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88 平和の形
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俺は一通り町を見て回って、ファスターの屋敷に戻って来た。
「どうだった?」
上機嫌そうなゼビカに言われてので、俺はため息をついた。
「精霊どころか竜までも人間を試すのが好きなのだな。いささか辟易した」
「お前にとってはショックだったろう」
言われて、俺はゼビカの胸倉をつかんだ。近くで見ていたファスターがびくりとなる。
「ふざけるな。精霊王もいない? 殺すべき魔族もいない? で、あれば、俺はどうして五百年前、幾多の魔族をその手にかけて、数多の戦友たちの屍を超えて魔王を倒そうとしていたんだ。俺の行為は、すべて無駄だったのか?」
「それは自分で考えろ」
「俺が殺すべき相手は、俺が戦うべき相手は――本当はどこにいるんだ」
今、俺が魔王を殺す意味があるのか?
「もし魔族を殺すのなら、ここでは人間を殺すのと同じ『罪』になる。重罪だ」
ゼビカが答える。そうだ。魔族を殺す意味は、もうないのだ。
「俺が殺したい相手は、もうどこにもいないのか……」
和平――これが残された英雄たちの、人間たちの選んだ平和の形。俺たちの戦いや犠牲があったからこそ成り立った、いちばんやさしい結末。
「そういうことだ」
ゼビカがうなずいた。俺はゼビカから手を放す。
「今、お前の精霊剣を使えるようにした」
言われて、俺は四つ目の精霊剣《竜王旗》――大槍に旗を取り付けたような見た目の剣を召喚する。
「確かに受け取った。しかし――」
これを使う場面はあるのだろうか?
「まだロイの残した予言が残っている。そうだろう?」
「魔王が地上を焼き尽くすか……」
そう、ありえなくはない。現状を知った魔王が、納得できずに再び人間の国への侵略を開始する可能性は、おおいにあるのだ。
「俺にそれを止めろと」
「そういうことだ」
「精霊王なしでか」
「無理は承知とわかっている。しかしこちらには技術になった封印魔法がある。再び封じることができれば……」
「それは魔王の動きを見てからだ」
「無論だが、討てずとも説得や和解ができればそれでいい。魔族も人間も関係なく笑いあえるのならそれが一番いい。それは、お前の選択に任せる。その時が来たらな」
「……悩ましいな、それは」
なんだかんだ、魔王は人間社会に溶け込んでいた。それが不本意ながら一緒に旅をしてきてわかっていることだ。
まあ多少の無茶はするが。魔王でも今なら人間と社会を作ることができるのでは――その予感が俺の中にはある。
「だがそれでも、魔王が地上を焼き尽くそうとするのであれば、俺は間違いなくやつを殺す」
そうだ。俺はそれを望んでいる。
だからこそ混乱している。もしロイの予言が外れ、相手が和解をしようと手を伸ばしてきたなら、俺はその手を取れるだろうか。
所詮予言は予言。外れることもあるだろう。その時、俺はどう行動すればいいのだろうか。
「で、カレーパンは買ってきたのか? お前からやたらカレーパンの臭いがしているが……我々の分は?」
「ああ、俺が全部食べた」
期待のまなざしを向けたゼビカに、俺は答えた。ゼビカはうなだれた。
「どうだった?」
上機嫌そうなゼビカに言われてので、俺はため息をついた。
「精霊どころか竜までも人間を試すのが好きなのだな。いささか辟易した」
「お前にとってはショックだったろう」
言われて、俺はゼビカの胸倉をつかんだ。近くで見ていたファスターがびくりとなる。
「ふざけるな。精霊王もいない? 殺すべき魔族もいない? で、あれば、俺はどうして五百年前、幾多の魔族をその手にかけて、数多の戦友たちの屍を超えて魔王を倒そうとしていたんだ。俺の行為は、すべて無駄だったのか?」
「それは自分で考えろ」
「俺が殺すべき相手は、俺が戦うべき相手は――本当はどこにいるんだ」
今、俺が魔王を殺す意味があるのか?
「もし魔族を殺すのなら、ここでは人間を殺すのと同じ『罪』になる。重罪だ」
ゼビカが答える。そうだ。魔族を殺す意味は、もうないのだ。
「俺が殺したい相手は、もうどこにもいないのか……」
和平――これが残された英雄たちの、人間たちの選んだ平和の形。俺たちの戦いや犠牲があったからこそ成り立った、いちばんやさしい結末。
「そういうことだ」
ゼビカがうなずいた。俺はゼビカから手を放す。
「今、お前の精霊剣を使えるようにした」
言われて、俺は四つ目の精霊剣《竜王旗》――大槍に旗を取り付けたような見た目の剣を召喚する。
「確かに受け取った。しかし――」
これを使う場面はあるのだろうか?
「まだロイの残した予言が残っている。そうだろう?」
「魔王が地上を焼き尽くすか……」
そう、ありえなくはない。現状を知った魔王が、納得できずに再び人間の国への侵略を開始する可能性は、おおいにあるのだ。
「俺にそれを止めろと」
「そういうことだ」
「精霊王なしでか」
「無理は承知とわかっている。しかしこちらには技術になった封印魔法がある。再び封じることができれば……」
「それは魔王の動きを見てからだ」
「無論だが、討てずとも説得や和解ができればそれでいい。魔族も人間も関係なく笑いあえるのならそれが一番いい。それは、お前の選択に任せる。その時が来たらな」
「……悩ましいな、それは」
なんだかんだ、魔王は人間社会に溶け込んでいた。それが不本意ながら一緒に旅をしてきてわかっていることだ。
まあ多少の無茶はするが。魔王でも今なら人間と社会を作ることができるのでは――その予感が俺の中にはある。
「だがそれでも、魔王が地上を焼き尽くそうとするのであれば、俺は間違いなくやつを殺す」
そうだ。俺はそれを望んでいる。
だからこそ混乱している。もしロイの予言が外れ、相手が和解をしようと手を伸ばしてきたなら、俺はその手を取れるだろうか。
所詮予言は予言。外れることもあるだろう。その時、俺はどう行動すればいいのだろうか。
「で、カレーパンは買ってきたのか? お前からやたらカレーパンの臭いがしているが……我々の分は?」
「ああ、俺が全部食べた」
期待のまなざしを向けたゼビカに、俺は答えた。ゼビカはうなだれた。
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