遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-293.マジュヌーン(131)月に吠える

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 長く、艶やかな毛並みを自慢にしていた。
 なんでもそれは、砂漠の犬獣人リカート達の中でも由緒正しい高貴な部族の証しだと言う。
 実際のところどうだか知りゃあしねぇが、見た目の印象だけで言えば確かに高貴そうな雰囲気を醸し出してはいた。
 
 少しだけ、聞いたことはある。
 サルフキルのその部族は確かに砂漠の犬獣人リカート部族たちの中じゃ中心的な存在だったが、今のリカトリジオス軍の主力であるリカリウス族との勢力争いに敗れ、落ちぶれたんだと言う。
 
 かなり昔の話で、サルフキル自体まだ生まれても居なかった頃の事。
 だがそのことが、“砂漠の咆哮”の中で反リカトリジオス軍の派閥を作り出した理由のひとつじゃなかったかと言えば嘘になるだろう……てな。
 
 ▽ ▲ ▽
 
「マジュ……ヌー……ン……」
 口から漏れ出るその言葉は、半ば掠れた吐息。
 全身から漂うのは死臭。それもつい最近のもんじゃねぇ。少なくとも数年は経った死体……いや、食屍鬼グールのそれだ。
 
 ラアルオームの惨劇後に行方知れずとなってた“砂漠の咆哮”メンバーは少なくない。たいていは死体の損壊が激しく誰かも分からない状態になっているか、ルゴイやレイシルドのように遠くに逃れて再起を計っているか……ムーチャのように隠遁したか。しかし中には捕虜、奴隷として連れて行かれた奴らも居るだろう……ってのは予想はされていたこと。
 けれどもその先に……食屍鬼グール化させられた上での支配とまでは予想されて……いや、していなかった。
 
 ああ、分かりやすい“影武者”だ。犬獣人リカートだけでなく、猫獣人バルーティ猿獣人シマシーマも、たいていの獣人種は部族、民族ごとの特徴が大きい。近い親族や部族ならば、ちょっと遠目に見りゃ区別もつきゃしねぇってのもザラだ。
 クトリア家畜小屋生まれの元獣人奴隷のシュー自身は自分の部族が何かも分からなかったが、その中で見つけた「恐らくは同じ部族のよく似た犬獣人リカート」なんてなレアユニット。
 
 利用しない手はありゃしねぇだろう。
 
「……頼む、解放……して、く……れ……」
 
 祈り、或いは懇願。
 
 さらさらと風に靡いてた艶やかな白い長毛はごわごわに荒れ、しなやかな筋肉質の身体も強張り屍臭を放ち、金色の丸い目は赤黒く膿んだ色。
 
 食屍鬼グールの肉体の状態には個体差が大きい。成り立ての頃はほぼ生前と変わらない。
 時が経ち、狂気を繰り返し生者を喰らい、そうしながら魔力が蓄えられていけばそれだけ変化をしていく。
 サルフキルはだが、俺が今までに見て、そして戦ってもきた特殊食屍鬼グールのような変化をしてはいなかった。
 ただ赤黒く浮き上がった血管が、それでいて脈動する魔力の光をわずかに漏れ出させて居る。
 魔獣における魔力飽和状態……ブランコ団の“狂っていない”半死人のハシントと近い状態だ。
 
 許容量ギリギリまで体内の魔力が膨らみ、だが暴発はしない。
 恐らくはその魔力量は絶妙なまでにコントロールされている。
 
 サルフキルに魔力を“与えた”奴の魔力制御の巧さが、それをやってのけているんだろう。
 
 シュー・アルサメット。
 
 クトリア邪術士により作り出された、犬獣人リカート魔人ディモニウム
 他者、或いは物に魔力を与える能力を持つ者。
 
 俺の……獲物。
 
 そのハズだった。
 
 そう長くはない茫然自失とした空白。
 
 だがその短い時間を、サルフキルの手にした“食屍鬼グール支配の血晶髑髏の杖”が打ち破る。
 振られた杖の先端、血の色に赤黒く輝く髑髏が俺の背を打とうと振り回され、また追い打ちを狙う。
 サルフキルの意志じゃねぇ。
 奴もまた、食屍鬼グールとして支配され操られている。
 別の位置から遠隔でサルフキルを操り、サルフキルは前線で食屍鬼グール犬獣人リカート兵を操る。二段構えの支配……。そう言うことだろう。
 
 周りを囲む食屍鬼グール犬獣人リカート兵もまた、ある部隊は盾と剣を構え、別の隊からは飛び上がって押さえ込もうとする数人が現れる。
 
 低く回転する動きでサルフキルの死んだ肉体から“災厄の美妃”を抜き去る。深く抉りながらのそれは、食屍鬼グールの弱点でもある胴の中心、魔力点の一つを破壊し全てを奪う。
 崩れ落ちるサルフキルの身体を今度は右肩で受け止めてから上体を跳ね上げて担ぎあげると、上から降ってくる狩人食屍鬼ハンター・グールへとぶつける。そこからさらに盾を構えた一隊へぶん投げた。
 
 それを今度は足場にして隊の頭上を越えて飛び上がり、そのまま城壁へと足をかける。
 既に放って居るのは腰につけてたフック付きのロープ。投げ上げたそれは胸壁へとしっかり引っかかり、振り子の反動でそのまま高くへ飛び上がった。
 視界がぐるり半回転する最中に、俺は広く周囲を見回す。
 夜中、さっきまでは月も隠れていたが、今はやや明るくなっている。
 雲から顔を出した月の光に、後方からうっすらと見える別の部隊。
 その真ん前には、やはり輿に乗った将官らしき……白く流れるような長毛の犬獣人リカート
 片手に血晶髑髏の杖を持ち、もう片方には目元には黒い縁取り、顔の真ん中にただれた疵痕のある犬獣人リカートの首を掲げているように見えたが、それをハッキリと確認している余裕もない。
 
 城門の内側は未だ混乱中。雪崩れ込んだ食屍鬼グール犬獣人リカート兵部隊はそれだけでも脅威のはずだが、上から見ると城門の内側に黒い沼地が広がっているのが見える。そこに部隊の半数がずっぽりとはまり込んでいて、自由に動けているのは少数だ。
 
「主殿!」
 叫ぶフォルトナを一睨みし、そのまま顎先でついて来いと指示。炎の矢を撃つダークエルフもまた、侵入して来た食屍鬼グール犬獣人リカート兵へとかかりっきりだ。
 
 そのまま下へ降りてムスタと合流し三人揃って下水の中へ。
 用意していた小舟に乗り込むと、シーリオ食屍鬼グール兵を操っていた血晶髑髏の杖を持つアルアジルと、元々城内への潜入を続けていたウペイポとの合計5人で下水口から湾へ、湾から海へと出て行った。
 
 結局のところ……そう、結局のところ、何ら成果も得るものもないままに、俺は戦場を後にした。
 
 
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