シンギュラーズパーティー -SXP- 【挿絵あり】

フク吉

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第一章

【1-2 (sideイヅル)】

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「あ~あ……今日のでまたケーブへの不信度が上がっちゃったよなぁ」

 元気を取り戻したランの後ろ姿を見送り、ホッと一安心したのも束の間。今日の事でまたタクトとランの人間関係が悪くなってしまった状況に、イヅルは頭が痛くなる気持ちを吐き出した。

「元から人付き合いは苦手な人だけど、まさかこんなに拗らせるとは思わなかったもんね……」

 感傷にふけるイヅルの言葉を聞いて、ミヅチも席に座ったまま眉を寄せながら浮かない表情で言葉を続けた。
 なぜ、こうもイヅルたちが頭を悩ませているかというと。この一週間もの間、タクトがランに対して理不尽に拗らせてしまっている行動は、このタクト班こと『特二捜査班』の設立当時からいる二人から見ても初めてな出来事なのである。

 イヅルは普段でも、今の時代ではそう珍しくもなくなった未成年代の高学歴就職によって、タクトが警察官に就いた際に出した『史上最年少のキャリア警察官』という記録をあからさまに妬み、拝島署に赴くたびに当たりが強い本庁の刑事たちを嫌になるほど目の当たりにしている。
 しかし、そんなやっかみを受けるたび、無愛想ながらも淡々と仕事をこなしているタクトの姿を見ているイヅルたちからすると、今回の事はやはりただ事ではないのである。

「確かサユリちゃんが来た時は、こんなに露骨じゃなかったよね?」

 うーん、と過去の記憶を振り返るミヅチの問いかけに、彼を挟んでイヅルの向かい側に立つサユリが眉をひそめながら小さく頷いた。
 イヅルもミヅチに倣うように、サユリがタクト班に配属された半年前の事を思い返せば、ランの時と同様に同年代の女性が来ることに戸惑いを感じる様子はあったものの、配属してみれば顔にはそんな素振りも見せずに指導などの会話もキチンとこなしていたのを覚えている。

「何か理由があるからだとは思いますけど……このままじゃあキサラギさんが、あまりにも不憫ですよ!」

 普段は真面目で大人しいサユリだが、いつもより語気を強めにしてランを心配している様子を見て、これはイヅルが思ってた以上にタクトの態度に腹を立ててるのかもしれないと、ひっそり舌を巻く。
 しかし、この一週間。刑事課の中でも一番親身になってランと接してきたサユリならば、例え同じ飛び級入りの警察官として尊敬しているタクトであっても、憤慨してしまうのは致し方ないのかもしれない。

「そもそも、前から本庁の偉い人に『特二』に優秀なサポーターの配属を!』て要請してたのはケーブなのにね……一体何を悩んでるのかなぁ」
「仕事でもたまにありますけど……なんでも一人で抱え込んでしまうのは、警部の悪い所ですよね」
「……俺は、二人が思ってるほど深刻な悩みじゃないと思うけどなぁ」

ミヅチとサユリの会話の流れを黙って見守っていたイヅルだったのだが。二人がそのまま、どうしたものか、と真剣に悩む空気を出し始めた所で、イヅルは初めてミヅチたちとの感覚の差異に気づいてしまい、思わず待ったをかけてしまう。
 そんなイヅルの発言に、二人は思わず「えっ!?」と口を揃えて驚き、そのままイヅルを凝視する。

(……まあ、サユリちゃんはしょうがないにしても……そういやミーくんも『こういう手』の話には疎いんだったな)



 正直な所、タクトとランの仲を真剣に心配している二人には非常に言いにくい内容であるため、イヅルは言おうか言うまいかの判断がつかず、窓際の席で辺りにいる年長者の刑事たちと、こちらの様子をうかがっていたライにチラリと目くばせしてみる。
 それに気がついたライは、困ったように笑顔を浮かべながらも、イヅルの発言を促すように強く頷いた。

(……ですよねぇ)

 ハハッと、苦笑いを浮かべながら心の中で相づちを打つと、イヅルは自分の思い出話を例えにやんわりと告げた。

「だってさ、ケーブのあの態度。俺が中学生の時につるんでた悪友が、クラスの女子に声かけられた時の反応と、まるっきり一緒なんだよなぁ」
「……ごめん、イッくん。ちょっと遠回し過ぎて、あんまり伝わってこない」

 どうやら例え話ではいまいち理解しにくかったらしく、ミヅチは渋い顔のままイヅルに聞き返す。

「つまりさ。今回の大元の原因はケーブが遅い思春期を拗らせてるってこと!」

 イヅルが包み隠さず、はっきり告げると、ミヅチとサユリはまさかの答えにあんぐりと口を開けたままと言葉を失った。

(……まあ、それっぽいのは、ちょっと前からフジイ課長にも出てきてたんだけどな)

 ふと、話の本筋から少しズレたことも脳裏に浮かんだが、イヅルは改めてこの一週間、自分が見てきたタクトの行動を思い返してみた。



======



 それはランがこの拝島署に配属された初日にまで遡る。
 実はあの日になるまで、どんな人物がサポーターとして『特二』に配属してくるのかは、タクト班だけでなく、『特二』であるアヤでさえも知らされてなかったのだ。
 イヅルは前日にさりげなく事情を聞いてみたのだが、タクトは不機嫌な顔を隠そうともしないのに『本庁側の不手際だ』としか教えてくれなかった。
 後で事情を知るライからこっそり教えてもらったのは、今回のサポーター配属を取り計らってくれた『本庁の偉い人』からタクトへの意地の悪いサプライズ……という身も蓋もない理由だった。

(……まあ、実際来てくれたのは、キサラギさんみたいな良い子だったんだし、俺としては結果的に良かったとは思うんだけどな)

 しかし、理由は分からないが、ランとの初対面の時を思い出してもタクトにとって『意地の悪い』という部分が十分に当てはまっていたようだった。

 ランが刑事課への挨拶を終わらせて屋上へ戻ったすぐ後、イヅルはタクトと一緒に車で外へ聞き込みに出かけた。内容は事前に捜査会議をしていたこともあり、車内では特に話すことも無かったので、イヅルは自然の流れでランの話題を持ち出した。

「いや~。まさかあんなに若い女の子が来るとは思ってもみませんでしたね」
「……そうだな」

 なるべく明るい口調で切り出したものの、助手席側に座っていたタクトは窓の外を眺めながら何か考え込んでいる様子だった。

「キサラギさんの出た警察学校て、確か三年前に警視総監が主導で新設した高校と一貫制の所でしたっけ?『特二』のサポーターをできるような学科もあるんですね」
「……いや、元々あそこは『特殊刑事課』へのメンバーを輩出する目的で設立した所だからな。妥当な選出……だとは思う」
「へぇ~。じゃあ、ケーブの要請どおり優秀なサポーターて期待できちゃいますね!」
「……そうだな」

 ランが屋上へと戻る際、少しだけ立ち話をした時にイヅルが聞いた情報をタクトの抜群の記憶力で補完してもらいつつも、ランの話題に戻すと、またもや口をつぐんで大人しくなってしまった。

「も~、さっきから何モヤモヤしてるんですか?なにかキサラギさんの配属に不満でもあるんですか?」
「……不満とか、そういうのじゃない」

 なおも歯切れの悪いタクトの返答に、イヅルは少しだけからかう気持ちも含めて注意をうながした。

「まぁ……すぐに、てのは難しいかもしれませんが、これから一緒に仕事をする仲なんです。そんな無愛想な態度を続けてたら嫌われちゃいますよ?」
「嫌われるのは……嫌だな」

 タクトにしては珍しく可愛い弱音だな、と思ったイヅルは、少しだけ助手席に顔を向けて、タクトの様子をうかがった。その瞬間、イヅルは思わず目を見張ってしまった。
 そこには、自分の中にある様々な激情に気持ちが追いつかず、戸惑っているような……そんな言葉では言い表せない複雑な表情をしたタクトがいたからだ。

(あんな表情のケーブ、初めて見たから驚きはしたけど……ちょっとだけ安心もしちゃったんだよなぁ)

 イヅルがタクトと出会って早三年半。わずか十六歳という若さで、この『特二捜査班』の班長を任されたタクトは、その肩書きにふさわしく当時からとても優秀であった。
 少しキツめな顔つきと口下手な性格でよく勘違いされやすいが、気づかいやフォローも上手く、部下であるイヅルとミヅチや『特二』のメンバーはもちろん。ライや他の刑事課の皆からも、その当時からとても可愛がってもらっている。
 しかし、タクトが生粋の仕事人間であるのと、それ故になんでも一人で背負ってしまいがちな彼の責任感の強さが、イヅルはとても心配だった。
せめて息抜きの仕方の参考になればと、ミヅチと二人で色々とお節介を焼いたおかげもあって少しはマシになってきたのだが、タクトと同じ年頃の時にはそれなりに恋愛経験があったイヅルとしては、もう少し異性に興味があってもいいのでは?と、内心で思っていたりもしていたのだ。

 ――ただ、せっかくタクトが初めて異性を意識している姿を見て喜んでいたのもつかの間。まさか、そのまま遅れてやってきた思春期ならではの何ともいえないない拗らせた態度を発動させ、それを一週間も続けてしまうとは、イヅルも思いもよらなかったが。



======



「――俺は課長が『ムラクモ刑事に話を聞いてもらったら?』てケーブにアドバイスをしてたから、てっきり何か深刻なことなのかなって思ったんだけどなぁ」

 ついつい自分の頭の中で思考にふけっていたイヅルを現実に引き戻したのは、困惑したような声を含んだミヅチの呟きだった。

「まあ、ミーくんたちが考えた真剣な悩みとかも無いことはないんだろうけど……避けてた時の大半の行動理由はソレだろうな」

 イヅルがそのように答えると、今度はミヅチにも分かるようにライたちのいる方へと顔を向ける。すると、そこにはイヅルの主張に同意するようにウンウン、と頷く彼らの姿があった。

 「もーー。そういう悩みなら、俺たちでも相談に乗ってあげたのに」

 それを見たことで、ミヅチはようやく事の次第を理解したようで、そのまま拗ねるようにプクっと、頬をふくらませながら愚痴をこぼした。イヅルも彼と同じ気持ちだからか、小さく唇を噛みながら頷いた。

「悔しいけど、その辺はやっぱり同期ならではの相談のしやすさとかなんだろうな……まあ、あの人の方が俺たちよりも『断然』社交性や人生経験は豊富なんだし?色々といいアドバイスしてくれるんじゃないか?」
「……イッくん。相変わらずムラクモ刑事にはちょっと厳しいね」

 イヅルも少し皮肉混じりな言い方になったとは自覚しつつも、ミヅチの指摘を顔をそむけながらサラリと受け流した。
すると、今まで下を俯いたままイヅルとミヅチの会話を黙って聞いていたサユリの頭がムクリ、と上がった。

「――男性のそういう気持ちに対して全く理解はできませんが、一刻も早くキサラギさんに誠意のある謝罪をして欲しいです」
「……ソウデスヨネ」

 あまりにも恐ろしい剣幕で正論を告げるサユリの姿に、イヅルたちは思わずヒヤリ、と冷や汗をかきながら片言のような返事で頷いた。

(――あんたの大事なサユリちゃんの機嫌を直すのためにも、本当に頼みましたからね!)

 サユリへの思わぬ飛び火で新たに頭を悩ませつつも、イヅルは自分と入れ違いにタクトと一緒に出ていった彼の同期の刑事に後を託すしかなかったのだった。
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