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26話 因縁の忌まわしき赤
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ごおおお、という地響きが起こった。
ギルバートに銃口を向けているアッシャーの背後に影が現れた、と同時にアッシャーの悲鳴が響きわたる。
「ぎゃああああ!」
アッシャーはまるで人形のように、腕をちぎられて放り投げられていた。
それは赤黒いディアヴァルだった。
「ダークレッド!」
間違いようがない。ヤツの脇にはギルバートが負わせた深い傷痕があった。
「くそっ!」
ドルトンが叫び、ジョセフと共に構えを取る。
「アッシャー!」ギルバートは近くに飛ばされていたアッシャーの元に駆け寄った。
彼はもう虫の息だった。どうあっても助からない惨状だった。
嫌な奴だと思った事は何度もあったが、彼を敵だと思った事はなかった。自分と同じくディアヴァルの討伐に取り憑かれた男だったが彼は自分に正直だった。
ギルバートは知っていた。彼の胸元からロケットが零れ落ちている。ロザリオと共に彼がいつも首にかけていたロケットだ。その中身を一度だけ見かけた事がある、そこには少女の写真が入っていた。
誰だ?と尋ねた時、彼は「妹」と答え、バツが悪そうにすぐに服の中にロケットをしまった。
「 ミリ・・・」
アッシャーが何かを呟いた。女の名前のように思ったが不明瞭で聞こえなかった。写真の少女を思った。その人の名かもしれない。
誰にでも傷がある。取り返しようのない傷が。
がくりと彼の首が落ちた。だが悲しむ暇はなかった。
「ホーガン!マシューズ!散れ!戦え!」
ドルトンの呼び掛けにギルバートは「おお!」と叫び、鎌を振るった。
ダークレッドは以前にもまして凶暴になっている。喰うためではない、確実にモノクルスへの敵意による襲撃だった。
ギルバートの攻撃はいとも簡単に弾かれた。
「・・・くっ!」
無防備になったギルバートに、ぐわりと巨大な爪が振り下ろされる。
鎌は振り被りが大きい獲物だ。一撃必殺には向いているが小回りが利かない。
防御が間に合わない、体を捻って躱そうとすると、ぶわり、と横から体を攫われていた。
「ウィリアム!?」
緑のマント姿のウィリアムが、ギルバートに抱きつくようにしてダークレッドの凶器から飛び退ったのだ。
ドルトンとジョセフもその出現に驚いたようだったが、すぐに赤黒い怪物へと向き直る。今はウィリアムの事は横に置くと決めたようだった。彼は自分に害のないモノクルスを襲わない。それを二人とももうわかっているのだろう。
ギルバートもまた、突然の再会を喜ぶ時ではないと、ただ無言で凶暴な怪物を睨み上げるウィリアムの横顔に気を引き締める。
ドルトンが聖具のハンマーで、ジョセフも聖具のライフルで応戦する。だがダークレッドは硬い上に速かった。
「があ!」
ウィリアムが高く舞い上がってダークレッドの頭を蹴り飛ばした。それはモノクルスの誰より怪物にダメージを与え、巨体をよろめかせた。
「おお!」
ギルバートはその隙を逃さず、太い腕に鎌を突き立てた。
不思議な感覚がした。ウィリアムの気配がギルバートを奮い立たせていた。攻撃性を露わにする彼の強い毒の気配を恐ろしいとは感じず、むしろ鼓舞されているような気分になった。
ウィリアムの加勢を受けて、モノクルスと因縁のディアヴァルとの交戦が続く。
だが過去に幾たびも仕留められなかったダークレッドは凶暴さを増すばかりで、忌々しい程に手強い。
ウィリアムが再び跳び上がり、蹴りつけようとしたが今度はダークレッドの腕の方が速かった。巨大な張り手にウィリアムは軽く吹き飛ばされてしまう。何本もの木々を薙ぎ倒し、茂みの奥へと緑のマント姿が突っ込んだ。
「ウィル!」
ギルバートは一瞬焦ったが、彼ならばあの程度では死なないだろうと自身に言い聞かせた。
「くそ!おい、ジョセフ、アッシャーの矢は薬入りか?」
アッシャーの遺体の近くにクロスボウ用の矢筒があった。だが矢は二本だけしか入っていない。他はどこかに散らばっているかもしれないが、探している余裕はない。残った分だけでもダークレッドに突き刺せば効果があるかもしれない。
「そうだ!でもクロスボウが見当たらない!」
「俺が直接、突き立ててやる!援護してくれ!」
「無茶だ!」
ギルバートは引き止めるジョセフの言葉を無視して矢を手に掴むと、ダークレッドに向かって走った。ジョセフは隙を作るためにダークレッドへ銃弾を撃ち込む。
ギルバートは振り回される爪を掻い潜り、その脇腹に矢を突き立てた。だが恐ろしく硬質な肌には聖具であっても人の力では矢じりが通らない。
「くそ!硬い!」
「銃創を狙え!」
ジョセフの指示とパン!という音と共にギルバートの近くに弾が着弾する。狙いの腕は流石だった。
だが小さな銃創に矢を突き立てるのは簡単ではない。再び振り回される爪を避けて、なんとか矢を傷口に突き立てた。
「ぐおおお!」
異変に気づいたのか、怪物は怒り狂って暴れた。背中側を攻撃していたドルトンを闇雲に薙ぎ払った。
一本の毒では巨体のダークレッドを無力化できないようだった。もしくはやはり突き立てが浅かったのか。
あと一本の矢で追い討ちをかけたとして、果たして効くのだろうか。
「ドルトン!」
飛ばされたリーダーにジョセフが駆け付けた。起き上がれない様子だったが、無事のようだ。
だが怒り狂ったダークレッドが泡を吹きながらジョセフとドルトンの方へ突進していく。ギルバートが追い付けないスピードだった。
ジョセフは銃を撃ちながらドルトンを引き摺り、必死に後退する。怪物の一撃を避けようとして、ジョセフの腕を爪が切り裂いた。
「うああっ!」
ジョセフが崩れ落ちる中、ギルバートは必死に走った。伸ばした鎌をダークレッドに引っかけて飛び込み、握りしめた矢を皮膚に押し込んだ。だが焦ったせいか矢は無残にも途中で折れてしまった。
「くそっ!」
いとも簡単にギルバートは振り落とされ、ぐわり、とダークレッドの反撃の爪が眼前に迫る。
寸前で構えた鎌で防御したが、怪力による強烈な一発はギルバートを吹き飛ばした。
大木に激突し、ギルバートは一瞬にして意識を手放した。
ギルバートに銃口を向けているアッシャーの背後に影が現れた、と同時にアッシャーの悲鳴が響きわたる。
「ぎゃああああ!」
アッシャーはまるで人形のように、腕をちぎられて放り投げられていた。
それは赤黒いディアヴァルだった。
「ダークレッド!」
間違いようがない。ヤツの脇にはギルバートが負わせた深い傷痕があった。
「くそっ!」
ドルトンが叫び、ジョセフと共に構えを取る。
「アッシャー!」ギルバートは近くに飛ばされていたアッシャーの元に駆け寄った。
彼はもう虫の息だった。どうあっても助からない惨状だった。
嫌な奴だと思った事は何度もあったが、彼を敵だと思った事はなかった。自分と同じくディアヴァルの討伐に取り憑かれた男だったが彼は自分に正直だった。
ギルバートは知っていた。彼の胸元からロケットが零れ落ちている。ロザリオと共に彼がいつも首にかけていたロケットだ。その中身を一度だけ見かけた事がある、そこには少女の写真が入っていた。
誰だ?と尋ねた時、彼は「妹」と答え、バツが悪そうにすぐに服の中にロケットをしまった。
「 ミリ・・・」
アッシャーが何かを呟いた。女の名前のように思ったが不明瞭で聞こえなかった。写真の少女を思った。その人の名かもしれない。
誰にでも傷がある。取り返しようのない傷が。
がくりと彼の首が落ちた。だが悲しむ暇はなかった。
「ホーガン!マシューズ!散れ!戦え!」
ドルトンの呼び掛けにギルバートは「おお!」と叫び、鎌を振るった。
ダークレッドは以前にもまして凶暴になっている。喰うためではない、確実にモノクルスへの敵意による襲撃だった。
ギルバートの攻撃はいとも簡単に弾かれた。
「・・・くっ!」
無防備になったギルバートに、ぐわりと巨大な爪が振り下ろされる。
鎌は振り被りが大きい獲物だ。一撃必殺には向いているが小回りが利かない。
防御が間に合わない、体を捻って躱そうとすると、ぶわり、と横から体を攫われていた。
「ウィリアム!?」
緑のマント姿のウィリアムが、ギルバートに抱きつくようにしてダークレッドの凶器から飛び退ったのだ。
ドルトンとジョセフもその出現に驚いたようだったが、すぐに赤黒い怪物へと向き直る。今はウィリアムの事は横に置くと決めたようだった。彼は自分に害のないモノクルスを襲わない。それを二人とももうわかっているのだろう。
ギルバートもまた、突然の再会を喜ぶ時ではないと、ただ無言で凶暴な怪物を睨み上げるウィリアムの横顔に気を引き締める。
ドルトンが聖具のハンマーで、ジョセフも聖具のライフルで応戦する。だがダークレッドは硬い上に速かった。
「があ!」
ウィリアムが高く舞い上がってダークレッドの頭を蹴り飛ばした。それはモノクルスの誰より怪物にダメージを与え、巨体をよろめかせた。
「おお!」
ギルバートはその隙を逃さず、太い腕に鎌を突き立てた。
不思議な感覚がした。ウィリアムの気配がギルバートを奮い立たせていた。攻撃性を露わにする彼の強い毒の気配を恐ろしいとは感じず、むしろ鼓舞されているような気分になった。
ウィリアムの加勢を受けて、モノクルスと因縁のディアヴァルとの交戦が続く。
だが過去に幾たびも仕留められなかったダークレッドは凶暴さを増すばかりで、忌々しい程に手強い。
ウィリアムが再び跳び上がり、蹴りつけようとしたが今度はダークレッドの腕の方が速かった。巨大な張り手にウィリアムは軽く吹き飛ばされてしまう。何本もの木々を薙ぎ倒し、茂みの奥へと緑のマント姿が突っ込んだ。
「ウィル!」
ギルバートは一瞬焦ったが、彼ならばあの程度では死なないだろうと自身に言い聞かせた。
「くそ!おい、ジョセフ、アッシャーの矢は薬入りか?」
アッシャーの遺体の近くにクロスボウ用の矢筒があった。だが矢は二本だけしか入っていない。他はどこかに散らばっているかもしれないが、探している余裕はない。残った分だけでもダークレッドに突き刺せば効果があるかもしれない。
「そうだ!でもクロスボウが見当たらない!」
「俺が直接、突き立ててやる!援護してくれ!」
「無茶だ!」
ギルバートは引き止めるジョセフの言葉を無視して矢を手に掴むと、ダークレッドに向かって走った。ジョセフは隙を作るためにダークレッドへ銃弾を撃ち込む。
ギルバートは振り回される爪を掻い潜り、その脇腹に矢を突き立てた。だが恐ろしく硬質な肌には聖具であっても人の力では矢じりが通らない。
「くそ!硬い!」
「銃創を狙え!」
ジョセフの指示とパン!という音と共にギルバートの近くに弾が着弾する。狙いの腕は流石だった。
だが小さな銃創に矢を突き立てるのは簡単ではない。再び振り回される爪を避けて、なんとか矢を傷口に突き立てた。
「ぐおおお!」
異変に気づいたのか、怪物は怒り狂って暴れた。背中側を攻撃していたドルトンを闇雲に薙ぎ払った。
一本の毒では巨体のダークレッドを無力化できないようだった。もしくはやはり突き立てが浅かったのか。
あと一本の矢で追い討ちをかけたとして、果たして効くのだろうか。
「ドルトン!」
飛ばされたリーダーにジョセフが駆け付けた。起き上がれない様子だったが、無事のようだ。
だが怒り狂ったダークレッドが泡を吹きながらジョセフとドルトンの方へ突進していく。ギルバートが追い付けないスピードだった。
ジョセフは銃を撃ちながらドルトンを引き摺り、必死に後退する。怪物の一撃を避けようとして、ジョセフの腕を爪が切り裂いた。
「うああっ!」
ジョセフが崩れ落ちる中、ギルバートは必死に走った。伸ばした鎌をダークレッドに引っかけて飛び込み、握りしめた矢を皮膚に押し込んだ。だが焦ったせいか矢は無残にも途中で折れてしまった。
「くそっ!」
いとも簡単にギルバートは振り落とされ、ぐわり、とダークレッドの反撃の爪が眼前に迫る。
寸前で構えた鎌で防御したが、怪力による強烈な一発はギルバートを吹き飛ばした。
大木に激突し、ギルバートは一瞬にして意識を手放した。
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