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しおりを挟む「どっ、どうして女の子が居るんですかッ!?」
明らかに彼女は怒っています。 ということは、このソフィアさんはクリード様の恋人なのでしょうか?
「彼女か。 ふふ、彼女は……―――この私が救ったのだ。 まさに危機一髪だった」
自慢げに顎を上げるクリード様。 わたしとしては、どちらにしてももう少し誤解を解ける説明をして頂きたいのですが……。
「救ったって……まさかクリード様とひとつ屋根の下で――」
「ちょうど良かった。 ソフィア、頭領には彼女が回復するまで現場に行けないと伝えてくれ、騎士の義務だ」
………頭領?
「そ、そんなっ! それでしたら彼女は我が家で――」
「そうだ、すまないが彼女の着替えを買ってきてくれないか? 事情があるのだろう、着替えを持っていないのだ」
「でっ、ですから――」
「この金を使ってくれ」
……なんというか、今のクリード様は騎士という物に酔っていて、話をまったく聞いてくれないご様子です。
これではソフィアさんが見ていて可哀想ですし、わたしもそこまで甘えられません。
「あの、わたしなら大丈夫です。 もうここを出ますので」
「何を言っている、自分で身も起こせない女性を放り出せるものか」
そう言った後、クリード様の口元が緩んだのが見えました。 今の台詞に手応えを感じたようです。
「詳しく事情は知りませんが、私は心配なんです……っ! ク、クリード様の美しさに寄ってくる女の子が多いから……」
眉を寄せて語気を強めるソフィアさんを見て、きっとクリード様をとても慕っているのだとわかりました。 ―――ですが、美しさ言葉は……
「……ソフィア、すまないが帰ってくれ」
「えっ……」
「彼女は本当に衰弱しているんだ」
顔を背けて低い声を出すクリード様に、ソフィアさんは悲しそうな瞳をパチパチと瞬きします。
「……着替えを、持ってきます……」
俯いた彼女は、重い足取りで部屋から出て行きました。
………可哀想、彼女は傷ついています。
「ソフィアさんっ!」
「――だっ、ダメだよ動いたらっ! あっ……。 コホン、君の足は酷く傷んでいる。 薬を塗ったが……」
「クリード様、ソフィアさんを追いかけて、優しい言葉をかけてあげてください」
「いや、だが私はここを離れる――」
「悲しんでいる女性に優しく出来なくて、何が騎士でしょう?」
「――ムッ……わ、わかった」
わたしの説得を受け入れ、クリード様は「ちゃんと休んでいるんだぞ!」と言って彼女を追いかけて行きました。
◇
「ソフィア!」
「っ……クリード様?」
町へ戻ろうとしていたソフィアは、思いを寄せるその声に振り返る。
「はぁ、はぁ……さっきはすまなかった。 少し冷たく言い過ぎたと思ってな」
「……私を心配して追ってきてくれたんですかっ! 嬉しいっ!」
落ち込んでいた自分に、思いもよらない言葉を受け身を跳ねさせる。 今までもクリードの機嫌を損ねた事はあったが、こうして謝られた事などなかった。
「その、本当に今は彼女に付いていてあげたいのだ。 すまないが協力してくれ」
「はいっ、わかりましたっ」
今度は聞き分け良く、嬉しそうに目を潤ませて素直に頷く。
「それでは私は戻るが、頼んだぞ」
「はいっ、お任せくださいっ」
ヴィオラの元へ戻るクリードの後ろ姿を、ソフィアは見えなくなるまで見つめていた。
それが見えなくなると、
「……いつまで騎士ごっこしてんだか」
さっきまでクリードに発していた愛らしい少女の声とは思えない、ここまで変わるかという低い声を出す。 そして、あの喜びに潤ませていた目を細め、
「どうせ騎士になんてなれる訳ない、クリード様はウチの家業を継がせてあげるんだから。 ―――私の、夫としてね」
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