封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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98 精霊王と星の外側

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山を登り切るころには夜中になっていた。

空を見ると星がよく見え、流れ星が落ちるたび落ち着かない心持ちになる。しかしそれは途中で消える、地上には落ちない流れ星だ。

祠のある場所に到着する。
誰かが手入れしてくれたのか、朽ちた封印の槍の破片がまとまって祠の中に納まっていた。周囲はきれいで、花束とお供え物が添えてある。

五百年、こうして誰かがかわるがわる手入れをしてくれたのだろう。俺はそこに、酒場で買ってきた酒を供えた。
祠の前で、胡坐をかいて座る。

俺以外は、誰もそこにはいない。

いや、いないように見える。

「精霊王」

俺は少しぞんざいにその名を呼んだ。

瞬間、空間が切り替わり――俺は上空のさらに上、星の上の空間にいた。

ロイの文献やファスターから聞いて、ここが宇宙空間というものだとわかった。そしてここに人間の魂を呼び出せる精霊は、精霊王しかいない。特定の霊域を持たず、しいて言うならこの星全土が霊域である精霊王にしか。

「久しぶりね」

透き通るような青い長髪の、二十代半ばほどの女性がそこにいた。体と空間の境界線があいまいで、ときおり揺らいでいる。

精霊王だ。

「最初から俺と魔王が封印された祠にいたわけだな」

俺が言うと、精霊王は愉快そうに微笑した。

「そしてロイの観測で宇宙から飛来した『星外獣』がこの星に接近していることがわかると、お前は槍の封印を破った」

槍は朽ちてボロボロになっていたわけではなかった。精霊王が封印を解くため破壊したのだ。

「俺に『星外獣』と戦わせるために。そして戦いの勘を取り戻させるために星外獣の到達の少し前の時点で魔王ごと俺の封印を解いた。……ほかの契約精霊にもそのことを伝えていたな? 全員グルか? 森羅やゼビカはすべてわかっていそうだったし、スノーフォールも俺を試していたきらいがある。エアリアルが人間に捕まったのも、よもやわざとではないか? 大人しく霊域を破壊されるとは思えないしな。それにロイとも死ぬ前にあらかじめ話を通していたな?」

「…………」

精霊王は黙ってにこにこしながら俺の話を聞いていた。

「それはなぜか――俺に『星外獣』を倒すための力があるかどうか、見極めていたのでは? グッドフェロウまでたどり着かせ、世界の現状や人間と魔族の状況を理解させ、最後に精霊王の居場所を見つけ出すまでが一連の試練だった。違うか?」

「……うふふ」

何も返さないが、精霊王は上機嫌だった。これは肯定と見ていいだろう。

「よほど精霊は、人間を試すのが好きとみえるな」

俺は皮肉を込めて言ってやった。

「とくにあなたを試すのがね」

さらなる皮肉で返されて、俺は口を曲げた。

「一発殴ってもいいか」

「あら怖い。女性差別で告発するわよ」

「女性の姿をとっているだけでお前に性別はあるまいに」

「殴ったら慰謝料ね」

「……それほどこの星が大事ならお前自身の手で守ればいい。精霊は自分の死や住まいの危機に無頓着すぎる」

「私に一番大きな星外獣は倒せないわ。力が足りない」

「なっ!?」

精霊王にはっきり首を横に振られ、俺は瞠目した。

「だからあなたの力を借りたかったの」

「精霊の中で一番力が強い精霊王が倒せないのであれば、俺にも無理だろう」

「どうかしら。案外いけるんじゃない?」

「そんな適当な感じで俺を復活させたのか」

いや、なりふり構っていられないほど、状況は悪いのだろう。すがれるものがあればすべてすがりたいということだ。

「技術化された封印魔法でどうにかなるか?」

「それも、どうかしら。ネルのような密度の魔法には、どうしてもならなかったみたいだし」

「封印の槍のようなものはもう作れない、作ってもすぐに復活されてしまうということか」

「知恵を絞るのは人間の仕事よ。それにあなたを復活させるのはロイの提案だった。ロイが、あなたに託したのよ」

俺はため息をついた。ロイも精霊王も、俺に丸投げではないか。

「……やってやる」

俺は答えた。

「精霊剣はまだあるな?」

「もちろん。使えるようにしておいたわ」

「契約が消えたのもまやかしか。本当性格悪いな」

「うふふ」

「うふふじゃない」

腕を見ると、しっかり精霊王の契約がついていた。

「ちょうど追加の来客が近づいているわ」

精霊王が宇宙の向こうを指差した。

「……第二波が来たのか?」

「そうみたい」

「予測より早いな」

「こっちもほかの精霊に協力を呼びかけてみるから、あとはよろしくね」

「精霊同士は基本的に不干渉――あまり期待はできないだろうが、まあそちらはまかせよう」



――気づけば、山頂の祠の前に戻っていた。

「まったく勝手すぎるな、どいつもこいつも」

空を見上げると、いくつもの流れ星が落ちてきているのが見えた。
星外獣の第二波……百を超える鉱物状の化け物が、群れを成してこの星に落ちてきている。

「どっちみち死んでしまうのであれば、とりあえずやってみるしかあるまいな。まずは、第二波の撃退を」

俺は流れ星を見上げながら――《精霊王の剣》を召喚した。
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