ウサギの僕と狼の彼

愛莉

文字の大きさ
上 下
3 / 6

同室者の大狼くん

しおりを挟む
寮の玄関口に着くと小さな小窓があり、牛の獣人の男性がその小窓の向こうに座っていた。

「すみません。今日、入寮なんですが。」
「はいはい。って君は今朝入寮したよね?って事はこちらの子が入寮の子かな?」
「は、はい。」
「ふふ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。僕は牛尾。ここの寮父をしているんだ。困った事はなんでも言ってね。」
「はい、ありがとうございます。」

おっとりと喋る牛の獣人の牛尾さんはとても優しそうで、僕のこわばった心もゆっくりと絆されていった。
にこやかにおっとりと喋る彼もまた中性的な見た目で男性にしてはムチッとした身体付きと色香に、僕はドキドキしてしまった。それと同時に寮までの道中に狼の獣人に言われたことに納得した。

(男性でも、可愛い人や美人な人にドキドキするってこういう事なんだろうな。)

「君の名前、教えてくれるかな?」
「兎村 雪です。」
「兎村くんだね。……はい。兎村くんは1325室だよ。大狼おおがみくんと同室だから、大狼くんこのまま連れて行ってあげてよ。」
「同室者だったのか。わかりました。」
「兎村くんの部屋の鍵はこれね。部屋に学園や寮の案内書があるからちゃんと読んでね。わからないことがあったらいつでも僕に相談してね。」
「わかりました。」
「じゃぁ、大狼くん。後はよろしくね。」
「はい。兎村、行くぞ。」
「は、はい!あの、牛尾さん!ありがとうございました!」

にこやかに手を振ってくれた牛尾さんに会釈をし、大狼くんの後を追った。
大きなエレベーターが5つ程んでおり、その中の1つに乗り、これから生活する部屋があるフロアに降りた。
部屋が脇にずらっと並び、幅広い廊下に挟まれた中央は連絡通路の様になっている1部を除き吹き抜けになったいる。
全体にアイボリーの温かみある色合いに所々に観葉植物が置かれ、清潔感に溢れていた。

「ここだ。鍵はカード式になってるから、これをドアノブのセンサーにかざせば開く様になってる。やってみろ。」
「う、うん。」

僕がこれから生活するであろう部屋の前に立ち、牛尾さんに渡された鍵になっているカードをドアノブのセンサーにかざすとカチッと音がして、ロックが解除された。
ドアを開けて中に入ると玄関があり、その奥に扉があった。玄関は2人が入ると自動的にゆっくりと閉まり、ピーと音を立て、ガチャっとロックがされた。

「えっと…お邪魔します…」
「フッ、何言ってんだよ。俺もいるけど、ここが今日からお前の部屋だ。この部屋に帰る度にお邪魔しますか?」
「じゃぁ、ただいま?」
「あぁ。その方が良い。」

靴を脱ぎズカズカと入る大狼くんに倣い、僕も靴を脱いで大狼に続いて部屋に入ると、キッチン付きのダイニングルームがあり、テーブルとソファー、テレビなども設置されていた。

「キッチンの奥にある左の扉がトイレで、右の扉が洗面付きの風呂だ。広い風呂に浸かりたい時は寮内にある大浴場に行けば良い。んで、こっちの2つの扉が部屋だ。先に左を使わせてもらったんだが、兎村は右の部屋で良いか?」
「はい。大丈夫です。」
「よかった。まぁ、ざっとこんな感じだ。荷解き手伝うよ。」
「あ、ありがとうございます。」

大狼くんからの部屋の説明が終わり、僕の部屋の荷解きも終了した。荷物はあまり多くないのですぐに終わってしまった。

「あの…ありがとうございました。何から何まで助かりました。」
「気にすんな。同室のよしみだ。でも、その敬語は禁止な。タメだし普通に話せよ。」
「はい!あ…う、うん!」
「はは。そう緊張すんなって。俺は大狼おおがみ れんだ。よろしく。」
「僕は兎村とむら ゆき。よろしくね。」
「おう。じゃぁ、挨拶はこのくらいにして、食堂行かねーか?腹減ってねー?」

部屋に飾ってある時計を見ると、時刻は14時を過ぎていた。
そう言えばお昼食べてなかったなと思い出すと、僕のお腹から空腹を訴える音が鳴った。

「あ…」
「ははっ。腹は空いてるみたいだな。よし、昼飯食べがてら寮内散策しようぜ。」
「うん!」

寮内散策…なんだか楽しそうだと僕はワクワクしたけど、先程から空腹を訴えるお腹を鎮めるのが先だと思い直し、大狼くんの案内で食堂へと向かった。
しおりを挟む

処理中です...