ORATORIO(E)SCAPE

しおん

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5 朝のお仕事

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 ユジュンの寝起きする部屋は、宿で一番高いところ、屋根裏にある。つまりは屋根裏部屋が拠点なのだ。なにやら秘密基地めいたその響きを、ユジュンは痛く気に入っている。
 十畳ほどの広さの中に、チェストや本棚やデスクなど、標準よりサイズが若干小さめの家具が並んでいる。どれも昔のアンティークものである。宿屋の歴史と同じだけの歴史を、その家具たちも持っているのだ。
 他の部屋より天井が低いので、頭の天辺が天井につくまで、という期限つきでこの屋根裏部屋を与えられている。天井の高さからして大体十五、六歳…あと八年は使える筈だ。その後は物置部屋として使うと、用途は既に決められている。
 部屋には天体望遠鏡やサッカーボール、こちらの世界でいうレゴブロックのような玩具が無造作に置かれている。そこそこ散らかっていて、整頓されているとはお世辞にも言えない。
 そろそろ、母のお部屋チェックが入る頃なので、片付け期限は迫っている。
 だが、今はそれどころではない。幽霊屋敷の探索に行くという目的の為の準備で忙しい。子供用のベッドの上で、リュックに入り用の品を詰めていく。と、言ってもちょっと街外れまで深夜に出かけるだけなので、大した荷物はない。ランタンと、お菓子、もしもの時の為の暇つぶしの児童書、テンにもらった魔除けのお札。リュックの中は隙間が多くて寂しい。
『いよいよだな』
 ベッドの脇に控えているクーガーが声をかけてくる。体温調節のために、舌をべろんと出して、はぁはぁしている。晩夏だが、随分と涼しくなって凌ぎやすくなった。しかし、天井裏は熱気が籠もるので他より蒸すようだ。
「うん、いよいよ明日だ」
『怖くはねぇのか』
「うーん、別に? どうせ見えないし、おじさんはどうなの? テンちゃんみたいに見えたりするの?」
『俺に霊感はないぜ。動物的直感が備わってるだけだ』
「動物的直感か…頼りにしてるよ」
『まぁ、任せろ。じゃあな』
 クーガーは頼もしい科白を残して、屋根裏部屋から、本来の寝床である外の犬小屋へと帰って行った。
 ユジュンは三階に降りる折りたたみ式の階段を畳んで収納し、ベッドに横になった。天窓から晴れた夜空に星の海が見えた。
 明日の冒険への期待を胸に、眠りはすぐに訪れた。
 翌朝、ユジュンが深い睡眠から浮き上がるようにして目覚めたのは、午前五時のことだった。ベッドから身を起こし、両手を伸ばして伸びをしながら、大きな欠伸を一つする。それで、完全に目が冴える。
 早朝からユジュンは多忙だ。
 出窓を開け放って、夜明けの空気を吸いがてら、さえずり始めた小鳥たちにオハヨウの挨拶をする。日の出はゆっくりになったが、それでもこの時期、太陽はもう地平線から姿を現して、東の空に昇っている。
 さっさと寝間着から洋服に着替えて、折りたたみ式の階段を下ろし、階下へ降りるための道を作ると、そこを降りて、身なりを整えるべく一階の洗面所へ向かう。
 洗面台の前に立って、寝起きの姿を映す鏡とにらめっこしながら、歯を磨き、顔を洗う。しつこいくせっ毛をブラシでとかして、何とか落ち着かせる。
 裏口を出て、物置小屋に置いてあるぼつが背負うようなカゴを背負って、走り出す。
「おじさん、おはよ!」
 犬小屋に向かって声をかける。
『お、おう…』
 直前まで夢の中だった…獣でも夢を見るのかどうかは置いておいて…クーガーは、少し遅れてユジュンに着いてきた。クーガーは朝に弱く、ちょっと寝ぼすけだ。
 宿からして街の反対側に位置する、牧場を訪れる。
「よう、ユジュン。今日も早いねぇ」
 牧場主が、真っ先にユジュンの姿を認めて、近寄ってきた。
「おはよう、おじさん。いつものお願い」
「おう、準備は出来てるぜ」
 牧場主は加工所である小屋までユジュンを連れていった。
 そこで、新鮮な搾り立てミルクと、ハムとチーズを始めとする加工品を受け取る。
 犬好きの牧場主は、ユジュンが品物の検品をしている間、クーガーにハムの切れ端を与えて遊んでいる。
「ウチにも、クーガーぐらい利口な犬がいればねぇ」
 この牧場は敷地面積も広大で、羊や牛や豚を飼育している。色んな加工品も製造していて、かなり手広く商売を行っているようだ。
「秋になったら、また、羊追い頼むわ。手間賃ははずむからよ」
「ホント? まかせてよ。ね、クーガー」
 そう、ユジュンが声をかけると、クーガーは一声鳴いた。
『任されるのは俺だぜ』
 と、ユジュンの言葉を訂正したのは、牧場主には秘密だ。
 牧場を後にすると、次に向かうのは、養鶏所だ。そこで、産みたての卵を仕入れる。烏骨鶏という、特別な種の高価な品だとは聞いているが、そこのところはユジュンにはよく分からない。養鶏所でもユジュンは気軽に声をかけられた。
「毎朝偉いわねぇ、ユジュンは」
「そうでもないよ」
 小太りの婦人に褒められて、素直に照れる。
「それに比べてウチの子は朝が弱くって…」
 と、軽い世間話に巻き込まれながらも、ユジュンはニコニコと笑ってそれをやり過ごす。割れないようにパック詰めされた烏骨鶏の卵を受け取り、次はベーカリーを目指した。
 どこからともなく焼きたてのパンの匂いが漂ってきて、店が近いことを知らせる。
「おはよーございまーす」
 ベーカリーは開店前で表はシャッターが閉まっているので、そっと裏口の戸を開けて、ユジュンはそう挨拶をした。
「やあ、ユジュン。今日も時間通りだね」
 最近、先代から跡目を譲られたばかりの若旦那が、店の奥から顔を出した。大きな紙袋の中に大量のバケットなどのパンを詰め込んだものを、荷物の上に積んでくれる。
「コーヒー牛乳でも飲んでいくかい?」
「んーん、いい。早く帰らないと、お客さんの朝食に響いちゃう」
「そうかい?」
 若旦那は少し寂しそうだった。
「じゃあね!」
 ユジュンは手を振り振り、ベーカリーを後にした。若旦那が裏口に立って見送ってくれるのが背中でも分かった。若旦那にはまだ子供がいないので、ユジュンのような息子がいたらなぁ、としきりに愚痴られるのだ。そう言われても困ってしまう。自分は宿の朝食用の食材をこうして走り回って集める事が仕事で、羨望の眼差しを向けられてもどうしようもない。
 このように、ユジュンは取引先の大人たちには大変気に入られている。
 食材集めを終えて、宿に戻ると、裏口で姉のメイヨと鉢合わせした。玄関の掃き掃除を終えたばかりと見て、手には箒とちり取りを持っている。
「あら、ユジュン。お帰りなさい。ご苦労様ね」
 この姉が、素直に弟を褒める筈がない。思った通り、二言目には、
「毎朝のことなんだから、このくらい出来て当然よね」
 と、嫌味が飛んできた。
 メイヨは、両親があまりにユジュンを持ち上げて甘やかしているので、ほんの少しすねているのである。猫かわいがりされるのは、ユジュンのせいではないのに。
 そんなメイヨと入れ替わりで、キユが裏口に姿を現した。
「あ、ユジュン。帰ってたんだ」
「うん、いつも通りだよ」
 そこで初めてユジュンは荷物を肩から下ろした。ずしりとした重りが取れて、肩から羽根が生えたように軽くなる。
 キユが荷ほどきを始め、取り出した食材を宿の厨房へ運んでいく。それを、ユジュンも手伝って、それで本当にユジュンの朝の仕事は終わりだ。後は大人たちの仕事。
 ユジュンは厨房の隅に置かれた椅子に腰を落ち着けて、キユが与えてくれたコーヒー牛乳をちびちびと飲み始めた。
 両親とメイヨ、キユが朝食作りに精を出すのを、のんびりと眺める。
 コーヒー牛乳を飲み干して、一息つくと、犬小屋に帰ったであろうクーガーのエサやりである。あんまり遅れると、これもよろしくない。お小言を食らってしまう。
 ユジュンはエサと水の入った容器を準備して、犬小屋に向かった。
「おじさん、朝ご飯だよ」
『ユジュンよ。水だけは常時置いておけと言っているだろうが。何故、それが分かんねぇんだ』
 クーガーが息を荒くして、文句をつけた。
「ああ、ごめん。走り回って喉渇いたよね」
 失念していた、とユジュンは申し訳なくなって、素直に謝った。水の入った容器を目の前に置いてやると、クーガーはガブガブと水を飲んだ。
 続いて、ドッグフードの入った容器も目前に置いてやる。
 クーガーはがっついたが、
『たまには、血の滴る生肉が食いてぇな』
 などとのたまった。
「そんなの食べたら、胃がびっくりして、お腹壊しちゃうよ」
 ユジュンはしゃがみ込んで、クーガーの食事風景を観察した。
 ガリガリとドッグフードの細粒を発達した犬歯でかみ砕いて食べる様は、なるほど、肉食獣のそれと変わらないのかも知れない。
 だが、クーガーはペットであって野犬ではない。ドッグフードが似合いである。たまにハムやソーセージを添えてやれば、それでいい。
 厨房の方へ戻ると、食堂にちらほら宿泊客が朝食を求めて席を埋め始めているのが見えた。
 そろそろ、配膳の時間だ。
 厨房のカウンターの上には出来上がった料理の数々が仕上がって並んでいる。
 配膳は、キユとメイヨとユジュンの三人で手分けして行う。
「おはようございます、昨夜はよく眠れましたか?」
 ユジュンはにこやかに挨拶をしながら、初見から常連の宿泊客にまで朝食を配って回った。
 だいたいの客は、ユジュンの笑顔につられて、笑顔を作り、『ふかふかのベッドでよく眠れたよ』などと返答する。
 客の朝食が七時丁度にスタートしても、気が抜けない。追加注文のオーダーや、コーヒーのお代わりを言いつかることがあるからだ。それらの客の要望に応え、最後の客が食堂を去るまでが区切りなのである。
 そして、下げた食器の洗浄を行って、やっと自分たちの朝食が始まる。
 それが八時過ぎのことだから、ユジュンは朝起きてから三時間、腹に何も入れることなく働き続けていることになる。
 なので、なおさら、朝食はうまい。いつもなら手短に済まして、エレメンタリースクールに飛んで行くのだが、今日は休みだから、ゆっくりと朝食を堪能することが出来た。
 これが、ユジュンのだいたいの朝の風景である。
 自由の身になれば、クーガーを連れて、噴水広場へ飛んでいく。
 朝で人気のない広場では、テンとおじいさんが毎朝の日課である、『太極拳』を行っているのが見て取れた。
「おはよ、テンちゃん」
「あ、おはよう、ユッちゃん」
 太極拳を続けながら、テンが挨拶をする。右脚を上げて、左脚を屈め、手を広げてバランスを保っている。いつ見ても変わった形態だな、とユジュンは思う。
「はーあ」
 不思議に思いつつも、二人の真似をして、ポーズを取ってみる。
「精神統一や。心頭滅却すれば火もまた涼し!」
 おじいさんがポーズを変えたので、ユジュンもそれに習って、見よう見まねで体勢を変えてみる。テンは慣れたもので、上手いことバランスを取って立っているが、ユジュンは足下が怪しく、グラついてしまう。立っているのがやっとだ。
「ううう~~」
 最後の難しいポーズで、ついにユジュンはバランスを崩してその場に転んでしまった。
「ユッちゃんには、まだまだむつかしいね」
 テンが糸目をいっそう細めて、ユジュンに手を差し伸べてきた。その手を掴んで、ユジュンは立ち上がる。
「ボクら、朝ご飯、これからやねん」
 テンとおじいさんは、定宿を持たずに、この広場でテントを張って野宿をしている。風呂は銭湯を使って済ましているのだと言う。この日も、朝からひとっ風呂頂いたところだとテンは話した。
 ベンチに座って、おじいさんとテンはベーカリーの袋から惣菜パンを取り出して、パックの牛乳を片手に食べ始めた。
 貧乏旅行は経費節減で、朝食もユジュンの家のものと比べると、質素である。
「いよいよ、今晩やでなぁ」
 テンが今夜の作戦決行について、重い口を開いた。
「うん、おれ、準備万端だよ」
「ボク、ほんま行きたないねん、嫌な予感しかせぇへん」
「でも、もう行くって決めたじゃん。ヒースだってやる気まんまんだし」
「せやねんなぁ」
 テンは天を仰いで、焼きそばパンの最後の一かけらを口に押し込んだ。
「準備だけはしとこう」
 テンはテントの中に仕舞ってある荷物から、すずりと墨、筆を持ってまたベンチまで戻ってきた。
「なにすんの?」
「お札作んねん。念のために」
 テンはベンチを机代わりにして紙切れに、墨をすったすずりに浸した筆で、何やら文字のような図形のようなものを書き出した。
「えーと、じぃちゃん、魔の物を退ける文句ってこれで良かったっけ?」
 書き終わった札を、おじいさんに向かって見せ、確認を取る。
「うむ」
 おじいさんは、じぃっと見つめたあと、大きく頷いた。
「式神を呼び出す文句、いい加減、教えてくれへん?」
「おまえさんには、まだ、ちと早いわ」
「むーー」
 おじいさんに無下にあしらわれたテンは、口を真一文字に結んでいたが、大人しく引き下がって、また新しい札に文字を書き込むことに集中した。
「シキガミってなに?」
「うん、なんでも言うこと聞いてくれる、手下みたいなもん。ボクの代わりに戦ってくれたりするやつ」
「へーえ、あったら便利だね」
「せやけど、じぃちゃんにあかんって言われた」
 テンはちょっとムスっとしている。
「で、今書いてるのはなんなの?」
「『悪霊撃退』、『悪霊退散』、『悪霊滅諦』」
 それらのどこが、どう違うのか、ユジュンには全くもって理解出来なかった。
 テンは心配性だから、用心に用心を重ねているのだろう。
「なんでわざわざ夜中に探検に行くんやろぉ。ヒースの気が知れんわぁ」
「そりゃあ、ヒースが見たいのはお化けだし、お化けは真夜中に出るっていうのが定説だし」
「ホンマもんの悪いやつがおったら、どうするん」
「そのときは、テンちゃんの出番じゃん」
「ええ? ボク?」
 ユジュンの足下で、テンが仰け反った。
「ボクなんか頼りにされても、困るんやけど…」
「ヒースは当てにしてると思う」
 テンは困ったなぁ、と頭を抱えている。
「いざとなったら、イリヤもいるし。イリヤはケンカが滅法強い」
 今でこそ教会に属して大人しくしているイリヤだが、以前はケンカ三昧の日々を送っていた。その血の気の多さを別の方向に向けるため、教会の神父がイリヤに道場へ通わせて、格闘術の修行をさせている。
「イリヤの拳が、霊にもきくんやったらなぁ」
 テンはイリヤを戦力として考えていないようだ。
「おじいさんは、夜中に探検に行くこと、許してくれたの?」
「うん、いちおう。ヤバいときは、迷わず逃げやゆうて」
「おれは、ねお姉ちゃんや親には内緒で行くよ」
 出窓から、ロープを垂らして地上まで降りる予定である。そうすれば、廊下で出会うことも、玄関で発見されるリスクもない。
「ヒースはええとこのぼんぼんみたいやから、夜中にコッソリ出てくんのは骨が折れるかもなぁ」
 テンも、ヒースの詳しい事情は知らないようだ。
「イリヤはどうなのかなぁ」
「イリヤやったら、上手いこと教会の人、まいてくるんとちゃう?」
「うん、まぁ。そっか」
 そんな会話を交わしながら、テンが札を書くのを見ていたが、そんな大量に生産しても使いどころがないんではないだろうか、というくらい、テンは札を書きまくっていた。札を選んで使うより走って逃げる方が早そうである。
 午前中はそうやって広場でテンとくっちゃべって過ごし、昼には宿へ戻ってランチの手伝いをした。休日ということも手伝って、ランチは盛況だった。お陰でユジュンの仕事も増えた。
 午後は、また噴水広場へ出向いて、仲間が勢揃いした。
「いよいよ、決行は今夜だ。者ども、遅れるなよ!」
 ヒースは鼻息も荒く、懐中時計の蓋を開いて閉じた。
「ヒース、めっちゃ張り切ってるなぁ」
「おうよ、テン。この街の都市伝説を一つずつ潰していくのが、オレさまのミッションだ」
 ヒースは格好をつけて、右手の親指で鼻を擦った。
「そういう、おまえが、もっとも、遅れそうだ」
 イリヤがぼそぼそとつぶやいた。だが、核心は突いている。
「なんだと、イリヤ! オレ様の、オレ様による、オレ様の為の計画だぞ、遅れるもんかよ」
 アクア色の爽やかな髪を振り乱し、ヒースはイリヤにつばきを飛ばした。
「汚ねぇ…」
 イリヤが心底嫌そうに服の袖で頬を拭った。イリヤが感情を表に出すのは珍しい。
「これを見ろ!」
 ヒースは皆に向かって、一枚の紙を掲げて見せた。そこには探検の細かな行動計画が、綿密にタイムラインにそってびっしり書き込まれてあった。
「『街外れの幽霊屋敷におけるハウスキーパーの霊の正体を暴く』、オレたちの作戦計画がここにあるのだ!」
「うわー細かー」
「この通りに行動すんの?」
 テンとユジュンはまじまじと紙を見つめた。
「そんな、予定調和、叶うわけ、ないだろ」
「ないだろ、じゃなくて、すンだよ」
 ヒースは自分より背の高いイリヤの胸ぐらを掴んで揺すった。
「………アホくさ」
 イリヤは軽々とヒースの手を払って、流れ落ちる前髪を後ろへ撫でつけた。
「だいたい、霊なんか、いるわけ、ねぇ」
「えぇ、イリヤ、そっからほじくんの?」
 計画の根幹を覆しかねないイリヤの科白に、テンが仰天した。糸目が大きく開いている。そこには黒目がちの翡翠色の目玉が埋まってあった。
「俺は、ユジュンが行くって言うから、行くだけだ」
「なんだとーこらぁ」
「まーまー、ヒース。前々から、イリヤの行動原理はユッちゃん次第やって、分かってることやんか。怒りなや」
 食ってかかろうとするヒースを、後ろから羽交い締めにしたテンが必死でとどめる。
「フン…」
 イリヤはどこ吹く風で、乱れたセーラーカラーを直している。
 このように、ヒースとイリヤの仲はあまりよろしくない。考え方の相違というやつで、決して嫌い合っている訳ではない。水と油なだけだ。
「こんの、しゃんなろめ!」
 どこかの漫画の登場人物のような悪言を吐いて、ヒースは気を収めたようだった。
『まったく、おまえらは、何だかんだと落ち着きがないな。進歩がない』
 クゥゥンとクーガーが鳴いた。
「今、クーガーのヤツ、なんてった?」
 ヒースが、今度はユジュンに詰め寄った。
「いやぁ、聞かない方がいいと思うよ」
 ユジュンは賢明にも、答えを避けた。
 そんなこんなで、ヒースから計画についての細かな説教をみっちり聞かされてその場はお開きとなった。
「いいか、ユジュン、遅れんじゃねーぞ!」
 そんなヒースの言葉を背にうけつつ、ユジュンは家路に就いたのだった。
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