封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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36 盛大なやらかし計画

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急いで山脈を全力疾走して下りると、すでに夜になっていた。

「なぜだ!? なぜ行けん!?」

俺は門番の前で粘っていた。西部地域に入ろうとしたら止められたのだ。

「東部に滞在の旅人は西部には入れません」

憲兵は答える。

「東部滞在の札を返却して西部へ滞在する」

「残念ですが、一度東部に滞在されると、西部への滞在ができなくなります」

「なぜだ」

「そういうものだからです」

「こいつはまだ滞在履歴がない。西部に入れるはずだ。こいつだけでも入れてくれ」

俺はちびフォールを憲兵に差し出す。

「子供を手離す親がどこにいますか」

「そういうことではないが、ぐうの音も出んほどもっともだ。やめよう」

「あと、持ち物の中にカレー粉の瓶がありましたが」

「それは以前来たときには持ち込みは大丈夫だったぞ」

「東部の関税対象のハーブが入っている場合は、グラムあたりで持ち込みに税が発生しますので気をつけてください」

「壁で隔てられているだけじゃなく、東部と西部で関税も違うのか」

「肉類は西部の関税の対象になりますので、西部への持ち込みは限定されています。逆に、東部では薬草類が関税の対象です。個人が肉を西部へ売りに出すことは重罪にあたります。もし肉を西へ売りたいのなら、中心にある精霊教会を通してください」

「たしかに市場じゃ薬草がべらぼうに高かったが、そういう事情か」

「そうですね」

俺も薬草は少し持っているが、ほんの少しだ。これくらいなら少しの税で持ち込めるわけか。商売をしようとして大量に持ち込もうとすると莫大な関税がかかるわけだな。

「しかし面倒だな。すぐ隣だろう」

「そういうことになってますので」

「まるで国が二つあるみたいだな。わかった」

俺は諦めて東部地域の門をくぐった。
魔王を迎えに行きたかったのだが、西部へ入れなければ仕方がない。

「あの、旅の方ですか?」

思案を巡らせていると、声をかけられた。若い男の魔法使いらしかった。

「ああ、そうだが」

「もし薬草を持っていたらお譲りいただきたいのですが……」

「薬草か。少ししか持っていないが、それでよければ」

「あ、ありがとうございます! お金をお支払いします」

「いい。べつにここ以外で採ればいいわけだからな。体は丈夫な方だから持っていなくともある程度は問題ない」

「……では、ありがたくいただきます。ほかに薬草を持っている方がいれば教えてください」

「それほど薬草が必要なのか?」

「うち、母親が怪我をしていて……かなり症状が良くないのです。薬などは高くて買えず、自分で薬を作るしかないのです。ですが、材料が集まらなくて」

「例の関税があるせいだな」

「ええ。持ち込むことはできるはずですが、値段が張ります。行商人も、高い関税を嫌ってなかなか売りに来てくれません。冒険者になって、冒険者協会から横流ししてもらおうとも思ったのですが、それもできず、薬草採取の依頼を出すも、誰も受けてくれません」

「不便だな」

「ええ、ですが、あなたからいただいた薬草で、少しはしのげそうです」

男の魔法使いは、薄い青色に染まったマフラーをアイテムボックスから取り出して俺に渡す。

「木の繊維で編んだマフラーですが、差し上げます。少しは寒さをしのげるでしょう」

「ああ、ありがとう」

「失礼ですが、お名前は?」

「トントンだ」

「私の名前はフリックと申します。もしトントンさんから冒険者への依頼があれば、私が格安で引き受けますのでぜひご依頼ください。見たところトントンさんも冒険者のようですが、人手がいる時は喜んで手伝いますので!」

「ああ、機会があれば依頼させてもらう」

「このたびは本当にありがとうございました! では!」

フリックは笑顔で頭を下げて俺たちのもとを去った。

俺とちびフォールはまた歩き出す。

「……なんだこの町は。面倒すぎるぞ」

「まー、めんどくさいね」

俺がぼやくと、ちびフォールは答えた。

「妙に市場も閉鎖的。不便なだけなのが謎だ」

「そうだね~。正直つまらない町だと思うよ」

「……さて」

俺はちびフォールを見た。

「ん?」

ちびフォールはごきげんそうに俺の服の裾をつかんで歩いている。

「この町のことをいろいろ知っていそうだな」

「そりゃ最寄りの町なもんで、いろいろ知ってるけど」

「西部地域に入れる裏技などあったりするか?」

「壁を物理的に壊す」

「住人が混乱するだろう。もっと平和的解決法でたのむ」

「賄賂」

「賄賂か……」

「教会か憲兵に大金をね」

「憲兵はわからんでもないが教会にもか。腐っていやがるな。犯罪組織とも絡んでいそうだが?」

「西側は顕著だね。東側は、賭場を仕切っているくらいかな?」

ふむ。
西部地区の方を見ると、火事なのか煙が上がっている場所があった。
たしかに西のほうが治安は悪そうだな。

「もしや町の長も東と西で別れてるのか?」

「そうだよ。東の領主と西の領主がいるね」

「なるほど、わかった」

「あっ、何か思いついたね?」

勘が鋭い。ちびフォールは何か察したように「んふふ」と笑った。

俺も「ふふふ」と笑い返した。

「いや、ちびフォールよ、俺にはもう地位も名誉も人も、何も守るものがない。あるのは宿敵を倒すという信念だけだ。いいことだな、これはじつにいいことだ」

「平和的解決法がいいんじゃなかったの?」

「五百年前にくらべれば平和的だ、と訂正させてもらおう」

「何かやろうとしているなら顔は隠したほうがいいかもね。冒険者協会に知られたら面倒だよ?」

「氷の魔法で仮面みたいなものは作れるか?」

「もちろん!」

「ならよし。では盛大にぞ! 失敗したらそれまでだ!」

「がってん! 楽しくなってきたー!」

顔は隠すが、陰でこそこそ動く気はない。

俺たちは悪い笑顔で、東部地区のとある場所に向けて足を早めた。
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