胸に咲く二輪の花

なかの豹吏

文字の大きさ
17 / 38

17, 感情の衝突

しおりを挟む
 

 凛が落ち着いてから、思い出の動物園を出た。まだ時間は夕方前だけれど、どうするか。

「これからはりんて呼んでね、こーくん」

「が、学校ではちょっと無理かも……」
「えー……」

 外なら兎も角、学校ではちょっとまだ抵抗があるな。りんは少ししょんぼりしているけれど、周りの目もあるし。


「これからどうする? もう帰るか?」

「まだ早いし、ちょっとお買い物付き合って欲しいな」

「ああ、分かった」

「やった!」


 買い物ぐらい付き合うよ、凛の機嫌も良くなったみたいだしな。



 電車に乗って、お互いの家に帰る途中に買い物出来る駅に降りた。

 やはりこの辺だとここになるのか。
 りんが買い物に選んだのは、ついこの前櫻と水着を買ったファッションビルだった。


 お目当ての階まで着くと、凛はトイレに行ったので俺は一人になった。
 その時、向こうから歩いて来る男女二人。その女の子は、


「……櫻?」

「こ、孝輝?  な、何してるの?」


 こんな所で俺に会うと思わなかったのだろう、櫻はかなり狼狽えている様子だ。
 それにしても、隣の男は誰だ?  背の高い、美形の男が櫻と一緒にいる。


「お前こそ何してるんだよ?」

「私は……」


 感情的になっていたからか、俺は口調を強めて櫻に問い掛けた。櫻は何だか答え辛そうにしている。その姿がまた俺を苛つかせていく。
 その時、


「ごめん待たせちゃって。……どーしたの? こーくん」


 戻ってきた凛が俺に話し掛けて来た。 りんはまだ櫻達に気付いてないみたいだ。


?」


「あれ、喜多川さん?」


 櫻は凛が俺に言った呼び方に眉を寄せている。 凛も櫻に気付いた様だ。


「今日は夏目さんとデートって事?」

「風邪の時世話して貰ったお礼だ、お前はどうなんだよ」

「こーくんって何?」

「……関係ないだろ」


 俺も櫻も感情的になっていて、お互い口調は棘だらけだ。


「そう、関係ないよね。  彼は前に話した中学の時の彼氏」

「ーー!?」

「それじゃ、こーくんも楽しんで」


 そう言って櫻は、その彼の手を引きすれ違って行った。


 櫻を昔振った彼氏と一緒に。あの公園で俺に話していた、櫻を変えるきっかけとなった彼氏と、何故一緒にいるんだ……。

 疑問や嫉妬心が心の中で渦巻く。 俺は立ったまま、考えを巡らせていた。


「こーくん……今日は、もう帰ろ?」


 そんな時、凛が話し掛けてきた。 上目遣いに、哀しそうな瞳で。 俺はきっと気を遣わせてしまう様な顔をしてたんだろう。 


「買い物するんだろ、行こう」


 そう言って凛の手を握り歩き出したが、凛は俺の手を引き、動かなかった。


「やっと手を取ってくれたのに、今は嬉しくないよ……。 こーくんが他の女の子に嫉妬してる顔見ながら、一緒にいるの、辛いな」

「……りん」


 弱々しい凛の声色に、自分勝手な感情で一緒にいる事に気付いた。 その時、自己嫌悪が襲ってきて、恥ずかしさすら感じた。


 結局買い物はせずに、凛と駅まで歩いていた。
 そして、


「最後はちょっとアクシデントがあったけど、私は今日楽しかったよ! こーくんに思い出してもらったし……」

「なんか、ごめん」

「ううん、いいの。 いつか、私が傍にいれば誰と会ってもこーくんが笑顔でいれる様に頑張るから」

「…………」


 俺は何も言えずに、凛は「じゃあ、またね!」と言って駅に消えて行った。
 それから俺は、一人で恐らくは昏い顔をしながら、電車に乗って家まで歩いていたんだろう。



 家に着いて、灯りもつけずにベッドに寝転んだ。
 俺だって凛とデートしてたんだ、櫻に文句を言える立場じゃない。 そもそも俺達は今、付き合っている訳じゃないんだから。

 でも、ある意味一番一緒にいて欲しくない男と櫻がいた。他の男ならまだしも、一度は櫻が好きになった男だ。 どうして一緒にいたのか、もしかしたらまた二人は……。

 悪い事ばかりが頭を過る。 ……逆に考えてみろ、一番一緒にいて欲しくない相手。 俺が一緒にいたのは凛だぞ。 櫻にとっても同じ事じゃないか? 

 くそ……また俺は自分勝手にしか考えてないじゃないか。 それで苛々して、一緒にいる凛にまで嫌な思いをさせて……。

 どうしようもない奴だ。

 櫻も、凛も、可愛くて優しい女の子だ。
 釣り合ってないのはお前だよ、徳永孝輝。

 俺なんかの為に二人を悲しませて、何様だ。


 ーーーー駄目だ、このパターンは……。


 どんどん気持ちが闇に埋もれていく。

 得意の寝落ちも出来ずに、暫く暗い部屋で、俺は自問自答を繰り返していた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...