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忍れど、五月雨編 第四章
1 助っ人みるくちゃん
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雨雲のすきまから、久しぶりに日の光が差し込んでいた。咲き誇るアジサイを濡らしている雨粒が、その光を反射してきらきらと煌めく。
梅雨の小休止に、どこかほっとしたような顔が溢れる放課後。第二視聴覚室は、重苦しい空気に支配されて‥‥‥いなかった。
「三太ー! 三太は弱い?」
浩太と共にやってきたみるくちゃんが、いきなり質問を飛ばす。
「え? 強くはないと思うけど、弱くもなーー」
「ふーん、弱いんだね? じゃあ、ボコるね、ね?」
三太の言葉を遮って、満面の笑みで右拳をぎゅぎゅっと握りこんだ。
「え? え? 何でそうなーー」
ぶおんっ!
彼の左頬横を唸りを上げてかすめていく右ストレート。
「あ、危ないでしょう!?」
「えー、今のは小パンチだよ? 全然危なくないもん!」
目をむいてしかりつける三太に、みるくちゃんは不満顔で対抗。
「大体どうしてみるくちゃんは、すぐに暴力をふるうのさ?」
「それはあたしが、わ、わりゅだから‥‥‥あ、悪だから!」
肝心な所はきっちりと噛む彼女は、全然悪には見えなかった。
「はあ‥‥‥浩太くん? これはどういう事かな?」
出入り口付近で立ったまま苦笑いしている浩太に聞いてみる。
「あ~、その~、簡潔に言うとね、みるくちゃんの思考は、格ゲーのヒールキャラのデータにほぼ毒されているんだ」
彼は困ったような表情で、頭を掻く。
「???」
それを聞いていたみるくちゃんは、訳も分からずにこにこ。
「ってことは、本当にアンドロイドなんだ‥‥‥」
「そうだって言ってるだろう、青?」
一連の行動を黙って見ていたましろが動いた。
「おい、牛原。これにちょっと試してみてもいいか?」
みるくちゃんをずびし、と指さす。
「ひゃあ!?」
慌てた彼女は浩太の背後に逃げ込んだ。
「た、試すって何を‥‥‥」
ヒロインのましろとのギャップに、浩太はまだ戸惑っているようだ。
「昼休みに言った、オレの‥‥‥こいつをだ!」
ぶおん、と右手に闇を顕現させた。
「え、えええっ!?」
常識外れのみるくちゃんを間近で見ている浩太も、これには肝を冷やした。
「なな、何ですか? それは!?」
「ほえー」
その背後からひょっこりと顔を出したロリっ子も、若干驚いている様子だ。
「ブラックホール、だ」
ありえない、と浩太が頭を抱える。
「あるんだよ! おいみるく!」
蛇のようなじっとりとした目で、彼女を睨みつけた。
「ひっ!?」
ガクブルな表情のみるくちゃんが、ささっ、と再び彼の背後に隠れる。
「受け取れや!」
だがましろは躊躇なくそれを叩きつけた。浩太の事など見えていないかのように‥‥‥。
「ひ、ひ、ひえ~!?」
彼の情けない悲鳴が響く。
「だめーっ!」
咄嗟に、ずざざ、とみるくちゃんはその前に立ちはだかった。
「みるくちょっぷは救世主!」
音もなく忍び寄った闇を、すぱぱ~ん、と鋭い手刀が切り裂いた!
「ほう!」
感嘆の声を上げるましろ。が、その顔が、すぐに狂気の色に染まる。
「浩太をボコっていいのは、あ、た、し、だけーっ!」
だん、と床を蹴ったみるくちゃんが、ましろに迫る。
「‥‥‥いや、誰もボコっちゃいけませんよ? 警察沙汰ですよ?」
浩太のぼそぼそとした独り言をバックに!
「へへ、いいねえ、いいっ!」
ましろの正面に、ゆらゆらと闇の壁が展開した。
「みるくきっくは破滅行き」
どがーん! と衝撃が走り、闇が消え去る。
「そして、必殺の‥‥‥」
はあああぁ‥‥‥あっ!
みるくちゃんの両掌に、白く輝くエネルギーが収束していく。
「みるくびーむ!」
「あ、だめだよみるくちゃーー」
浩太の制止もむなしく、ましろの至近距離から発射される狂った閃光。
ずびゅうううむっ!
ほぼゼロ距離からの攻撃に、そこにいた男子四人から悲鳴が上がった。
線の細いましろの身体に直撃したそれが、揺らめいて爆ぜ‥‥‥ない!?
「ふ~、危ねえ危ねえ」
咄嗟に展開したのだろう。暗黒の鎧が、みるくびーむを吸収していた。
「えー、すごーいっ!」
おもちゃを目の前にした子供のように、きらきらと瞳を輝かせたみるくちゃんが、ましろのまわりをぐるりと一周した。
「ねえねえ、これ、かっこいいね!」
今までのオドオドなどどこへやら、ましろに積極的に話しかけている。
「へへ、だろう?」
ダーク・アーマーの胸辺りをこつんと叩いて、にっ、とましろが笑む。
「うん!」
その満開の笑みに、ましろが続ける。
「なあ、みるく。オレはおまえの事が、気に入ったぜ。その力、考え方‥‥‥全部がいいぞ」
「え、えへへ」
ただただ可愛いだけのはにかみだった。
「でだ。ちょっとオレたちに、その力を貸してくれねえか?」
「うん、いいよ!」
即答だった。
「よし、決まりだ! 牛原はあおいのプログラムを完成させる。みるくはオレたちと一緒に戦う!」
「戦うぞっ! おーっ!!」
元気のいい声を響かせ、みるくちゃんはぴょこぴょこと跳ね回った。
梅雨の小休止に、どこかほっとしたような顔が溢れる放課後。第二視聴覚室は、重苦しい空気に支配されて‥‥‥いなかった。
「三太ー! 三太は弱い?」
浩太と共にやってきたみるくちゃんが、いきなり質問を飛ばす。
「え? 強くはないと思うけど、弱くもなーー」
「ふーん、弱いんだね? じゃあ、ボコるね、ね?」
三太の言葉を遮って、満面の笑みで右拳をぎゅぎゅっと握りこんだ。
「え? え? 何でそうなーー」
ぶおんっ!
彼の左頬横を唸りを上げてかすめていく右ストレート。
「あ、危ないでしょう!?」
「えー、今のは小パンチだよ? 全然危なくないもん!」
目をむいてしかりつける三太に、みるくちゃんは不満顔で対抗。
「大体どうしてみるくちゃんは、すぐに暴力をふるうのさ?」
「それはあたしが、わ、わりゅだから‥‥‥あ、悪だから!」
肝心な所はきっちりと噛む彼女は、全然悪には見えなかった。
「はあ‥‥‥浩太くん? これはどういう事かな?」
出入り口付近で立ったまま苦笑いしている浩太に聞いてみる。
「あ~、その~、簡潔に言うとね、みるくちゃんの思考は、格ゲーのヒールキャラのデータにほぼ毒されているんだ」
彼は困ったような表情で、頭を掻く。
「???」
それを聞いていたみるくちゃんは、訳も分からずにこにこ。
「ってことは、本当にアンドロイドなんだ‥‥‥」
「そうだって言ってるだろう、青?」
一連の行動を黙って見ていたましろが動いた。
「おい、牛原。これにちょっと試してみてもいいか?」
みるくちゃんをずびし、と指さす。
「ひゃあ!?」
慌てた彼女は浩太の背後に逃げ込んだ。
「た、試すって何を‥‥‥」
ヒロインのましろとのギャップに、浩太はまだ戸惑っているようだ。
「昼休みに言った、オレの‥‥‥こいつをだ!」
ぶおん、と右手に闇を顕現させた。
「え、えええっ!?」
常識外れのみるくちゃんを間近で見ている浩太も、これには肝を冷やした。
「なな、何ですか? それは!?」
「ほえー」
その背後からひょっこりと顔を出したロリっ子も、若干驚いている様子だ。
「ブラックホール、だ」
ありえない、と浩太が頭を抱える。
「あるんだよ! おいみるく!」
蛇のようなじっとりとした目で、彼女を睨みつけた。
「ひっ!?」
ガクブルな表情のみるくちゃんが、ささっ、と再び彼の背後に隠れる。
「受け取れや!」
だがましろは躊躇なくそれを叩きつけた。浩太の事など見えていないかのように‥‥‥。
「ひ、ひ、ひえ~!?」
彼の情けない悲鳴が響く。
「だめーっ!」
咄嗟に、ずざざ、とみるくちゃんはその前に立ちはだかった。
「みるくちょっぷは救世主!」
音もなく忍び寄った闇を、すぱぱ~ん、と鋭い手刀が切り裂いた!
「ほう!」
感嘆の声を上げるましろ。が、その顔が、すぐに狂気の色に染まる。
「浩太をボコっていいのは、あ、た、し、だけーっ!」
だん、と床を蹴ったみるくちゃんが、ましろに迫る。
「‥‥‥いや、誰もボコっちゃいけませんよ? 警察沙汰ですよ?」
浩太のぼそぼそとした独り言をバックに!
「へへ、いいねえ、いいっ!」
ましろの正面に、ゆらゆらと闇の壁が展開した。
「みるくきっくは破滅行き」
どがーん! と衝撃が走り、闇が消え去る。
「そして、必殺の‥‥‥」
はあああぁ‥‥‥あっ!
みるくちゃんの両掌に、白く輝くエネルギーが収束していく。
「みるくびーむ!」
「あ、だめだよみるくちゃーー」
浩太の制止もむなしく、ましろの至近距離から発射される狂った閃光。
ずびゅうううむっ!
ほぼゼロ距離からの攻撃に、そこにいた男子四人から悲鳴が上がった。
線の細いましろの身体に直撃したそれが、揺らめいて爆ぜ‥‥‥ない!?
「ふ~、危ねえ危ねえ」
咄嗟に展開したのだろう。暗黒の鎧が、みるくびーむを吸収していた。
「えー、すごーいっ!」
おもちゃを目の前にした子供のように、きらきらと瞳を輝かせたみるくちゃんが、ましろのまわりをぐるりと一周した。
「ねえねえ、これ、かっこいいね!」
今までのオドオドなどどこへやら、ましろに積極的に話しかけている。
「へへ、だろう?」
ダーク・アーマーの胸辺りをこつんと叩いて、にっ、とましろが笑む。
「うん!」
その満開の笑みに、ましろが続ける。
「なあ、みるく。オレはおまえの事が、気に入ったぜ。その力、考え方‥‥‥全部がいいぞ」
「え、えへへ」
ただただ可愛いだけのはにかみだった。
「でだ。ちょっとオレたちに、その力を貸してくれねえか?」
「うん、いいよ!」
即答だった。
「よし、決まりだ! 牛原はあおいのプログラムを完成させる。みるくはオレたちと一緒に戦う!」
「戦うぞっ! おーっ!!」
元気のいい声を響かせ、みるくちゃんはぴょこぴょこと跳ね回った。
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