胸に咲く二輪の花

なかの豹吏

文字の大きさ
15 / 38

15, 博物館

しおりを挟む
 

 天気の良い週末。夏目さんとの約束の土曜日がやって来た。
 二日間のテスト返却は何とか乗り切り、週明けには終業式を残すのみ。気分も晴れやかに今日を迎えられた。

 待ち合わせは十時、少し早く夏目さんに言われた場所についた俺は、携帯を弄って時間を潰していた。


「徳永君」

「あ、おはよう夏目さん」

 携帯を見ていて気付かず、夏目さんに声を掛けられて気付いた。

 夏目さんは白のフリル袖の肩を出したブラウスで、下は淡い水色の膝までのスカートを着ていた。

 明るく綺麗な髪を、今日は一つに結わいて右肩から下ろしていて、とても可愛らしく見える。


「おはよう。早かったんだね」

「ああ、うん。あんまり来たことがない場所だったし」


 それとない会話だったが、夏目さんは楽しそうに微笑んでいる。
 そうだ、ラインで夏目さんは可愛くしていくねって言っていたし、頑張ってオシャレして来ているんだろう。実際可愛いと思うし。
 ここはちゃんと言ってあげるのが礼儀だよな。


「風邪の時はよく見れなかったけど、私服もとても可愛いね」

「あ、ありがとう。……何だか言わせちゃったみたいで悪いけど……」

「そ、そんな事ないよ」


 少し照れながら、夏目さんは俺が気を遣って言った風に言うので、俺は慌てて否定した。
 確かに言わなくてはと思って言ったところもあるが、可愛いと思ったのは本心からだし、難しいな。


「それじゃ、行きましょ」


 そう言って夏目さんが歩き出したので、俺も一緒にその後に続く。一体どこへ行くのか、俺は知らないからな。



 まずやって来たのは、意外にも博物館だった。正直、プライベートでこういう所に来た事は無かったと思う。学校行事なんかではあったと思うが。


「意外なところだった?」

「え? ああ、そうだね」

「徳永君が来た事なさそうなところに行こうと思って。私も初めてだよ?」

「なるほど」


 中に入ると、巨大な恐竜の化石が何種類も展示されていた。
 映画で見る様なそれは、中々の迫力がある。


「こんな大きな恐竜いたら、私じゃ一口で食べられちゃうな」

「うん。安心して、俺でも一口半だ」

「ふふ、お互い現代に生まれて良かったね」

「全くだ」


 夏目さんと博物館ならではの、普段はしないだろう会話をしながら見て回った。

 その他に、巨大アンモナイトの化石やら、ダイオウイカの標本等。初めて見るそれらに二人で驚いていると、


「徳永君、ハチ公の剥製だよ!?」


 そう言って夏目さんが俺の腕を掴んで呼びとめた。


「えっ? ハチ公は渋谷じゃないの?」

「ほら、ハチ公は上野にいたんだね」

「ほ、本当だね」


 そこには確かに白い犬の剥製があった。が、俺としては夏目さんに掴まれたままの腕の方が気になってしまっていたのだが……。


「もし今度ハチ公前で待ち合わせにしたら、ちゃんと渋谷に来てね」


 そんな冗談を言って、夏目さんは可愛らしく微笑んでいる。


「その時は、分かるように言ってほしいな」

「うん。会えなかったら大変だもん。 あ、ゴメン……」

「あ、いや」


 喋っている途中で夏目さんは俺の腕を掴んでいたのに気付いて手を離した。お互い少し恥ずかしくなってしまったが、その後もいくつかの展示物を見て博物館を後にした。


「たまにはこういうのも良いかもね」

「本当? 良かった。私も一緒に見れて楽しかった」


 うん。こういう体験も悪くはない。俺達の年齢だとあまり無いデートコースかも知れないけれど。


「それじゃ、サンドイッチ作ってきたから公園で食べよ」

「え、そうなんだ。ありがとう」


 それから公園に行ってベンチに座り、夏目さんの作ってくれたサンドイッチを食べた。


「うん。美味しい」

「良かった。この前はお粥だったもんね」

「あれも美味しかったけどね」


 そうだ、お粥で思い出した。一応夏目さんに看病してもらったお礼の品を渡さなければ。


「夏目さん。これ、大した物じゃないけど、お世話になったお礼」

「え? いいのに、ありがとう。開けてもいい?」

「ああ、でもその、本当になにをあげたらいいか分からなくて、喜んでもらえるか……」


 何だか恥ずかしいな、本当に買った物で大丈夫かと言う不安もあるし。


「あ、可愛いハンドタオル。ありがとう」


 夏目さんは本当に嬉しそうに見えて、俺はほっとした。お礼として正しかったのかは分からないが、喜んでもらえて良かった。


「凄く嬉しい。一生大事にする」

「そ、そんな大層なものじゃないから」


 渡したハンドタオルを大事そうに持って俯きながら、夏目さんがそんな大袈裟に言うので、俺は少し狼狽えてしまった。


「徳永君、良かったらもっと食べてね。夏場だし、余っても困るから」

「ああ、頂きます」


 休みの日に公園で食べるサンドイッチは、とても美味しかった。午後からはどうするのか分からないが、こうしてゆっくり公園で過ごすのもいいもんだ。

 暑いけど、木陰でいくらか涼しいし、夏目さんも楽しそうだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...