謂れのない淫行で婚約破棄されたわたしは、辺境の毒侯爵に嫁ぎました

なかの豹吏

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 ローズバインド家を出た時はどうなる事かと思ったけど、今となってはこれがリナーリ様にとって不幸中の幸いだったのではないか、そう思える。

 私もこのお屋敷の仕事に慣れたし、何よりリナーリ様が毎日楽しそうで良かった。

「あっ、お客様みたいですね」

 珍しいな、と思いながら玄関に向かうと「ノア、私が対応しましょう」、凛々しい表情のカリナンさんが先に前を行く。

「はい。 ――あ、でも……」


「ようこそいらっしゃいました。 ここがリベルノ・ロムニカル辺境伯様の―――研究所です」

 ……この人は、来る人みんなにコレをやっているのか。

「――ひっ、ひぃぃ……ッ!」

 もっと早く止めるべきだった。 ご来客は青ざめた顔で尻もちをついている。 私も驚かされた最初の一撃、こんな事するから悪い噂が広まるのでは……。 

「カっ、カリナンさん! そのご挨拶はやめ――」

 急いで謝らなくては、そう思ってお客様の前に出ると、

「……ラナ? ラナじゃない!」

「あっ、ノア! 良かった!」

 見慣れた気弱そうな顔、ローズバインド家で一緒にメイドをしていた女の子、ラナとの思わぬ再会となった。



 ◆◇◆



「なるほど、実際使う側の意見を聞けるのは参考になるね。 また何か気づいたら言ってよ」

「はい」

 今日もリナーリと生産工場に行った。 作る側とは違う、社交界で実際に感じている意見をもらえるのは貴重だ。 

「ただいま、戻ったよ」

 そして屋敷に帰ると、

「お帰りなさいませ、リベルノ様、リナーリ様……」

「ど、どうしたの?」

 目を赤くしたノアと、見たことの無いメイドさんが我が家に増えていた。



 ◇



「そうか、そんな事が……」

 訪ねて来たローズバインド家のメイド、ラナという子の話は、同室だったマイラというメイドが屋敷を辞め、その直後に殺されたという悲劇だった。

 事情を聞こうと集まった応接室では、立ったまま悲しみに涙するノアにリナーリが寄り添っている。

「喧嘩もしたけど……ずっと一緒に働いてたから……!」

 ノアは泣き崩れ、先にラナから話を聞いたカリナンが詳細を語り出す。

「リナーリ様がローズバインド家を出たのとほぼ同時期に、マイラというメイドはお屋敷を辞め出ていったようです。 そして、その夜には……」

「そのマイラという子の事件とリナーリに何か関係がある、だからラナはここに来たってことだよね?」

 ボクが視線を向けると、ラナはおどおどしく白いハンカチを差し出してきた。

「こ、これを……私とマイラの部屋で……見つけました」

 そのハンカチを広げて見せ、ボクに手渡す。 

「……水色の、髪の毛だ。 でも、これだけじゃ……」

「わっ、私も最初は、ただリナーリ様の髪の毛が服にでも付いて、それが私達の部屋にって……でも」

「でも?」

「その髪の毛……があるんです……」

「――!?」

 ……ほ、本当だ。 つまりこれは染められた物で、

「リナーリの髪じゃない」

 でも、なんでこんな物が必要で、それが彼女達の部屋に?


 ――――あ~ら、私の背丈はリナーリ様と同じくらいだけど、それって……――――


「……マイラが、リナーリ様と同じ背丈だから……」

「ノア?」

 独り言のように呟いたノアは何かに気づき、怯えているように見える。

 マイラさんはリナーリと同じ背丈、そして作られた水色の髪……

「そうか……マイラさんがリナーリのフリをして、水色のウィッグを付けて……。 でも、誰の為――」

「カーラ様よッ! カーラ様がリナーリ様を陥れる為にやったのよッ! そしてマイラを殺したんだッ!!」

「落ち着きなさい、ノア」
「だって……!」

 カリナンが鎮めるが、怒りに感情が荒ぶるノアの瞳から憎悪は消えない。

「私も……そう考えたら怖くて……もう耐えられなくて……」

 誰にも相談出来ずに辛かったんだろう。 ラナはやっと誰かに吐き出せたとへたり込む。

 リナーリとお義姉さんの関係性、それはボクよりノアやラナの方が詳しいからな。 首謀者だと断定は出来ないけど、可能性は高い筈だ。

 しかし、こんな時に、こんな話になるなんて……。

「あの、ちょっとこの件とは無関係かもしれないんだけど……」

「どうしたのですか、リベルノ様」

 そう言って見つめるリナーリの大きな瞳には、不安そうなボクの顔が映っていた。

「うん、今日届いたんだけど」

「はい」

 関係無い……よね。
 多分、そんな危ない事にはならない、と思う。


「ジェレミ王子から、直筆でパーティーの招待状が……」

「……それは、リナーリ様もですか?」

「いや、ボクだけなんだよね……」


「「「………」」」


 ……あれ? ボク、殺されちゃったりする、のでしょうか……。


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