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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-286.マジュヌーン(127)地下水道の月
しおりを挟む完全には塞がれていない貧民街の地下水道に月が落ちている。
暗い水の中形を変えるそれは、仄暗い下水道の道しるべだ。
そこに満ちてるのは汚物と排水のよどんだ臭気。湿りを帯びたそれは、さらには潮の匂いも含んでいる。
暗いその通路は地下水道で、普段ならネズミと盗賊ギルドのチンピラ、そして自宅を持つことも借家を借りることも出来ない貧民や、戦乱を逃れてきた流民の居場所だが、ここのところはそれらの姿も減っている。
代わりに徘徊しているのは、さして多くはない巡回警備兵に盗賊ギルド……俺や“闇の手”の信奉者か、それよりさらに厄介な連中だ。
その地下水道の通路、固まり始めた血の跡は、引き摺られ下水の中へ続いている。
人間、恐らくは南方人。それ程若くないだろう男……。
血の付き方からしてそう体格は良くない。やや小柄で中肉中背、どこかしら身体を壊していたかもしれない。
ボバーシオの巡回警備兵が通りかかっても見過ごしただろう。ただでさえ不快で暗い下水道の中、痕跡は何者かが消そうとしてもいる。
これを見つけられたのは猫獣人の優れた感覚に、今俺の横にいる“闇の手”の従者、南方人戦士ウペイポの観察力だ。
「ここしばらくの間で、この様な痕跡が増えていやす」
小柄なキツネみたいな犬獣人のネルキーと共に、ボバーシオ、残り火砂漠方面の調査工作を担当しているウペイポは、大柄な体つきのわりにはなかなかの隠密、探索上手でもある。猫獣人の俺の目では人間ほどに色の区別はつかねぇが、旅商人のふりをしている普段は着てない赤黒い色の戦士装束は、暗闇にもうまく溶け込む。
「……なるほどな。コレが奴なりのやり方……ってことか」
誰に言うでもなく呟く俺に、ウペイポは軽く訝しげな視線を向けるが、不躾な言葉は発しない。
一部の例外を除けば、“闇の手”の崇拝対象である“災厄の美妃”の持ち手の俺に対する崇拝者の態度はコレが普通だ。
とは言え、別に思わせぶりな事を言うつもりで言ったワケじゃない。
コレが何で、誰がどういう目的でやっているか。ウペイポでは察する事も出来ないそれを、俺はハッキリと分かっている。
△ ▼ △
ボバーシオ周辺の状況は、ウペイポやネルキーら“闇の手”の外部構成員から逐一連絡が入っては来ていた。とは言え宮廷内部の細々した動きや、リカトリジオス軍の細部までとはいかない。
それでもここ最近で大きく動く前兆は幾つもあった。
まず一般市民の数が減ってきた。逃げ出して流民になってんのかって言うとそうでもないとかで、ウペイポ曰わく計画的な避難が始まってるんじゃねぇか、って話。
これだけでもまあ、あり得ねえ。戦況が不利だからって、王侯貴族様より先にただの市民を逃がすなんてな聞いた事ぁねぇぜ。フツーなら、捨て石の死に兵として使われそうなもんだからな。
と同時に、船が増やされ頻繁にどこかと行き来してもいる。そこには海賊ギルドの一部もなにやら噛んでるらしく、水面下でのギルド内の抗争もありえる。
そして一番デカいのは、
「……ボバーシオ王が死ぬ、って?」
「へぇ。前々から具合は良かねぇって話でやしたがね。どうもあの慌ただしさは、いよいよ……ってんじゃあねぇかと」
あくまで予測ではあるが……とは言うが、まあそれが今の妙な動きの裏にあるってんならそれはそれで考えられる。
「いずれにせよ、戦況は大きく動きますな」
そうわかりきった事を改めて言うフォルトナ。だがまあその通りだ。だからこそ今、こうしてまたボバーシオにまでやってきて探りを入れてる。
この地下水道の痕跡もまた、その動きに関係してる。俺としては手始めにソイツを追い掛け、探し出すところから始めるか。
△ ▼ △
闇の奥底に蠢くのは数人の男。身なり風体、ボロ着姿で髪や髭の手入れもままなってない。下水道の隅、奥まった区画の一部にひっそりと隠れるようにしている、典型的な貧民のようだ。
そいつらは半ば怯えるような、半ば放心しているような、傍目にゃどうにも判別つかない様子だ。
中には奇妙な薄ら笑いを浮かべたり、陰鬱な上目遣いでブツブツと小声で何かを呟いたりしてる奴も居る。まあお世辞にも、すすんでお近づきになりたい雰囲気とは言えねぇな。
そこへ、新たに近付いてくる別の気配。
普通ならそれに気付かない。貧民らしき集団もそれに気付いた様子はない。足運び、音の立てなさ、全てが熟練、手練れのそれだ。
物音もさせず近づく小柄な影が角を曲がろうとするその背後へと、俺は回り込む。
気付かれてなかったか、と言えば、多分違う。お互い既に分かっていた。分かっていて、奴は俺を待った。
「───始末、つけるか?」
「そろそろな」
濃い茶と白と黒の短めな毛並み。目の周りを縁取るような黒い模様が特徴的だったが、その半分は額の中心からバツの字に広がるただれた傷跡で隠れてしまっている。
アラークブ。
かつて“砂漠の咆哮”のカリブルの従者をしていた犬獣人戦士。だが本当はリカトリジオスから送り込まれた密偵で、“砂漠の咆哮”を危険視し内部を探り、また瓦解させるべく工作をしていたが───従者として従っていたカリブルに心酔し、それを助けるべく動いた。だがその行動は俺とラアルオームの農場を生け贄としてリカトリジオス軍……いや、今や東征将軍として実権を握っている前世での俺の腹違いの兄、シュー・アルサメットと名乗っている男へと差し出す作戦への協力だった。
そして農場も“砂漠の咆哮”も壊滅的な被害を受け、カリブル含めた多くの仲間は殺され……奴もまた全てを失った。
俺からすれば仇の一人だ。奴の手引きで多くの仲間……カシュ・ケン、ダーヴェ……マハは殺された。
だが、奴がそれをしていなかったとして……結果は大きく変わっていたか? 多分、違う。今になりゃそれはハッキリと分かる。アラークブの動きも思惑も、シューからすれば些末なことで、奴がシューの提案に乗らず、逆らっていたとしても、ただシューの使う駒が入れ替わっていただけだろう。
「細かく始末して回ってたみてぇだが、そりゃ悪手だ」
俺のその言葉に、アラークブは沈黙で返す。
「奴らが送り込んで来た“シーリオの食屍鬼奴隷兵”……。気付かれず見張っておいて、動きを追う方が良い」
そう。アラークブは工作員として送り込まれていたシーリオ住人から作り出された食屍鬼の奴隷兵を、密かに処理していた。
正気のときの食屍鬼は、普通の人間からは見分けがつかねぇ。こうして下水道に隠れ潜んでりゃさらに分かりゃしねぇだろう。ボバーシオの巡回警備兵がどれだけ見て回ったところで、食屍鬼兵の潜入を炙り出せはしない。
だが俺もアラークブも、かつての廃都アンディル、またその後の経験から、食屍鬼独特の匂いは覚えている。見た目や振る舞いが生前とほぼ変わらないような、正気の食屍鬼であっても、こびりついた死臭は隠しきれねぇ。
その食屍鬼の潜入工作員を、見つけ次第に始末してれば、確かにボバーシオ陥落の先延ばしは出来るかもしれねぇが、それじゃあ俺たちの本来の狙いには届かない。
「手数はコッチが用意してる。テメーは今の時点で把握出来てること、まずはそれを全部吐き出しな」
俺のその言葉に、アラークブはただじろりと空洞のような目で視線を返すだけだった。
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