遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-240.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(95)「それが、問題だ」

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 世界の様々な場所へと繋がる“脈”と、その“脈”を通過する為の“門”。
 それを誰でも使えるように設置されたものが所謂“転送門”。
 けれどもその“転送門”が設置されていない状態で“門”を開き、利用するのに必要なのが、“鍵”だ。
 最初にレフレクトルから誤って“門”をくぐり、アジルの隠れ家へと迷い込んだ事をきっかけに、曰わく“不完全な鍵”が僕の中に出来てしまい、“門”のある場所に行くとランダムに別の“門”へと転送されてしまう状態になっていた。
 
 そこが、最初の勘違いに繋がる。
 
 つまり、“鍵”とは、“脈の門”を開くものだ、と言う誤解だ。
 “鍵”が“門”を開く事自体には間違いはない。ただ正確に言えば、“鍵”とは“特定の門”へと移動出来るようになるものなのだ。
 
 つまり、僕は“不完全な鍵”により、様々な場所へと勝手に転移するようになってしまっていたが、それは“不完全な鍵”であるが故の事で、本来的にはこの“鍵”は、言わば目的地の決まった片道切符。
 レフレクトルならレフレクトル、邪教海賊のアジトなら邪教海賊のアジト、モルヴァルトのねぐらならモルヴァルトのねぐら、と、それぞれの場所へと移動するなら、それに応じた特定の“鍵”が必要になる。
 そしてそれらの“鍵”も、全ての“門”のある場所で使えるわけじゃない。そこも転送門と同様、その“門”が目的の場所へと繋がってなければならない。
 
 “不完全な鍵”を“完全な鍵”へとすると言うことは、そういう“個々の目的地がきちんと定まった鍵”へと作り替えると言うこと。
 その為に何が必要なのか、だが……。
 
「さぁ、試してみましょう」
 エンスヘーデがそう促し、いつの間にやら現れたマヤが僕の脇へと控える。万が一が起きたときの為とのことだが、実は僕がこちらに飛ばされた当初から、コッソリと隠密で監視と護衛をしていたらしい。全然気づかんかった!
 
 “完全な鍵”、つまり“特定の目的地がきちんと定まった鍵”を造るには、その目的地の具体的イメージが必要になる。
 今この場合は“魔女の谷の門”を造るので、まずはその“魔女の谷”のイメージだ。
 そしてそれはただ漠然と思い浮かべれば良いというワケじゃない。
 それこそ、絵画で描くかのような、彫刻で作れるかのような具体的な、具象化できるだけのしっかりしたイメージに、何より魔力のバランス、波長といったものも、だ。
 
 その具体的イメージを術式として造る。
 人間流の術式構築では魔力を数式的に操作するワケだけど、それは事前に細かく計算して算出する必要がある。でなければ、複雑な計算式を暗算ではじき出すかだ。
 それは僕には全く向いてないし、さらには“鍵”を造るのにも向いてない。“門”の様相は、一定ではないからだ。
 場所そのものも、また、魔力の相も細かく微妙に変化をし続ける為、計算式で“鍵”を造るなら、その変化に合わせてどんどん変えていかなければならない。
 けれども、ヘルヴォラの言う「エルフ流のやり方」は違う。厳密な計算式が無くとも、直感的、感覚的に術式を構築し変化させられるエルフ流なら、目的とする“門”の変化を、ある種の力業でトレースし対応出来る。
 その分、かなりの魔力が必要にはなるが、生来的に魔力の豊富なエルフならさほど問題じゃない。
 そのエルフ流の直感的な魔術の行使に関しては、身近に典型例が居る。母のナナイだ。直感的で感覚的な魔術の使い方をする母のナナイは、相性の良い魔術はいとも簡単に使えるが、相性が悪いと初歩的な魔術でも上手く使えない。火の適性が高く、【紅蓮の外套】のような複雑で高度な術は使えるのに、同じ火属性でもよりシンプルな【火炎】みたいな術が苦手で、曰わく、「なんかさー、普通に短刀や弓で攻撃する方が手っ取り早くねぇ?」との理由。
 直感的、感覚的な魔術の行使をするタイプの母からすると、「わざわざ手の先から【火炎】を放出して戦うのはまだるっこしいし無意味に思える」ので、使いにくい。
 つまり、イメージが作りにくい。
 
 “門”に対する具体的イメージ。それを具現化するイメージ。さらにはそれを実際に実行出来る技術のイメージに、状況。
 “魔女の谷”での生活、訓練と、この極寒の地へと送られたのは、これらを身に付ける為でもある。
 
「ヘルヴォラも言ってたけど、アナタは単純な自分の欲や、攻撃的な衝動で何かを得る、学ぶタイプじゃない。守ること、生み出すこと、その為に力を発揮しなきゃならない状況。そう言う事に直面させるのが一番やりやすいから」
 エンスヘーデの言い分は、悔しいが確かにこれまでもよく言われてた事でもある。
「何でそう断言出来るんですか?」
 やや眉間にしわ寄せそう聞くと、
「わたし達は“子”の事はだいたい分かるわよ~」
 またもニヤリと笑う。
「それに、ゲームのプレイスタイルとかでもね。攻撃的に攻めるゲームより、守りを固めるタイプの方が強いもの」
 むぐぐ……。よく見てらっしゃる。そう思ってからハッと気付き、
「まさか、あのオーク達も“仕込み”ですか?」
「さすがにそれは無いわぁ~。こうなる可能性は高いとは思ってたけど」
 全く、どこまで「計画通り」なのやら分かりゃしない。
 
 とにかく……。
 オーク達と雪狼の争いへと割って入ったときに、たしかにエンスヘーデの「目論見通り」に、僕はそれまでよりもかなり“エルフ流”の魔術の使い方が出来た。
 【燃え盛る土壁】は、今までは巧く使えなかった呪文の一つで、僕はダークエルフの癖に火属性への適正が低く、この呪文は土と火それぞれをバランス良く操れなければならない。
 けど、陶器造りを通じて火と土の扱いに慣れ、また西方ジャルダル人流の精霊魔法の原理を応用し、身近な、周囲の魔力と自分の魔力を“交換”する技術を使い一時的に火属性の魔力を増やして利用する事で、遠隔魔法として【燃え盛る土壁】を発動出来た。
 
「さ、それで……どうよ?」
 目を細めながら再びそう促すエンスヘーデ。
 僕は、すぅ、と大きく深く呼吸をし魔力循環を整える。
 浮かべるのは“魔女の谷”の“門”の様相。
 絵画のように、また彫刻、或いは粘土を捏ねて作り出す立体……または3Dモデルのように魔力で作り出したそれは、ただ単にあの場所の見た目を再現したのではない。そこにある魔力の波長をも再現している。
 それを、自分の中に小さく小さく作り出して固めていく。それが、“鍵”の核。
 そこに、転移の為の術式を作り出して重ねていく。
 言うなれば、自らの中に人為的に魔力瘤を作り出すようなものだ。
 小さく小さく、場所と転移の術式を作り出して固めて、それを僕の右手の人差し指の辺りへと集中させる。
 
「これで……出来てる、はずです……」
 
 その指先を“門”のある場所へとかざすと、それまでに感じていた不意に身体が引っ張られるような、あるいは分裂するかのような奇妙で不快感の伴う感覚ではない、カチリと何かがハマったかのような感触がする。
 
「あら、出来たじゃない」
 
 水面に吸い付いくみたいにして指先が別の……いや、こちらから見れば虚空へと引き寄せられ、そのまま消えてゆく。消えるのは指先だけではない。手のひら、二の腕、肘、肩、そして上半身に頭……と続いて潜った先は見覚えのある“魔女の谷”の風景で……。
 
「ヤア、お嬢さん。いささかお邪魔させて頂きますよ」
 
 その僕の身体に触れながら現れた人物の声には、聞き覚えがあった。
 
 ◇ ◆ ◇
 
 真ん中に居るのはローブを着た長身の男。その声はやや嗄れたような掠れた響きで、それでいて妙な粘着いた感じもする。
 その両脇に同じくフード付きの長いトーガを身に着けた人物が1人ずつ。片方はやや背がひくく猫背で、もう片方はすらりとしている。
 
 “魔女の谷”の“門”は、前回ここからあの北の山間へと転移したときとほとんど変わらず、穏やかで暖かな木漏れ日と自然の香りに満ちている。いるが、僕とそれを取り囲むかの3人の存在が、その空気を冷え冷えとした緊張へと誘っている。
 
「訪問前のお手紙もないなんて、随分不躾ね」
 後ろから聞こえて来るのは、僕からやや遅れてこちらへ戻って来ただろうエンスヘーデの声。
「なにぶん、宛先も分からないでいたものでして。ただ、この時期のあるタイミングでなら、ここへと割り込んで移動出来るとだけ分かっていたので、この度こちらのお嬢さんに便乗させて頂きました」
 
 割り込む、便乗する、と言う言葉。その対象するところは恐らく僕のこと。僕が初めて自分の中に作った“鍵”を使い、“魔女の谷”へと移動するこのタイミングに合わせて、彼……蜥蜴人シャハーリヤの魔術師、アジルはそれに割り込んだ……と、そう言うことなのか?
 そう考えている僕の腕を、不意に引っ張る者がいる。マヤだ。隠密を得意とする3人の魔女の1人。小柄ながら鍛えられた肉体を持つ南方人ラハイシュの彼女は、その存在も感じさせず近付いて、動きを察知されるより早くに僕を引き寄せ彼らと距離を開ける。
 
「ああ、そんなに慌てなくとも、あなた方に害を加えるような真似はしませんよ」
 
 状況からすれば、「人質を失った」と言えるが、それでも全く平静で落ち着いたままのアジル。
 それに対して、“魔女の谷”の中の10人ばかりの女性たちが、手に武器や杖を持ちながらぐるり周りを取り囲んでいる。
 対して、アジルの脇のスラリとした背格好の1人が、トーガをはねのけ優雅な仕草で弓を構える。そこにつがえられて居るのは4本の矢で、全てに【獄炎】の魔力が付与されているのが見て分かる。
 その肌は青黒く、長く伸ばし頭頂部で縛られた頭髪は白い。けれどもその青黒い肌にも白い髪にも、うっすらと赤い火属性の魔力が感じられる。
 まさに、典型的なダークエルフの風貌であり魔力。
 
「おい、話が違うじゃねぇかよ」
 
 そこに割って入るのは背の低いもう1人。
 
「殺しもナシ、争い事もナシ、あくまで平和に話し合ってブツを受け取る……そうじゃなかったのかよ、ええ?」
 
 眉間に大きな傷のある、若獅子のような猫獣人バルーティ───“災厄の美妃”の持ち手だ。
 
 顔をハッキリと見るのは初めて。遭遇するのはおそらく二度目。「すでに死んでる」との風聞だったにも関わらず、カーングンスの野営地へと向かう途上での襲撃を受けた事が最初だが、それはこの今の時間軸からはまだ未来の出来事。そしてその襲撃は、恐らく僕を狙ったのもではなく、本来は“若巫女様”のジャミー・カブチャル・カーンを狙ったものだと思われている。明確な意図は分からないが、カーングンスとリカトリジオスとの同盟を促進しようとしていたのではないか……とされてるものの、実際のところは何も分からない。その理由、意図するところも。
 
 その当人を目の当たりにし、僕は無意識に数歩後ずさる。頭の中で幾つかの呪文と術式を用意するが、それが全く無意味なことも知っている。
 “災厄の美妃”……別名“エルフ殺し”は、あらゆる魔力、あらゆる術式を破壊し奪い去るのだ。
 もちろんそれだけではない。蜥蜴人シャハーリヤの術士アジルは僕など到底及ばない実力者だし、もう一人のダークエルフも、恐らくは弓の技量に【獄炎】の練度からすれば、エヴリンドに匹敵する魔弓士。
 この3人の内、一人として僕が戦って敵う相手はいない。
 
「ええ、その通りです。私達は“蜘蛛の女王の使徒”と敵対する事を望んではいません。ですので───」
 
 アジルはやはり表情の読めぬ蜥蜴の顔で続ける。
 
「かつての過ちを改め、修復する事が来訪の目的です」
 
 その過ちが何なのか。それが、問題だ。
 
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