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エピローグ ~ふたたび~
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その日、いつものように仕事をしていると、携帯にメーセージが届いた。
それは現在同じアメリカに遊学中の従弟、嵯峨那聖月からのメッセージだった。
「三時ごろ到着予定。
忍兄に久しぶりに会うの楽しみにしてる」
さっと目を通した忍は、そうか、聖月が来るのは今日だったかと改めて思い出し、「了解。待ってるから気を付けて」とメッセージを返した。
聖月から友人と一緒に職場研修したいと言ってきたのはつい2週間ほど前のことで、ああ、なるほどたまには嵯峨那直営じゃない環境に身を置きたいのかと察し、急ではあったもののOKを出した忍だったが、忙しさにかまけてすっかり忘れていた。
助手のナンシーにコールして、聖月たちの受け入れの準備は済んでいるかと確認すると、「もちろんです、シノ。ホテルの手配も確認済みです」と、返された。
「ホテルの手配?」
てっきり自分のフラットに宿泊するつもりだと思い込んで、数日前にハウスキーパーにゲストルームの掃除を頼んでいたけど、泊まらないつもりなのか? と考え込む。
「……ミヅキの依頼でそうしましたけど、問題がありますか?」
「いや……。
たぶん、聖月の連れもいるし、聖月がそれでいいならそれで構わない」
ほんの少しの違和感を感じたものの、それは些細なことで、それきり忘れていた。
そしてしばらく仕事に没頭していると、ノックの音で我に返る。
「シノ……。到着したわよ?」
ナンシーが先導するように、忍の事務所に二人の男性が姿を現した。
「忍兄!
ほんと、久しぶり。
元気そうで安心した!!
ここ、空港から遠くない?
……ほんと疲れたぁ」
そう言いながら現れたのは、嵯峨那聖月、忍の従弟である。
美麗な従弟に目を奪われたのも束の間で、その後を追う様に入ってきた人物に、忍は大きく目を見開いた。
「えっ…?
はぁっ? なんで、ここに!」
「……恋人に会いに来るのに、理由が必要か?」
などと気障なセリフを真顔で語るのは、日本にいるはずの、もう会わないはずの鈴ヶ宮、だった。
「こっ……恋人って……!!!」
思わず顔を赤く染める忍に、聖月は面白いものを見たかのように吹き出した。
「忍兄、スゲー真っ赤!!
そんな表情するんだ……!!
恋人っていうのもあながち嘘じゃなかったんだな、伸司」
「聖月、なんで鈴ヶ宮連れてくるんだよ……!!」
「言ったろ?
連れがいるって!!
まー、俺たちの話は明日な、忍兄!!
俺、ここの社長と挨拶があるし、夜は付き合いでメシ行かないといけないから、じゃあ、伸司のことよろしく!!」
そう言って、聖月は挨拶もそこそこで部屋を出ていき、ついでに「ナンシー、社長室まで案内して」なんて余計な気を利かすものだから、急に二人きりになりシ……ンと静まり返った室内に、忍は息苦しさを感じた。
「……驚いたろ?」
耐え切れずに口を開いたのは、忍の方だった。
「それは、どういう意図で聞いてるつもりだ?
……恋人になれたと思った、そのすぐ後に逃げたことか? それとも年齢を偽っていた、その事か?」
射るような鈴ヶ宮の視線に、忍はゾクリと背筋に悪寒が走った。
「……両方だ」
そう返答する声が、予期せず声がかすれてしまう。
すると、鈴ヶ宮はふっと目を細めて。
「……俺から逃げられると思ったのか?」
うっすらと笑みを浮かべる鈴ヶ宮に返す言葉を失い、さらには距離を縮める鈴ヶ宮に、忍は思わず腰が引ける。
しかし広いわけでない部屋でいくら逃げても逃げ切れるものではなく。
息がかかるほどの距離にあっという間に迫られると、途端に体温が上昇していくのを感じた……。
「……って。
……どうにも、なんないだろ?」
泣きそうになるのを押しとどめながら、忍は鈴ヶ宮を見た。
住む世界が違うのだ。
鈴ヶ宮の一族は、嵯峨那ほどではなくても十分巨大企業の経営者一族であることは間違いない。
一族の跡取り息子に同性の恋人になんて、どう考えたって無理だし。
鈴ヶ宮の未来をつぶしたくも無く。
簡単に言えば、身を引いた。
ただ逃げたと言えなくもない……怖くて。
鈴ヶ宮から手を離されるのが怖くて。
尻尾を、巻いて逃げ出した。
だが鈴ヶ宮は、忍の頬を両手で愛おしそうに包んだ。
感触を楽しむように指先でゆっくりと忍の唇に触れ……そしてキスをひとつ。
「……それを、決めるのは俺だ……」
そして、また一つキス。
そうして二人は、いつまでも仲良く暮らしました………。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こらこら、勝手に締めくくるな。
つーか、いい加減帰れ」
2週間を過ぎても帰る気配もなく、忍のフラットに居座り続ける鈴ヶ宮に、忍は怒るというより呆れた気持ちで言い放った。
「忍と一緒じゃないと、帰らないから」
「……冗談きつい」
「冗談じゃないぞ」
「ってか、誰かに反対されたろ!
親とか……親とか」
「親しか言ってないし……」
「……うるせっ」
「親父が言うには、嵯峨那と縁戚関係が築けるなら息子の一人くらい素直に差し出すそうだ」
「え?」
「俺は弟が二人いるからな、俺の後継者はそいつらに作ってもらう。安心してくれ」
「……は?」
「嵯峨那の御当主も……」
「嘘だろ……法月の伯父に会ったのか……!」
「忍が幸せなら問題ないと」
「俺たちのこと、まさか話したのかっ!」
「話さないと、この場にいない」
鈴ヶ宮はそう言って、にやりと微笑んだ。
「嘘だろーー!!」
「だから、嘘じゃない」
「アリエナイ……」
いや一番あり得ないのは……そんな鈴ヶ宮に惚れてる自分の方だがな……。
だからいいのかもしれないな、と。
胸の奥でつぶやいた。
めでたし、めでたし、と。
それは現在同じアメリカに遊学中の従弟、嵯峨那聖月からのメッセージだった。
「三時ごろ到着予定。
忍兄に久しぶりに会うの楽しみにしてる」
さっと目を通した忍は、そうか、聖月が来るのは今日だったかと改めて思い出し、「了解。待ってるから気を付けて」とメッセージを返した。
聖月から友人と一緒に職場研修したいと言ってきたのはつい2週間ほど前のことで、ああ、なるほどたまには嵯峨那直営じゃない環境に身を置きたいのかと察し、急ではあったもののOKを出した忍だったが、忙しさにかまけてすっかり忘れていた。
助手のナンシーにコールして、聖月たちの受け入れの準備は済んでいるかと確認すると、「もちろんです、シノ。ホテルの手配も確認済みです」と、返された。
「ホテルの手配?」
てっきり自分のフラットに宿泊するつもりだと思い込んで、数日前にハウスキーパーにゲストルームの掃除を頼んでいたけど、泊まらないつもりなのか? と考え込む。
「……ミヅキの依頼でそうしましたけど、問題がありますか?」
「いや……。
たぶん、聖月の連れもいるし、聖月がそれでいいならそれで構わない」
ほんの少しの違和感を感じたものの、それは些細なことで、それきり忘れていた。
そしてしばらく仕事に没頭していると、ノックの音で我に返る。
「シノ……。到着したわよ?」
ナンシーが先導するように、忍の事務所に二人の男性が姿を現した。
「忍兄!
ほんと、久しぶり。
元気そうで安心した!!
ここ、空港から遠くない?
……ほんと疲れたぁ」
そう言いながら現れたのは、嵯峨那聖月、忍の従弟である。
美麗な従弟に目を奪われたのも束の間で、その後を追う様に入ってきた人物に、忍は大きく目を見開いた。
「えっ…?
はぁっ? なんで、ここに!」
「……恋人に会いに来るのに、理由が必要か?」
などと気障なセリフを真顔で語るのは、日本にいるはずの、もう会わないはずの鈴ヶ宮、だった。
「こっ……恋人って……!!!」
思わず顔を赤く染める忍に、聖月は面白いものを見たかのように吹き出した。
「忍兄、スゲー真っ赤!!
そんな表情するんだ……!!
恋人っていうのもあながち嘘じゃなかったんだな、伸司」
「聖月、なんで鈴ヶ宮連れてくるんだよ……!!」
「言ったろ?
連れがいるって!!
まー、俺たちの話は明日な、忍兄!!
俺、ここの社長と挨拶があるし、夜は付き合いでメシ行かないといけないから、じゃあ、伸司のことよろしく!!」
そう言って、聖月は挨拶もそこそこで部屋を出ていき、ついでに「ナンシー、社長室まで案内して」なんて余計な気を利かすものだから、急に二人きりになりシ……ンと静まり返った室内に、忍は息苦しさを感じた。
「……驚いたろ?」
耐え切れずに口を開いたのは、忍の方だった。
「それは、どういう意図で聞いてるつもりだ?
……恋人になれたと思った、そのすぐ後に逃げたことか? それとも年齢を偽っていた、その事か?」
射るような鈴ヶ宮の視線に、忍はゾクリと背筋に悪寒が走った。
「……両方だ」
そう返答する声が、予期せず声がかすれてしまう。
すると、鈴ヶ宮はふっと目を細めて。
「……俺から逃げられると思ったのか?」
うっすらと笑みを浮かべる鈴ヶ宮に返す言葉を失い、さらには距離を縮める鈴ヶ宮に、忍は思わず腰が引ける。
しかし広いわけでない部屋でいくら逃げても逃げ切れるものではなく。
息がかかるほどの距離にあっという間に迫られると、途端に体温が上昇していくのを感じた……。
「……って。
……どうにも、なんないだろ?」
泣きそうになるのを押しとどめながら、忍は鈴ヶ宮を見た。
住む世界が違うのだ。
鈴ヶ宮の一族は、嵯峨那ほどではなくても十分巨大企業の経営者一族であることは間違いない。
一族の跡取り息子に同性の恋人になんて、どう考えたって無理だし。
鈴ヶ宮の未来をつぶしたくも無く。
簡単に言えば、身を引いた。
ただ逃げたと言えなくもない……怖くて。
鈴ヶ宮から手を離されるのが怖くて。
尻尾を、巻いて逃げ出した。
だが鈴ヶ宮は、忍の頬を両手で愛おしそうに包んだ。
感触を楽しむように指先でゆっくりと忍の唇に触れ……そしてキスをひとつ。
「……それを、決めるのは俺だ……」
そして、また一つキス。
そうして二人は、いつまでも仲良く暮らしました………。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こらこら、勝手に締めくくるな。
つーか、いい加減帰れ」
2週間を過ぎても帰る気配もなく、忍のフラットに居座り続ける鈴ヶ宮に、忍は怒るというより呆れた気持ちで言い放った。
「忍と一緒じゃないと、帰らないから」
「……冗談きつい」
「冗談じゃないぞ」
「ってか、誰かに反対されたろ!
親とか……親とか」
「親しか言ってないし……」
「……うるせっ」
「親父が言うには、嵯峨那と縁戚関係が築けるなら息子の一人くらい素直に差し出すそうだ」
「え?」
「俺は弟が二人いるからな、俺の後継者はそいつらに作ってもらう。安心してくれ」
「……は?」
「嵯峨那の御当主も……」
「嘘だろ……法月の伯父に会ったのか……!」
「忍が幸せなら問題ないと」
「俺たちのこと、まさか話したのかっ!」
「話さないと、この場にいない」
鈴ヶ宮はそう言って、にやりと微笑んだ。
「嘘だろーー!!」
「だから、嘘じゃない」
「アリエナイ……」
いや一番あり得ないのは……そんな鈴ヶ宮に惚れてる自分の方だがな……。
だからいいのかもしれないな、と。
胸の奥でつぶやいた。
めでたし、めでたし、と。
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