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19 魔王、新生魔王軍の結成をもくろむ
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魔王は自分よりはるかに大きい大人の男たちを前に、嘲るように笑った。
「来るがいい人間。格の違いを教えてやる」
「てめえ!」
男たちがとびかかる。それを魔王はひらりとかわし、魔法を発動させる。
《獄炎》――魔法陣とともに現れた黒い炎が、男たちを襲う。
「ぎゃあああっ!」
実のところ、魔王は全ての攻撃魔法を十全に使えるわけではなかった。
魔王が極めた魔法は《障壁》《獄炎》《魔弾》の三つしかない。しかし、ほかに並び立つ者がいないほど強力だった。その三つで、世界最強になれるくらいには。
魔王は手加減をしていた。全力なら一瞬で骨まで灰にする威力であるが、生きたまま痛めつける程度にまで魔法の質を落としていた。
そして、男たちに抵抗の意思がないことを確認して、魔法を解いた。
暗い、黒い炎が忽然と消え失せる。
「な、なんで、てめえ、そんな魔法を」
「ど、どんな大精霊と契約してやがるんだ!?」
人間の魔法は、精霊剣と同じく精霊と契約して行使される。ただ、こちらは精霊剣の精霊と違い数が多いので契約はしやすい。
「契約? そんなものない」
「な、何……!?」
ただし、魔族は魔法の契約など必要ない。得意不得意はあるものの自分の力だけで魔法を行使できる。
「抵抗したいなら、今度は惨たらしく殺すが、どうだ?」
「…………」
男たちは、沈黙。
焼けこげた服と肌が、負傷の痛みが、否応なく告げていた。目の前の少女に逆らったら、瞬く間に消されてしまうと。
「よろしい」
魔王は頷いた。
「なぜ我が貴様らのごとき塵芥をいまだ生かしておいているかわかるか?」
殺してしまってもよかったが、しかし今はどんな人材であろうと活用せねばならないと魔王は考えていた。
「組織は貴様ら三人だけか?」
「へ、へい……」
男の一人が頷いた。
「では、持っている金でありったけの食い物を買って持ってこい。なるべく保存できる物の方がいい。あとアイテムボックスとかいうのもよこせ」
魔王は言ってから、男たちの手足に魔法陣を展開させた。
「!?」
「《魔弾》を時間差で発動するようにした。一時間ごとに貴様の四肢のどこかが吹き飛ぶ仕掛けだ。運が良かったな。手足を犠牲にすれば四時間も生きられるぞ。四肢喪失のショックと出血に耐えられれば四時間後も生き残れる。解除は、我にしかできん」
「い、命だけは……」
「我の命令を聞いていけば、その都度、発動の時間を伸ばしてやる。安心しろ。無理な命令はせん。貴様らにはなるべく長く食糧を調達してほしいゆえな。逃げるのも従うのも自由だ。手足が吹き飛ぶのを許せるなら、だがな。どうだ? 寛大すぎる処置であろう?」
「う、うわあ、やったぁ……」
「ならば行け。一時間で終わらせて戻ってくるのだぞ」
「は、はいぃ!」
男たちは、蜘蛛の子を散らすように駆けていく。
「さて」
魔王は馬車に近づいた。
檻付きの荷台である。
中には、怯えた女子供が十人あまり。
「少し離れていろ」
中の奴隷に忠告して、魔王は扉に威力を絞った魔弾を放った。
鍵が破壊され、檻の扉が開く。
「出てくるのだ。もうお前たちは自由だぞ」
言うと、おそるおそるであるが、奴隷たちは外に出てきた。
「我のいた時代にも奴隷というのはいたが、人間というのは闇の深い生物だな。まあ、もうそれも関係ない。いくらでも好きなところにでもいくがよい」
「あ、ありがとうございます!」
奴隷たちは、魔王に頭を下げて足早に立ち去っていく。
「…………」
しかし、立ち去ったのも半数と少しほど。残りの者は、暗い顔のまま、そこから動こうとしない。
……やはり、こうなるか。
「どうした? 逃げんのか?」
魔王は微笑して、あえて残った四人の奴隷に問う。
奴隷の一人は答える。
「あの、我々の一部は、もともと親に捨てられたり、行く宛がなく食い扶持もないためやむなく奴隷となった者たちです。奴隷でもいいから誰かに仕えねば、生きていけません」
「貧富の格差によって切り捨てられ、社会から爪弾きにされたわけだな。それで?」
「もしよろしければ、あなたにお仕えすることはできますでしょうか」
「ふむ。よきにはからえ」
奴隷というのは、不本意にさらわれたものをのぞけば、すでに自分の人生を諦めたものども。いくあてもなく縋る相手もいないとなれば、目の前の、何か偉大そうな話し方をしている奴にすがってみようとするのは無理からぬこと。たとえそれが、年端もいかない少女であろうとも。
奴隷として生きるしか、生きる術を知らない。誰かの命令に従うことでしか、働くことができない。そんな人間も存在する。
悪くない。
と魔王は思った。
魔王軍復活のはじまりとしては。
「ふはははは! では今日から我の従者として、我の手足となって動いてもらうぞ! 貴様らは人売りどもとはちがって、名誉ある我が側近としてやろう!」
「はい、ご主人様!」
「我に忠誠を誓え!」
「誓います!」
魔王、復活してたった三日で奴隷四人と、人売りのグループを乗っ取ることに成功する。
新生魔王軍戦力・人間7名。
かつての大軍勢とは雲泥の差ではあるが、しかし足がかりとしては重畳。
「ふはははは! 我の王としての復活は、まだまだこれからである!」
魔王、ご満悦であった。
「ご主人さま、我々はまず何をすれば?」
「ふむ」
魔王は考える。
こいつらは、我が宿敵に隠れて動かすのが妥当か。バレたら余計な茶々を入れられそうだしな。
「とりあえず冒険者として登録し、薬草を集めよ。あと最初の登録でEランク以上になった者は報告するように」
「わかりました!」
まずは仲間を――生き残っているかもしれない同じ魔族を見つけねばなるまい。
そのためには、魔界と呼ばれている僻地へ帰還するしかない。
となると、魔界の入り口、【最果ての地グッドフェロウ】……そこを目指さねば。
魔王ディアボロスと剣士ゼノン、宿敵同士の二人旅は、奇しくも最終目的地が同じとなる。腹の探り合いは続く。
「来るがいい人間。格の違いを教えてやる」
「てめえ!」
男たちがとびかかる。それを魔王はひらりとかわし、魔法を発動させる。
《獄炎》――魔法陣とともに現れた黒い炎が、男たちを襲う。
「ぎゃあああっ!」
実のところ、魔王は全ての攻撃魔法を十全に使えるわけではなかった。
魔王が極めた魔法は《障壁》《獄炎》《魔弾》の三つしかない。しかし、ほかに並び立つ者がいないほど強力だった。その三つで、世界最強になれるくらいには。
魔王は手加減をしていた。全力なら一瞬で骨まで灰にする威力であるが、生きたまま痛めつける程度にまで魔法の質を落としていた。
そして、男たちに抵抗の意思がないことを確認して、魔法を解いた。
暗い、黒い炎が忽然と消え失せる。
「な、なんで、てめえ、そんな魔法を」
「ど、どんな大精霊と契約してやがるんだ!?」
人間の魔法は、精霊剣と同じく精霊と契約して行使される。ただ、こちらは精霊剣の精霊と違い数が多いので契約はしやすい。
「契約? そんなものない」
「な、何……!?」
ただし、魔族は魔法の契約など必要ない。得意不得意はあるものの自分の力だけで魔法を行使できる。
「抵抗したいなら、今度は惨たらしく殺すが、どうだ?」
「…………」
男たちは、沈黙。
焼けこげた服と肌が、負傷の痛みが、否応なく告げていた。目の前の少女に逆らったら、瞬く間に消されてしまうと。
「よろしい」
魔王は頷いた。
「なぜ我が貴様らのごとき塵芥をいまだ生かしておいているかわかるか?」
殺してしまってもよかったが、しかし今はどんな人材であろうと活用せねばならないと魔王は考えていた。
「組織は貴様ら三人だけか?」
「へ、へい……」
男の一人が頷いた。
「では、持っている金でありったけの食い物を買って持ってこい。なるべく保存できる物の方がいい。あとアイテムボックスとかいうのもよこせ」
魔王は言ってから、男たちの手足に魔法陣を展開させた。
「!?」
「《魔弾》を時間差で発動するようにした。一時間ごとに貴様の四肢のどこかが吹き飛ぶ仕掛けだ。運が良かったな。手足を犠牲にすれば四時間も生きられるぞ。四肢喪失のショックと出血に耐えられれば四時間後も生き残れる。解除は、我にしかできん」
「い、命だけは……」
「我の命令を聞いていけば、その都度、発動の時間を伸ばしてやる。安心しろ。無理な命令はせん。貴様らにはなるべく長く食糧を調達してほしいゆえな。逃げるのも従うのも自由だ。手足が吹き飛ぶのを許せるなら、だがな。どうだ? 寛大すぎる処置であろう?」
「う、うわあ、やったぁ……」
「ならば行け。一時間で終わらせて戻ってくるのだぞ」
「は、はいぃ!」
男たちは、蜘蛛の子を散らすように駆けていく。
「さて」
魔王は馬車に近づいた。
檻付きの荷台である。
中には、怯えた女子供が十人あまり。
「少し離れていろ」
中の奴隷に忠告して、魔王は扉に威力を絞った魔弾を放った。
鍵が破壊され、檻の扉が開く。
「出てくるのだ。もうお前たちは自由だぞ」
言うと、おそるおそるであるが、奴隷たちは外に出てきた。
「我のいた時代にも奴隷というのはいたが、人間というのは闇の深い生物だな。まあ、もうそれも関係ない。いくらでも好きなところにでもいくがよい」
「あ、ありがとうございます!」
奴隷たちは、魔王に頭を下げて足早に立ち去っていく。
「…………」
しかし、立ち去ったのも半数と少しほど。残りの者は、暗い顔のまま、そこから動こうとしない。
……やはり、こうなるか。
「どうした? 逃げんのか?」
魔王は微笑して、あえて残った四人の奴隷に問う。
奴隷の一人は答える。
「あの、我々の一部は、もともと親に捨てられたり、行く宛がなく食い扶持もないためやむなく奴隷となった者たちです。奴隷でもいいから誰かに仕えねば、生きていけません」
「貧富の格差によって切り捨てられ、社会から爪弾きにされたわけだな。それで?」
「もしよろしければ、あなたにお仕えすることはできますでしょうか」
「ふむ。よきにはからえ」
奴隷というのは、不本意にさらわれたものをのぞけば、すでに自分の人生を諦めたものども。いくあてもなく縋る相手もいないとなれば、目の前の、何か偉大そうな話し方をしている奴にすがってみようとするのは無理からぬこと。たとえそれが、年端もいかない少女であろうとも。
奴隷として生きるしか、生きる術を知らない。誰かの命令に従うことでしか、働くことができない。そんな人間も存在する。
悪くない。
と魔王は思った。
魔王軍復活のはじまりとしては。
「ふはははは! では今日から我の従者として、我の手足となって動いてもらうぞ! 貴様らは人売りどもとはちがって、名誉ある我が側近としてやろう!」
「はい、ご主人様!」
「我に忠誠を誓え!」
「誓います!」
魔王、復活してたった三日で奴隷四人と、人売りのグループを乗っ取ることに成功する。
新生魔王軍戦力・人間7名。
かつての大軍勢とは雲泥の差ではあるが、しかし足がかりとしては重畳。
「ふはははは! 我の王としての復活は、まだまだこれからである!」
魔王、ご満悦であった。
「ご主人さま、我々はまず何をすれば?」
「ふむ」
魔王は考える。
こいつらは、我が宿敵に隠れて動かすのが妥当か。バレたら余計な茶々を入れられそうだしな。
「とりあえず冒険者として登録し、薬草を集めよ。あと最初の登録でEランク以上になった者は報告するように」
「わかりました!」
まずは仲間を――生き残っているかもしれない同じ魔族を見つけねばなるまい。
そのためには、魔界と呼ばれている僻地へ帰還するしかない。
となると、魔界の入り口、【最果ての地グッドフェロウ】……そこを目指さねば。
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