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1 魔法世界アウルマデル
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俺は側近のタームとともに汚染されたカリュウ平原へと足を踏み入れた。
王城からほど近いカリュウ平原は現在、敵性勢力『灰海の旅団』の生み出す瘴気によって汚染されている。
本来青空の下で草花が広がる穏やかな平原だったが、現在は灰色の瘴気で見通しが悪く、空気がよどんでいた。
魔王というのは退屈だ。
たまにこういった敵性勢力と戦ったりもするが、大したことではない。
普段は日々の業務をこなしていくだけで、たまにある休日はあっという間に過ぎてしまう。
目の前の『灰海の旅団』の瘴気もたまに出てくる不定期イベントのようなものだ。もう見飽きた。
時折、雷が鳴る。空に広がる、瘴気と混ざり合った水分で形成された黒雲は厚く、昼間だというのに陽を遮り周囲を薄暗くしていた。
隣にいる長い銀髪の女吸血鬼――タームは、表情の乏しい整った顔を俺に向け、膝をつき頭を下げた。
「魔王フェルヴェッタ様、『灰海の旅団』は我々魔王軍が手を焼いている強大な敵です。くれぐれもお気をつけくださいませ」
「油断はしない。……が、さっさと終わらせて帰らせてもらう」
言いながら、一歩前へ。
カリュウ平原に広がる瘴気から湧き出るように、獣のシルエットのようなスモーク状のものが生まれ出でる。
敵性勢力『灰海の旅団』は瘴気の中で生きており、周囲を汚染しながら勢力を広げる。
そして外敵である俺たちが近づけば、侵入者を排除しようと瘴気から湧いてくる。
ほかの魔族に害をなし、共存する気も周囲に配慮する気もないし税も払わない。
おまけに対話もできない。
この手の輩どもは生きる環境ごと滅ぼせばよい。
大規模な魔法で瘴気ごと消滅させれば簡単である。
「《身体強化》」
短く唱えると、自身を強化する魔法が俺にかかる。
身体のすさまじい魔法強化により、周囲に魔力圧――魔法による重圧がかかった。
旅団の住人はこちらに飛びかかってくる。
飛びかかってくる『灰海の旅団』の者どもを素手でなぎ倒しながら、さらに魔力を練る。
ぬるい。
やはりつまらない。
敵を単調に叩き潰すだけだ。楽っちゃ楽なのだが、いささか退屈する。もっと歯応えのある敵はいないものか。
「さっさと終わらせてもらうぞ!」
腕を天高く掲げると、手のひらの上に巨大な魔法陣が出現する。
「!」
風の魔法で援護しながら、タームが上空を見上げ、目を見開いた。
「な、なんて魔力……! これが魔の国――いえアウルマデル最強であるフェルヴェッタ様の固有魔法――!」
「下がっていろターム! 死ぬぞ!」
暗雲が切り裂かれ、青空が顔を出した。
それから割れた雲の隙間から巨大な黒い剣状の魔法が落ちて、汚染された地面に深々と刺さった。
瞬間、一帯に走った衝撃が汚染された瘴気も『灰海の旅団』もすべて消し飛ばす。
地面に突き刺さった黒色の大剣が消え失せる。
超巨大な剣を落とす最強無双と謳われる魔法《世界剣オーロボロス》。
城塞にこもれば城塞ごと切り裂き、山にこもれば山ごと切り裂き、魔法で防ごうとすれば魔法ごと切り裂く。防御不能の大魔法である。
「よし、終わり! すぐ帰るぞ!」
思っていることが口に出てしまった。
俺はすぐに踵を返す。
「お見事です、フェルヴェッタ様」
離れていたタームが駆け寄ってくる。
驚きと興奮からか頬が上気している。
普段表情が乏しい彼女には珍しい反応だ。俺の魔力にあてられたか。
「事後処理は任せるぞターム。瘴気ごと魔法で消し飛ばしたので問題ないとは思うが、その後の影響までは保証できんからな」
「これで周辺の魔族たちは汚染におびえることなく安心して暮らせます。しかしフェルヴェッタ様自らご出陣なさらなくてもよかったのでは……」
「今日はどうしても夜までにすべての仕事を終わらせたかったのでな。後顧の憂いは絶っておいた方が安心だ。マジで今日の夜はだめだから。やっとこっちでも気になっていたゲーム……いや、事務手続きに着手できるのでな」
「はあ……しかしそのような些事こそ、ほかの者に任せては?」
「いいのだタームよ。俺がやりたいやつだから」
「そ、そうですか」
タームは咳払いをして俺の顔を見た。
「気のせいだったらすみませんが」
「何だ?」
「なんかうきうきしてます?」
「まあ、少しな。ターム、お前インターネットはわかるか?」
「いえ……なんです? エンターネッツ? え? すいません、もう一度お願いします」
聞きなれない単語すぎてタームはおじいちゃんみたいになっているが無理もあるまい。
王城の自室では、異世界の日本とインターネットがつながっていた。魔法の力で。
王城からほど近いカリュウ平原は現在、敵性勢力『灰海の旅団』の生み出す瘴気によって汚染されている。
本来青空の下で草花が広がる穏やかな平原だったが、現在は灰色の瘴気で見通しが悪く、空気がよどんでいた。
魔王というのは退屈だ。
たまにこういった敵性勢力と戦ったりもするが、大したことではない。
普段は日々の業務をこなしていくだけで、たまにある休日はあっという間に過ぎてしまう。
目の前の『灰海の旅団』の瘴気もたまに出てくる不定期イベントのようなものだ。もう見飽きた。
時折、雷が鳴る。空に広がる、瘴気と混ざり合った水分で形成された黒雲は厚く、昼間だというのに陽を遮り周囲を薄暗くしていた。
隣にいる長い銀髪の女吸血鬼――タームは、表情の乏しい整った顔を俺に向け、膝をつき頭を下げた。
「魔王フェルヴェッタ様、『灰海の旅団』は我々魔王軍が手を焼いている強大な敵です。くれぐれもお気をつけくださいませ」
「油断はしない。……が、さっさと終わらせて帰らせてもらう」
言いながら、一歩前へ。
カリュウ平原に広がる瘴気から湧き出るように、獣のシルエットのようなスモーク状のものが生まれ出でる。
敵性勢力『灰海の旅団』は瘴気の中で生きており、周囲を汚染しながら勢力を広げる。
そして外敵である俺たちが近づけば、侵入者を排除しようと瘴気から湧いてくる。
ほかの魔族に害をなし、共存する気も周囲に配慮する気もないし税も払わない。
おまけに対話もできない。
この手の輩どもは生きる環境ごと滅ぼせばよい。
大規模な魔法で瘴気ごと消滅させれば簡単である。
「《身体強化》」
短く唱えると、自身を強化する魔法が俺にかかる。
身体のすさまじい魔法強化により、周囲に魔力圧――魔法による重圧がかかった。
旅団の住人はこちらに飛びかかってくる。
飛びかかってくる『灰海の旅団』の者どもを素手でなぎ倒しながら、さらに魔力を練る。
ぬるい。
やはりつまらない。
敵を単調に叩き潰すだけだ。楽っちゃ楽なのだが、いささか退屈する。もっと歯応えのある敵はいないものか。
「さっさと終わらせてもらうぞ!」
腕を天高く掲げると、手のひらの上に巨大な魔法陣が出現する。
「!」
風の魔法で援護しながら、タームが上空を見上げ、目を見開いた。
「な、なんて魔力……! これが魔の国――いえアウルマデル最強であるフェルヴェッタ様の固有魔法――!」
「下がっていろターム! 死ぬぞ!」
暗雲が切り裂かれ、青空が顔を出した。
それから割れた雲の隙間から巨大な黒い剣状の魔法が落ちて、汚染された地面に深々と刺さった。
瞬間、一帯に走った衝撃が汚染された瘴気も『灰海の旅団』もすべて消し飛ばす。
地面に突き刺さった黒色の大剣が消え失せる。
超巨大な剣を落とす最強無双と謳われる魔法《世界剣オーロボロス》。
城塞にこもれば城塞ごと切り裂き、山にこもれば山ごと切り裂き、魔法で防ごうとすれば魔法ごと切り裂く。防御不能の大魔法である。
「よし、終わり! すぐ帰るぞ!」
思っていることが口に出てしまった。
俺はすぐに踵を返す。
「お見事です、フェルヴェッタ様」
離れていたタームが駆け寄ってくる。
驚きと興奮からか頬が上気している。
普段表情が乏しい彼女には珍しい反応だ。俺の魔力にあてられたか。
「事後処理は任せるぞターム。瘴気ごと魔法で消し飛ばしたので問題ないとは思うが、その後の影響までは保証できんからな」
「これで周辺の魔族たちは汚染におびえることなく安心して暮らせます。しかしフェルヴェッタ様自らご出陣なさらなくてもよかったのでは……」
「今日はどうしても夜までにすべての仕事を終わらせたかったのでな。後顧の憂いは絶っておいた方が安心だ。マジで今日の夜はだめだから。やっとこっちでも気になっていたゲーム……いや、事務手続きに着手できるのでな」
「はあ……しかしそのような些事こそ、ほかの者に任せては?」
「いいのだタームよ。俺がやりたいやつだから」
「そ、そうですか」
タームは咳払いをして俺の顔を見た。
「気のせいだったらすみませんが」
「何だ?」
「なんかうきうきしてます?」
「まあ、少しな。ターム、お前インターネットはわかるか?」
「いえ……なんです? エンターネッツ? え? すいません、もう一度お願いします」
聞きなれない単語すぎてタームはおじいちゃんみたいになっているが無理もあるまい。
王城の自室では、異世界の日本とインターネットがつながっていた。魔法の力で。
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