君の中に入りたい

下井理佐

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最終話 薔薇色の春

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 神原と氷室の間に、冷たい風が吹く。
 しかし、二人はどこか熱を帯びた目で見つめ合う。

「神原、俺」

「ごめん……俺からいい?」

 神原は氷室の言葉を遮る。
 氷室は少し驚くが、すぐに笑みを浮かべ頷く。

「いいよ、神原の話聞きたい」

 神原はその言葉に安心したように笑う。
 しかしすぐに緊張したように目を伏せる。
 いつもの快活な神原とは程遠い緊張と恐怖が混じったような顔で、言葉をつっかえながら話す。

「俺は、俺はさ……その、男が好きなんだ、ラブの意味で」

 氷室は黙って言葉の続きを待つ。

「だから、その……お前のこと、ずっと友達じゃなくて、片思いの相手として見てた」

 氷室は目を見開く。

「……だから、俺普通じゃなくて」
 
「ずっと、俺のこと友達じゃないって思ってたってこと?」

 その言葉に、神原の胸が痛む。
 氷室は笑って言葉を続ける。
 
「神原の方が先に自分の気持ちに気づいてたんだ」

「え?」

「俺も神原のこと、ただの友達だと思ってない」

 今度は神原が目を見開く番だった。
 氷室は頬を紅潮させながら神原の目を見る。

「春渡、好き」

「……っ」
 
「春渡の笑顔も、笑い声も、触れる手も。全部好き」

 神原は静かに涙を流す。
 涙でぼやける視界の中、氷室の笑顔だけが鮮明に映る。

「俺も、翠が好き!初めて見た時からずっと、ずっと好きだった!」

 神原は泣きながら氷室を抱きしめる。
 神原の抱擁を受けて、氷室の中にいる霊たちが声をあげて消えていく。
 氷室はその声を聞きながら、神原を抱きしめ返す。
 神原の大きな体に包まれて、氷室は安心したように息を吐く。

「ずっと一緒にいよう、翠」
「うん、俺のこと離さないでね」


 ――――――


 それからの二人は何かが劇的に変わることもなく、いつものように過ごしていた。
 朝は神原と共に登校し、昼は校舎裏で過ごし、帰りは神原と共に下校する。
 そんな毎日を過ごした。
 時折人の目を盗んでは指を絡めたり、抱きしめ合ったり、唇を合わせたり。
 そんな甘く幸せな日々を過ごした。
 そんな日々を過ごしていたせいか、氷室は自分の体質を神原に伝えるのをすっかり忘れていた。

 ある日の放課後。
 学校近くのコーヒーチェーン店で二人は談笑していた。

「実は春渡に話してないことがあって、俺の体のことなんだけど」

 その言葉に神原の表情が強張る。

「やっぱり、なんか病気があるのか……?」

 深刻そうに聞く神原に氷室は思わず笑いそうになる。

「そんなんじゃないよ、俺ね、霊媒体質なの」

「れいばい?」

 氷室は掻い摘みながら話す。
 幼少期からの霊が見えるせいで体に霊が入り込んでくること。
 そのせいで病弱になったこと。
 そして神原に触れられたら霊が消えることを話した。

「じゃあ、あの廃神社って」

「うん、今までで一番痛かった。入られるなんて分かってたのにね。春渡と一緒にいたくて、無茶しちゃった」

 神原が氷室の手を握る。

「まだいるのか?」

「もういないよ。俺の中にいるのは、春渡だけ」

 その言葉に神原は顔を赤く染める。
 
「それ、めっちゃずるい」

 氷室は笑いながら神原の長く太い指に、指を絡める。

「だから、俺のこと離さないでね。死んじゃうから」

「離さないよ、俺のほうが先に好きになったんだ。めっちゃ重いから覚悟しろよ」

 賑やかな店内で二人の笑い声が溶けていった。


――――――――――――


 そして2ヶ月後。
 結局、神原の力を持ってしても霊媒体質は治らなかった。
 時折熱や頭痛に苛まれることがあったが、それでも神原と恋人になってからは体調の良い日が続いていた。

 
 氷室は幼少期に会った老婆に会うため、父に運転を頼み込んでいた。
 最初は訝しんでいた父だったが、神原の力の話をするとすぐに了承してくれた。
 神原の力がどういったものか確かめる必要があると思ったからだ。

 父の車に揺られながら神原は困ったように眉を下げ笑う。
 
「気にしなくても良いと思うけど……」

「だめだよ、俺みたいに何か代償があったら悔やんでも悔やみ切れない!」

「でも俺ピンピンしてるし……」

 運転をしていた父も口を開く。

「うちの息子は母親に似て過保護なんだ。悪いけど付き合ってくれ」

「おっ、親父さんまで……」

 心配性二人と共に神原は数時間車に揺られるのであった。




 屋敷についたのは昼過ぎだった。
 長時間座りっぱなしだったため、神原と氷室は車から降りて揃って体を伸ばす。

「家でかくね?」

「記憶の中の大きさと全然変わってない」

 門の前には相変わらず大量の霊がいたが、神原がいるせいで散り散りに消えていく。

「どうした翠?いくぞ」

「やっぱり、春渡ってすごいね」

「え、何が?」

「ううん、なんでもない。行こう」

 氷室は神原の手を引いて屋敷に入った。
 
 
 客間に通されると、そこには氷室の記憶の中とほとんど変わらない姿の老婆がいた。
 あまりの変化のなさに氷室は目を丸くする。

(全然変わってない……)

 老婆は氷室を見ると安心したように表情を和らげる。

「そこの男のおかげで随分すっきりしたな」


「はい、春渡のおかげです」
 
 老婆は訝しげに神原を見る。
 
「お前の先祖は神職か何かをしていたか」

「え、いやうちのじいちゃん農家っす」
  
 神原は頭をひねるが、老婆は続ける。
 
「本人に自覚がないようだが、強力な神通力を有している。お前はこの男から離れるな、さもなくば死ぬぞ」
 
「こいつが離れて行こうとしても、絶対に俺が離さない」

 神原は力強く言った。
 氷室はその言葉に嬉しそうに顔を赤らめるが、気を取り直して神原の力について聞く。

「俺みたいに何か支障が出たりしますか」

「……特にない、ただ」

 老婆が不自然に言葉を切る。
 その様子に氷室は首を傾げる。

「いや、特に問題はない。これまで通り過ごすと良い」

 その言葉に神原は嬉しそうに笑う。

「良かったー!翠から離れろとか言われたらどうしようかと思ったぜ」

 神原は立ち上がり、老婆に頭を下げる。

「おばあさんありがとな!自信出た!」

 神原は氷室に手を差し伸べる。
 氷室の伸ばした手を掴むと、優しく立ち上がらせる。

「あの、ありがとうございました」

 氷室は老婆に頭を下げる。
 
「構わん、息災でな」

 老婆は穏やかな顔で二人を見送った。


 
 
 老婆は二人が出て行った門を見ながら呟く。
 
「あれは愛や執着では表せないほどの結びつきがある。深く絡まってもはや解けぬ、幸と出るか凶と出るか」
 
 しかし老婆は安心したような優しい微笑みを浮かべていた。

「まあ、生きていれば深く愛し合うのもまた人間か」

 老婆が居間の外を見ると、柔らかな日が差し込んでいた。


――――――――――
 

 そして二人は高校3年生に進級し、進路を決める時期に来ていた。
 神原は地元に就職、氷室は地元の大学に進学しようとしていた。

 誰もいない教室で二人はペンを走らせている。
 履歴書を書きながら神原はぼやく。
 
「翠が大学でめっちゃモテたらどうしよう」

 その言葉に氷室は思わず笑い出す。

「俺が?そんなわけないじゃん」

 ノートにペンを走らせている氷室を神原は真剣な眼差しで見る。

「お前は自分の容姿を何も分かってない!」

 氷室はひとしきり笑ったあと、イタズラっぽく笑う。
 
「春渡がいないと俺は生きていけないよ。そんな俺が誰かにかまけると思ってるの?」
 
 神原はその言葉にどこか安心した様子で氷室を見つめる。

「それは俺もだよ、でも彼氏としてそばにいないのは心配っていうか不安っていうか」

 氷室はペンを置き、神原の手に触れる。
 
「俺だって不安だよ、春渡かっこいいし。絶対モテるもん」
 
 神原はその言葉に嬉しそうに笑う。
 
「そんなかっこいい俺も、翠がいないと生きていけないよ。これからもずっとずっと一緒にいよう」

「うん、大好き春渡」

 誰もいない教室で静かに唇を合わせる。
 春の温かい風が二人を包む。

(幸せだ。)

 氷室と神原はお互いの体温に触れながら、これからの未来に想いを馳せた。

 
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