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第二部 第2章 沈黙の反撃
セクション4:左遷通知
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セクション4:左遷通知
朝九時ちょうど。
いつもと変わらぬチャイムの音が、社内のスピーカーから流れた。
だが、この日の空気は違っていた。
パソコンを立ち上げると、
全社員宛のメールが受信トレイに届いている。
件名は――
【人事異動のお知らせ】
スクロールする手が、自然と止まった。
“田所重行(第二営業部 部長)
○○地方支社 営業課へ異動(課長職降格)
発令日:翌月一日付”
短い文面だった。
だが、その一文で全てが終わった。
最初に沈黙を破ったのは、第二営業部の一人だった。
「……本当、なのか?」
「部長が……支社へ……?」
その言葉が伝染するように、
フロア中にざわめきが広がっていく。
誰も笑わなかった。
誰も喜ばなかった。
ただ、全員が――理解していた。
“当然の結果だ”
それ以上、何も言葉はいらなかった。
昼休み。
食堂の隅で、田所はひとり弁当を開いていた。
箸を持つ手がわずかに震えている。
周囲では、遠巻きに見つめる視線。
誰も近づこうとしない。
かつて威勢よく怒鳴り散らしていた部長の姿は、もうそこになかった。
彼は小さくため息をつき、弁当を閉じた。
そのまま立ち上がり、
どこへ行くともなく、食堂を出ていく。
廊下ですれ違った若手社員が、
思わず会釈しそうになって――やめた。
(あの人が……本当に、落ちたんだな)
それは同情でも、軽蔑でもない。
ただ“事実”として、静かに受け入れられていた。
第一営業部のフロアでは、
神宮寺がメールを読み終えて、
小さく息を吐いた。
「……終わったな」
「何が、ですか?」
隣のデスクから真子の声。
神宮寺はわずかに微笑み、首を振った。
「いや、少し長かった取引が、ようやく片付いただけだ」
真子は小さく頷き、
資料の整理を続けた。
「……大変でしたね」
「君のほうこそ」
その一言に、彼女は苦笑する。
「私は何もしてません。ただ――いつも通り仕事をしただけです」
「そうだな。それが一番、強いことだ」
神宮寺の視線が柔らかくなる。
真子の指先は淡々と動き、
モニターの数字が整っていく。
(沈黙のまま、真実を通した。それだけで充分だ)
午後。
社長室では、上條社長が人事部長と話していた。
「異動の件、正式に通知は済んだか?」
「はい。本人にも通達済みです。
彼は“納得できない”と一度は言いましたが、最終的に受け入れました」
「そうか」
社長は軽く頷き、机の上の報告書に目を落とす。
そこには、例の分析資料のコピーが綴じられていた。
「やはり数字は嘘をつかないな」
「え?」
「いや、独り言だ」
資料の最後のページには、
小さく印刷された一文が残っている。
“努力はいつか数字になる。
嘘は、数字の中で必ず崩壊する。”
その言葉に、社長の口元がわずかに緩んだ。
夕方。
退勤時間を少し過ぎたオフィス。
第二営業部のデスクから、
荷物をまとめる音が聞こえた。
ダンボール箱に詰められるファイル、
外されたネームプレート。
田所は最後に一度だけ振り返った。
彼の目に映ったのは、
今や自分の居場所ではなくなった部署。
「……俺が間違ってたのか?」
その呟きは、誰にも届かない。
彼は静かに頭を下げ、
ビルを後にした。
自動ドアが閉まる音が、
まるで“時代の幕引き”のように響いた。
夜。
第一営業部の窓際。
真子はひとり残業をしていた。
新しい案件のデータ整理を終えると、
メールの受信音が鳴った。
件名:【人事異動のお知らせ】
既に知っている内容。
だが、無意識にクリックしてしまう。
そこには、冷たい文字だけが並んでいた。
“田所重行、地方支社へ異動(課長職降格)”
真子は画面を見つめ、
そっと息を吐いた。
「……お疲れさまでした」
その声は、どこまでも静かだった。
勝利の笑みも、復讐の快感もない。
ただ、ひとつの“終わり”を見送る声。
蛍光灯の明かりが、彼女の横顔を照らす。
その光は柔らかく、
まるで“正義の後光”のように滲んでいた。
――沈黙のざまぁ。
それは、声を荒げることも、仕返しを叫ぶこともない。
ただ、真実が自ら相手を裁く瞬間。
真子はファイルを保存し、
静かにパソコンの電源を落とした。
窓の外では、夜風が街の灯りを揺らしている。
その光の一つひとつが、まるで彼女の努力を讃えるかのように――
穏やかに、静かに、輝いていた。
朝九時ちょうど。
いつもと変わらぬチャイムの音が、社内のスピーカーから流れた。
だが、この日の空気は違っていた。
パソコンを立ち上げると、
全社員宛のメールが受信トレイに届いている。
件名は――
【人事異動のお知らせ】
スクロールする手が、自然と止まった。
“田所重行(第二営業部 部長)
○○地方支社 営業課へ異動(課長職降格)
発令日:翌月一日付”
短い文面だった。
だが、その一文で全てが終わった。
最初に沈黙を破ったのは、第二営業部の一人だった。
「……本当、なのか?」
「部長が……支社へ……?」
その言葉が伝染するように、
フロア中にざわめきが広がっていく。
誰も笑わなかった。
誰も喜ばなかった。
ただ、全員が――理解していた。
“当然の結果だ”
それ以上、何も言葉はいらなかった。
昼休み。
食堂の隅で、田所はひとり弁当を開いていた。
箸を持つ手がわずかに震えている。
周囲では、遠巻きに見つめる視線。
誰も近づこうとしない。
かつて威勢よく怒鳴り散らしていた部長の姿は、もうそこになかった。
彼は小さくため息をつき、弁当を閉じた。
そのまま立ち上がり、
どこへ行くともなく、食堂を出ていく。
廊下ですれ違った若手社員が、
思わず会釈しそうになって――やめた。
(あの人が……本当に、落ちたんだな)
それは同情でも、軽蔑でもない。
ただ“事実”として、静かに受け入れられていた。
第一営業部のフロアでは、
神宮寺がメールを読み終えて、
小さく息を吐いた。
「……終わったな」
「何が、ですか?」
隣のデスクから真子の声。
神宮寺はわずかに微笑み、首を振った。
「いや、少し長かった取引が、ようやく片付いただけだ」
真子は小さく頷き、
資料の整理を続けた。
「……大変でしたね」
「君のほうこそ」
その一言に、彼女は苦笑する。
「私は何もしてません。ただ――いつも通り仕事をしただけです」
「そうだな。それが一番、強いことだ」
神宮寺の視線が柔らかくなる。
真子の指先は淡々と動き、
モニターの数字が整っていく。
(沈黙のまま、真実を通した。それだけで充分だ)
午後。
社長室では、上條社長が人事部長と話していた。
「異動の件、正式に通知は済んだか?」
「はい。本人にも通達済みです。
彼は“納得できない”と一度は言いましたが、最終的に受け入れました」
「そうか」
社長は軽く頷き、机の上の報告書に目を落とす。
そこには、例の分析資料のコピーが綴じられていた。
「やはり数字は嘘をつかないな」
「え?」
「いや、独り言だ」
資料の最後のページには、
小さく印刷された一文が残っている。
“努力はいつか数字になる。
嘘は、数字の中で必ず崩壊する。”
その言葉に、社長の口元がわずかに緩んだ。
夕方。
退勤時間を少し過ぎたオフィス。
第二営業部のデスクから、
荷物をまとめる音が聞こえた。
ダンボール箱に詰められるファイル、
外されたネームプレート。
田所は最後に一度だけ振り返った。
彼の目に映ったのは、
今や自分の居場所ではなくなった部署。
「……俺が間違ってたのか?」
その呟きは、誰にも届かない。
彼は静かに頭を下げ、
ビルを後にした。
自動ドアが閉まる音が、
まるで“時代の幕引き”のように響いた。
夜。
第一営業部の窓際。
真子はひとり残業をしていた。
新しい案件のデータ整理を終えると、
メールの受信音が鳴った。
件名:【人事異動のお知らせ】
既に知っている内容。
だが、無意識にクリックしてしまう。
そこには、冷たい文字だけが並んでいた。
“田所重行、地方支社へ異動(課長職降格)”
真子は画面を見つめ、
そっと息を吐いた。
「……お疲れさまでした」
その声は、どこまでも静かだった。
勝利の笑みも、復讐の快感もない。
ただ、ひとつの“終わり”を見送る声。
蛍光灯の明かりが、彼女の横顔を照らす。
その光は柔らかく、
まるで“正義の後光”のように滲んでいた。
――沈黙のざまぁ。
それは、声を荒げることも、仕返しを叫ぶこともない。
ただ、真実が自ら相手を裁く瞬間。
真子はファイルを保存し、
静かにパソコンの電源を落とした。
窓の外では、夜風が街の灯りを揺らしている。
その光の一つひとつが、まるで彼女の努力を讃えるかのように――
穏やかに、静かに、輝いていた。
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