遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-251. マジュヌーン(97)混沌の渦 - 月に降る雨

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 幾つもの雨粒が俺たちを打つ。今の勢いそのものはそんなでもねぇ。豪雨とまでは行かないが、粒も大きく途切れない。
 すぐに雨水を吸い込んでしまうはずの砂の多い乾いた地面は、それでも周りを水浸しにしながら低い方へと流れていく。
 それは、半壊した倉庫の中であるこの場所でも同じだ。屋根のあったはずの場所はほぼ崩れ去り、壁に囲まれはするもののもはや建物とは言えない、がらんどうの空間。その一角の瓦礫に埋もれた隅が、アルゴードに繋がる隠し通路……或いは、元々は別に隠しても居なかった荷運び用の直通地下通路だっただけかもしれねえそれがあり、そして俺がそこに隠れて様子を窺ってる先には、かつて……前世でのクラスメイトであり、そして薄気味悪い爺の姿をした邪神によってこの世界へと“生まれ変わり”をさせられた金田と小森がいる。
 その2人の、ぼそぼそとした……この雨の音にかき消されかねない小さな会話は、この大雨以上に衝撃を与える内容だった。
「……殺し……し……た? 樫屋……くん……を?」
 金田……いや、今は“鉄塊の”ネフィルと言う「触ったものを鉄に変える魔力」を持つ魔人ディモニウムの告白に、同じく「動物、魔獣を操れる」魔力を持つ……今はヴィオレトと名乗っている小森はそう聞き返した。
 やや間が空いて、再びネフィルは口を開く。
「ああ……そうだ」
 その告白に返ってくるのは雨音のみ。ヴェオレトも、離れた位置に隠れそれを聞いている俺も、ただ押し黙るだけ。
「……覚えてんだろ、ラアルオームのときのこと。俺はシューの命令で鉄の武器を作りまくった。元々自前の鉱山や武器の生産力があんまねえリカトリジオス軍にとっちゃ、性能の高い武器防具は常に不足気味……。だから、俺たちの部隊がそれを作れるとなりゃ、リカトリジオス内部での地位を固められる……。
 確かにそうだった。シューの言うこと……方針にゃ間違いはなかったし、あの“人間嫌い、魔術嫌い”のリカトリジオスの中で、立場上はシューの奴隷って状況でも安全に過ごせたのは、奴のおかげだ。
 けどよ……」
 それまでの経緯を、自ら確認し手繰り寄せるかの独白。
「……その“シューの計画”の中に……樫屋……ケンゴを……ヤるってことまで含まれてるなんて……俺は……」
 
 ───知らなかった。
 
 ああ、そうだろう。金田……ネフィルは知らなかった。“砂漠の咆哮”の各拠点を同時に叩き、リカトリジオス軍の“残り火砂漠”での支配圏を盤石にする。表向きのシューの計画はそうだ。
 だがその裏では、俺を標的とし……俺を「復讐の為に挑んでくる」よう仕向ける為に、俺が拠点としていたダーヴェ、カシュ・ケンの農場を潰して……俺の“仲間”を殺そうとし、それはほぼ目論見通りになった。
 
「け、けど……ッ!」
 小森……ヴェオレトが反発するようにそう叫ぶ。
「それ、は、金田君が……やろうとしてやったワケじゃない……! 知らないで、む、無理やりに……」
「居たんだ……ッ!」
 叫び。強い雨音を打ち破るかのようなその声に、小森がびくりと反応する。
 
「俺は……あのとき、樫屋の農場に居た……。俺が連れて行かれたときにはもう、田上も樫屋も……ボロボロで……倒れてた……。
 けど……奴ら……降参しろって……降参して、ひとまず戦奴になって生き延びろって……そう言ったのに……」
 2人の、最期の最期のときを、俺は見てない。だからそこに金田が居たことも知らないし、この話の真偽も分かりようもない。
 だが……。
「俺は……だから……」
 止められなかった? そんな言葉を想像していた俺は、その続きを聞いて……、
「俺は……あいつらに、とどめを刺したんだ……」
 一瞬……頭が真っ白になる。
 
 ▽ ▲ ▽
 
 次の瞬間にはすでに、俺は隠し通路の出口から飛び出して、離れた距離を一気に詰め、金田の上に馬乗りになって首を締め上げていた。
 
「テメェ、どういう事だッ……!?」
「なっ……!?」

 完全に泡を食って反応出来ない金田に、慌てながらも周りに待機させていた岩蟹を呼び寄せ包囲しようとする小森。だがそんな動きにはまるで構わず、俺はギリギリと力を込めてさらに締め上げる。
 
「ふざけた事抜かしてンじゃねぇぞ、金田! テメェは、俺よか樫屋とは長かったろうがよ!? あのサルはコッチに来てからも、いつかテメーらがリカトリジオスを抜けてこれる日がくるかもしんねぇッてんで、その為にあの農場を作ってたんだ! それを、テメェ……!?」
 喚く俺の声は、半ば呂律の回らねー酔っ払いみてぇだ。自分でも分かるくれぇにマトモに話せてねぇ。
 だがそれでも金田に、そして小森にもそれは聞き取れて、またそこから、俺が何者かが分かったようだ。
 
「ま、真嶋!?」
「……真嶋君……!?」
 
 あまりに久しぶりに耳にする前世での俺の名。その響きは懐かしくもあるが、もはや自分の名を呼ばれているかにも感じない。
 俺は金田に……いや、“鉄塊の”ネフィルに馬乗りになって跨がったまま、上体を起こしぐるり周りを見渡してから最後にヴィオレトへ視線をやる。
 
「───マジュヌーン」
 
 低く、嗄れた声で、俺はそう名乗りを上げる。
 
「マジュヌーンだ。俺はマジュヌーン。覚えておけ、ネフィルに……ヴィオレト」
 
 雨音が未だやかましく耳をかき回す中、2人の息をのむ音が聞こえたのは、さすがに気のせいだろう。
 だがそれでも、その緊張と混乱と様々な感情のない交ぜになり固まった2人の反応は、耳からも鼻からも感じとれる。
 
「……ま、まじ……」
「マジュヌーン」
 開きかけたネフィルの言葉を遮って、再び突きつける。
 浅く緊張のこもった息をしてから、ネフィルはようやく言葉を吐き出す。
「マジュ……ヌーン、生きて……たのか」
「知らなかったってか?」
 小さく頷くネフィルに、やはり微動だにせず固まったまま、なんとか声を絞り出してヴェオレトが、
「だ……って、何も、話さない、から……シュー、は……」
 ああ、だろうな。猪人アペラルのイーノスが言っていた通りだ。奴は大賀とかの本当に腹心と呼べる相手にしか詳細は語らないし、先の計画も予定も教えない秘密主義。
 
「いや……」
 そのヴィオレトに返すネフィル。
「俺は、知ってた……。と言うか、聞かされたんだ、あのラアルオームで。
 お前は……樫屋たちと組んで、俺たちを逆恨みして狙ってる、って。
 だから……それを止めさせるためにも、“砂漠の咆哮”を叩いて、樫屋たちに……また、仲間になってもらう為に……農場を……包囲して……」
「……他の奴らを皆殺しにする……ってか?」
「違う……ッ!
 いや、違わない……けど、違うんだ!」
 ネフィルはへたり込み尻を着いたまま、俺へと視線を送ることもせずそう続ける。
「……あんな事に……あんな事をするなんて、知らなかったんだ……。ただ、説得して、もう一度……」
 
 怯えや混乱はある。だが騙して言い逃れをしようと言う気配はない。少なくとも本人は自分のその言葉を信じて言っている。信じているから真実とは限らねーって事を除けば、この言葉、言い分は信じられるし……そうだな、さっきよりは覚めてきた頭で考えりゃ……想像はつく。
 
「……それで、もうどうしようもないから、『お前がけりを付けろ』ってか?」
 俺のその言葉に、震えるような頷き。僅かだが、ヴィオレトへと視線を向けた。
「信じたのかよ、その話を」
 樫屋達が逆恨みで狙ってるという、そのくだらねぇ話を?
 そう聞くとまた目を伏せ俯いたまま、絞り出すように、
「───今は……信じてない」
 と吐き出す。
 
 また少しの間、お互いの探るような、戸惑うような、あるいは祈るような呼吸が続いてから、俺は幾分落ち着いた声で聞く。
 
「……駒井……アウレウムは、何を狙ってる?」
 今度こそ、2人が息をのむのが分かる。駒井……前世での俺たちのクラスの担任。影が薄く、神経質なくせに周りにすぐに流される、ひ弱な男。印象はそれ以上ない。そいつが“黄金頭”アウレウムだという事は、奴の寝室から適当に取ってきた走り書きの内容からの推測。
 あいつはこんな状況になっても……いや、こんな状況になったからこそなのか、未だに「クラスの担任」の意識のままでいる。つまり、ここで魔人ディモニウム含めた“生徒”達を、指導し教え導いているつもりでいるんだ。
 それは、前世では満たせなかった「強い指導力のある教師になりたい」と言う「願望」を叶える為なのかもしれねぇがな。
 
 やはりしばらくの間の後、ネフィルがたどたどしくも続ける。
 
「アウレウムは、このレフレクトルに残されてる魔導具を使って王国駐屯軍を全滅させる気だ」
「全滅? そんなクソでけぇ威力のモン、この廃墟に残ってんのかよ?」
 魔力汚染で人の寄りつかなくなったレフレクトルなら、遺跡漁りの探索者もそうは寄り付かねぇ。だからまあ、そこそこに邪術士の忘れ物があってもおかしかぁねぇが、王国駐屯軍を全滅させられるような一発逆転のスペシャルアイテムがあるとは思えねぇ。
 
「奴の……能力。
 表向きは“黄金頭”の異名の通り、身体をドワーフ合金化するもんだと思われてるが、本当は違う」
「違う?」
「ああ。殆ど知られてないが、奴の本当の能力は、装備したり使ったりする魔装具や魔導具の威力を数倍、数十倍にする力だ」
 ……そいつは……、
「驚きの新事実だな……」
「……確証はない。ただ、色々観察して、奴のノートを盗み見しての推測だ。
 けど、今回の奴の計画を聞いて確信した。そうでもなきゃ、自殺行為だ」
「イカれた特攻かましそうではあるけどな」
 小さく、乾いた笑いを浮かべるネフィル。日誌もけっこう支離滅裂だったし、演説はさらにイカれてた。

「……なあ、そいつを聞いてどうする?」
「どうすると思う?」
 食い気味に質問へ質問を返すが、実のところその問いの答えは俺も知りたい。

「真嶋くん……」
 俺とネフィルのやり取りに、ヴィオレトがそう口を挟む。
 俺は答えず、視線も向けず、ただ続きを待つ。
 だがヴィオレトはその後に何かを続けようとするものの、明確な言葉を発することは出来ずに口ごもる。
 
「……安心しろ。少なくともてめぇらに手を出すつもりはねぇよ」
 俺はそこに、立ち上がりながらそう付け加える。
「……い、いいのか? 俺は……」
 伺うように身をすくめるネフィルに、慌てて駆け寄り支えるようにするヴィオレト。
 
「いいでも悪いでもねえし、許すとか許さねーとかの話でもねぇ。
 だが……てめぇらをやったところで何の意味もねぇし、樫屋も田上も……誰も喜ばねぇ」
 
 既に背を向けて倉庫の外へと向かう俺の視界に、2人はいない。どんな顔でこの話を聞いてるのか。振り返り確認するつもりも俺にはない。
 
  
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