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始まりの四月編 エピローグ

ちょっと長めのエピローグ 1

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 美麗と佳奈は、委員会室に戻ってきていた。
 既に下校時間は過ぎていたが、二人とも動こうとはしない。
 静寂が、時さえも飲み込んでいるようだった。

「‥‥‥まだ終わっていませんわ」

 どれくらい経った頃だろうか。
 美麗が不意に口を開いた。

「‥‥‥会長?」
 無表情の端に、若干の疲労感を滲ませている佳奈が、首を傾げた。
「今回は阻止できませんでしたが、女神さまは何も仰ってきていません。これは、今後もわたくしたちにこの学園を統制せよ、とのお達しに違いありません」

 今までの静けさが嘘のような熱量が、再び部屋を満たしていく。

「統制は、ちょっと違うと思う」
「はあ?」
「たぶん、あの人達を止めるのが、私達の使命」

 その横顔には、何やら淡い期待のような物が、見え隠れしているようだった。

「相馬さん、あのまぬけ面と何かありましたの?」
「‥‥‥どうして?」
 訝しむ会長の声に、副会長は不意を突かれたように目を見開く。
「この間から変でしたし、何よりわたくしのラブ・レーダーが、うっすらと反応しているような‥‥‥」
「気のせい」
「そう、でしょうか‥‥‥」
 突然の強い口調に、美麗は口をつむぐしかなかった。

(私が、恋? そんなこと、絶対に、ない)

 熱くなる頬に戸惑いをおぼえつつ、佳奈は強く否定の言葉を胸に刻んだ。

「ま、まあ、とにかく。五月からはこれまで以上に厳しく参りますから、よろしくお願いいたしますわ」
「了解」

 とりあえず、パンチラ統制委員会は、存続していくことになったようだ。





『舞奈ちゃん、ちょっとそこに座りなさい』
「‥‥‥はい」

 その日の夜。
 舞奈の部屋である。
 でにっしゅは勉強机の上に陣取り、床に正座してしょんぼりとしている舞奈を見下ろしていた。

『今回は初めてのお仕事だったし、まあ、へんてこな委員会のお手伝いだったこともあるから、しょうがない部分もあったけど』
 小さな舞奈の身体が、風船がしぼむように、ますます小さくなっていった。
『どんな理由であれ、人を傷つけるような暴走は、魔法少女としていただけないよ。そこんところは、わかってる?』
「はい、わかってます」

 しおらしい舞奈に、黒猫は満足そうに続ける。

『ボクはね、舞奈ちゃんには、古き良き時代の魔法少女のようになって欲しいと思っているんだ』
「古き、良き?」
『そう。魔法で誰かを傷つけるんじゃなくて、誰かの力になるような、そんな魔法少女になってほしいんだ』
「‥‥‥む、むずかしいんじゃないかな」

 遠慮がちに舞奈は言った。

『どうして?』
「だって、今は昔と違うし、複雑になってるっていうか、そんなに単純じゃないっていうか‥‥‥」
『そうかもしれないね。でも、舞奈ちゃんに誰かを傷つけることが、本当にできる?』
「そ、それは、無理です」
『だよね。だから舞奈ちゃんの得意なこと、例えば歌とか踊りとかで、みんなを笑顔にしていこうよ』
「そ、それも、無理です」
『はあ? なんで?』
「だ、だって‥‥‥」

 もじもじとうつむく舞奈に、黒猫が励ますように言い放った。

『恥ずかしがり屋さんなのは、わかってるよ。でもね、やってみたら結構いけちゃったりするもんだからね。さあ、練習だと思って、何か歌ってみてよ』
 暖かい真剣な眼差しに、舞奈は戸惑いながら頷いた。
「‥‥‥わかった。でもでも、絶対に笑わないでね?」
 でにっしゅの首肯にあわせるように、舞奈は静かに歌い始めた。


 舞奈の絶唱&情熱的なダンスが終わった。
 静寂を取り戻した部屋の中で、黒猫はその目を文字通り白黒とさせていた。

「ど、どうだった?」
 不安そうに舞奈は問うた。
『‥‥‥え? あ~、その~、まあよかったんじゃない、かな?』
「ほんとに!?」

 思いがけない答えに、舞奈の頬が若干緩む。

『うん。今の歌と踊りって、この国の伝統芸能のどじょうすくいってやつだよね? え~とたしか‥‥‥そう、安来節やすぎぶし! いや~、舞奈ちゃんにぴったりで、ボクはいいと思うよ。実際想像してたのは、アイドルみたいな華やかなヤツだったんだけど、そうきたかあ。でも、全力で笑いを取りに来るその根性やよし、だよね。そもそも方法なんて人それぞれなんだから、自分らしい方法でやればいいんだよ』

 いつになく饒舌なでにっしゅに、舞奈の緩んだ頬がこわばった。

「‥‥‥がう」
『え? 何?』
「安来節、違う」
『は?』
「今のは、華やかなアイドルの歌‥‥‥」
『えっ!? そ、そう、だったんだ‥‥‥」

 気まずさ、決壊。

『いい、いや~、個性的? っていうのかな? いや、あれだ。高尚な芸術ってヤツは、他人には理解されがたい物なんだよね? だだだ、だから舞奈ちゃん、強く生きようね?』
「も、もういいよっ! いつもみたいに、いっそ笑い飛ばせばいいじゃないっ!」
『そう? なら遠慮なく。げらげらげらっ!』
「ななっ、ほんとに笑うな~、ばか~っ!」

 その日は遅くまで、楽しげな言い争いが続いたという。

 魔法少女の道は、前途多難なようだ。
 でも、舞奈とでにっしゅは、本当に名コンビに違いないのだろう。
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