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30, タイムリミット
しおりを挟む俺と凛が戻ると、シートには櫻が一人で座っていた。 何故か下を向いて思い詰めている様に見えるが……。
「櫻?」
「えっ、あ、孝輝……」
声を掛けると顔を上げたが、何だか心ここに在らず、と言った様子。
「どうした? 何かあったのか?」
「う、ううん! 何でもないよっ」
櫻はそう言うが、さっきまであんなに楽しそうだったのに、何もなくてそんな顔するとは思えない。 そう思って聞き直そうとした時。
「あれ、雄也と南々子さんは?」
隣にいたりんが二人がいないのを指摘すると櫻が、
「南々子さんがナンパされてて、久保君が助けに行ってるよ」
南々子さんがナンパ……まあされるだろうな、綺麗だし、隙がある感じがするからな。 暫くすると、
「やれやれ、世話の焼ける母親だな」
「ちゃんと一人で断れました!」
噂の親子が帰ってきた様だ。 南々子さんは雄也の呆れた態度にご不満の様子。
「お、戻ったか孝輝」
「ああ」
俺は買ってきた飲み物を皆に渡した。 雄也は炭酸のジュースを勢い良く飲んでから、
「どうだ、イチャイチャしてきたか?」
「お、お前なにいってーー」
「うん!」
雄也の問題発言に異議を唱えた俺の声は、りんの元気な返事に遮られた。 り、りん……?
「どういう事、孝輝……」
櫻はゆっくり立ち上がった。 これは、徐々に怒鳴られるパターン……だな。
「何してきたのか詳しく! 教えてもらいましょうか!」
やはりか……こちらも心の防御壁を準備し始めているとまた雄也が、
「喜多川、見たら分かるだろう、凛がシャツを脱いで水着になってるぞ」
雄也、貴様と言う奴は……。
「あ、ホントだ、可愛いね!」
南々子さんは場の空気を感じていないのか、りんの水着姿を微笑ましく褒めている。 するとりんが、
「こーくんに脱がされちゃった」
ーーーーー終わった……。
頬を染めながらもじもじと身体をよじらせるりん。 直感的に俺は思った。 守ったら守りきれない、前で迎え撃つしかない! と……。
「櫻! りんにも海を楽しんでーー」
「遅いと思ったら何してたのよ!! ちょっと目を離すと隙だらけなんだから孝輝は!!」
惨、敗……先手を取った俺の言葉は呑み込まれ、櫻の口撃は俺の防御壁を突き破る。
「こっちは久保君に……その、あれで、大変だったんだから……」
勢い良く怒り出した櫻は突然声を窄めてブツブツと声を小さくしていく。
「雄也がどうかしたのか?」
俺が訊くと、櫻は顔を横に逸らして、
「別に……」
分かり易い奴だなしかし。 でも、何があったんだ?
その時、
「俺が喜多川に付き合ってくれって言ったんだよ。 ついさっきな」
「……は?」
雄也はなんて言ったんだ? 聞き間違い、だよな?
雄也が櫻を……? いや、そんな訳ないだろ。
嘘………だよな?
「へぇ、ゆう君櫻ちゃんが好きなんだ?」
「そうなんだよ南々子」
………何をゆったりと話してるんだこの親子は。
「雄也、いくらなんでも冗談キツイぞ」
「俺は本気だぞ、孝輝」
本気、なのか? 櫻を見ると下を向いて黙っている、告白されたのは……本当、みたいだ。
「え、じゃあ私とこーくんにもう障害はないって事?」
「誰が障害よ!! わ、私はまた、孝輝の隣に帰るんだから……」
「櫻……」
苦味混じりに頬を染めて櫻は言った。
「こーくんの隣は譲らない、二度もなんて欲張りよ」
「素の自分は、初めてだもん」
「………どういう意味?」
櫻の言葉をりんは理解出来ない。 それは、俺と櫻にしか解らない言葉だからだ。
「孝輝君モテるねー、ゆう君振られちゃったね」
「南々子、勝負はこれからだ」
南々子さんに愉しそうに応えると、雄也が俺達の恋に決着をつける事になる、運命の提案を始めたのだった。
「なあ、折角夏休みっていう舞台があるんだ、この休み中に俺達の決着をつけようぜ」
「どういう事?」
雄也の意味深な発言に櫻が首を傾げる。
「休み中に恋人になって新学期を迎えた方が、選ばれなかった方も心の整理をする時間も取れるだろ」
選ばれなかった方、残酷な言葉に俺を含め三人は顔を顰める。 雄也は続け、
「それには時間制限ってやつが必要だ、お互い決着を付けて恋人になりたいのは当然、しかしこのままじゃまだまだ時間が掛かるのは目に見えてる。 その為の決着の仕方が俺にあるって話だ。 どうする?」
……確かに時間は掛かる、と思う。 だが、急いだ方がいい様な問題じゃない。 制限時間、優柔不断な俺には必要なのかも知れないが。 休み中なら選ばれなかった方にも気持ちの整理をする時間がある、それも分かる……けど……。
色んな考えが頭を過る、まだ考えが纏まらない。
「いいよ」
沈黙を破る声。 それは、
「元々喜多川さんとは夏休み中が勝負だって話してたから」
「そうだね、夏目さんと私はそのつもりだったし」
りんに続き櫻も、二人は決意を込めた表情で向かい合っている。 俺の知らないところでそんな話をしていたのか。
「じゃあ決まりだ、ヒロイン二人の答えだからな」
決まり……なのか。 でも、一体どうするつもりだ?
雄也が話し出す。
「舞台は八月半ばの花火大会だ。 その会場で、喜多川と凛には別々の場所に行ってもらう」
「う、うん」
櫻は不安気な顔で頷いている。 決心したと言っても内心は怯えているのか。
「そこに孝輝が現れて、一緒に花火を見た方が選ばれる訳だ」
そんなの……俺に選べる、のか? それじゃ一人で花火を見る方が余りに……でも、そうか、こんな方法を取らないと決められない、俺に問題があるのか……。
「そう、残酷な花火だね……」
りんは寂しそうに呟いた。 そうだ、これが当日もし一人だったら……それは櫻だって。
「だが花火まで約一ヶ月、孝輝も待ってるだけだと思うなよ」
「どういう、意味だ?」
「花火までの間に俺が喜多川と付き合えばこの話自体無くなるからな」
「な、なにそれ!? 私はそんな事にならないよ!?」
なるほど、俺もうかうかしてられないって訳か。 まさか雄也と構える事になるとはな。
「雄也、お父さんの遺伝子を発揮してね」
「ああ、そうすりゃ全部丸く収まるな。 花火までに喜多川の処女を奪うぐらいでいくつもりだ」
「変な事言わないで変態!」
りんは雄也を煽り、雄也のピンクジョーク? なのか……? に櫻は顔を真っ赤にして声を荒げている。
「うーん、燃えてきたね!」
「南々子が燃えてどうする」
何故か目を輝かせる南々子さん。
しかし、どうやら始まるらしい。
気持ちを決めかねていた俺に、ついにタイムリミットが……その時はどうしたってやって来る。 それを雄也が止める可能性もある訳だが……。
殺伐とした雰囲気になるかと思ったが、話が終われば意外にも皆そうでもなさそうだ。 でも内心は俺と同じ様に揺れている筈。
「話も纏ったし、とりあえずお昼にしようか! 南々子お姉さんが青春の君達にご馳走してあげるね!」
南々子さんの明るい声がして、俺達は其々の想いを胸にしまって動き出す。
その日まで俺は、櫻は、りんは、雄也は、どう過ごすのか。
残り時間は約一ヶ月。
俺達の決着は近づいていく。
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