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第23話 第一王子、まさかの再婚約を申し出る
しおりを挟むヴァイオレットの領地にある新政庁――。
静かに書類を捌くヴァイオレットのもとへ、
慌てふためく侍女が飛び込んできた。
「お嬢様……っ、大変です!大変でございます!」
「工事が遅れているのかしら?
それとも、また誰かが下水道に落ちたとか?」
「違います!! 第一王子殿下がこちらに……!!」
ヴァイオレットの手がピタリと止まった。
セドリック「…………は?」
政庁の入り口から、場違いなほどきらびやかな衣装を着た男が現れた。
――第一王子レオン。
(読者全員:帰れ。)
レオンはバッと両手を広げ、劇場の主演俳優みたいなポーズで叫んだ。
「ヴァイオレット! 君に会いに来た!!」
政庁の時間が止まった。
セドリックが最初に言った。
「帰れ。」
「ちょ、ちょっと!?第二王子、邪魔をするな!」
ヴァイオレットは眉間を押さえ、
“頭痛の原因が自力で歩いてくるのを初めて見た” という顔になった。
「一体、何のご用かしら?」
レオンは深いため息をつき、
“悲劇の美青年”みたいな表情を作ってみせた。
「……気づいたんだ。
君の罵声が……ないと、生きていけないということに!!」
(読者:!?!?!?)
セドリック:「病院行け。」
ヴァイオレット:「……は?」
レオンは熱い眼差しで続ける。
「最初は恐怖だったんだ。
でも今は違う。
君の怒鳴り声が……僕の心に火を灯すんだ!」
(読者:やっぱ病院案件。)
ヴァイオレットは本気で心配そうに彼を見た。
「……精神科医を紹介しましょうか?」
「違うんだヴァイオレット!
僕は君が好きなんだ!!
もう一度……婚約してほしい!!」
ずぅぅぅぅん。
政庁の空気が凍りついた。
セドリックは完全にドン引きしていた。
「本気で気持ち悪いな、お前。」
「き、気持ち悪い!?なぜだ!!」
「言わせるな。読者の総意だ。」
ヴァイオレットは椅子から優雅に立ち上がった。
扇子をゆっくり閉じ――
「……誰か、この変態をつまみ出しなさい。」
「変態!?そんな……!」
「あなた、私を反逆者扱いしておいて、
今さら求婚だなんて、恥という概念が存在しませんの?」
「だって……好きなんだ!」
「知らなくてよかったですわ!!」
屈強な衛兵たちが近づき、
レオンは引きずられていった。
「ま、待ってくれ!!
君の罵声が……僕の栄養なんだぁーーっ!!」
最後まで意味不明だった。
静寂が訪れる。
セドリックはヴァイオレットを横目で見た。
「……よく我慢したな。」
「我慢などしていませんわ。
ただ……殴る価値もありませんでしたの。」
「安心した。俺の未来は明るい。」
「勝手に明るくしておきなさい。」
二人の言い争いが再開される。
しかし政庁の職員たちは知っていた。
さっきの王子より100倍まともな夫婦喧嘩のように聞こえる ということを。
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