472 / 496
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-271. マジュヌーン(117)王の影 - われもこう(変化)
しおりを挟む“門”をくぐった先は、穏やかで暖かな木漏れ日と自然の香りに満ちている。いるが、俺たちを取り囲む空気は、お世辞にも暖かいとは言えねぇ。歓迎されない訪問者は、この場所の空気を冷え冷えとした緊張へと誘っている。
「訪問前のお手紙もないなんて、随分不躾ね」
後ろから聞こえて来る声は艶めいた女のもの。さっきの雪山に、やたらと派手な紫のドレス姿でいた奴だ。
「なにぶん、宛先も分からないでいたものでして。ただ、この時期のあるタイミングでなら、ここへと割り込んで移動出来るとだけ分かっていたので、この度こちらのお嬢さんに便乗させて頂きました」
割り込む、便乗する、と言う言葉。今回俺たちは、実際その言葉通りの事をしたワケだ。
本来なら俺たちが入り込む事など出来ないハズの場所へと、この小柄な毛皮を着た奴へと便乗するかたちで。
その場所、時期、タイミングを知ること。それが“預言の柩”を使って調べる必要のあったことだ。
もう1人居た南方人の女が、毛皮を着た小柄な奴の腕を引いてアルアジルから引き剥がす。小柄ながら鍛えられた肉体を持つ南方人の女は、その存在も感じさせず近付いて、動きを察知されるより早くそれをしてのけた。俺やフォルトナにも劣らないレベルの気配の消し方に動きのスムーズさだ。
「ああ、そんなに慌てなくとも、あなた方に害を加えるような真似はしませんよ」
全く平静で落ち着いたままそう言うアルアジル。
だがそれをそのまま信じるような間抜けはここにゃ居ないようで、10人ばかりの女が、手に手に武器や杖を持ちながらぐるり周りを取り囲んでくる。
それに応じてフォルトナがトーガをはねのけ優雅な仕草で弓を構えるが、それを抑えて、
「おい、話が違うじゃねぇかよ」
と、俺が言う。
「殺しもナシ、争い事もナシ、あくまで平和に話し合ってブツを受け取る……そうじゃなかったのかよ、ええ?」
こいつらはそれぞれになかなかの手練れだ。だが魔術、魔力を使って戦うのなら俺の相手じゃない。そして単純な身体能力だけなら、人間の女がどれだけ鍛えたとしても、猫獣人戦士の俺には敵わない。やり合う事になりゃ、俺1人でもこの場の全員を斬り伏せるのはそう難しくはない。だが、今回はそれが目的じゃあねぇはずだ。
「ええ、その通りです。私達は“蜘蛛の女王の使徒”と敵対する事を望んではいません。ですので───」
ここでアルアジルは一呼吸置きながら、周りをぐるり見渡して、
「かつての過ちを改め、修復する事が来訪の目的です」
と、そう言った。
▽ ▲ ▽
ヘルヴォラと言う名のその女は、ベッドの上に横たわり、明らかに病み衰えているかのようだった。
そいつの胸の中に、“災厄の美妃”の破片が残されている……と、そう言う事だそうだ。
誰がやったのか? と言えばそりゃ“先代”の持ち手、ヒジュルだ。
「……それで」
ヘルヴォラと言うその女は、見た目のやつれ具合や、また慇懃なアルアジル、そして周り全ての憎々しげな様子からすると、驚くほどに軽い調子で俺たちに向き合ってた。
だがその声がやや強張り、緊張……いや、苦痛を滲ませながら、その服の前をはだける。
「先代の忘れ物は、どうするつもりかな?」
開いてめくられた上着の合わせ。露わになった乳房のその間、胸の真ん中に、赤黒く脈動する塊が浮き上がっている。
「……ひでぇモンだな、こりゃ」
思わず漏れ出たその声は俺のものだ。
禍々しいと言うか、痛々しいと言うか、とにかくハッキリと「見てられねぇ」と思わずにはいられない。
「さて、はじめにも言いましたが、我々には皆様と敵対する意図はありません。それは我らにとって何一つ益をもたらすものではありませんからね。
そしてかつての過ちによる遺恨も解消したい。ですので───」
促され、俺は事前に言われてた通り一歩前へと歩み出て、ヘルヴォラへと近付く。
周りには緊張が走る。
それらの反応は全て無視し、ただヘルヴォラと言う女の胸の中心、赤黒く脈打つそれへと意識を集中させると、その脈動へと呼応するように俺の心臓がどくりどくりと激しく動く。
今まで以上の悪寒と気持ちの悪さに、胸を突き破って現れる闇のごとき黒い物体……“災厄の美妃”。
声が漏れ出るのを堪えきれず呻く俺と、ベッドの上の女とを繋ぐように放たれる赤黒い光。その禍々しい魔力の束が次第に太く、大きく、激しくなると、女の胸の脈動する赤黒い塊もまた、大きく揺れ始める。
その力が最高潮に達したとき、まるで爆ぜるかのように女の胸から大量の血が噴き出し、部屋を染めていく。だがそう見えたのはあくまで一瞬、実際に起きたことはそうじゃない。赤黒い塊……“災厄の美妃”の破片が空中へと浮かび上がると、それが俺の手にある別の赤黒い塊へと吸い込まれるようにして消えた。
2人の荒い呼吸だけが部屋に響く。気分も最悪だし疲労困憊だ。病みやつれたあちらさんにも、かなりの負担だったろうが、俺だってそんなのを気にしてられる余裕もない。
ベッドに突っ伏すヘルヴォラの周りへと集まる女達。俺はと言えば、両膝に手を置いてなんとか身体を支えながら荒く吐き出される息を落ち着かせ、
「終わり、だな、これでよ?」
と、アルアジルへ。
「ええ、問題なく」
アルアジルの素っ気ない返し。続けて奴、
「忘れ物はこれで回収出来ました。お互い、利になる取引だったと言えるのではないでしょうか?」
と言う。
そこに、ヘルヴォラの横で立ち上がった南方人の女が、
「忘れるな。エンファーラの獄炎は、いつでも貴様等の喉元へと伸びる事を」
と返すと、それにはさらに、
「ええ、十分に理解しております」
と返しながら、アルアジルはゆっくりと大げさに頭を下げる。
俺はまだ、荒くなった息をなんとか整えようとしながら、倒れないようアルアジルに促され部屋を出ていく。
「いかがでしたか?」
期待のこもった目でそう聞いてくるのは、家の外で待っていたフォルトナだ。
外に居た紫のドレスの女は、俺らの立ち去るのをある程度見届けてから中へと入る。
「糞ッ……気分悪ぃぜ……」
フォルトナの期待に応えられるようなもんは今のところ無い。ただとにかく胸のムカつきが半端じゃねぇ。初めて“災厄の美妃”が現れたときと同じか、それ以上だ。
「新たな欠片が主どのの身体に馴染むのにはやや時間もかかるでしょうから、致し方ありません」
横を歩くアルアジルは、やはり感情の読めない声と態度のまま、そう言ってのけた。
▽ ▲ ▽
聖域へと戻ってからも、アルアジルの言うとおり暫くはまるで病気みてぇにうなされていた。闇の森でのときよりさらにひどい。
アルアジルの想定よりも長かったようだが、その原因は不明だ。
なんだか俺の身体の中で、別々の何かが争いあいお互いを攻撃しあってでもいるかのようだった。
熱と悪寒と、定期的に訪れる吐き気に……何よりも悪夢。
前世での事もあるし、ラアルオームでの時期の事もあれば、最近……ここ数年の、クトリア近郊でやってきたこともある。そして中には明らかに自分の経験とは無関係な、闇の森でのことや、ゴブリンやダークエルフとの事も出てくる。
そしていずれの悪夢でも、目覚めるときには血溜まりの中に浮かぶ白い女の姿が見える。
白猫……マハのように見えるときもあれば、ムーチャやルチア、猫獣人部族や犬獣人部族、その他全く知らない誰かのように見えるときもあり、またヘルヴォラとかいう女やそこで見掛けた誰かに似ていたり、ヴィオレト……あるいは前世での小森や宮尾、上芝や亀谷……そして、オフクロ……今更になって思い出すのが意外なほど忘れてた誰かに似ていたりもした。
その血塗られた女は、俺へと誘いの目を向けながら微笑む。
陰惨で恐ろしく、また魅力的で官能的に───。
▽ ▲ ▽
「リカトリジオスの新たな動きが見えてきましたぞ」
と、フォルトナから報告が入るのは、その不調がなんとか落ち着いて来た辺りだ。
カーングンス遊牧騎兵。東カロド河を渡った先の、赤壁渓谷とかって辺りに住んでる東方人たち。
「どうやらリカトリジオスは奴らと同盟を組み、クトリアを東西から挟撃しようと考えているようです」
「へぇ……となるとそりゃ……」
「無事締結してもらう方が良いでしょうな」
“三悪”筆頭とする魔人勢力、ヴァンノーニ家を失った不均衡を均すには、そうするのが一番なワケだ。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』
KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。
ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。
目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。
「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。
しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。
結局、悠真は渋々承諾。
与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。
さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。
衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。
だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。
――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる