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その9
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これってもう偶然通り越して奇跡だよね?
だってさ、偶然すれ違っただけの人と再会しちゃってしかもそれが、あの大河内物産の御曹司だよ?
生粋のセレブだよ?
なるほど上品さが自然で身についてるはずだよね。
歩き方も背筋がピン! って伸びてスゴク優雅だったもんね。
育ちがいいっていうのはこういうことかと彼を見ていたらそう思う。
それでいて近寄りがたいとは感じない親しみやすさもある。
それってあれかな?
大河内物産社長の番のオメガっていえば、元アルバイトで一般の人だったって話は、オメガの間では超有名な話。
オメガなら誰もが憧れるシンデレラストーリーだ。
口にはしなくても、いつか自分にもそんな素敵な番が現れることを、誰もが望んでいる。
もしかしたらだけど、きっとその番の奥様も、彼、音羽くんと同じように優しそうなオメガさんなんだと思う。
匡哉くんだっけ? なんと、音羽くんのダンナなんだとか。
若いのになんとすでに結婚しているなんて……。
アラサーになるまでぐずぐず皇さんへの思いをこじらせていた僕とは大違いだ。
赤ちゃんが欲しいとただそう素直に言う音羽くんに、僕は羨ましくも微笑ましく、そしてとてもまぶしく見えた。
僕にはこんな風に、素直に自分の気持ちを話すことが苦手だから、なおさらそう思うのかもしれないけど。
僕がもっと皇さんにこんな風に話せていたら、違う結果があったんだろうか……。
バァァァァァァン!!!!!!!
けたたましい音を立てて、阿弥先輩がやってきた。
「颯太!!!」
自分では落ち着いてたつもりだったけど、阿弥先輩の顔を見たとたん、涙がとめどなくあふれてきた。
「阿弥先輩!!!
……阿弥先輩ぃぃぃぃ……!!!」
思わずすがるように抱き着いてしまう。
オメガにしては長身の阿弥先輩は、僕の頭を胸に抱えるように髪を撫でた。
「すめらき、さんがっ……すめらぎさんが……」
僕は子供のように嗚咽した。
だって……阿弥先輩はいつだって優しくて……そんな阿弥先輩にだけは、昔から本当のことを話せた。
就職したばかりの僕は気持ちばかりが先走って仕事でもうまくいかないことが多くて、頑張ろうって気持ちがほんとに空回りして、失敗ばっかりだった。
阿弥先輩は僕と同じオメガだったけれど、インテリでエリートで、それでいてかっこよくて、友達っていうより、憧れの人。
自分の無力さに打ちひしがれてどうしようもなくなった時も、声をかけてくれて、元気づけてくれた。
就職した福福食品はオメガに理解のある職場だったけど、取引先の中には露骨に嫌悪感を示す人だっていたし、セクハラまがいのことを言ってくる人も少なくなかった。
だけどそんな僕をかばって助けてくれたのも、励まして支えてくれたのも、ぜんぶぜんぶ阿弥先輩で。
僕は、家族でただ一人のオメガだったから、やっぱりベータの姉弟たちには相談しにくいこともあったけど、そういうことを含めて、いつも僕の助けになってくれたのは、阿弥先輩だったんだ。
妊娠した時も、まっさきに相談したのは阿弥先輩。
結局は、実現しなかったんだけど、阿弥先輩は
「颯太、私のとこにぜひいらっしゃいな!
一緒に暮らしましょーよ?
大丈夫!
こうみえて子だくさんの家に育ったから、子供や赤ちゃんの面倒はお手の物よ!!!
その方がアタシも心配ないし、一石二鳥ね!」
って言ってくれたんだ。
皇さんと結婚が決まった時も、すごく喜んでくれて。
それなのに、それなのに。
その皇さんに捨てられたなんて、祝福してくれた阿弥先輩にも申し訳なかったし、自分が情けなくて仕方ないよ。
だけど先輩は、やっぱりいつもの阿弥先輩で……健也さんから連絡をもらってすぐに僕のところに駆けつけてくれた。
「可愛そうに……こんなに目を腫らして……分かったわ!!
颯太!!
今日は、うちにお泊りなさい!!
じっくり!! ええ、じっくり話を聞かせてもらうわ!!
それから、対応を考えましょうね。颯太。
……ええ、こんなに泣かせたんですものね、もちろんそれ相応の対応、をね……。
さぁさ、颯太、もう泣き止んで?
………そんなに泣いたら、お腹の子にも毒よ?」
僕はただ頷いた。
そうして阿弥先輩とともに失礼しようとしたんだけど。
「……ぁ。きゃあぁぁ!!
何この子、すごく可愛いぃぃ!!
お人形さんみたい!!
お肌もぷりぷりじゃない!!
お持ち帰りしたいわぁぁぁ!!
……っと!!
あら、ごめんなさい。私ったら、ハシタナイ」
……忘れてた……。
阿弥先輩、音羽くんみたいなカワイイ子、見逃すわけないよね?
だってさ、偶然すれ違っただけの人と再会しちゃってしかもそれが、あの大河内物産の御曹司だよ?
生粋のセレブだよ?
なるほど上品さが自然で身についてるはずだよね。
歩き方も背筋がピン! って伸びてスゴク優雅だったもんね。
育ちがいいっていうのはこういうことかと彼を見ていたらそう思う。
それでいて近寄りがたいとは感じない親しみやすさもある。
それってあれかな?
大河内物産社長の番のオメガっていえば、元アルバイトで一般の人だったって話は、オメガの間では超有名な話。
オメガなら誰もが憧れるシンデレラストーリーだ。
口にはしなくても、いつか自分にもそんな素敵な番が現れることを、誰もが望んでいる。
もしかしたらだけど、きっとその番の奥様も、彼、音羽くんと同じように優しそうなオメガさんなんだと思う。
匡哉くんだっけ? なんと、音羽くんのダンナなんだとか。
若いのになんとすでに結婚しているなんて……。
アラサーになるまでぐずぐず皇さんへの思いをこじらせていた僕とは大違いだ。
赤ちゃんが欲しいとただそう素直に言う音羽くんに、僕は羨ましくも微笑ましく、そしてとてもまぶしく見えた。
僕にはこんな風に、素直に自分の気持ちを話すことが苦手だから、なおさらそう思うのかもしれないけど。
僕がもっと皇さんにこんな風に話せていたら、違う結果があったんだろうか……。
バァァァァァァン!!!!!!!
けたたましい音を立てて、阿弥先輩がやってきた。
「颯太!!!」
自分では落ち着いてたつもりだったけど、阿弥先輩の顔を見たとたん、涙がとめどなくあふれてきた。
「阿弥先輩!!!
……阿弥先輩ぃぃぃぃ……!!!」
思わずすがるように抱き着いてしまう。
オメガにしては長身の阿弥先輩は、僕の頭を胸に抱えるように髪を撫でた。
「すめらき、さんがっ……すめらぎさんが……」
僕は子供のように嗚咽した。
だって……阿弥先輩はいつだって優しくて……そんな阿弥先輩にだけは、昔から本当のことを話せた。
就職したばかりの僕は気持ちばかりが先走って仕事でもうまくいかないことが多くて、頑張ろうって気持ちがほんとに空回りして、失敗ばっかりだった。
阿弥先輩は僕と同じオメガだったけれど、インテリでエリートで、それでいてかっこよくて、友達っていうより、憧れの人。
自分の無力さに打ちひしがれてどうしようもなくなった時も、声をかけてくれて、元気づけてくれた。
就職した福福食品はオメガに理解のある職場だったけど、取引先の中には露骨に嫌悪感を示す人だっていたし、セクハラまがいのことを言ってくる人も少なくなかった。
だけどそんな僕をかばって助けてくれたのも、励まして支えてくれたのも、ぜんぶぜんぶ阿弥先輩で。
僕は、家族でただ一人のオメガだったから、やっぱりベータの姉弟たちには相談しにくいこともあったけど、そういうことを含めて、いつも僕の助けになってくれたのは、阿弥先輩だったんだ。
妊娠した時も、まっさきに相談したのは阿弥先輩。
結局は、実現しなかったんだけど、阿弥先輩は
「颯太、私のとこにぜひいらっしゃいな!
一緒に暮らしましょーよ?
大丈夫!
こうみえて子だくさんの家に育ったから、子供や赤ちゃんの面倒はお手の物よ!!!
その方がアタシも心配ないし、一石二鳥ね!」
って言ってくれたんだ。
皇さんと結婚が決まった時も、すごく喜んでくれて。
それなのに、それなのに。
その皇さんに捨てられたなんて、祝福してくれた阿弥先輩にも申し訳なかったし、自分が情けなくて仕方ないよ。
だけど先輩は、やっぱりいつもの阿弥先輩で……健也さんから連絡をもらってすぐに僕のところに駆けつけてくれた。
「可愛そうに……こんなに目を腫らして……分かったわ!!
颯太!!
今日は、うちにお泊りなさい!!
じっくり!! ええ、じっくり話を聞かせてもらうわ!!
それから、対応を考えましょうね。颯太。
……ええ、こんなに泣かせたんですものね、もちろんそれ相応の対応、をね……。
さぁさ、颯太、もう泣き止んで?
………そんなに泣いたら、お腹の子にも毒よ?」
僕はただ頷いた。
そうして阿弥先輩とともに失礼しようとしたんだけど。
「……ぁ。きゃあぁぁ!!
何この子、すごく可愛いぃぃ!!
お人形さんみたい!!
お肌もぷりぷりじゃない!!
お持ち帰りしたいわぁぁぁ!!
……っと!!
あら、ごめんなさい。私ったら、ハシタナイ」
……忘れてた……。
阿弥先輩、音羽くんみたいなカワイイ子、見逃すわけないよね?
応援ありがとうございます!
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