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しおりを挟む「よしっ、行くよヴィオラ」
「は、はいっ」
ソフィアさんの所に借りていた馬を返しに行くらしいのですが、わたしを一人にするのは心配だということでお供する事になりました。
馬車には何度も乗っていますが、馬に直接乗るのは初めてなので少し怖いです……。
「しっかり掴まっててよ。 そうだ、身体はどこも痛くないかい?」
「はい、クリード様こそお身体は平気なのですか?」
昨晩あの大きな熊に投げつけられたりしていましたから。
「ああ」
本当でしょうか、前日の激しいお稽古もあったのに……
「身体中バキバキだよ」
「――えっ、そ、それじゃあ……」
「でもすごく元気なんだ。 なんていうか、身体中に力がみなぎってるっていうか……」
そんなこと、信じられません……。
「嘘……ですか」
「――ちっ、違うよ……! 今更君に嘘なんか吐かない。 きっと今私はやる気に満ちているからだと思う、ヴィオラが……迎えに来てって言ってくれたから」
「っ……」
それは昨晩――――
「わたしはここを出たら死のうと思っていました。 でも今は……クリード様と生きたい、そう思っています」
「ヴィオラ……だが私は……」
「――みっともなくなんかない、カッコ良かったです……!」
言い縋るわたしを見て、目を丸くしたクリード様は次第にクスクスと笑い出しました。
「鍋を投げる騎士がカッコ良いか?」
「はいっ、たくましいですっ」
誰が何と言おうと、あんなに必死に戦ってくれた人を馬鹿になんてさせません。 だから……
「だから……いつかわたしの……」
――――『本当の騎士になってください』――――
そう言おうとした口が……
「わかった。 ヴィオラ、君に付き合ってもらおう、私の夢に」
「…………はい」
塞がれて………しまった。
「死にもの狂いでやってやる。 悪いがもう引き返せないぞ」
「…………はい」
――――……ああ、思い出すと蕩けてしまいます……。
「ヴィオラ? ちゃんと掴まらないと落ちるぞ?」
「――えっ? す、すみませんっ!」
明日、わたしはゴッゴーシュに戻ります。 皆さんに元気な姿を見せて、きちんと謝りたいから。
「じゃあ行くよ」
「はいっ」
「――はッ!」
ちゃんと迎えに来ないと、また歩いて来ちゃいますからね。 わたしの騎士様……。
◇
「やれやれ、俺は大工だってのに何で馬番ばっかり頼まれんだよ……」
「フィン!」
「――んっ? よぉクリード、馬を返しに……」
「助かった、かなり無理をさせてしまったから休ませてやってくれ」
「――ってお前……! ちょ、ちょっと来いっ!」
「なっ、何だ!? ちょっと待っててくれヴィオラ、何か話があるようだ」
「はぁ」
お知り合いの方に連れられて、クリード様はどこかへ行ってしまいました。
それにしても、まだ誰かが居るとあの話し方なのですね。 ふふ。
「お前こんなトコに女連れて来んなよっ!」
「何故だ?」
「なんでって……そりゃソフィアお嬢様がアレだろうが、分かんだろ?」
フィンの奴が何を言ってるか解らないが、昨日の一件があるからな、ヴィオラをできるだけ一人にしたくない。
「大体誰だあの子? 昨日どっか行って引っ掛けたのか?」
「いや、数日前から小屋に居るんだ。 事情があって足を痛めていてな」
「あっそ、男前は女が寄ってきていいねぇ………って、こっ、小屋に!? ――おいクリードッ!」
「なっ、何だ!?」
血相を変えてフィンが掴みかかってきた。 どうしたんだ今日のコイツは?
「まっ、まさか、あの子昨日の夜も居たのか!?」
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