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第三章

主人公とヒロイン、其々の決着

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 ミシャ達三人が灰色の森を抜けると、見通しの良い平野へと出た。 だがそこは行き止まり、その先はとても助かりそうにない、海へと真っ逆さまに続く崖。


「犯人ってのは、何で最後に崖に居たがるのかしら?」

 どの世界でもそうなのだろうか、決着の時は崖。 岩崎〇美の歌が聴こえてきそうだ。

「まっ、本当の黒幕は王都でふんぞり返ってるでしょうけどね」

 嫌悪感を露に吐き捨てたミシャの前には、上等の黒いローブ、上等の杖を持った魔導士。 そして、

「……なんでもいいけどよ、予想通りコイツら……相当やるぜ」

 険しい表情で呟くのはヴァン。 
 どうやら護衛は四人。 その腕前はプラチナクラスの亜人が警戒するレベルだと、戦わずして感じる程のようだ。

「確かに、時間稼ぎでも楽ではない相手のようだな」

「あらブラン、また逃げるの?」

 自信の無い相手からは逃げる、それが成長を妨げているのだと、またもや性格の良いヒロインが挑発してくる。

「生憎プライドは既に粉々だ。 また組み立てるより捨てる方が賢いだろう。 ヴァン」

「あ? なんだ?」

「奴らでも私の初撃は見切れないだろう、まず一人は減らす」

 透明な霞龍の剣。 
 如何に手練とはいえ、恐らく未体験の見えない刃は避けられないだろうと言った後、ブランは苦笑した。


「後は―――無様に応援を待とう、大魔導士様のな」

「……へっ、お前も変わったなあ。 いや、変えさせられちまったのか……俺も、お前も」


『被害者の会』新人の二人は笑い合い、最上位の冒険者としての自分、そして人間と亜人という垣根も越えて分かり合っていた。

「なんだかよ、お前ともやっと仲間って気になってきたぜ、人間」

「……そうだな。 せいぜい死なないように足掻こうか、亜人」

 ブランとヴァン、彼らが同じパーティとしてどれだけの時間を共にしたのかは分からないが、パーティの戦力補強としての亜人、上位で稼ぐ為に、本意でなく加わった亜人の関係だったのだろう。

 その二人が、今本当の絆を手にした。

 まさか……これがミシャの理想である人間、亜人の垣根を無くし、人々が平等に暮らせる世界を――


「なにイチャイチャしてんの? 最後ぐらい役に立ちなさいよ、人間と亜人」


「「………」」


 ………この言い振り、やはりミシャ自分は “人間” でも “亜人” でもない存在だと認識しているのか。


 そもそもこの痛い女は、

 ノエル(好かれていない)と結婚→ハーフの子を出産(好かれていないのに?)→世界はハーフに厳しい(もう産まれた気でいる)→じゃあ世界を変えよう(自分を変えようとはしない)→ハーフノエルを英雄に(現在バイトリーダー)、が目的だ。


 そして、それが三年以内に成されなければ……




 ――――ノエルと自決ゲームオーバー………。




 恐らくその時、被害は今回の森の何倍にもなるだろう。 なんと迷惑な生き物だ、破壊神ミシャという生物は……。


「お前らが、邪魔を……?」


 国王ガイノスを失望させてしまった魔導士は、その原因だろう三人を睨み、目を血走らせて激しい悪意を向ける。


「違うわ」

「……違う?」


 そうではないと言い放ったミシャは、どちらが悪か見分けの付かない素敵な顔で続けた。

「この二人は全く歯が立たなかったから、つまり、アンタの邪魔をしたのはね……」

「………」




「―――私一人よ」




 開戦の幕は、世界を恐怖に陥れるガイノスの野望よりも黒い、『一人』という言葉が世界一似合ってしまう白魔導士の自慢話で切って落とされた。




 ◇




 穏やかな波音、柔らかな日差し。


「最高……だな」


 その船は、絶好のコンディションに恵まれ、休日を和やかに楽しんでいるかのようだ。


「サザンピーク、良いじゃねぇか。 海の幸、森には肉や野菜、果物も……て森はもうねぇか……」


「きゃははっ! ふねたのしーっ!」


 陽の光が、エメラルドグリーンの髪を宝石の様に輝かせている。

「おいアンジェ、はしゃぎ過ぎてまた落ちんなよー?」
「およぐー?」

「泳がないー」

 笑顔の少女に優しい目を向け微笑む少年。
 彼は主人公で、今は決戦の時の筈だが。

「……こんな事をしていて良いのでしょうか、今ミシャさん達は……」

 救援部隊隊長のナーズが零すと、

「ああ? なあ、ナーズ」

「は、はい」


「こんな良い天気でよ、海でよ、船なら……娘に白いワンピース着せたくなんねぇか?」

「はぁ……」

 思っていた答えとかけ離れた返答に戸惑う。 
 しつこい様だが、今は決戦の時です。 

「人間色々いんだよ。 船の上ではしゃぐ可愛い女もいりゃ……」



 ◇



「ぐぉっ……おぉ……!」


「あははっ! 本当にアンタがこの国一番の魔導士!? この国魔導士アンタしかいないんじゃないのぉ?」

「おい! 遊んでねーでさっさと手伝ってくれよッ! もう三分たったぞッ!!」

「うっさいわねっ! 少しは踏ん張りなさい! プラチナくまさんなんでしょ!? 」
「人を高級な置き物みてーに言うなッ!!」

「ミシャ! いつまでも凌ぎきれんぞ……ッ!」

「あらいたの? 透明だから見えなかった」
「透明なのは剣だッ!」


 ………ふむ、中々ブランも突っ込むやれるようになったな。



 ◇



「しっかし手応えねーなあ、ホントにイカいんのか?」

「今、イカが重要でしょうか……」

「んー? 心配すんな、もちろん他の魚介類も入れっからよ」

「はぁ……」



 ◇



「全く手応え無いわねっ! 本当にアンタら剣士? 魔法使う気も起きないわっ!」


「あー疲れた……。 おいブラン、あそこで焦げてる魔導士ヤツ、生きてんのか?」

「ああ……多分な」



 ◇



「――おっ?  おおっ!?  ………キターーーッ!!」



 ◇



「あはははッ! 最後に見せてあげるっ、これが世界一の大魔導士様の魔力よッ!! ――――逝っけぇぇえええーーーッ!!!」



 ◇



「――――イっカでけぇぇえええーーーッ!!!」

「やだーっ! まずそーっ!」



 ……どうやら、其々の決戦に決着がついたようだ。



 デルドル王国精鋭部隊はヒロインにより全滅。 

 全長3メートルの巨大イカ、スクインプは主人公により釣り上げられた。


 そして、このクエストもフィナーレを迎える。 その舞台は……




 ――――『シーフードカレーパーティー』だ。



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