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番外編 ジェフリーの奮闘②
午後の第四試合に、リチャードは登場した。
相手は奇しくも同じ部隊に所属するダニエル・ウォード。
フレデリカの夫だ。
お互いに剣をかまえ、合図とともに激しい金属音が響き渡る。
第一部隊で最も体格のいいダニエルは、アルファであるリチャードよりも、さらに頭半分は大きい。
体格に比例したすさまじい腕力を剣にのせ、ダニエルはリチャードに襲い掛かる。
早さで優るリチャードはいなしながらそれを交わし、剣の向きを変える。
呼吸を深く小さく整える。
大丈夫、俺はやれる……。
このところ、リチャードは騎士団長のバーナバスやその側近たちに、大いに可愛がられている。
それは目をかけられているというより、自慢の甥御を取られた叔父のちょっとした腹いせだったのかもしれないが、百戦錬磨の騎士団長の剣技は流石団長殿、と言うべきもので、そのバーバナスに直接稽古をつけられていたリチャードの剣技は、一つ上の段階へと引き上げられていた。
冷静にダニエルの剣筋を見極めながら、リチャードは確実にダニエルにダメージを与えていた。
思う様に攻撃のできないダニエルは、次第にイライラと不用意な攻撃をし始めた。
得物である長剣が、ダニエルの手から落ちたのは、それから十合ほど打ち合った後のことだ。
わぁっと、観客席から怒号のような歓声が沸き上がった。
不思議なのは隣にいるフレデリカが手を振りあげながらリチャードの勝利を喜んでいたことだったが、とにかくこれで最終日の決勝トーナメントに参加できる資格を得た。
ジェフリーは観客に応えて手を振るリチャードに、惜しみない拍手を贈った。
すごい!!
カッコイイ!!
改めて自分の伴侶に惚れ惚れとしながら、ふと、ジェフリーは考えた。
残念ながら最終日は午前中には試合がない。
不名誉を注ぐ機会はないにしろ、せめてリチャードのために何かしたい。
そうだ……リチャードの好きなコンフィ。
七つ目ウサギのコンフィを、決勝戦の前夜の晩餐とするのはどうだろうか。
非常によい思いつきだ……。
そう考えていたのに。
「リリリ、リチャード!!!
お帰りなさい!!!」
料理が何もできてないばかりか、それどころか……。
「……なんの匂い……だ?
なんだか焦げ臭くないか??
何か焼いていたのか?」
ああ、焦げちゃったか……。
低い油で揚げるコンフィは、意外に火加減がむずかしい。
実家で働く料理人に調理方法を聞いた時は、なんだ、低い温度で揚げるだけなら簡単そうだと思った自分の首を絞めてやりたい。
「えっ?!
そ、そう??
気のせいじゃないかな??」
さりげなく七つ目ウサギの骨付き肉の入った鍋を、体で隠す。
しかしそんなジェフリーの体越しに、リチャードは鍋の中を覗き込んだ。
「ふわぁ……だめ!!!」
「……肉……?」
「……も……、だめったら……!!」
「焦げたのか?」
「もぉ、やだったら!!!」
ジェフリーはリチャードの体を押しながら、こんなはずじゃなかったのに、と、目頭が熱くなった。
すると、ジェフリーの声が湿り気を帯びたことに気付いたリチャードは、ジェフリーの顔を覗き込む。
「ジェフリー?
……どうしたんだ?」
「……ひぃ…く。
……うまく、出来な……くて……」
リチャードは目の端に涙をためるジェフリーの姿に、思わずドキリと胸を高鳴らせる。
い、いや、今は可愛いなんて考えてる場合じゃ……。
とにかく、ジェフリーをなだめなきゃ……。
リチャードは優しい声でジェフリーに語りかけた。
「ジェフリー。
ちょっぴり焦げただけだ。
全然大丈夫だよこれくらい。
話したろ?
冒険者の時にはパーティー組んでたみんな、料理が下手で消し炭みたいになった肉を文句言い合いながら食べてたって。
だからこんな焦げなんて、焦げのうちに入らないよ」
そう言うことじゃなくて、と、ジェフリーは声を荒げた。
「……そんなんじゃだ……め、だから!!!
リチャだって、みたろ?
騎士団員の、奥方の中でっ……俺のが一番、ダメだった!!!
皆……皆、あんなに、美味しそうな料理っ……作って、食べさせてた、のに!!!
リチャ……、だけ、俺の、ダメな料理……!!!」
話すうちに、ジェフリーは二日前のことを思い出して涙腺が決壊したように激しく、咽るように、泣き始めた。
そんな涙でぐしぐしになったジェフリーの顔を、リチャードが両手で包み込む。
「ジェフリー……俺のジェフ!!
泣いてる顔もすごく可愛いけど、ジェフリーは、勘違いしてるよ?」
「ふぇぇ……!?」
「まず言っとくけど、ジェフリーの料理は、凄くおいしい。
塩加減とか俺の好みだし、お肉の焼き加減とかもバッチリで柔らかくてジューシーだ。
そんなジェフリーの料理を毎日食べられる俺は、凄く、凄く幸せ者だ。
その二に、ジェフリーが俺のために毎日食事を作ってくれるなんて、俺は朝起きるたびに自分の幸運を神に感謝している。
考えてもみてくれ。
君は魔法宮のトップで、偉大な魔術士で、誰よりも美しくて、聡明で……王妃になっててもおかしくないほど気品があって……はっきり言って貴族なんて名ばかりの俺なんかにはもったいないくらいの伴侶だ。
だから俺は毎朝起きるたびに、すべてが夢じゃないかと、そんな風に感じるんだ。
傍にいてくれるだけでも十分なのに、俺のために一生懸命料理をしてる姿を見るだけで、信じられないほど満たされた気持ちになる。
そんなジェフリーが作ってくれる料理が、ダメな料理なはずがあるか。
愛情がたっぷり詰まってるんだぞ。
はっきり言っても、俺はそれが泥団子でも迷わず食べれる。
迷わず食べれるけど、ジェフリーの料理はさっきも言ったけど、凄く美味しい。
だから二度と、ダメな料理だなんて、そんな事言わないでくれ」
リチャードのあまりに真剣なまなざしに、ジェフリーは気圧された。
「だ、だけど……。
リチャードは強くて……かっこよくて、優しくて……。
俺は他の人たちみたいに普通の家庭なんて知らないし……、どうふるまっていいのか分からない。
それに他のお家の料理は可愛くて……豪華で……俺……すごく恥ずかしかったんだ!!!
あんなガサツな料理を自信満々で持って行って……リチャードに恥ずかしい思いをさせたんじゃないかって……ただ申し訳なくて……」
リチャードは優しくジェフリーの涙の後の残る頬を、掌でくすぐった。
ジェフリーはその手の暖かに思わず、蕩けてしまい、知らず知らずのうちに体をリチャードへと摺り寄せた。
「だから、それも勘違いんなんだ。
ジェフリー。
休憩時間の時、みんなジェフリーの料理を食べたがっていたろ?」
確かに、ジェフリーの料理を見た数人の騎士が「食べさせてくれ」と言ってきて、奥方に肘でつつかれていたけれど……。
「……実をいうと、今回ジェフリーの手料理を見た騎士団の連中、俺のことを羨ましがって、顔を合わせるたびに揶揄われているんだぞ?」
とても信じられない、そんな馬鹿な、とジェフリーは目を見開いた。
「他の騎士団員たちの昼飯だが……ここ数年、どこの家庭も見栄を張りすぎて、有名料理店に料理を頼んでいるそうなんだ。
でも見た目ばかりで美味しくない冷めた料理は全然美味しくないらしい……。
そこにもってきてジェフリーの作った料理は精霊魔法で出来立てみたいな状態だったから、匂いもすごくいいだろう?
それでなくても食欲を刺激されてるところに、俺がジェフリーの作った料理をおいしそうに食べてたから、より一層羨ましかったらしいぜ?
それに、加えて。
ジェフリーが恥ずかしそうに食事してる姿が、尋常じゃなく可愛かったからな。
俺も他の連中に邪なことを想わせないように、見せつけるように触れたりしてたから、その場にいた全員、さぞかし心穏やかじゃなったろうな?
それから、ダニエルが言ってたけど奥方のフレデリカは料理がひどく苦手なんだそうだ。
しかも一度少し味のことでちょっと文句を言ったら二度と作ってくれなくなったとかで、今は料理を作ってもらうだけの女給を雇っているそうなんだ。
……そんな訳だから、隊員たちの中で俺のポジションは、美人の妻に愛情たっぷりの手料理を作ってもらう、騎士団一の果報者、なんだが……」
そう言うと、リチャードは唇で、ジェフリーのそれに啄むように愛撫した。
「ジェフ。
そんな風に、君と結婚してからこっち、俺には不幸がまったく寄り付いてこない。
どうやら不幸の方が逃げていくみたいだ」
キスの合間にそんな言葉を囁くリチャードに、ジェフリーは身体の力が抜け、縋りつくように服の胸元を握りしめた。
「リ……チャ……」
ジェフリーの身体からぐっと深くなった甘い香りが放たれ、リチャードの鼻腔を刺激した。
あーヤバイ。
ホントにヤバイ。
ジェフリーが可愛くて、我慢できそうにない。
でもあと二か月で生まれてくる子供のために、我慢しなけりゃならない。
だから今日は……そう、ちょっぴり触る、だけだ……。
リチャードはそう言い訳しながら、ジェフリーの力の抜けた体を抱き上げ、寝室へと向かうのだった。
昨晩、主に唇と舌で伴侶の体を堪能したリチャード・ブレスコットは、朝の光に目をこすりながら体を起こした。
ジェフリーはまだ眠っている。
じっくりとジェフリーの体を可愛がったあと、入浴中にもかかわらず、ジェフリーは浴槽の中で眠ってしまった。
眠りながら体を丸めるジェフリーの長く美しい髪を、しっかり丹念に水分を取って乾かしたつもりだったが、乾かし方が足りなかったのか、ちょっぴり寝癖がついていた。
そんな小さい寝癖も、ジェフリーにかかれば凄く可愛らしい。
リチャードは穏やかであどけないジェフリーの寝顔に口付けを落とし、音を立てないよう気を付けながらキッチンへと向かった。
どうやら昨晩聞き出したところによると、ジェフリーは自分のために七つ目ウサギのコンフィを作ろうとしたらしい。
昨晩から鍋の中に入ったままの肉を取り出すと、リチャードは焦げた部分を削ぎ落とすと、残りの部分を鼻歌を口ずさみながらうすく切り分けた。
精霊たちによって冷たく保たれている食糧庫からレタスを持ち出し、一枚ずつ外して水でさっと洗う。
水の精霊ドリューは、リチャードが「桶に水が欲しい」なんてつぶやくだけで、ちゃんと用意してくれるのだから非常にありがたい。
ジェフリーに言わせると、普通は魔術師以外の人間の「お願い」を聞くなんて、あり得ないそうだ。
それは俺じゃなくて、それだけジェフリーが精霊たちに愛されているという証拠なのだろうと、リチャードは思っている。
簡単にウサギのコンフィもどきとレタスをパンにはさんでサンドイッチを作り終わった頃、ジェフリーが起きてきた。
「おはよう、ジェフリー」
「リチャ、おはよう……」
恥ずかしそうに、ジェフリーは頬を染めながら食卓のテーブルに着いた。
その表情は察するに、昨晩ベットの上での出来事を思い返しているに違いない。
艶のある表情に、リチャードも昨晩のジェフリーに思いを馳せる。
それにしても昨晩のジェフリーは……想像以上に可愛かった。
小さく震えながら愛撫に反応し切ない声を上げるジェフリーの身体には、リチャードの愛撫の痕跡がうっ血して花のように散らばっていた。
ジェフリーの胸や首、ふとものの内側など、やわらかく白い肌に残るのはリチャードのにつけられた愛の証……。
うっく、思い出すとヤバイ。
リチャードは無理やり甘い記憶を封じ込めると、ジェフリーの向い側に腰を下ろした。
「コンフィ……サンドイッチになっちゃったね……」
「美味しいだろ??
さすが、俺の奥さんが作っただけはある」
「……馬鹿……」
真っ赤になりながら、ジェフリーはサンドイッチを口に運んだ。
そうしてお互いに微笑みあいながら食事を済ませた後、リチャードは身支度を済ませ、一足先に会場へと出発した。
「頑張ってね?」
そう言うと、見送りに戸口に来ていたジェフリーはちょっぴり背伸びをしてリチャードに口付けを贈った。
……なんだか全然、誰にも、負ける気がしないんだけど。
ジェフリーからの嬉しい励ましに、リチャードは自然と体の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。
「絶対優勝するから」
リチャードはジェフリーにそう宣言し、笑みを浮かべ我が家を後にした。
その日、見事優勝したリチャードに、団長であるバーナバスが「優勝は俺に勝ってからだ」とか言い出して剣を片手に競技場に乱入したり、バーナバスを止めようと幹部たちが追いかけてきたり、それを見ていたジェフリーがリチャードに駆け寄ったりと、闘技場は大混乱、前代未聞の大騒ぎになるのだが……それはまた、別の話である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一応貴族になのに使用人がいない理由……。
料理以外の家事が精霊魔法でほぼまかなえてしまえるためどえす☆
もちろん二人でイチャイチャしたいという理由もあり……。
相手は奇しくも同じ部隊に所属するダニエル・ウォード。
フレデリカの夫だ。
お互いに剣をかまえ、合図とともに激しい金属音が響き渡る。
第一部隊で最も体格のいいダニエルは、アルファであるリチャードよりも、さらに頭半分は大きい。
体格に比例したすさまじい腕力を剣にのせ、ダニエルはリチャードに襲い掛かる。
早さで優るリチャードはいなしながらそれを交わし、剣の向きを変える。
呼吸を深く小さく整える。
大丈夫、俺はやれる……。
このところ、リチャードは騎士団長のバーナバスやその側近たちに、大いに可愛がられている。
それは目をかけられているというより、自慢の甥御を取られた叔父のちょっとした腹いせだったのかもしれないが、百戦錬磨の騎士団長の剣技は流石団長殿、と言うべきもので、そのバーバナスに直接稽古をつけられていたリチャードの剣技は、一つ上の段階へと引き上げられていた。
冷静にダニエルの剣筋を見極めながら、リチャードは確実にダニエルにダメージを与えていた。
思う様に攻撃のできないダニエルは、次第にイライラと不用意な攻撃をし始めた。
得物である長剣が、ダニエルの手から落ちたのは、それから十合ほど打ち合った後のことだ。
わぁっと、観客席から怒号のような歓声が沸き上がった。
不思議なのは隣にいるフレデリカが手を振りあげながらリチャードの勝利を喜んでいたことだったが、とにかくこれで最終日の決勝トーナメントに参加できる資格を得た。
ジェフリーは観客に応えて手を振るリチャードに、惜しみない拍手を贈った。
すごい!!
カッコイイ!!
改めて自分の伴侶に惚れ惚れとしながら、ふと、ジェフリーは考えた。
残念ながら最終日は午前中には試合がない。
不名誉を注ぐ機会はないにしろ、せめてリチャードのために何かしたい。
そうだ……リチャードの好きなコンフィ。
七つ目ウサギのコンフィを、決勝戦の前夜の晩餐とするのはどうだろうか。
非常によい思いつきだ……。
そう考えていたのに。
「リリリ、リチャード!!!
お帰りなさい!!!」
料理が何もできてないばかりか、それどころか……。
「……なんの匂い……だ?
なんだか焦げ臭くないか??
何か焼いていたのか?」
ああ、焦げちゃったか……。
低い油で揚げるコンフィは、意外に火加減がむずかしい。
実家で働く料理人に調理方法を聞いた時は、なんだ、低い温度で揚げるだけなら簡単そうだと思った自分の首を絞めてやりたい。
「えっ?!
そ、そう??
気のせいじゃないかな??」
さりげなく七つ目ウサギの骨付き肉の入った鍋を、体で隠す。
しかしそんなジェフリーの体越しに、リチャードは鍋の中を覗き込んだ。
「ふわぁ……だめ!!!」
「……肉……?」
「……も……、だめったら……!!」
「焦げたのか?」
「もぉ、やだったら!!!」
ジェフリーはリチャードの体を押しながら、こんなはずじゃなかったのに、と、目頭が熱くなった。
すると、ジェフリーの声が湿り気を帯びたことに気付いたリチャードは、ジェフリーの顔を覗き込む。
「ジェフリー?
……どうしたんだ?」
「……ひぃ…く。
……うまく、出来な……くて……」
リチャードは目の端に涙をためるジェフリーの姿に、思わずドキリと胸を高鳴らせる。
い、いや、今は可愛いなんて考えてる場合じゃ……。
とにかく、ジェフリーをなだめなきゃ……。
リチャードは優しい声でジェフリーに語りかけた。
「ジェフリー。
ちょっぴり焦げただけだ。
全然大丈夫だよこれくらい。
話したろ?
冒険者の時にはパーティー組んでたみんな、料理が下手で消し炭みたいになった肉を文句言い合いながら食べてたって。
だからこんな焦げなんて、焦げのうちに入らないよ」
そう言うことじゃなくて、と、ジェフリーは声を荒げた。
「……そんなんじゃだ……め、だから!!!
リチャだって、みたろ?
騎士団員の、奥方の中でっ……俺のが一番、ダメだった!!!
皆……皆、あんなに、美味しそうな料理っ……作って、食べさせてた、のに!!!
リチャ……、だけ、俺の、ダメな料理……!!!」
話すうちに、ジェフリーは二日前のことを思い出して涙腺が決壊したように激しく、咽るように、泣き始めた。
そんな涙でぐしぐしになったジェフリーの顔を、リチャードが両手で包み込む。
「ジェフリー……俺のジェフ!!
泣いてる顔もすごく可愛いけど、ジェフリーは、勘違いしてるよ?」
「ふぇぇ……!?」
「まず言っとくけど、ジェフリーの料理は、凄くおいしい。
塩加減とか俺の好みだし、お肉の焼き加減とかもバッチリで柔らかくてジューシーだ。
そんなジェフリーの料理を毎日食べられる俺は、凄く、凄く幸せ者だ。
その二に、ジェフリーが俺のために毎日食事を作ってくれるなんて、俺は朝起きるたびに自分の幸運を神に感謝している。
考えてもみてくれ。
君は魔法宮のトップで、偉大な魔術士で、誰よりも美しくて、聡明で……王妃になっててもおかしくないほど気品があって……はっきり言って貴族なんて名ばかりの俺なんかにはもったいないくらいの伴侶だ。
だから俺は毎朝起きるたびに、すべてが夢じゃないかと、そんな風に感じるんだ。
傍にいてくれるだけでも十分なのに、俺のために一生懸命料理をしてる姿を見るだけで、信じられないほど満たされた気持ちになる。
そんなジェフリーが作ってくれる料理が、ダメな料理なはずがあるか。
愛情がたっぷり詰まってるんだぞ。
はっきり言っても、俺はそれが泥団子でも迷わず食べれる。
迷わず食べれるけど、ジェフリーの料理はさっきも言ったけど、凄く美味しい。
だから二度と、ダメな料理だなんて、そんな事言わないでくれ」
リチャードのあまりに真剣なまなざしに、ジェフリーは気圧された。
「だ、だけど……。
リチャードは強くて……かっこよくて、優しくて……。
俺は他の人たちみたいに普通の家庭なんて知らないし……、どうふるまっていいのか分からない。
それに他のお家の料理は可愛くて……豪華で……俺……すごく恥ずかしかったんだ!!!
あんなガサツな料理を自信満々で持って行って……リチャードに恥ずかしい思いをさせたんじゃないかって……ただ申し訳なくて……」
リチャードは優しくジェフリーの涙の後の残る頬を、掌でくすぐった。
ジェフリーはその手の暖かに思わず、蕩けてしまい、知らず知らずのうちに体をリチャードへと摺り寄せた。
「だから、それも勘違いんなんだ。
ジェフリー。
休憩時間の時、みんなジェフリーの料理を食べたがっていたろ?」
確かに、ジェフリーの料理を見た数人の騎士が「食べさせてくれ」と言ってきて、奥方に肘でつつかれていたけれど……。
「……実をいうと、今回ジェフリーの手料理を見た騎士団の連中、俺のことを羨ましがって、顔を合わせるたびに揶揄われているんだぞ?」
とても信じられない、そんな馬鹿な、とジェフリーは目を見開いた。
「他の騎士団員たちの昼飯だが……ここ数年、どこの家庭も見栄を張りすぎて、有名料理店に料理を頼んでいるそうなんだ。
でも見た目ばかりで美味しくない冷めた料理は全然美味しくないらしい……。
そこにもってきてジェフリーの作った料理は精霊魔法で出来立てみたいな状態だったから、匂いもすごくいいだろう?
それでなくても食欲を刺激されてるところに、俺がジェフリーの作った料理をおいしそうに食べてたから、より一層羨ましかったらしいぜ?
それに、加えて。
ジェフリーが恥ずかしそうに食事してる姿が、尋常じゃなく可愛かったからな。
俺も他の連中に邪なことを想わせないように、見せつけるように触れたりしてたから、その場にいた全員、さぞかし心穏やかじゃなったろうな?
それから、ダニエルが言ってたけど奥方のフレデリカは料理がひどく苦手なんだそうだ。
しかも一度少し味のことでちょっと文句を言ったら二度と作ってくれなくなったとかで、今は料理を作ってもらうだけの女給を雇っているそうなんだ。
……そんな訳だから、隊員たちの中で俺のポジションは、美人の妻に愛情たっぷりの手料理を作ってもらう、騎士団一の果報者、なんだが……」
そう言うと、リチャードは唇で、ジェフリーのそれに啄むように愛撫した。
「ジェフ。
そんな風に、君と結婚してからこっち、俺には不幸がまったく寄り付いてこない。
どうやら不幸の方が逃げていくみたいだ」
キスの合間にそんな言葉を囁くリチャードに、ジェフリーは身体の力が抜け、縋りつくように服の胸元を握りしめた。
「リ……チャ……」
ジェフリーの身体からぐっと深くなった甘い香りが放たれ、リチャードの鼻腔を刺激した。
あーヤバイ。
ホントにヤバイ。
ジェフリーが可愛くて、我慢できそうにない。
でもあと二か月で生まれてくる子供のために、我慢しなけりゃならない。
だから今日は……そう、ちょっぴり触る、だけだ……。
リチャードはそう言い訳しながら、ジェフリーの力の抜けた体を抱き上げ、寝室へと向かうのだった。
昨晩、主に唇と舌で伴侶の体を堪能したリチャード・ブレスコットは、朝の光に目をこすりながら体を起こした。
ジェフリーはまだ眠っている。
じっくりとジェフリーの体を可愛がったあと、入浴中にもかかわらず、ジェフリーは浴槽の中で眠ってしまった。
眠りながら体を丸めるジェフリーの長く美しい髪を、しっかり丹念に水分を取って乾かしたつもりだったが、乾かし方が足りなかったのか、ちょっぴり寝癖がついていた。
そんな小さい寝癖も、ジェフリーにかかれば凄く可愛らしい。
リチャードは穏やかであどけないジェフリーの寝顔に口付けを落とし、音を立てないよう気を付けながらキッチンへと向かった。
どうやら昨晩聞き出したところによると、ジェフリーは自分のために七つ目ウサギのコンフィを作ろうとしたらしい。
昨晩から鍋の中に入ったままの肉を取り出すと、リチャードは焦げた部分を削ぎ落とすと、残りの部分を鼻歌を口ずさみながらうすく切り分けた。
精霊たちによって冷たく保たれている食糧庫からレタスを持ち出し、一枚ずつ外して水でさっと洗う。
水の精霊ドリューは、リチャードが「桶に水が欲しい」なんてつぶやくだけで、ちゃんと用意してくれるのだから非常にありがたい。
ジェフリーに言わせると、普通は魔術師以外の人間の「お願い」を聞くなんて、あり得ないそうだ。
それは俺じゃなくて、それだけジェフリーが精霊たちに愛されているという証拠なのだろうと、リチャードは思っている。
簡単にウサギのコンフィもどきとレタスをパンにはさんでサンドイッチを作り終わった頃、ジェフリーが起きてきた。
「おはよう、ジェフリー」
「リチャ、おはよう……」
恥ずかしそうに、ジェフリーは頬を染めながら食卓のテーブルに着いた。
その表情は察するに、昨晩ベットの上での出来事を思い返しているに違いない。
艶のある表情に、リチャードも昨晩のジェフリーに思いを馳せる。
それにしても昨晩のジェフリーは……想像以上に可愛かった。
小さく震えながら愛撫に反応し切ない声を上げるジェフリーの身体には、リチャードの愛撫の痕跡がうっ血して花のように散らばっていた。
ジェフリーの胸や首、ふとものの内側など、やわらかく白い肌に残るのはリチャードのにつけられた愛の証……。
うっく、思い出すとヤバイ。
リチャードは無理やり甘い記憶を封じ込めると、ジェフリーの向い側に腰を下ろした。
「コンフィ……サンドイッチになっちゃったね……」
「美味しいだろ??
さすが、俺の奥さんが作っただけはある」
「……馬鹿……」
真っ赤になりながら、ジェフリーはサンドイッチを口に運んだ。
そうしてお互いに微笑みあいながら食事を済ませた後、リチャードは身支度を済ませ、一足先に会場へと出発した。
「頑張ってね?」
そう言うと、見送りに戸口に来ていたジェフリーはちょっぴり背伸びをしてリチャードに口付けを贈った。
……なんだか全然、誰にも、負ける気がしないんだけど。
ジェフリーからの嬉しい励ましに、リチャードは自然と体の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。
「絶対優勝するから」
リチャードはジェフリーにそう宣言し、笑みを浮かべ我が家を後にした。
その日、見事優勝したリチャードに、団長であるバーナバスが「優勝は俺に勝ってからだ」とか言い出して剣を片手に競技場に乱入したり、バーナバスを止めようと幹部たちが追いかけてきたり、それを見ていたジェフリーがリチャードに駆け寄ったりと、闘技場は大混乱、前代未聞の大騒ぎになるのだが……それはまた、別の話である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一応貴族になのに使用人がいない理由……。
料理以外の家事が精霊魔法でほぼまかなえてしまえるためどえす☆
もちろん二人でイチャイチャしたいという理由もあり……。
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