36 / 106
36 盛大なやらかし計画
しおりを挟む
急いで山脈を全力疾走して下りると、すでに夜になっていた。
「なぜだ!? なぜ行けん!?」
俺は門番の前で粘っていた。西部地域に入ろうとしたら止められたのだ。
「東部に滞在の旅人は西部には入れません」
憲兵は答える。
「東部滞在の札を返却して西部へ滞在する」
「残念ですが、一度東部に滞在されると、西部への滞在ができなくなります」
「なぜだ」
「そういうものだからです」
「こいつはまだ滞在履歴がない。西部に入れるはずだ。こいつだけでも入れてくれ」
俺はちびフォールを憲兵に差し出す。
「子供を手離す親がどこにいますか」
「そういうことではないが、ぐうの音も出んほどもっともだ。やめよう」
「あと、持ち物の中にカレー粉の瓶がありましたが」
「それは以前来たときには持ち込みは大丈夫だったぞ」
「東部の関税対象のハーブが入っている場合は、グラムあたりで持ち込みに税が発生しますので気をつけてください」
「壁で隔てられているだけじゃなく、東部と西部で関税も違うのか」
「肉類は西部の関税の対象になりますので、西部への持ち込みは限定されています。逆に、東部では薬草類が関税の対象です。個人が肉を西部へ売りに出すことは重罪にあたります。もし肉を西へ売りたいのなら、中心にある精霊教会を通してください」
「たしかに市場じゃ薬草がべらぼうに高かったが、そういう事情か」
「そうですね」
俺も薬草は少し持っているが、ほんの少しだ。これくらいなら少しの税で持ち込めるわけか。商売をしようとして大量に持ち込もうとすると莫大な関税がかかるわけだな。
「しかし面倒だな。すぐ隣だろう」
「そういうことになってますので」
「まるで国が二つあるみたいだな。わかった」
俺は諦めて東部地域の門をくぐった。
魔王を迎えに行きたかったのだが、西部へ入れなければ仕方がない。
「あの、旅の方ですか?」
思案を巡らせていると、声をかけられた。若い男の魔法使いらしかった。
「ああ、そうだが」
「もし薬草を持っていたらお譲りいただきたいのですが……」
「薬草か。少ししか持っていないが、それでよければ」
「あ、ありがとうございます! お金をお支払いします」
「いい。べつにここ以外で採ればいいわけだからな。体は丈夫な方だから持っていなくともある程度は問題ない」
「……では、ありがたくいただきます。ほかに薬草を持っている方がいれば教えてください」
「それほど薬草が必要なのか?」
「うち、母親が怪我をしていて……かなり症状が良くないのです。薬などは高くて買えず、自分で薬を作るしかないのです。ですが、材料が集まらなくて」
「例の関税があるせいだな」
「ええ。持ち込むことはできるはずですが、値段が張ります。行商人も、高い関税を嫌ってなかなか売りに来てくれません。冒険者になって、冒険者協会から横流ししてもらおうとも思ったのですが、それもできず、薬草採取の依頼を出すも、誰も受けてくれません」
「不便だな」
「ええ、ですが、あなたからいただいた薬草で、少しはしのげそうです」
男の魔法使いは、薄い青色に染まったマフラーをアイテムボックスから取り出して俺に渡す。
「木の繊維で編んだマフラーですが、差し上げます。少しは寒さをしのげるでしょう」
「ああ、ありがとう」
「失礼ですが、お名前は?」
「トントンだ」
「私の名前はフリックと申します。もしトントンさんから冒険者への依頼があれば、私が格安で引き受けますのでぜひご依頼ください。見たところトントンさんも冒険者のようですが、人手がいる時は喜んで手伝いますので!」
「ああ、機会があれば依頼させてもらう」
「このたびは本当にありがとうございました! では!」
フリックは笑顔で頭を下げて俺たちのもとを去った。
俺とちびフォールはまた歩き出す。
「……なんだこの町は。面倒すぎるぞ」
「まー、めんどくさいね」
俺がぼやくと、ちびフォールは答えた。
「妙に市場も閉鎖的。不便なだけなのが謎だ」
「そうだね~。正直つまらない町だと思うよ」
「……さて」
俺はちびフォールを見た。
「ん?」
ちびフォールはごきげんそうに俺の服の裾をつかんで歩いている。
「この町のことをいろいろ知っていそうだな」
「そりゃ最寄りの町なもんで、いろいろ知ってるけど」
「西部地域に入れる裏技などあったりするか?」
「壁を物理的に壊す」
「住人が混乱するだろう。もっと平和的解決法でたのむ」
「賄賂」
「賄賂か……」
「教会か憲兵に大金をね」
「憲兵はわからんでもないが教会にもか。腐っていやがるな。犯罪組織とも絡んでいそうだが?」
「西側は顕著だね。東側は、賭場を仕切っているくらいかな?」
ふむ。
西部地区の方を見ると、火事なのか煙が上がっている場所があった。
たしかに西のほうが治安は悪そうだな。
「もしや町の長も東と西で別れてるのか?」
「そうだよ。東の領主と西の領主がいるね」
「なるほど、わかった」
「あっ、何か思いついたね?」
勘が鋭い。ちびフォールは何か察したように「んふふ」と笑った。
俺も「ふふふ」と笑い返した。
「いや、ちびフォールよ、俺にはもう地位も名誉も人も、何も守るものがない。あるのは宿敵を倒すという信念だけだ。いいことだな、これはじつにいいことだ」
「平和的解決法がいいんじゃなかったの?」
「五百年前にくらべれば平和的だ、と訂正させてもらおう」
「何かやろうとしているなら顔は隠したほうがいいかもね。冒険者協会に知られたら面倒だよ?」
「氷の魔法で仮面みたいなものは作れるか?」
「もちろん!」
「ならよし。では盛大にやらかすぞ! 失敗したらそれまでだ!」
「がってん! 楽しくなってきたー!」
顔は隠すが、陰でこそこそ動く気はない。
俺たちは悪い笑顔で、東部地区のとある場所に向けて足を早めた。
「なぜだ!? なぜ行けん!?」
俺は門番の前で粘っていた。西部地域に入ろうとしたら止められたのだ。
「東部に滞在の旅人は西部には入れません」
憲兵は答える。
「東部滞在の札を返却して西部へ滞在する」
「残念ですが、一度東部に滞在されると、西部への滞在ができなくなります」
「なぜだ」
「そういうものだからです」
「こいつはまだ滞在履歴がない。西部に入れるはずだ。こいつだけでも入れてくれ」
俺はちびフォールを憲兵に差し出す。
「子供を手離す親がどこにいますか」
「そういうことではないが、ぐうの音も出んほどもっともだ。やめよう」
「あと、持ち物の中にカレー粉の瓶がありましたが」
「それは以前来たときには持ち込みは大丈夫だったぞ」
「東部の関税対象のハーブが入っている場合は、グラムあたりで持ち込みに税が発生しますので気をつけてください」
「壁で隔てられているだけじゃなく、東部と西部で関税も違うのか」
「肉類は西部の関税の対象になりますので、西部への持ち込みは限定されています。逆に、東部では薬草類が関税の対象です。個人が肉を西部へ売りに出すことは重罪にあたります。もし肉を西へ売りたいのなら、中心にある精霊教会を通してください」
「たしかに市場じゃ薬草がべらぼうに高かったが、そういう事情か」
「そうですね」
俺も薬草は少し持っているが、ほんの少しだ。これくらいなら少しの税で持ち込めるわけか。商売をしようとして大量に持ち込もうとすると莫大な関税がかかるわけだな。
「しかし面倒だな。すぐ隣だろう」
「そういうことになってますので」
「まるで国が二つあるみたいだな。わかった」
俺は諦めて東部地域の門をくぐった。
魔王を迎えに行きたかったのだが、西部へ入れなければ仕方がない。
「あの、旅の方ですか?」
思案を巡らせていると、声をかけられた。若い男の魔法使いらしかった。
「ああ、そうだが」
「もし薬草を持っていたらお譲りいただきたいのですが……」
「薬草か。少ししか持っていないが、それでよければ」
「あ、ありがとうございます! お金をお支払いします」
「いい。べつにここ以外で採ればいいわけだからな。体は丈夫な方だから持っていなくともある程度は問題ない」
「……では、ありがたくいただきます。ほかに薬草を持っている方がいれば教えてください」
「それほど薬草が必要なのか?」
「うち、母親が怪我をしていて……かなり症状が良くないのです。薬などは高くて買えず、自分で薬を作るしかないのです。ですが、材料が集まらなくて」
「例の関税があるせいだな」
「ええ。持ち込むことはできるはずですが、値段が張ります。行商人も、高い関税を嫌ってなかなか売りに来てくれません。冒険者になって、冒険者協会から横流ししてもらおうとも思ったのですが、それもできず、薬草採取の依頼を出すも、誰も受けてくれません」
「不便だな」
「ええ、ですが、あなたからいただいた薬草で、少しはしのげそうです」
男の魔法使いは、薄い青色に染まったマフラーをアイテムボックスから取り出して俺に渡す。
「木の繊維で編んだマフラーですが、差し上げます。少しは寒さをしのげるでしょう」
「ああ、ありがとう」
「失礼ですが、お名前は?」
「トントンだ」
「私の名前はフリックと申します。もしトントンさんから冒険者への依頼があれば、私が格安で引き受けますのでぜひご依頼ください。見たところトントンさんも冒険者のようですが、人手がいる時は喜んで手伝いますので!」
「ああ、機会があれば依頼させてもらう」
「このたびは本当にありがとうございました! では!」
フリックは笑顔で頭を下げて俺たちのもとを去った。
俺とちびフォールはまた歩き出す。
「……なんだこの町は。面倒すぎるぞ」
「まー、めんどくさいね」
俺がぼやくと、ちびフォールは答えた。
「妙に市場も閉鎖的。不便なだけなのが謎だ」
「そうだね~。正直つまらない町だと思うよ」
「……さて」
俺はちびフォールを見た。
「ん?」
ちびフォールはごきげんそうに俺の服の裾をつかんで歩いている。
「この町のことをいろいろ知っていそうだな」
「そりゃ最寄りの町なもんで、いろいろ知ってるけど」
「西部地域に入れる裏技などあったりするか?」
「壁を物理的に壊す」
「住人が混乱するだろう。もっと平和的解決法でたのむ」
「賄賂」
「賄賂か……」
「教会か憲兵に大金をね」
「憲兵はわからんでもないが教会にもか。腐っていやがるな。犯罪組織とも絡んでいそうだが?」
「西側は顕著だね。東側は、賭場を仕切っているくらいかな?」
ふむ。
西部地区の方を見ると、火事なのか煙が上がっている場所があった。
たしかに西のほうが治安は悪そうだな。
「もしや町の長も東と西で別れてるのか?」
「そうだよ。東の領主と西の領主がいるね」
「なるほど、わかった」
「あっ、何か思いついたね?」
勘が鋭い。ちびフォールは何か察したように「んふふ」と笑った。
俺も「ふふふ」と笑い返した。
「いや、ちびフォールよ、俺にはもう地位も名誉も人も、何も守るものがない。あるのは宿敵を倒すという信念だけだ。いいことだな、これはじつにいいことだ」
「平和的解決法がいいんじゃなかったの?」
「五百年前にくらべれば平和的だ、と訂正させてもらおう」
「何かやろうとしているなら顔は隠したほうがいいかもね。冒険者協会に知られたら面倒だよ?」
「氷の魔法で仮面みたいなものは作れるか?」
「もちろん!」
「ならよし。では盛大にやらかすぞ! 失敗したらそれまでだ!」
「がってん! 楽しくなってきたー!」
顔は隠すが、陰でこそこそ動く気はない。
俺たちは悪い笑顔で、東部地区のとある場所に向けて足を早めた。
37
あなたにおすすめの小説
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる