視線で見る。ヴェールで視線の動きなんざ分からないはずだが、それでもその視線を感じるってなぁ妙な気分だ。
「喋れるか?」
ヴェール越しのややくぐもった声でデジモらしき男が聞いてくる。
さあ、どう見る? どうする? 交渉の余地はあるのか。いや、まず相手がこっちをどう見てるのか?
「答えんか!」
横に居た警備兵の1人がそう喚き、壁にかけてあったゴツイ棘のついた痛そうな棒を振り回す。
それをデジモらしき男は片手で制し、一歩前へ踏み出す。
「“シジュメルの加護の入れ墨”か……」
半裸の上半身、刻まれた入れ墨魔法のそれを見る。
その言葉に俺は驚き、思わず顔を上げて目を見開いていた。
知っている。この男は俺の入れ墨魔法のことを知っている。いや、いやいや、考えてみりゃあそれは不思議なことじゃねぇ。“漆黒の竜巻”、俺を捕らえた奴隷闘士もまた、俺同様の入れ墨を持っているのだ。
「これを偶然とは思わんよ。かといって、必然的運命とも言わん。だが、お前の目的……そこにはこの入れ墨が何かしら関係している。そうだろう?」
まあそりゃそうだ。たまたま、何かしらの狙いがあって代官の館に忍び込んだ奴が、偶然同じ“シジュメルの加護”の入れ墨をもった者に捕まる……そんなことはまずありえねぇ。
「……それに、この古代ドワーフ遺物……」
その視線の先には、作業台の上に無造作に置かれた“シジュメルの翼”。
「ただのコソ泥、盗賊……そういった程度の者ではなさそうだな」
まとわりつくような視線に言葉。デジモ・カナーリオの情報はほとんどない。常に顔を隠し、表立って何かをする事は滅多になく、それでいて“毒蛇”ヴェーナに忠実。元々の出自、経歴もハッキリとはせず、“毒蛇”ヴェーナがプント・アテジオを呪法と毒で苦しめ、攻略し、反対派を一掃した後に、その後釜として据えたお飾り……一般的にはそう思われていると言う。
だがこの僅かなやりとりだけでも、この男がただ単に“毒蛇”ヴェーナの傀儡、操り人形のお飾り代官などでは無いのが分かる。
だが、まだ分からないのはこのデジモ・カナーリオの狙いだ。
俺を拷問台にくくりつけながら、ただの盗っ人程度ではないと喝破している。シジュメルの加護の入れ墨の事も、古代ドワーフ遺物の魔装具も見た上で、どうしたいと考えているのか……。
「参りました」
その思考の最中に、新たな来訪者の声。低く野太い男のモノだが、この状況にも落ち着き、緊張や動転したかの響きはない。
「ポロ・ガロ。侵入者だ、見ろ」
男はデジモ・カナーリオの指示に従い、拷問室の中へと入り俺のそばへ。俺の目に映るそいつは、偉丈夫で筋肉質、だがやや年のいった南方人の男で……ああ、驚いた。俺と同じシジュメルの加護の入れ墨だけじゃない。モトムチャンガやジュマ・チャーウェの入れ墨他、様々な入れ墨魔法のそれが彫り込まれている。
これは、有り得ない事だ。
本来、神々の守護の入れ墨魔法は、一人につき一柱。 重複して別々の神々の入れ墨を彫り込むなんてことは無い。もちろんそれは、それぞれの村で信奉している守護神のものを彫るから、というのはあるが、無理にそんなことをしたら、それぞれの加護がぶつかり合い、相殺し、或いは暴走してしまうからだ。
ましてこんなにも沢山、重複して加護の入れ墨を彫り込んだりしたら、魔力循環が阻害され加護が得られなくなるだけでなく、暴走し操りきれずに自滅するか、最悪、イカれた魔人のなり損ないみたいになっちまう。それが“普通”だ。
この男が重複して入れ墨を彫った事で、全く何の加護も得られていないと言うなら分かる。だが今ここで見ていてもとてもそうは思えない。何故なら、奴の周りにいくつもの魔力のゆらぎのようなものが感じ取れるからだ。
「どうだ?」
「シジュメルの加護ですね。“漆黒の竜巻”と同じ部族、村の出身でしょう。だが、完全には彫り込まれて居ない……。
“漆黒の竜巻”の村は何年か前にリカトリジオスに滅ぼされ、女子供は奴隷にされたとの事ですから、おそらくはその時まだ10歳ぐらいで、ここまでしか彫られなかった……。そんな所でしょうか」
デジモ・カナーリオに問われ、淡々とそう言う全身入れ墨の大男。見事なまでに大当たりだ。
「覚えはないか?」
「はい」
そこから、暫くの沈黙。
「ならば、この者がこの館へと侵入してきたのは、偶然か?」
「私には分かりかねます」
僅かな違和感。
デジモ・カナーリオはさっき、俺が偶然ではなく意図がありここへと来たと言い当てた。だが今になり改めて、この全身入れ墨の大男へとそれを問い質して居る。
それは───そうか。
たがそれを……つつけるのか? 確かにこれは何かしらの手札には出来るかもしれねぇ。だが、今これを切るのはまだリスキーだし、そもそも有用な手とは限らねぇ。
だがこれで、切れる手札は二枚目……。そのどちらにするのが良いのか……そこが問題だ。
デジモ・カナーリオはその暫くの沈黙の後、改めて俺へと向き直る。それから、着いていた数人の中から1人を呼び出し指示。
その1人は警備兵というよりは下働きの雑役夫のようなボロボロの衣服で、態度もまるで堂々としてない。陰鬱でやぶにらみの小男が、俺の足元へ来て枷を嵌めようとするのを、オレは蹴り飛ばしはねのける。
尻餅を着いて悲鳴をあげる小男に、ざわつき近付く警備兵たち。
「触るな! お前らに話す事はねぇ!」
俺はそこで、まだ僅かに麻痺の残った大声でがなり喚き散らす。
「ヴェーナ卿だ! ヴェーナ卿に話す事がある!」
俺のその言葉に、デジモ・カナーリオはじめ警備兵達も息を飲む。
「グレタ・ヴァンノーニからの使いが来たと伝えろ!」
これが、切れる二枚目のカード。ただ……うまく行くかの保証はまるでねぇがな。
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