謂れのない淫行で婚約破棄されたわたしは、辺境の毒侯爵に嫁ぎました

なかの豹吏

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 パトリックがサーヴォ達の前に立つと、領民達が囲いを解く。

「……どういうつもりだ、貴様ら」

「どうって、なあ?」
「ああ、逃げ道用意してやってんだよ」

 その意味を理解したサーヴォは青筋を浮かせ、自分より頭一つ大きなパトリックを睨み付ける。

「確かに鍛錬しているようだが、こんな所に居る雑兵に私が後れを取るか!」

 ……あの、それはわざわざ弱いとこまで足運んだって自白ですよ。 と思ったのはボクだけ?

「おいパトリック、殺すなよ!」
「お前もう行くとこないんだからな!」

「……私に行く所が無い? この町民達は何を勘違いしている」

 目を細めるパトリックに心中で呟く。
 勘違いしてるのはね、お前だよ……。

「いたた……あ、ありがとうノア」

 立ち上がったボクの汚れた服を、ノアが丁寧に払ってくれた。 不安げな目をしながら。

「パトリックさん、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫だと思うよ。 まあ、ボクはいつも負けてるパトリックばかり見てたけど」

「そんな……」

「でもそれは相手が……」
「私止めてきます!」

「え、―――ちょっとノア!?」

 ボクの言い方が悪かった。
 それに、ノアが止めに入ろうとした時にはもう遅かったんだ。 

「この程度でアルフレッド様の剣を語るとは」

 サーヴォの剣は弾かれ、勝敗は既に決していた。

「お前はダリンサッジ家の見習い兵だろう? そうでなければ不安になってしまう。 戦場にこんな足でまといが居たんではな」

「ぐっ、ぬぅぅ……ッ!」

 ノアも決着に気づいたんだろう、走る足を緩め、立ち止まろうとしている。

 ―――宙に舞う、弾かれた剣の落下点に居ると気づかずに。

「ノアッ!!」

 叫びながら走った。 
 ノアを突き飛ばしてでも、最悪の結果だけは逃れたかった。

「ぉおおおおッ!」

 こんな事故はあってはならない、だから、無駄かもしれないけどボクは――――跳んだ。


 それでも、伸ばした手には地面の感触、それだけしか無かった。


「……くっ……そッ!」

 届かなかった。
 こんな事でノアが……リナーリの目の前で……!

 頼りにならない、誰も救えない自分を呪いながら顔を上げると、

「娘、刃が迫っているというのに、お前には危機察知能力が無いのか?」

 ノアがパトリックに説教されていた。 どうやら剣は落下の途中でパトリックの手に収まっていたようだ。

「あ……あぁ……」

 自身の危機にやっと気づいたノアは、腰が抜けたのかその場にヘタリ込む。 

「良かった……」

 けど、ボクって……


「……あいつを殺せ」

「――っ! サーヴォ様、それはさすがに問題になりますぞ……!」

「構わん! 私兵の一人ぐらいどうとでも揉み消してやる!」


 はぁ、せっかく綺麗にしてもらったのにまた砂だらけ。 良い所無しで本当に惨めになってくるよ。

「――! パトリック後ろッ!」

 背を向けていたパトリックに従者三人が襲いかかる。 これは……こ、殺す気か!?


「……お前らは」

 そりゃ、パトリックの強さは知ってたけど、

「連携がなってない」

 不意打ちだし、

「遅い、軽い、技術も無い」

 心配するでしょ、普通。


「……また、心配して損したか」


 屈強に見えた従者達も、ロムニカル家の怪物の相手じゃなかった。 

「お前らがロムニカル家と共に戦場に立つと考えると、アルフレッド様の苦悩が思いやられる。 稽古をつけてやる、来い」

「――なっ、は、離せ! 私はダリンサッジ家の……」

「見習い兵だろ」
「違ぇねぇ! パトリック、またここに来たくなるように教えてやれよ!」
「あいつにしごかれて来る訳ねぇだろ!」

 町民達は大盛り上がり、そして、パトリックは従者三人とサーヴォを引き摺って行った。 それだけならいいけど、

「娘、お前もだ」

「は? わ、私ですか?」

「あの程度で死んでいたら命がいくつあっても足りん」

 ―――それは違うよね。

「ノアはボクと買い物に行くんだッ! そいつら連れて勝手に稽古してこいッ!」

 まったく、ちゃんとボクらが帰るまでには馬車に戻ってろよ……!

「なんでノアまで連れて行こうとするかな、あの狂戦士は……」

 ぶつぶつ言いながら立ち上がり、また汚れた服を払っていると、

「――っ、リナーリ……どっ、どうしたの?」

 いつの間にか、傍にはリナーリが立っていた。

 な、なんだこの目は……。 頼りないボクに呆れてる? 滅茶苦茶なパトリックに怒ってる? ど、どっちだ!?

「いえ、夕食の時にお話します」

 ―――ふ、増えた!?

「……はい」

 もうなんだか、先払いで謝らせてもらえないだろうか……。


「おいみんな! リベルノ様が結婚したぞッ! それもお相手は大公侯爵令嬢様だーーッ!!」


 はは、なんともいいタイミングですね、ヘンリーさん。


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