4 / 10
第四話 水色の夏
しおりを挟む二人で遊んで以降、神原は学校にいる時はずっと氷室のそばにいた。
その光景が珍しかったのか、休み時間にクラスメイトから質問攻めされ、どう答えていいのか困った。
その様子を見てたいのか、神原は昼休みには必ず氷室のクラスに顔を出し、誰もいない校舎裏に連れて出してくれた。
そして2学期の終盤に差し掛かった頃。
二人はいつものように校舎裏で昼食を摂っていた。
「あの、今更かもしれないけど……神原は友達多いけど、俺にばっかり構ってて良いの?」
神原は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「俺は今氷室と仲良くなりたいっていう理由じゃダメか?」
「十分仲良いと思ったけど、神原にはもっと先があるんだ?」
神原は氷室の言葉に焦り、あたふたしながら言葉を紡ぐ。
「氷室が嫌なら全然いいよ!しつこかったか?」
その言葉に氷室もまた焦る。
(神原がいないとまた入られる……)
「全然。俺友達いないから、神原がそばにいてくれると嬉しい」
嘘は言っていない。ただ人気者の神原を独り占めするようで周りに気が引けただけなのだ。
神原はホッとしたような表情をする。
遠くの方から神原の友人らの声が聞こえてきた。
「お、神原いた!また氷室と一緒かよ!」
校舎の角から神原の友人らが顔を出す。
「なんだよお前ら!俺は今忙しーの!」
「昼飯食うのがかよ!」
「夏休みのメインイベントの打ち合わせだこら!」
神原は友人4人に揉みくちゃにされる。
楽しそうな様子に氷室は居心地の悪さを感じ、その場を離れそうとする。
(……お祭りにでも行くのかな?)
神原はその姿を見送るわけがなく、氷室を引き留めた。
「あ!待てよ!なあ氷室も一緒に行かねえ?」
氷室は足を止めて答える。
「え、悪いよ、俺いたら空気悪くなるよ」
「ならねぇって!なあ?」
神原が4人を見渡すと、全員にこやかに頷く。
「神原と仲良いんだろ?だったら悪いやつじゃないでしょ」
「俺は全然いいよー」
「俺もー」
「てかこれで6人か、ちょうど良いかもな」
なぜかトントン拍子に話が進み、氷室も神原たちの遊びに参加することになる。
(なんでこんなに好意的になれるんだ?)
神原の人の良さが成せる技なのか。
氷室は5人の打ち合わせに参加することになった。
「集合は夜の8時だったけど、俺んちが許してくれませんでした!夜の6時集合でお願いします!」
柿田が詫びるように手を合わせる。
「仕方ねぇよな。俺も親から質問攻めされたもん」
天木もため息を吐きながら項垂れる。
神原は苦笑いを浮かべると、氷室の方を見る。
「氷室は門限とかある?」
「一応あるけど、大丈夫」
嘘だ、夜の7時には帰れと言われている。
家族と行く祭りももちろん楽しい。
でも、夏休みくらい同年代の人たちと過ごしてみたかった。
「じゃあ、決定な。集合場所は駅前で、全員遅れんなよ!」
全員適当に返事をすると、タイミングよく予鈴がなる。
「楽しみだなー!女子がいないのが残念だけど!」
「んじゃ神原たちいこーぜ!」
神原は座っている氷室に手を差し出す。
氷室はその手を握ると、力強く引き上げられる。
神原の温かい手で体が軽くなる。
「ごめん、いきなり誘って」
「ううん、いいよ。お祭り楽しみだね」
神原は笑いながら固まる。
「あれ、何で遊ぶか言ってなかったっけ?」
「お祭りじゃないの?」
「肝試し……なんだけど」
「え……」
「苦手だった?」
「いや、平気、ごめん勘違いしてた」
氷室は冷や汗をかく。
きっとたくさんいる、入られるだろう。
以前神原と遊んだ時の身体中の痛みを思い出す。
神原と友達になる以前なら、そんな場所には行かないだろう。
けれど今は、神原と過ごす夏休みを手放したくなかった。
それに神原が近くにいれば、入られたとしても問題ないだろう。
氷室はやや引き攣った顔で神原に笑いかける。
「楽しみ、だね」
神原は氷室の笑顔に内心ガッツポーズをする。
(氷室と夜まで一緒にいられる)
そして夏休みに入り、肝試し当日。
氷室は神原に誘われ、昼から合流することになった。
自宅のクローゼットを漁り、できるだけおしゃれに見えるような服を探す。
「もうちょっと、服に興味持っておけば良かった……」
神原は何気にオシャレだ。体格がいいのもあってか、Tシャツ一枚だけでも何故か様になる。
氷室は衣服をしっちゃかめっちゃかにしながら鏡の前で唸る。
結局できたのは白いTシャツの上に薄い水色のシャツを羽織っただけの無難なファッションが出来上がった。
「神原に、変に思われないかな……」
何度鏡を確認しても映っているのはいつもの暗い自分だ。
時計を確認すると、そろそろ出ないと待ち合わせに遅刻する時間だった。
「やばい、行かなきゃ」
氷室は家を飛び出すと、待ち合わせ場所に向かって走った。
――――――――
昨今の夏は異常なほど暑い。
スマホを見れば十分間に合うはずなのに、なぜか氷室は汗を流しながら走る。
氷室が待ち合わせ場所に行くと、すでに神原はいた。
「ごめん、はぁ、待った?」
息を切らせながら神原の元まで行く。
「いや、全然待ってないけど、大丈夫か?全然遅刻じゃないぞ」
「遅れると、思って」
膝に手をつき、息を整える。
体を起こし改めて神原の姿を見る。
「神原って、なんでそんなにオシャレなの?」
白いTシャツに上下同じ色のシャツとズボンを履いた、なんだか今風の格好をしている。
「えっ、いや!普通だよ、氷室だってかわ……かっこいいよ」
「本当かなぁ?」
氷室はクスクスと笑う。
神原は暑いのか顔を赤くしている。
「ごめん、暑いよね。どっか入る?」
「そ、そうだな、行こう!」
笑っている氷室の水色のシャツが、夏の風に乗って翻る。
たったそれだけなのに、氷室がとても儚く見える。
手放したらどこかに行ってしまいそうだと思った。
(本当に綺麗だよな、翠)
神原は前を歩く氷室の首筋をじっと見る。
汗が細い首筋を滑り落ち、扇情的に見える。
ふと、氷室が勘違いしていた祭りの光景が頭をよぎる。
水色と白の浴衣を着た氷室の姿を鮮明に想像する。
そして、今と同じように汗が首筋を伝って……。
(かわいい、えろい、絶対似合う)
神原は夏の暑さと煩悩で顔を赤くした。
3
あなたにおすすめの小説
愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜
立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が
ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時
いつの間にかクラスメイトたちの
配信する動画に映りこんでいて
「誰このエンジェル?」と周りで
話題になっていた。
そして優心は
一方的に嫌っている
永瀬翔(ながせかける)を
含むグループとなぜか一緒に
動画配信をすることに。
✩.*˚
「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」
「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」
そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。
見た目エンジェル
強気受け
羽月優心(はづきゆうしん)
高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。
×
イケメンスパダリ地方アイドル
溺愛攻め
永瀬翔(ながせかける)
優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。
恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸
***
お読みくださりありがとうございます
可愛い両片思いのお話です✨
表紙イラストは
ミカスケさまのフリーイラストを
お借りいたしました
✨更新追ってくださりありがとうございました
クリスマス完結間に合いました🎅🎄
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる
蓮恭
BL
幼い頃から自然が好きな男子高校生、宗岡光(ヒカル)は高校入学後に仲間と自然を満喫したいという思いから山岳部へ入部する。
運動音痴なヒカルは思いのほか厳しい活動内容についていけず、ある日ランニング中に倒れてしまう。
気を失ったヒカルが見たのは異世界の記憶。買い物中に出会った親切な男が、異世界ではヒカルことシャルロッテが心から愛した夫、カイルだったのだと思い出す。
失神から目が覚めたヒカルの前には、記憶の中のカイルと同じ男がいた。彼は佐々木賢太郎、ヒカルの同級生で山岳部の部員だと言う。早速ヒカルは記憶が戻った事を賢太郎に話した。
過去に仲睦まじい夫婦であったという記憶を取り戻したからなのか、ヒカルは賢太郎の事を強く意識するようになる。
だが現代での二人はただの同級生で男同士、これから二人の関係をどうするのか、賢太郎の言葉だけでははっきりと分からないままその日は別れた。
溢れた想いを堪えきれずについDMで好きだと伝えたヒカルだったが、賢太郎からの返信は無く、酷く後悔することに。
主人公ヒカルをはじめとした、登場人物たちの勘違いによって巻き起こる、すれ違いストーリーの結末は……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる