君の中に入りたい

下井理佐

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第四話 水色の夏

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 二人で遊んで以降、神原は学校にいる時はずっと氷室のそばにいた。
 その光景が珍しかったのか、休み時間にクラスメイトから質問攻めされ、どう答えていいのか困った。
 その様子を見てたいのか、神原は昼休みには必ず氷室のクラスに顔を出し、誰もいない校舎裏に連れて出してくれた。
 
 そして2学期の終盤に差し掛かった頃。
 二人はいつものように校舎裏で昼食を摂っていた。

「あの、今更かもしれないけど……神原は友達多いけど、俺にばっかり構ってて良いの?」

 神原は人の良さそうな笑みを浮かべる。

「俺は今氷室と仲良くなりたいっていう理由じゃダメか?」

「十分仲良いと思ったけど、神原にはもっと先があるんだ?」

 神原は氷室の言葉に焦り、あたふたしながら言葉を紡ぐ。

「氷室が嫌なら全然いいよ!しつこかったか?」

 その言葉に氷室もまた焦る。
 (神原がいないとまた入られる……)

「全然。俺友達いないから、神原がそばにいてくれると嬉しい」

 嘘は言っていない。ただ人気者の神原を独り占めするようで周りに気が引けただけなのだ。
 神原はホッとしたような表情をする。
 遠くの方から神原の友人らの声が聞こえてきた。
  
「お、神原いた!また氷室と一緒かよ!」
 
 校舎の角から神原の友人らが顔を出す。
 
「なんだよお前ら!俺は今忙しーの!」
「昼飯食うのがかよ!」
「夏休みのメインイベントの打ち合わせだこら!」

 神原は友人4人に揉みくちゃにされる。
 楽しそうな様子に氷室は居心地の悪さを感じ、その場を離れそうとする。

(……お祭りにでも行くのかな?)
 
 神原はその姿を見送るわけがなく、氷室を引き留めた。
 
「あ!待てよ!なあ氷室も一緒に行かねえ?」

 氷室は足を止めて答える。
 
「え、悪いよ、俺いたら空気悪くなるよ」

「ならねぇって!なあ?」

 神原が4人を見渡すと、全員にこやかに頷く。
 
「神原と仲良いんだろ?だったら悪いやつじゃないでしょ」
「俺は全然いいよー」
「俺もー」
「てかこれで6人か、ちょうど良いかもな」

 なぜかトントン拍子に話が進み、氷室も神原たちの遊びに参加することになる。

(なんでこんなに好意的になれるんだ?)

 神原の人の良さが成せる技なのか。
 氷室は5人の打ち合わせに参加することになった。

「集合は夜の8時だったけど、俺んちが許してくれませんでした!夜の6時集合でお願いします!」

 柿田が詫びるように手を合わせる。
 
「仕方ねぇよな。俺も親から質問攻めされたもん」

 天木もため息を吐きながら項垂れる。
 神原は苦笑いを浮かべると、氷室の方を見る。
 
「氷室は門限とかある?」
「一応あるけど、大丈夫」

 嘘だ、夜の7時には帰れと言われている。
 家族と行く祭りももちろん楽しい。
 でも、夏休みくらい同年代の人たちと過ごしてみたかった。
 
「じゃあ、決定な。集合場所は駅前で、全員遅れんなよ!」

 全員適当に返事をすると、タイミングよく予鈴がなる。
 
「楽しみだなー!女子がいないのが残念だけど!」
「んじゃ神原たちいこーぜ!」

 神原は座っている氷室に手を差し出す。
 氷室はその手を握ると、力強く引き上げられる。
 神原の温かい手で体が軽くなる。
 
「ごめん、いきなり誘って」
「ううん、いいよ。お祭り楽しみだね」

 神原は笑いながら固まる。

「あれ、何で遊ぶか言ってなかったっけ?」
 
「お祭りじゃないの?」
 
「肝試し……なんだけど」

「え……」

「苦手だった?」

「いや、平気、ごめん勘違いしてた」

 氷室は冷や汗をかく。
 きっとたくさんいる、入られるだろう。
 以前神原と遊んだ時の身体中の痛みを思い出す。
 神原と友達になる以前なら、そんな場所には行かないだろう。
 けれど今は、神原と過ごす夏休みを手放したくなかった。
 それに神原が近くにいれば、入られたとしても問題ないだろう。
 氷室はやや引き攣った顔で神原に笑いかける。
 
「楽しみ、だね」

 神原は氷室の笑顔に内心ガッツポーズをする。

(氷室と夜まで一緒にいられる)


 そして夏休みに入り、肝試し当日。
 氷室は神原に誘われ、昼から合流することになった。
 自宅のクローゼットを漁り、できるだけおしゃれに見えるような服を探す。

「もうちょっと、服に興味持っておけば良かった……」

 神原は何気にオシャレだ。体格がいいのもあってか、Tシャツ一枚だけでも何故か様になる。
 氷室は衣服をしっちゃかめっちゃかにしながら鏡の前で唸る。
 結局できたのは白いTシャツの上に薄い水色のシャツを羽織っただけの無難なファッションが出来上がった。

「神原に、変に思われないかな……」

 何度鏡を確認しても映っているのはいつもの暗い自分だ。
 時計を確認すると、そろそろ出ないと待ち合わせに遅刻する時間だった。

「やばい、行かなきゃ」

 氷室は家を飛び出すと、待ち合わせ場所に向かって走った。



――――――――



 昨今の夏は異常なほど暑い。
 スマホを見れば十分間に合うはずなのに、なぜか氷室は汗を流しながら走る。
 氷室が待ち合わせ場所に行くと、すでに神原はいた。

「ごめん、はぁ、待った?」

 息を切らせながら神原の元まで行く。

「いや、全然待ってないけど、大丈夫か?全然遅刻じゃないぞ」

「遅れると、思って」

 膝に手をつき、息を整える。
 体を起こし改めて神原の姿を見る。

「神原って、なんでそんなにオシャレなの?」

 白いTシャツに上下同じ色のシャツとズボンを履いた、なんだか今風の格好をしている。

「えっ、いや!普通だよ、氷室だってかわ……かっこいいよ」

「本当かなぁ?」

 氷室はクスクスと笑う。
 神原は暑いのか顔を赤くしている。

「ごめん、暑いよね。どっか入る?」

「そ、そうだな、行こう!」

 笑っている氷室の水色のシャツが、夏の風に乗って翻る。
 たったそれだけなのに、氷室がとても儚く見える。
 手放したらどこかに行ってしまいそうだと思った。

(本当に綺麗だよな、翠)

 神原は前を歩く氷室の首筋をじっと見る。
 汗が細い首筋を滑り落ち、扇情的に見える。
 ふと、氷室が勘違いしていた祭りの光景が頭をよぎる。
 水色と白の浴衣を着た氷室の姿を鮮明に想像する。
 そして、今と同じように汗が首筋を伝って……。

(かわいい、えろい、絶対似合う)

 神原は夏の暑さと煩悩で顔を赤くした。

 
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