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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-265. マジュヌーン(111)黒金の塔 - 眠りに誘われ
しおりを挟む闇の魔像と闇の落とし子のタッグマッチ。どちらも空を飛ぶ魔物で、闇の落とし子に関しちゃ【鈍化の邪視】とかってなのを使い、奴に睨まれると動きが鈍る。その隙に硬くて素早い闇の魔像が襲いかかってくる……ってな戦術だが、どちらも“災厄の美妃”の一閃で始末をつけられる。
マトモにやり合えば結構な難敵。だが魔力を源にしてる以上俺の敵じゃない。
ヒィヒィ呻くエリクサールを後ろに奴らを斬り伏せ先へ進む。だがエリクサールに付いた悪臭が警報代わりだもんだから、後から後から沸いてくる。
「おい、その匂いなんとかなんねーのか? このままじゃアルアジルのところにも戻れねぇぞ?」
馬鹿面下げた俺とエリクサールの幻も、いつまでバレないか分かったもんじゃねぇしな。
「うぅえ~い、あ~~……ッちの方に、何か水場のある部屋が~……あったよ~な~……」
「あやふやだな」
あやふやだがそれを目指すしか手はないな。
エリクサールの案内で進みながら、全体が渦巻きのような構造の黒金の塔の地下階から上へと上がって行く。
「おおっと、ここまでここまで。ここから上はさすがにヤベェぜ」
「まだヤベェ事あんのか?」
「地下階と地上階の境界は、かなり強固な防壁あるからな。ま、本当なら地上階から地下階へと入るのを妨げる防壁だったはずだろうけどよ」
闇の魔力溜まりとやらがあるのは地下階だそうだから、まあそりゃ当然か。
先導された先の小部屋はある種の洗い場か、部屋全体は石造りだがなかなか広く、真ん中に木が生えていて、そこから泉のように水が湧き上がり溜め池へと注いで、さらに排水もされている。
「おおっしゃ、入り口見張っといてねぇ~ん」
と、そう言ってエリクサールはその泉へとざぶん。全身ずぶ濡れになるが、さっきの箱お化けによって、上半身はほぼ満遍なくべっとり粘液と体液まみれにされてるので、匂いを取るにはこれでも足りねぇか。
仕方ねぇから、俺も入り口をきっちり見張っておくが、幸いにもここにくるまで相当な数を倒せてたからか、新たな追っ手が来る気配はない。
なもんで、だんだん暇になってきた俺は、この泉のある部屋の中をぶらぶらうろつく。
うろつきながら、ぼんやりとだが状況を整理して考える。
ここんとこ……特に、ボーマ城塞での戦いがあってから、どうにも意識がしゃっきりとしてねぇ。
何が原因か? それは、問うまでもなく分かってる。いや、原因……じゃなく、キッカケが、だ。
アニチェト、そして日乃川……いや、ペデルナの死だ。
二人とも、それぞれに俺は関わりがある。その前のアウレウム……前世での担任教師の駒井も関わりはあるが、正直全く印象もないし個人的な思い入れもなく、あとまあ、“コッチの世界”での関係性もなかった。
だが、ペデルナは深い付き合いじゃなかったが、それでもクラスメイトで、コッチで前世の記憶に目覚めてからも少しの間は関係があったし、アニチェト・ヴォルタスは依頼人としてだがこの世界で関わって、さらにはカシュ・ケンとはもっと関わりが深かった。
その両者が、半ば相討ちの形で死んでいった。
そのことに、もちろん俺は関係ない。俺が何かをしようが何もしなかろうが、アニチェトはボーマ城塞を守るために戦っただろうし、クークとペデルナはシュー・アル・サメットの計略の上で、ボーマ城塞へと攻撃を仕掛けただろう。
俺はただ、アルアジルら“闇の手”の力を借りて、自分の……カシュ・ケンやダーヴェ、マハ達の復讐の為に、“調整”をしてるだけだ。
直接は何の関係もないが、けどそりゃ言い訳だ……そうも思う。
農場での事を思い出す。
穏やかな日々の生活。“砂漠の咆哮”の一員としてのちょっとした“刺激的な”冒険。カシュ・ケンの気紛れな料理。ダーヴェの畑でとれた新鮮な野菜や果物。アスバル、ムーチャ、孤児のガキども、小作人に犬獣人達……マハの体温、艶やかな毛並み、鼻にかかった声、美しく滑らかな踊り……血に染まった顔。
まるで昨日のことのように鮮明に思い出され、その時の絶望と怒りと悲しみもまた、当時と同じように俺の体を焼く。
だが……。
何故俺は、こんなところでこんなことをしてる?
ちりちりと脳を焼く怒りの中、そう自問する声もまた小さくなる。
シュー・アル・サメットは今はリカトリジオス軍東征将軍として遠征軍の奥深くに居る。そして俺に対して「全力で復讐に来い」と手招いている。
なら、今すぐにでもシーリオへ飛び、“災厄の美妃”でリカトリジオス軍の全てを血の海へと沈め、その生き血と腸を浴びてやるが良い。
それが何故出来ない?
分かってる。
今の俺がそんなことをしようとしたところで、最初の10人、20人……いや、50人か100人ぐらいまでなら、それも行けるだろう。思い上がりとかじゃねぇ。すでにとっくに俺の右手に馴染んでいる“災厄の美妃”には、それくらいの力はある。
それでも……奴の喉笛にこの牙はまだ届かない。
そう、理屈じゃそうだ。理屈じゃあな。
そんな理屈なんざ関係ねぇ、勝算が無くてもぶっ込んでやりゃあ良い。そういう感情もまた腹の底に渦巻いてはいる。
前世───街の不良だった真嶋櫂の頃なら、それは出来た。
カシュ・ケン、前世の樫屋が最初に俺を知ったってな話の新御多三中との抗争のときも、倍以上の相手にガンガン突っ込んでいった。
そりゃ、怖いもの知らずの悪ガキだった……てのは、半分正解だが半分不正確。
要するに、後先何も考えない、勝とうが負けようが、自分がどうなろうがどうでもいいと言う、ただのヤケクソ。
世間も知らなきゃ何も考えてねぇ糞ガキが、駄々捏ねてヤケクソになって暴れてただけだ。
───そうなれりゃあ楽だな。
そうも思う。
そしてそうなれないだけのものを、俺は“コッチの世界”で生まれ変わって、得てしまった。
それがとっくに失われてしまったものだッてぇのに、それでも捨て切れてない。
ドクリ。
心臓の音が、俺の耳へと響いて木霊する。
ざわつくのは過去への後悔か、先の見通しの無さか……いや、違う。
そのドッチでもねぇ。
考えながら泉の部屋の中をウロウロしていた俺は、気がつくと蔦の這う部屋の壁の前で呆然としている。
何だ? 何か分からない。分からないが何故か、俺はここを覚えている。
似たような場所を覚えている、とかじゃねぇ。 確実に俺はこの場所へ来たことがある。その感覚が奥の方から湧き上がってくる。
混乱しつつも、だが 妙に落ち着いてもいるような意識のまま、俺は右手をその壁の表面へと這わす。全神経を集中させてるかの指先が、 なめらかな岩肌、そこに彫り込まれたレリーフ、そして湧き水の出る木から這いうねり伸びてきている蔦草を、一定の速度で撫でていると、不意にかちりと何かにハマる。罠とか仕掛けとかそういった感じじゃねぇ。モノとしてはまり込んだというよりも、感覚的に何かがフィットした。その指先から俺の中にあった何らかの力がそこへと吸い込まれていき……ふっ、と意識ごと暗転した。
△ ▼ △
気絶したとか眠ったとかそういう感じじゃあない。どちらかといえばものすごくリアルな夢の世界にでも入り込んだかのようだ。同じ場所、同じ時間、同じところに俺はいる。けれども、全体として意識にモヤがかかったかのようにぼんやりとし、自分の身体が自分のものではないかのような 非現実感に包まれていた。
俺がその指先から何かの力をそこへと注ぎ込むと、石壁はゆっくりと滑るように開く。
俺の後ろで服と体を洗って下履き一枚になっていたエリクサールが驚きながら何事か大声で喚いているが、一体何を叫ばれてるのかはちっとも意識にゃ入ってこねぇ。
壁の向こう側はいわゆる隠し通路みたいなものだ。やはり石造りの 2、3メートル幅ぐらいの真っ暗な通路は、暗闇でもわずかな光で見通せる猫の目を持つ俺には問題ない。
再び何かをぶつくさと言いながら、まだまるで乾いていない服を置きっぱなしにし、下履き一丁に、いくつかのカバンや小物だけを持ったエリクサールがすぐ後ろ、【灯明】の魔術で光源を作りながら追ってくる。
ふらりと何の気もなく奥へ進むと、しばらくの後に着くのはまた別の部屋。
どんな部屋か。つい今しがた俺たちは似たようなような部屋に居た。長髪禿爺の実験室、研究室。そういう類の部屋だ。壁には棚と書架があり、奇妙な薬草だの標本だの分厚い革表紙の本が並んでる。いくつかの作業テーブルに机と椅子、実験器具……。
だが何よりも目を引くのは、それらの区画からさらに奥に行った広い区画。幾つかの様々な大きさの樽や壺があり、それらと金属の支柱や管やホースで繋がった分厚いガラス製の筒……そうだな、人一人が入れそうな巨大な試験管が三つほど並んでいる。そしてその巨大な試験管の二つは、割れてバラバラになっている。
それを見たとき、俺は何故かまた、おかしい、と感じた。
何が? そう、前に見たときと違うからだ。前に見たときは、割れた試験管は左端の1つだけだ。後の二つは割れてなく液体が満たされ、その内一本の中には別の……。
「……て、おい、どーしたんだよ、おい!?」
体を揺すられ、意識が鮮明になる。
振り返るとエリクサールが訝しげに俺を見ながら、肩へと手をやり揺すって来ていた。
「……何だ? 何やってんだ、裸で……」
「って、おい! お前が何かぼけーっと寝ぼけたみてーに歩き出すからだろうが! 夢遊病かよ!?」
ああ、そうか、そうだったな……と、なんとなく思い出す。
ああ、そうだ。考えながら歩いていたら、何かこう、ぼうっとしてきて、それで……。
「……待て、そうか、あの泉の部屋の、あの木だ」
「あぁ? 何だよ?」
俺は小走りに来た道を戻って、泉の部屋へ。
真ん中に生えた木の幹へと軽く山刀で斬りつけると、その樹液の匂いを嗅ぐ。
「おぁ? それ、もしかして……」
「ああ、こりゃネムリノキの一種だ」
ネムリノキ。主に残り火砂漠の西方面にある、錬金魔法薬の、またはいわゆる麻薬の原料になる、特殊な成分の樹液を持つ木だ。
その成分には回復薬や痛み止めにも使える効能もあるが、一番の効果は眠り薬になるもの。そしてその応用で、催眠効果やある種の酩酊状態にする効果もある。
特に俺たち猫獣人や獣人種にとっては、樹液だけでも猫にマタタビ、軽い陶酔感のある麻薬効果があり、一部の猫獣人は中毒になっちまう奴らも居る。
「コイツはやや成分に変化調整がされてるようだが、俺たち猫獣人にとっての麻薬効果は残ってるみてぇだな。罠……ってワケでもなさそうだが、錬金魔法薬の材料としちゃこっちだと貴重だから、どうやってか移植して育ててたんだろうぜ」
「はぁ~ん。俺は猫獣人じゃねぇし、特に催眠効果には耐性あるからな。全く気付かんかったわ」
「俺もおめーが臭すぎてこの匂いにも気付けなかったしな」
「うるへー。もうおちたわ!」
生木の樹液から匂ってくる僅かな成分なら、種が分かりゃそう惑わされる事もねぇ。
「匂い取れたなら、さっさと戻るぜ」
「うぇっ、まだ服乾いてねーよ!」
「知るか。てか、あっちに何かぼろ布みてぇなのあったから、それでも着てろ」
「ヤだよ、こんなとこにあった服モドキなんか、ビョーキになるかもしんねぇし……て、待て、そういや……」
肩掛け鞄をゴソゴソ弄り、中から取り出したのは白い艶やかなローブ。
「これ着れるな」
さっきの宝物庫……じゃなく、余り物倉庫から取ってきてたものの一つか。
「とりあえず呪いとかは無さそうだしな」
「口にすると悪い方の予感が実現するぞ」
「ヤなこと言うな!」
とか言いつつもそもそ着替えて、風の魔法で乾かそうとしてたモノの生乾きのままの元の服を鞄へ押し込む。
「……なあ、その鞄、見た目よりかなりモノ詰め込んでねぇか?」
ふと疑問に思ってそう聞くと、
「今更そこかよ!? これは“なんでも鞄”つって、10倍ものが入れられる魔法のバッグな。怪盗ハイイロギツネの伝説の装備品」
「便利だな。くれよ」
「やらねーよ!」
ばたばたしつつも準備を終え、周りの様子を窺いながら、再び幻術を使って身を隠しながら元の長髪禿爺の研究室へと戻る。
泉の部屋を出るそのときには、ここで何かが気になっていたと言う事も忘れていた。
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