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第三部 沈黙の恋、静かな始まり
第2章 告白と提案
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第3章 告白と提案
社長の誘い
オフィスが静まり返る午後七時。
電話のベルが鳴った。
「……はい、第二営業部、野呂です」
相手は社長秘書だった。
「野呂さん、社長がお呼びです。今から少しお時間よろしいでしょうか?」
「えっ、社長が……? はい、わかりました」
周囲の同僚たちが驚いた顔で彼女を見た。
「野呂が社長に呼ばれるなんて……」「また昇進か?」
そんな囁きが背中を追う。
応接室で待っていると、秘書が現れた。
「すぐに社長がお見えになります。内容については……私にも知らされておりません」
「……そうですか」
わずかな沈黙の後、ドアが開く。
社長が穏やかな笑みを浮かべて入ってきた。
「ふむ、すまんな。退勤時間だというのに」
「いえ、大丈夫です」
「実は、同行してほしい場所があってな」
「はぁ……それは、業務命令でしょうか?」
一瞬、社長は戸惑ったように目を細め、そして笑った。
「そうだ、業務命令だ。付き合え」
軽やかに歩き出す社長の背を追い、真子は慌てて立ち上がる。
---
玄関前には、黒塗りの運転手付きの車が停まっていた。
車内では、社長が珍しく柔らかな声で話しかけてきた。
「野呂くん、仕事の疲れはどうだ? 最近、第二営業部は忙しいだろう」
「ええ、ですが皆が協力的なので助かっています」
「そうか。それを聞いて安心した」
短いやり取りのあと、車は都心の夜景を抜け、高級ホテルの前で止まった。
「……ここは?」
「ああ、最上階のレストランだ」
「どなたかとお約束が?」
「いや、約束はしていない」
「はあ??」
「相手は――業務命令と偽って連れてきた君だ」
「えええええええええ!?」
静かなロビーで、真子の声が跳ねた。
慌てて口を押さえ、周囲に頭を下げる。
---
案内されたのは、夜景が一望できる個室。
テーブルにはグラスが二つだけ置かれていた。
「ど、ど、どんなお誘いなのでしょうか?」
「まあ、日頃の働きに対する感謝のつもりだ」
「感謝って……社員として当然のことをしているだけです」
「その“当然”ができる人間は、そう多くない」
社長はグラスを掲げた。
「では、乾杯しようか」
「わ、わが社の未来に、ですね?」
「いや――君に乾杯だ」
「ええええっ!?」
二度目の驚きに、また声が大きくなる。
「……し、失礼しました……」
「はは、気にするな。驚かせたかったんだ」
---
食事が進むうち、社長の表情からいつもの威厳が少しずつ消え、
一人の人間としての温かさがにじみ出ていた。
「野呂くん、君は数字だけでなく、人の心を動かす力を持っている。
それは経営において、最も重要な資質だ」
「そんな、私はただの営業です」
「いや、君の名を聞かぬ部署はない。
静かに成果を出し、誰も傷つけない働き方をしている。
……私はそれを見てきた」
真子はうつむいた。
「……ありがとうございます」
社長はグラスのワインをゆらしながら、低く続けた。
「一つ、お願いがある。検討してもらえないだろうか」
「私にできることなら」
「簡単なことだ。経営のパートナーになってほしい」
「え……? それは、どういう意味で……?」
「共同経営者として、そして――人生のパートナーとしてだ」
「えええええええええええええ!?」
三度目の叫びが、夜景に響いた。
---
「そんな急に……!」
「考える時間はやる。だが、本気だ」
「社長……いえ、会長になるべき人が、そんな……」
「立場は関係ない。私は一人の男として、君を尊敬している」
真子の視線が揺れる。
社長の声は柔らかく、それでいて揺るぎなかった。
「……考えさせてください」
「それは、前向きに検討するという意味でいいのかな?」
「わかりません。こんな話、急にされても……」
社長は微笑んだ。
「急すぎたか。だが、私は待つよ。
君が自分の意思で“この会社”だけでなく、“この人生”を選ぶ日まで」
真子は答えず、ただワイングラスを見つめた。
そこに映る自分の顔は、どこか少女のように戸惑い、
そして――少しだけ、嬉しそうだった。
社長の誘い
オフィスが静まり返る午後七時。
電話のベルが鳴った。
「……はい、第二営業部、野呂です」
相手は社長秘書だった。
「野呂さん、社長がお呼びです。今から少しお時間よろしいでしょうか?」
「えっ、社長が……? はい、わかりました」
周囲の同僚たちが驚いた顔で彼女を見た。
「野呂が社長に呼ばれるなんて……」「また昇進か?」
そんな囁きが背中を追う。
応接室で待っていると、秘書が現れた。
「すぐに社長がお見えになります。内容については……私にも知らされておりません」
「……そうですか」
わずかな沈黙の後、ドアが開く。
社長が穏やかな笑みを浮かべて入ってきた。
「ふむ、すまんな。退勤時間だというのに」
「いえ、大丈夫です」
「実は、同行してほしい場所があってな」
「はぁ……それは、業務命令でしょうか?」
一瞬、社長は戸惑ったように目を細め、そして笑った。
「そうだ、業務命令だ。付き合え」
軽やかに歩き出す社長の背を追い、真子は慌てて立ち上がる。
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玄関前には、黒塗りの運転手付きの車が停まっていた。
車内では、社長が珍しく柔らかな声で話しかけてきた。
「野呂くん、仕事の疲れはどうだ? 最近、第二営業部は忙しいだろう」
「ええ、ですが皆が協力的なので助かっています」
「そうか。それを聞いて安心した」
短いやり取りのあと、車は都心の夜景を抜け、高級ホテルの前で止まった。
「……ここは?」
「ああ、最上階のレストランだ」
「どなたかとお約束が?」
「いや、約束はしていない」
「はあ??」
「相手は――業務命令と偽って連れてきた君だ」
「えええええええええ!?」
静かなロビーで、真子の声が跳ねた。
慌てて口を押さえ、周囲に頭を下げる。
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案内されたのは、夜景が一望できる個室。
テーブルにはグラスが二つだけ置かれていた。
「ど、ど、どんなお誘いなのでしょうか?」
「まあ、日頃の働きに対する感謝のつもりだ」
「感謝って……社員として当然のことをしているだけです」
「その“当然”ができる人間は、そう多くない」
社長はグラスを掲げた。
「では、乾杯しようか」
「わ、わが社の未来に、ですね?」
「いや――君に乾杯だ」
「ええええっ!?」
二度目の驚きに、また声が大きくなる。
「……し、失礼しました……」
「はは、気にするな。驚かせたかったんだ」
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食事が進むうち、社長の表情からいつもの威厳が少しずつ消え、
一人の人間としての温かさがにじみ出ていた。
「野呂くん、君は数字だけでなく、人の心を動かす力を持っている。
それは経営において、最も重要な資質だ」
「そんな、私はただの営業です」
「いや、君の名を聞かぬ部署はない。
静かに成果を出し、誰も傷つけない働き方をしている。
……私はそれを見てきた」
真子はうつむいた。
「……ありがとうございます」
社長はグラスのワインをゆらしながら、低く続けた。
「一つ、お願いがある。検討してもらえないだろうか」
「私にできることなら」
「簡単なことだ。経営のパートナーになってほしい」
「え……? それは、どういう意味で……?」
「共同経営者として、そして――人生のパートナーとしてだ」
「えええええええええええええ!?」
三度目の叫びが、夜景に響いた。
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「そんな急に……!」
「考える時間はやる。だが、本気だ」
「社長……いえ、会長になるべき人が、そんな……」
「立場は関係ない。私は一人の男として、君を尊敬している」
真子の視線が揺れる。
社長の声は柔らかく、それでいて揺るぎなかった。
「……考えさせてください」
「それは、前向きに検討するという意味でいいのかな?」
「わかりません。こんな話、急にされても……」
社長は微笑んだ。
「急すぎたか。だが、私は待つよ。
君が自分の意思で“この会社”だけでなく、“この人生”を選ぶ日まで」
真子は答えず、ただワイングラスを見つめた。
そこに映る自分の顔は、どこか少女のように戸惑い、
そして――少しだけ、嬉しそうだった。
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