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番外編 誰よりも強くて美しい……
投票御礼企画、第二弾どえす!!!
この作品に投票して下さった皆様、本当にありがとうございます!!
今回はちょっぴりシリアステイストに仕上がっております。
どうぞお楽しみください!!
■■■■■■■■ ■■■■■■■■ ■■■■■■■■
闘技場が割れんばかりの歓声に埋め尽くされた。
今回のメインイベントと言ってもいい、その人物の登場に、観客たちは皆色めき立っているのだ。
庶民も貴族も、特等席に陣取る王族たちもみな、この瞬間を待っていた。
そしてここに、闘技場にいる誰よりもその瞬間を待ち構えていた少年がいる。
「ふわぁぁぁ!!!!
しゅごい!!!!
しゅごい!!!!
父上、しゅごい!!!!」
少年は膝の上に抱きかかえられているというのに、興奮して落ちそうなくらい体全体をバタつかせていた。
「ああ……!!!
……すごい!!
本当にすごいな!!
クリストファー!!!
知らなかったろ??
ジェフリーは……お前の母は、すごい人なんだぞ?」
「がんばってーぇぇぇぇ!!!
ははうえぇ!!」
クリストファーの腰をしっかりと抱えながら、リチャードは闘技場の中央で観客に挨拶するジェフリーの姿を誇らしい気持ちで眺めていた。
肩口で緩く結えられている長い銀髪が、陽の光を浴びて神々しいほどに光り輝いていた。
王族やそれに近い貴族らは、もちろんジェフリーの容貌を知っている。
が、下級貴族や庶民たちは、魔法宮のトップだったジェフリーを目にする機会は殆どなかったのだ。
彼らは初めてジェフリーを見た。
子をなして数年が立つというのに、彼の美貌には陰りがなかった。
ほとんど者は息を飲み。
ため息をもらし。
ジェフリーを歓声と感嘆とをもって出迎えている。
しかし、ジェフリーに驚くのはこれからだ、と、リチャードは意地悪そうに笑みを浮かべる。
ジェフリーによく似たわが子クリストファーでさえ、母親であるジェフリーの戦闘を見るのは、これがはじめてなのだから。
ジェフリーが観客に挨拶を済ませると、闘技場の銅鑼の音が響き渡った。
6人の筋骨隆々の男たちによって、檻に入れられた魔物、鰐獅子が引き回され、観客に見せつけるように闘技場全体をぐるりと大きく回りながら入場する。
王都に安穏に暮らす者たちにとっては初めて見る異形の魔物は、人の背丈の倍はあろう体躯を持ち、低く不気味な唸り声を上げ、大きな口から粘り気のある毒唾が滴らせて、観客たちを震え上がらせていた。
とてもではないが人間が、それも一人で、太刀打ちできるような魔物には見えなかった。
おそらくジェフリーの実力を知らない誰もが、悲劇的な結末を予想しているのは間違いなかった。
クリストファーも、初めて目にする鰐獅子の迫力に、瞳を潤ませ体を震わせた。
小さい胸には怖さや不安が渦巻いているであろうに、クリストファーはリチャードの服をきゅっと握りしめて、それを耐えていた。
リチャードはクリストファーの頭を撫でながら、「あんな魔物に負けるほど、ジェフリーは弱くないぞ?」と、声をかけた。
「……ほんとう?」
まだ5歳になるこの息子は、心配そうに眉を潜めながらリチャードを見上げた。
「当たり前だ。
ジェフリーは、誰よりも強い」
もちろん鰐獅子は、Bランクの魔物であり、決して油断できるものではない。
しかしジェフリーは今、自分と、これから先生まれてくる者たちのために、戦おうとしている。
魔術騎士団設立のため、これは自分に課せられた試練なのだと、ジェフリーはそう言った。
ジェフリーは、魔物とはいえ生命のやりとりを見世物にするべきではない、と思っている。
だがその信条を押し殺してもなお、この「見世物」から得られる実用性を選択した。
魔術を扱う者が剣を手にしたとき、どのような戦いを見せるのか、それを人々に知らしめる必要があったからだ。
そしてまた一つ、銅鑼の音が鳴り響く。
すでに闘技場内にはジェフリー以外の者はいない。
いるのは鰐獅子とジェフリーだけだ。
鰐獅子の檻の扉が、魔術の仕掛けによって開け放たれた。
最初、鰐獅子は、警戒するようになかなか檻から出ようとはしなかった。
何度か開け放れた扉の近くに行き、また奥に戻る。
その動作を何度か繰り返したのち、鰐獅子はゆっくりと闘技場のジェフリーの前へと降り立った。
凶悪な姿に、闘技場のあちこちからは悲鳴のような声が上がっていた。
観客たちは固唾をのみ込みながら、ジェフリーの様子を窺っている。
ジェフリーはまだ幾分離れた場所から、水をまとわせた剣を一閃し、最初の攻撃を仕掛けた。
鰐獅子の周囲がおびただしい水で覆われる。
それは、水辺にすむ鰐獅子には、意味をなさない攻撃に見えた。
が、その予想を覆すように、鰐獅子を中心に撒かれた水が、急速に白み、瞬く間に凍り付いていく。
鰐獅子の素早い動きを封じるため、ジェフリーはその四肢に氷の枷を課したのだ。
身動きの取れない物を切るのは、魔物といえど残虐行為に過ぎない。
せめて一瞬で命を奪ってやる、と、ジェフリーは間合いを縮め、今度は風をまとわせた刃で鰐獅子の体を切り裂いた。
通常、剣で切り付けても鰐獅子の外皮は硬く、刃が立たない。
しかしそんな硬さを全くものともせず、鰐獅子の体は大量の血液をまき散らしながら四散した。
凶悪な魔物が、たった2回の攻撃であっけないほどに肉片と化した技に、闘技場の観客たちは歓声も忘れて呆然としていた。
なにしろそんな人間技とは思われない戦いを見せつけたのは、世に並ぶものなしとされるほど美しい元魔法宮長官にしてオメガのジェフリー・ブレスコットなのだ。
ジェフリーはし……んと静まり返り反応を示さない観客たちを不審に想いながらも、周囲にまき散った穢れを払うため、土の精霊ヴァグに闘技場の浄化を促した。
それに合わせ、闘技場全体が、浄化の光でキラキラと瞬きはじめる。
通常は見ることができない浄化の光を、ジェフリーは敢えて可視化させた。
何しろ観客たちは土地の浄化など、目にしたことがない者たちばかりだ。
その美しい光景を目撃した観客たちが、驚きとともに観客席の床を大きく踏み鳴らしていく。
闘技者に贈られる最大の賛辞に、ジェフリーはほっと息をついて手を振って応えた。
「ジェフリー……お疲れさま」
歓声を上げる観客たちに手を振りながら、ジェフリーは控室へと続く通路へと姿を消した。
その先で待っていたのは、先回りしていたリチャードとわが子のクリストファーだ。
クリストファーを抱きかかえたまま、リチャードはジェフリーの体を手繰り寄せ、こめかみにキスを落とす。
「うん……流石にちょっと、疲れたかな??」
「母上、しゅごいです!!!」
ジェフリーは目を輝かせて手を伸ばすクリストファーを、リチャードの腕から受け取った。
今回のイベントが打診された時は、長く実戦を離れていた不安があったが、そんなジェフリーのためにリチャードはここ半年つきっきりで稽古の相手を務めてくれた。
だからジェフリーに送られた歓声の半分は、リチャードのものだと感じる。
「うまくいったと思う?」
クリストファーを抱きしめながら、ジェフリーは夫の顔を不安そうにのぞき込んだ。
「……ああ。
それとなく王族の観覧席を覗いていたが、陛下とメアリー王女がひときわ大きな歓声を上げていた。
いい感触だと思う」
国王陛下の唯一の孫であるメアリー王女は、リチャードとジェフリーの結婚に半年遅れて結婚した王太子の娘である。
可愛らしいそのお姿に陛下と王太子はメロメロで、その溺愛ぶりはジェフリーも噂に聞いている。
小さい後押しに、ジェフリーはほんの少し希望を抱いた。
最初は魔術騎士団の設立に反対していた叔父のバーナバスも、近頃は容認し、応援してくれるようになった。
それはリチャードが、バーナバスに「魔術騎士団が設立されればジェフリーが騎士団のメンバーに返り咲けるんですよ?」という悪魔の囁きをしていたからなのだが、もちろんジェフリーはそんなことは全く知らなかった。
そんな訳でリチャードとジェフリーは騎士団長であるバーナバスの後押しを受け、自らの提唱する魔術騎士団の設立に、あとは陛下の裁断を待つ、という段階まで来ていた。
そんな中、陛下からお声がかりで闘技大会への出場の打診だ。
自らの力を示せるこの機会に、ジェフリーに断る道はなかった。
自分ももちろん、騎士団に戻れるものなら戻りたい。
そして……自分の腕の中で安心したようにうとうとし始めたクリストファーのためにも、魔術騎士団を設立したいと、切実に願っていた。
「ジェフリー、知らせておきます。
……クリストファーはオメガです」
二年以上前、水の精霊ドリューからもたらされた情報は、リチャードとジェフリーに大きな影を落とした。
通常は思春期を迎えたころに発現する第三の性別だが、高位の水の精霊であるドリューには、まだ幼いクリストファーがオメガであることが感じ取れたのだ。
思春期を迎え、オメガであることが知られれば、今はすやすやと穏やかに寝息を立てるクリストファーも、ジェフリーと同じように魔法宮に送り込まれる。
だがせめて、クリストファーには自分とは違う道を用意してやりたい。
そう思ったジェフリーは、それまで以上に精力的に魔術騎士団の設立に動き始めた。
最初の構想者であったリチャードもジェフリー同様、宰相である父の人脈を使って、地道に活動を続けたのだ。
そしてようやく今、その設立が現実味を帯びてきた。
必ず叶える。
そして最初の轍を残すんだ。
ジェフリーはそう決意を新たに胸に刻んだ。
そしてクリストファーの柔らかい髪にキスを落とすと、ジェフリーとリチャードは伴だって闘技場を後にした。
……魔術騎士団が正式に発足したのは、それから約、二年後のことである。
■■■■■■■■ ■■■■■■■■ ■■■■■■■■
鰐獅子のモデルはエジプトの神話に出てくるアメミットです。
ワニの頭、ライオンの胴体と前足、カバの下半身という盛り込みすぎ動物です。
ちなみにオシリス神の眷族で罪人の心臓を食べます。 くわばらくわばら……。
この作品に投票して下さった皆様、本当にありがとうございます!!
今回はちょっぴりシリアステイストに仕上がっております。
どうぞお楽しみください!!
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今回のメインイベントと言ってもいい、その人物の登場に、観客たちは皆色めき立っているのだ。
庶民も貴族も、特等席に陣取る王族たちもみな、この瞬間を待っていた。
そしてここに、闘技場にいる誰よりもその瞬間を待ち構えていた少年がいる。
「ふわぁぁぁ!!!!
しゅごい!!!!
しゅごい!!!!
父上、しゅごい!!!!」
少年は膝の上に抱きかかえられているというのに、興奮して落ちそうなくらい体全体をバタつかせていた。
「ああ……!!!
……すごい!!
本当にすごいな!!
クリストファー!!!
知らなかったろ??
ジェフリーは……お前の母は、すごい人なんだぞ?」
「がんばってーぇぇぇぇ!!!
ははうえぇ!!」
クリストファーの腰をしっかりと抱えながら、リチャードは闘技場の中央で観客に挨拶するジェフリーの姿を誇らしい気持ちで眺めていた。
肩口で緩く結えられている長い銀髪が、陽の光を浴びて神々しいほどに光り輝いていた。
王族やそれに近い貴族らは、もちろんジェフリーの容貌を知っている。
が、下級貴族や庶民たちは、魔法宮のトップだったジェフリーを目にする機会は殆どなかったのだ。
彼らは初めてジェフリーを見た。
子をなして数年が立つというのに、彼の美貌には陰りがなかった。
ほとんど者は息を飲み。
ため息をもらし。
ジェフリーを歓声と感嘆とをもって出迎えている。
しかし、ジェフリーに驚くのはこれからだ、と、リチャードは意地悪そうに笑みを浮かべる。
ジェフリーによく似たわが子クリストファーでさえ、母親であるジェフリーの戦闘を見るのは、これがはじめてなのだから。
ジェフリーが観客に挨拶を済ませると、闘技場の銅鑼の音が響き渡った。
6人の筋骨隆々の男たちによって、檻に入れられた魔物、鰐獅子が引き回され、観客に見せつけるように闘技場全体をぐるりと大きく回りながら入場する。
王都に安穏に暮らす者たちにとっては初めて見る異形の魔物は、人の背丈の倍はあろう体躯を持ち、低く不気味な唸り声を上げ、大きな口から粘り気のある毒唾が滴らせて、観客たちを震え上がらせていた。
とてもではないが人間が、それも一人で、太刀打ちできるような魔物には見えなかった。
おそらくジェフリーの実力を知らない誰もが、悲劇的な結末を予想しているのは間違いなかった。
クリストファーも、初めて目にする鰐獅子の迫力に、瞳を潤ませ体を震わせた。
小さい胸には怖さや不安が渦巻いているであろうに、クリストファーはリチャードの服をきゅっと握りしめて、それを耐えていた。
リチャードはクリストファーの頭を撫でながら、「あんな魔物に負けるほど、ジェフリーは弱くないぞ?」と、声をかけた。
「……ほんとう?」
まだ5歳になるこの息子は、心配そうに眉を潜めながらリチャードを見上げた。
「当たり前だ。
ジェフリーは、誰よりも強い」
もちろん鰐獅子は、Bランクの魔物であり、決して油断できるものではない。
しかしジェフリーは今、自分と、これから先生まれてくる者たちのために、戦おうとしている。
魔術騎士団設立のため、これは自分に課せられた試練なのだと、ジェフリーはそう言った。
ジェフリーは、魔物とはいえ生命のやりとりを見世物にするべきではない、と思っている。
だがその信条を押し殺してもなお、この「見世物」から得られる実用性を選択した。
魔術を扱う者が剣を手にしたとき、どのような戦いを見せるのか、それを人々に知らしめる必要があったからだ。
そしてまた一つ、銅鑼の音が鳴り響く。
すでに闘技場内にはジェフリー以外の者はいない。
いるのは鰐獅子とジェフリーだけだ。
鰐獅子の檻の扉が、魔術の仕掛けによって開け放たれた。
最初、鰐獅子は、警戒するようになかなか檻から出ようとはしなかった。
何度か開け放れた扉の近くに行き、また奥に戻る。
その動作を何度か繰り返したのち、鰐獅子はゆっくりと闘技場のジェフリーの前へと降り立った。
凶悪な姿に、闘技場のあちこちからは悲鳴のような声が上がっていた。
観客たちは固唾をのみ込みながら、ジェフリーの様子を窺っている。
ジェフリーはまだ幾分離れた場所から、水をまとわせた剣を一閃し、最初の攻撃を仕掛けた。
鰐獅子の周囲がおびただしい水で覆われる。
それは、水辺にすむ鰐獅子には、意味をなさない攻撃に見えた。
が、その予想を覆すように、鰐獅子を中心に撒かれた水が、急速に白み、瞬く間に凍り付いていく。
鰐獅子の素早い動きを封じるため、ジェフリーはその四肢に氷の枷を課したのだ。
身動きの取れない物を切るのは、魔物といえど残虐行為に過ぎない。
せめて一瞬で命を奪ってやる、と、ジェフリーは間合いを縮め、今度は風をまとわせた刃で鰐獅子の体を切り裂いた。
通常、剣で切り付けても鰐獅子の外皮は硬く、刃が立たない。
しかしそんな硬さを全くものともせず、鰐獅子の体は大量の血液をまき散らしながら四散した。
凶悪な魔物が、たった2回の攻撃であっけないほどに肉片と化した技に、闘技場の観客たちは歓声も忘れて呆然としていた。
なにしろそんな人間技とは思われない戦いを見せつけたのは、世に並ぶものなしとされるほど美しい元魔法宮長官にしてオメガのジェフリー・ブレスコットなのだ。
ジェフリーはし……んと静まり返り反応を示さない観客たちを不審に想いながらも、周囲にまき散った穢れを払うため、土の精霊ヴァグに闘技場の浄化を促した。
それに合わせ、闘技場全体が、浄化の光でキラキラと瞬きはじめる。
通常は見ることができない浄化の光を、ジェフリーは敢えて可視化させた。
何しろ観客たちは土地の浄化など、目にしたことがない者たちばかりだ。
その美しい光景を目撃した観客たちが、驚きとともに観客席の床を大きく踏み鳴らしていく。
闘技者に贈られる最大の賛辞に、ジェフリーはほっと息をついて手を振って応えた。
「ジェフリー……お疲れさま」
歓声を上げる観客たちに手を振りながら、ジェフリーは控室へと続く通路へと姿を消した。
その先で待っていたのは、先回りしていたリチャードとわが子のクリストファーだ。
クリストファーを抱きかかえたまま、リチャードはジェフリーの体を手繰り寄せ、こめかみにキスを落とす。
「うん……流石にちょっと、疲れたかな??」
「母上、しゅごいです!!!」
ジェフリーは目を輝かせて手を伸ばすクリストファーを、リチャードの腕から受け取った。
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だからジェフリーに送られた歓声の半分は、リチャードのものだと感じる。
「うまくいったと思う?」
クリストファーを抱きしめながら、ジェフリーは夫の顔を不安そうにのぞき込んだ。
「……ああ。
それとなく王族の観覧席を覗いていたが、陛下とメアリー王女がひときわ大きな歓声を上げていた。
いい感触だと思う」
国王陛下の唯一の孫であるメアリー王女は、リチャードとジェフリーの結婚に半年遅れて結婚した王太子の娘である。
可愛らしいそのお姿に陛下と王太子はメロメロで、その溺愛ぶりはジェフリーも噂に聞いている。
小さい後押しに、ジェフリーはほんの少し希望を抱いた。
最初は魔術騎士団の設立に反対していた叔父のバーナバスも、近頃は容認し、応援してくれるようになった。
それはリチャードが、バーナバスに「魔術騎士団が設立されればジェフリーが騎士団のメンバーに返り咲けるんですよ?」という悪魔の囁きをしていたからなのだが、もちろんジェフリーはそんなことは全く知らなかった。
そんな訳でリチャードとジェフリーは騎士団長であるバーナバスの後押しを受け、自らの提唱する魔術騎士団の設立に、あとは陛下の裁断を待つ、という段階まで来ていた。
そんな中、陛下からお声がかりで闘技大会への出場の打診だ。
自らの力を示せるこの機会に、ジェフリーに断る道はなかった。
自分ももちろん、騎士団に戻れるものなら戻りたい。
そして……自分の腕の中で安心したようにうとうとし始めたクリストファーのためにも、魔術騎士団を設立したいと、切実に願っていた。
「ジェフリー、知らせておきます。
……クリストファーはオメガです」
二年以上前、水の精霊ドリューからもたらされた情報は、リチャードとジェフリーに大きな影を落とした。
通常は思春期を迎えたころに発現する第三の性別だが、高位の水の精霊であるドリューには、まだ幼いクリストファーがオメガであることが感じ取れたのだ。
思春期を迎え、オメガであることが知られれば、今はすやすやと穏やかに寝息を立てるクリストファーも、ジェフリーと同じように魔法宮に送り込まれる。
だがせめて、クリストファーには自分とは違う道を用意してやりたい。
そう思ったジェフリーは、それまで以上に精力的に魔術騎士団の設立に動き始めた。
最初の構想者であったリチャードもジェフリー同様、宰相である父の人脈を使って、地道に活動を続けたのだ。
そしてようやく今、その設立が現実味を帯びてきた。
必ず叶える。
そして最初の轍を残すんだ。
ジェフリーはそう決意を新たに胸に刻んだ。
そしてクリストファーの柔らかい髪にキスを落とすと、ジェフリーとリチャードは伴だって闘技場を後にした。
……魔術騎士団が正式に発足したのは、それから約、二年後のことである。
■■■■■■■■ ■■■■■■■■ ■■■■■■■■
鰐獅子のモデルはエジプトの神話に出てくるアメミットです。
ワニの頭、ライオンの胴体と前足、カバの下半身という盛り込みすぎ動物です。
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