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就職活動 ある大学生

ある大学生 中編

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「またかよ!」
 若い男が自室で悪態をつきながら携帯電話をベッドへ叩き付ける。画面には「祈りの言葉」が並んでいた。
「一体俺のどこが悪いってんだ!」
 この通知で男が受けた入社試験は全滅が確定。
「何がレベルだ!ステータスだ!人間、レベルとステータスが全てじゃねぇだろうが」
 男はビールをかっくらって、ベッドの上へと倒れこむ。
「大体、高レベルスキル持ってる奴はずりいよ。就職に滅茶苦茶有利じゃん。ステータスなんて1日2日で上がるもんじゃないし、高ステータス持ちとか、卑怯じゃん」
 男は最後に面接を受けた日を思い出す。落胆しながら面接室を出た自分とは対照的に、意気揚々と部屋に入っていく人間のレベルが気になりこっそりと見てみた。レベルとステータスは視界に入っている人間のものであれば誰でも見ることができる。この世は「努力した様子」が誰にでも公正にわかる世界なのだ。

 ざっと目に付いたものを挙げると。
 英語:レベル9
 中国語:レベル4
 計画力:レベル5
 リーダーシップ:レベル5
 観察眼:レベル3

 英語のレベルが男の日本語レベルより高かった。仕事をする上で有用そうなほぼ全てのスキルレベルが1~3程度上。表示されているスキルの数、つまりlv1以上身に着けているスキルの数も1.5倍はありそうだった。

 続いてステータス。
 がまんづよさ:65
 しゅうちゅうりょく:45
 きようさ:65

 こちらは男の3~5倍の値を持つものがちらほら。「わんりょく」「しゅんびんせい」「きゃくりょく」などは喧嘩経験の多さからか、男の方が勝っていたが、会社勤めでは重要視されることは無いだろう。唯一肉体系で重要視されそうな「めんえきりょく」「たいきゅうりょく」は男の方が低かった。酒とタバコのせいであろう。

「ズルすぎるだろぉ。あんなのに勝てるわきゃねぇだろ。低レベル、低ステータスの奴は一体どうすりゃいいんだよぉ」
 男に現状を打破する方法は何も思いつかない。足をばたばたさせながら天井を仰ぎ見ていると、昔の様々な場面がなんとなく浮かんで来た。

 義務教育時代、高等教育時代。「レベル上げ」の重要性、「ステータスのあげ方」について、事あるごとに大人たちが説明していた。男は真剣に話を受けたことは無く、それらの方法を実行したことも無かった。努力してレベルを上げるのが馬鹿馬鹿しいと感じていたためだ。
 学校は生徒全員が様々なスキルレベルが社会で求められる水準に到達できるようカリキュラムが組まれている。そのために「定期テスト」という仕組みがある。だが水準に到達していなくても、補修、補講を受けることによって卒業にはたどり着ける。ゆえに、男は「テストの点数を取るために努力する」必要性を感じたことは無かった。

 ようやくレベル上げの必要性を感じ、慌てて勉強し始めたのは去年から。学業に関係するもの以外のレベルを上げるために、海外留学もボランティア活動も積極的に参加した。だが、全て無為に終わった。男は気がついていなかったが、大抵の人間は大学入学前にそれらを済ませているのだ。
 就職活動が上手くいかない原因は怠惰にある、という結論に至りそうになったところで、その考えを振り払おうと男は自室で大声を上げた。
「何がレベルだ!何がステータスだ!人間にはもっと大事な事があるだろ!
 思いつくままに叫んだが、男は自分が言った言葉の中に真理を見た気がした。
「そうだよ、それで決まる世の中の方がおかしいんだ!人間にはもっと重要なことがある。人間で重要な要素は・・・」
 男は酔った頭で必死に考える。世の中の本当の真理を見つけてやろうという気持ちで。
「人間ってのはこう・・・、あれだ!優しさだ!」
 天啓が降りてきた。と、男は感じた。
「どうだ!何ができるかじゃなくて、心の方が大切だろ!善いことをした人間が認められるってのが本当に良い世の中じゃねぇか」
 男は勢いよく体を起こし、急いで外出のための準備を始める。
 目指すは近所の神社だ。
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